ギレイの旅
ヤンさんて
作りたくない物をまた、作った。
儀礼は落ち込んだ気分になり、一人座っていた。
心が深い闇にとらわれているようで、ひどく重くて、動く気力も湧かないでいた。
そこへ、ヤンがやってきた。
何をしに来たのかは儀礼は知らない。獅子がいないので護衛に来たのかもしれない、と思う。
ヤンで、護衛になるのだろうか……?
しかし、それすらどうでもいいほど、今の儀礼の気分は落ち込んでいた。
ヤンが、静かに儀礼の隣りに座る。
何も言わない。
ヤンは、静かに座っている。
無言で、じっと儀礼の隣りにいる。
「……肩、借りてもいい?」
儀礼は小さな声で聞いてみる。
「私の肩でよろしければ」
優しく、ヤンは微笑んだ。
儀礼はヤンに寄りかかるように体を傾ける。
静かだった。静かなヤンの気配。
いつも焦るように自信なく話すヤンではなく、優しくおとなしい、聡明な少女の気配。
儀礼は目を閉じた。何かがヤンから流れ込んでくるようで、心地よい。
もしかしたら、何かの魔法を使ってくれているのかもしれない。
儀礼は、うとうととし始めた。
そこへ、知らない足音が近付いてきた。
起きるのも面倒なのに、と思いながら儀礼は薄っすらと目を開けて足音の相手を確認する。
間違いなく、知らない人。そして、不審者。
これは、管理局の待合室などで寝た儀礼が悪い。動きたくないほど落ち込んでいたとしても。
これでは、ヤンを守れない。
「ねぇ、君達。可愛いねぇ。写真1枚だけ撮らせてもらえないかな? 1枚だけでいいから。あんまり可愛いから絶対残しておくべきだよ」
何か、自分は正しいことを言ってます、と言う風に男は起きているヤンに話しかける。
儀礼が面倒だ、と思いながら口を開こうとすれば、先にヤンが男に返した。
「曾祖母の代から写真には写るなと言われておりますので、どうかご容赦ください」
申し訳なさそうに、ヤンは言う。
曾祖母の時代、カメラないよね。儀礼は僅かに口元を緩める。
「そ、そうかぁ。残念だ……えっと、じゃぁ、こっちの子だけとか」
戸惑ったように男はそう言って、被写体を儀礼一人に絞ろうと言う。
「この方は私が身命かけてお守りするお方。いかに偽の一枚だろうと、魂の一部だろうと、模写の類でも、お渡しするわけには参りません。どうしてもと仰るならば、私の命が費えるまではお待ちください」
それを、ヤンは真剣な顔で男に言う。
何一つ、間違ったこと、おかしなことなど言っていないという様に。
ヤンは、カメラを何と思っているのだろう、と儀礼はさらに口端を上げる。
それではまるで呪具だ。
男の額に汗が浮いた。きっと冷や汗の類だろう。
真剣なヤンの魔力が辺りに張り詰めている。
真剣で凛としたヤンの気配。
青と黒の混ざったような深い海の中のような、それでいて明るい、神秘的な空気。
男が、カメラから手を離す。諦めたように、すまなかったねと一言告げて去っていく。
待合室内に、水族館のように海の気配を感じて、儀礼は再び目を閉じて、眠りについた。
この時、儀礼は深くて明るい海を旅する夢を見た。たくさんの水泡に囲まれて、くらげの一つを儀礼はヤンと呼んだ。
目覚めて、隣りで微笑むヤンを見て、儀礼はなんだか可笑しくて笑った。
楽しい気分が、夢の中の水泡のように儀礼の身の内に湧き、落ち込んで眠ったのが嘘であるかのようだった。
後日。
「あ、そうだ。気を付けろよ。ヤンは人心操作系の魔法も使うぞ」
親切にも、何かの呪文を儀礼にかけながら、もう一人の天才魔法使いが教えてくれた。
数日間、儀礼の内に湧いていた小さな泡が消えていく。深い海の中から、儀礼は脱した。
パチパチと儀礼は瞬く。
人心操作、それ、何ダロウ……。
儀礼の中で、ヤンと言う女性の存在が、今日もまた不透明になった気がした。
儀礼は落ち込んだ気分になり、一人座っていた。
心が深い闇にとらわれているようで、ひどく重くて、動く気力も湧かないでいた。
そこへ、ヤンがやってきた。
何をしに来たのかは儀礼は知らない。獅子がいないので護衛に来たのかもしれない、と思う。
ヤンで、護衛になるのだろうか……?
しかし、それすらどうでもいいほど、今の儀礼の気分は落ち込んでいた。
ヤンが、静かに儀礼の隣りに座る。
何も言わない。
ヤンは、静かに座っている。
無言で、じっと儀礼の隣りにいる。
「……肩、借りてもいい?」
儀礼は小さな声で聞いてみる。
「私の肩でよろしければ」
優しく、ヤンは微笑んだ。
儀礼はヤンに寄りかかるように体を傾ける。
静かだった。静かなヤンの気配。
いつも焦るように自信なく話すヤンではなく、優しくおとなしい、聡明な少女の気配。
儀礼は目を閉じた。何かがヤンから流れ込んでくるようで、心地よい。
もしかしたら、何かの魔法を使ってくれているのかもしれない。
儀礼は、うとうととし始めた。
そこへ、知らない足音が近付いてきた。
起きるのも面倒なのに、と思いながら儀礼は薄っすらと目を開けて足音の相手を確認する。
間違いなく、知らない人。そして、不審者。
これは、管理局の待合室などで寝た儀礼が悪い。動きたくないほど落ち込んでいたとしても。
これでは、ヤンを守れない。
「ねぇ、君達。可愛いねぇ。写真1枚だけ撮らせてもらえないかな? 1枚だけでいいから。あんまり可愛いから絶対残しておくべきだよ」
何か、自分は正しいことを言ってます、と言う風に男は起きているヤンに話しかける。
儀礼が面倒だ、と思いながら口を開こうとすれば、先にヤンが男に返した。
「曾祖母の代から写真には写るなと言われておりますので、どうかご容赦ください」
申し訳なさそうに、ヤンは言う。
曾祖母の時代、カメラないよね。儀礼は僅かに口元を緩める。
「そ、そうかぁ。残念だ……えっと、じゃぁ、こっちの子だけとか」
戸惑ったように男はそう言って、被写体を儀礼一人に絞ろうと言う。
「この方は私が身命かけてお守りするお方。いかに偽の一枚だろうと、魂の一部だろうと、模写の類でも、お渡しするわけには参りません。どうしてもと仰るならば、私の命が費えるまではお待ちください」
それを、ヤンは真剣な顔で男に言う。
何一つ、間違ったこと、おかしなことなど言っていないという様に。
ヤンは、カメラを何と思っているのだろう、と儀礼はさらに口端を上げる。
それではまるで呪具だ。
男の額に汗が浮いた。きっと冷や汗の類だろう。
真剣なヤンの魔力が辺りに張り詰めている。
真剣で凛としたヤンの気配。
青と黒の混ざったような深い海の中のような、それでいて明るい、神秘的な空気。
男が、カメラから手を離す。諦めたように、すまなかったねと一言告げて去っていく。
待合室内に、水族館のように海の気配を感じて、儀礼は再び目を閉じて、眠りについた。
この時、儀礼は深くて明るい海を旅する夢を見た。たくさんの水泡に囲まれて、くらげの一つを儀礼はヤンと呼んだ。
目覚めて、隣りで微笑むヤンを見て、儀礼はなんだか可笑しくて笑った。
楽しい気分が、夢の中の水泡のように儀礼の身の内に湧き、落ち込んで眠ったのが嘘であるかのようだった。
後日。
「あ、そうだ。気を付けろよ。ヤンは人心操作系の魔法も使うぞ」
親切にも、何かの呪文を儀礼にかけながら、もう一人の天才魔法使いが教えてくれた。
数日間、儀礼の内に湧いていた小さな泡が消えていく。深い海の中から、儀礼は脱した。
パチパチと儀礼は瞬く。
人心操作、それ、何ダロウ……。
儀礼の中で、ヤンと言う女性の存在が、今日もまた不透明になった気がした。
「ギレイの旅」を読んでいる人はこの作品も読んでいます
-
-
2.1万
-
7万
-
-
6,576
-
2.9万
-
-
166
-
59
-
-
61
-
22
-
-
1.2万
-
4.7万
-
-
5,015
-
1万
-
-
5,076
-
2.5万
-
-
9,630
-
1.6万
-
-
8,097
-
5.5万
-
-
2,415
-
6,662
-
-
3,137
-
3,384
-
-
1.3万
-
2.2万
-
-
3,522
-
5,226
-
-
9,303
-
2.3万
-
-
6,121
-
2.6万
-
-
1,285
-
1,419
-
-
2,845
-
4,948
-
-
6,619
-
6,954
-
-
3万
-
4.9万
-
-
6,028
-
2.9万
-
-
319
-
800
-
-
65
-
152
-
-
6,162
-
3.1万
-
-
1,857
-
1,560
-
-
3,631
-
9,417
-
-
105
-
364
-
-
11
-
4
-
-
2,605
-
7,282
-
-
2,931
-
4,405
-
-
9,140
-
2.3万
-
-
4,871
-
1.7万
-
-
599
-
220
-
-
2,388
-
9,359
-
-
1,260
-
8,383
-
-
571
-
1,133
-
-
76
-
147
-
-
2,787
-
1万
「ファンタジー」の人気作品
-
-
3万
-
4.9万
-
-
2.1万
-
7万
-
-
1.3万
-
2.2万
-
-
1.2万
-
4.7万
-
-
1万
-
2.3万
-
-
9,630
-
1.6万
-
-
9,533
-
1.1万
-
-
9,303
-
2.3万
-
-
9,140
-
2.3万
コメント