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ギレイの旅

千夜ニイ

管理局本部にて6

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 管理局本部会議室。


「成功の連絡はまだないのか?」
上位職員Aが言う。
「まさか、失敗したのか」
上位職員Bは顔色を悪くする。
「いつまで我々はあんな子供に指示を扇がねばならないんだ」
上位職員Aは苛立たしそうに目の前の机を叩く。
「あの兵器の権利を『蜃気楼』が手放さないからだ。管理局へ渡せばわざわざ毎回呼び寄せて発動の許可を得る必要もなくなる」
上位職員Cは何かの書類にペンを走らせながら、涼しい顔で言う。いや、その手の中でペンが折れた。
「成功した者には『勇者』の称号を与えると触れたのだ、待てばいい。上位職員の半数を敵に回して『蜃気楼』と言えども子供に何ができる」
上位職員Cは筆入れから新しいペンを取り出しそう続けた。
「しかし、なぜ一人も戻らない」
不安そうに上位職員Bは体を揺する。
「おい、お前見て来い!」
上位職員Aは比較的歳若い職員を指差して命じた。
「自分ですか、まいったな。見てくるだけですよ。自分は戦闘能力ありませんからねぇ」
卑屈に笑いながら四十代と思しき上位職員Dは自分の席を立ち、会議室の扉へ向かう。


 採光明るい廊下に出て、上位職員Dはその光景を目にする。
緑鮮やかな中庭に二人仲良く横たわる人影。懐から小さな双眼鏡を取り出し、確認する。
その白衣の少年は、気持ち良さそうにすやすやと眠っているだけで、死んでいるようには見えない。
少年に寄り添うように寝ていた女性が頭を上げ、レンズの向こうから視線を合わせた。獰猛に、にやりと笑う。


 上位職員Dはゴトンと双眼鏡を取り落とし、そのまま会議室へと戻る。
「作戦は失敗のようですね。『蜃気楼』は中庭で護衛と昼寝してます」
呆けたような上位職員Dの報告に、上位職員たちが自ら廊下に出てその目で確認する。見目麗しい護衛に、鎧だけという装備をさせ、管理局の本部という研究者たちに取って最上段に位置する場所で、抱き合うように寝そべる管理局の王Sランクと呼ばれる少年もの


 長い年月とたゆまぬ努力によってようやく今の地位に辿り着いた上位研究者たち。
その管理局への貢献は推し量って余りある。
それでも、そこに届かなかった。


「出陣した者はどうした」
上位職員Aが窓を叩く。
「やられたというのか」
上位職員Bがきょろきょろと庭を見渡す、見える範囲に戦闘要員の姿はない。
「上位職員に限らない。その可能性のある者に、『勇者』の称号の噂を流せ」
上位職員Cは真新しいペンを折ってそう言った。


この日、儀礼の知らないところで、儀礼の敵は増えたらしい。




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柔らかい芝生の上、ワルツが儀礼に抱きつくたびに、遠い建物の方で殺意が沸きあがる。
くっつけば沸き、離れれば少し冷める。抱きつけば増え、離れれば静かになる。
くくく、と楽しむようにワルツは笑う。


「ワルツさん、僕で遊んでませんか……?」
眠そうに、儀礼が目を擦る。しかし、その目は開いていない。
ワルツにも覚えがある。魔力切れは相当な睡魔に襲われる。
先程の意味不明なもの、よくわからないが、結局儀礼の魔力を奪ったらしい。
ワルツはこの状態で、儀礼を黒獅子のいない研究室に帰すのは危険と判断した。
ゆっくりと儀礼の魔力の回復を待つ。
その間に、先ほどは分からなかった敵を見定めようと思ったら、それだ。


あまりに素直に、殺気が沸き起こる。敵は会議室に居るほぼ全て。
「遊んでねぇ、仕事してるだけだ」
あれの始末は後にするか、とワルツは少年の守りに徹する。
向こうから、仕掛けてくる様子はない。残ったのは非戦闘員と言うことか。
殺すな、と儀礼は言った。殺さずに手を引かせるなど、ワルツには力で脅すしか思い浮かばない。
帰りがてら数秒で終わるな、と算段をつけ、ワルツは絵の中のように綺麗な少年の寝顔を眺めた。

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