ギレイの旅
管理局本部にて1
ワルツはその日、儀礼の護衛として召集された。
いつも黒獅子を連れる儀礼が珍しいと思ったら、連れて行かれたのは、管理局のトップしか入ることのできない施設。管理局本部。
その会議室には、ずらりと並んだ管理局の上位職員。
上位職員とは言っても、ようは管理局に所属する研究員で、長い間貢献している者達だ。
儀礼やアーデスもいずれ、そこに名を連ねることになるだろう。
「護衛はここで待ってもらおうか」
ワルツは黒服の警備兵らしき男に、扉の外での待機を告げられる。
儀礼がにっこり笑って頷く。問題ないと言うことだろう。
「わかった」
短く言い、ワルツはそこで待つ。
そう長い時間もかからず、儀礼は会議室から出てきた。
中にいる職員達に動く気配がないことから、用事が済んだのは儀礼だけのようだ。
「もういいのか?」
ワルツが一応聞く。
「うん。僕の用はもう終わり。早いでしょ」
どこか元気なく、儀礼は笑う。
そのまま二人で元の管理局に戻るため、転移陣のある部屋へと向かう。
3階にある会議室は日当たりがよく、その前の廊下も片側がガラス張りになっており、美しい中庭がよく見渡せるようになっていた。
緑の芝生が視界の限りに広がっている。これを中庭と呼ぶのがワルツには理解できない。
この場所から見える芝生には全面に日の光が入り、随分と明るい光景だ。
その景色を見て歩いていた儀礼が、突然窓に張り付いた。
「僕、用事できた! ワルツ、またねっ」
嬉しそうに、笑い、儀礼は廊下の先へと駆け出す。
「またねって、お前。あたしはまだ仕事中だよ」
苦笑して、ワルツは護衛対象を追いかけた。
儀礼が走りこんだのは、さっき窓から見えたその広い芝生の庭。
そこに、一人の少年が寝転んでいたようだった。
薄い茶色の髪、白いマント。腰には装飾のきれいな二本の短い剣。
少年が、儀礼の気配に気付いたようで、慌てたように起き上がる。
「クリーム!」
儀礼が、相手を潰す勢いで飛びつく。
避けようとしていた相手が、儀礼の顔を見て、仕方なくと言う風に受け止める。
少年がよければ、儀礼は地面に激突だった。
「会いたかった!」
本当に嬉しそうに儀礼は笑っている。
見た目だけなら、目つき鋭い少年に、美少女がじゃれつくという光景だが、儀礼の中身を知ってしまうと、主人に飛びつく子犬のようにしか見えない。
しかし、その子犬、じゃない儀礼が懐いている相手、どう見ても黒いオーラが包んでいる。
俺は人殺しだ、と全身からその気配がにじみ出ているのだ。
それも、殺してきたのは一人、二人ではない。何十人、何百人と、ためらう心を失くす程に。
それは、ワルツも余り変わらないのだが、同じだからこそわかることがある。
「ギレイ。そんな者に懐くな」
見た感じ、クリームと呼ばれた少年に、儀礼に対する敵意はないが、面倒ごとになっても困る。
ワルツは儀礼の首根っこを持ち、少年から引き離す。
「でも僕の格闘の師匠はもっとたくさん人殺してるよ」
警戒したワルツに何を問題としたか気付いたようで、儀礼は当たり前のことのようにさらっと言う。
「誰だそれは」
こんな不審な人物以上に人を殺した者がそばにいて、こんなに能天気に人は育つものだろうか、とワルツは疑問に思う。
「黒獅子は人殺してないだろ」
クリームがワルツと声を重ねるように、ほぼ同時に言った。
「獅子じゃなくて、最初の師匠は重気さん。『黒鬼』だよ」
平然と言ってのける儀礼に二人は一瞬思考が消えた。
確かに、各地で戦乱を起こしたと言われるその男ならば、殺した人の数は数千でも足りない。
『黒鬼』が師匠。
なるほど、文人にしか見えない少年の力が底上げされている秘密をワルツは知った気がした。
いつも黒獅子を連れる儀礼が珍しいと思ったら、連れて行かれたのは、管理局のトップしか入ることのできない施設。管理局本部。
その会議室には、ずらりと並んだ管理局の上位職員。
上位職員とは言っても、ようは管理局に所属する研究員で、長い間貢献している者達だ。
儀礼やアーデスもいずれ、そこに名を連ねることになるだろう。
「護衛はここで待ってもらおうか」
ワルツは黒服の警備兵らしき男に、扉の外での待機を告げられる。
儀礼がにっこり笑って頷く。問題ないと言うことだろう。
「わかった」
短く言い、ワルツはそこで待つ。
そう長い時間もかからず、儀礼は会議室から出てきた。
中にいる職員達に動く気配がないことから、用事が済んだのは儀礼だけのようだ。
「もういいのか?」
ワルツが一応聞く。
「うん。僕の用はもう終わり。早いでしょ」
どこか元気なく、儀礼は笑う。
そのまま二人で元の管理局に戻るため、転移陣のある部屋へと向かう。
3階にある会議室は日当たりがよく、その前の廊下も片側がガラス張りになっており、美しい中庭がよく見渡せるようになっていた。
緑の芝生が視界の限りに広がっている。これを中庭と呼ぶのがワルツには理解できない。
この場所から見える芝生には全面に日の光が入り、随分と明るい光景だ。
その景色を見て歩いていた儀礼が、突然窓に張り付いた。
「僕、用事できた! ワルツ、またねっ」
嬉しそうに、笑い、儀礼は廊下の先へと駆け出す。
「またねって、お前。あたしはまだ仕事中だよ」
苦笑して、ワルツは護衛対象を追いかけた。
儀礼が走りこんだのは、さっき窓から見えたその広い芝生の庭。
そこに、一人の少年が寝転んでいたようだった。
薄い茶色の髪、白いマント。腰には装飾のきれいな二本の短い剣。
少年が、儀礼の気配に気付いたようで、慌てたように起き上がる。
「クリーム!」
儀礼が、相手を潰す勢いで飛びつく。
避けようとしていた相手が、儀礼の顔を見て、仕方なくと言う風に受け止める。
少年がよければ、儀礼は地面に激突だった。
「会いたかった!」
本当に嬉しそうに儀礼は笑っている。
見た目だけなら、目つき鋭い少年に、美少女がじゃれつくという光景だが、儀礼の中身を知ってしまうと、主人に飛びつく子犬のようにしか見えない。
しかし、その子犬、じゃない儀礼が懐いている相手、どう見ても黒いオーラが包んでいる。
俺は人殺しだ、と全身からその気配がにじみ出ているのだ。
それも、殺してきたのは一人、二人ではない。何十人、何百人と、ためらう心を失くす程に。
それは、ワルツも余り変わらないのだが、同じだからこそわかることがある。
「ギレイ。そんな者に懐くな」
見た感じ、クリームと呼ばれた少年に、儀礼に対する敵意はないが、面倒ごとになっても困る。
ワルツは儀礼の首根っこを持ち、少年から引き離す。
「でも僕の格闘の師匠はもっとたくさん人殺してるよ」
警戒したワルツに何を問題としたか気付いたようで、儀礼は当たり前のことのようにさらっと言う。
「誰だそれは」
こんな不審な人物以上に人を殺した者がそばにいて、こんなに能天気に人は育つものだろうか、とワルツは疑問に思う。
「黒獅子は人殺してないだろ」
クリームがワルツと声を重ねるように、ほぼ同時に言った。
「獅子じゃなくて、最初の師匠は重気さん。『黒鬼』だよ」
平然と言ってのける儀礼に二人は一瞬思考が消えた。
確かに、各地で戦乱を起こしたと言われるその男ならば、殺した人の数は数千でも足りない。
『黒鬼』が師匠。
なるほど、文人にしか見えない少年の力が底上げされている秘密をワルツは知った気がした。
「ギレイの旅」を読んでいる人はこの作品も読んでいます
-
-
2.1万
-
7万
-
-
6,576
-
2.9万
-
-
166
-
59
-
-
61
-
22
-
-
1.2万
-
4.7万
-
-
5,015
-
1万
-
-
5,076
-
2.5万
-
-
9,630
-
1.6万
-
-
8,097
-
5.5万
-
-
2,415
-
6,662
-
-
3,137
-
3,384
-
-
1.3万
-
2.2万
-
-
3,522
-
5,226
-
-
9,303
-
2.3万
-
-
6,121
-
2.6万
-
-
1,285
-
1,419
-
-
2,845
-
4,948
-
-
6,619
-
6,954
-
-
3万
-
4.9万
-
-
6,028
-
2.9万
-
-
319
-
800
-
-
65
-
152
-
-
6,162
-
3.1万
-
-
1,857
-
1,560
-
-
3,631
-
9,417
-
-
105
-
364
-
-
11
-
4
-
-
2,605
-
7,282
-
-
2,931
-
4,405
-
-
9,140
-
2.3万
-
-
4,871
-
1.7万
-
-
599
-
220
-
-
2,388
-
9,359
-
-
1,260
-
8,383
-
-
571
-
1,133
-
-
76
-
147
-
-
2,787
-
1万
「ファンタジー」の人気作品
-
-
3万
-
4.9万
-
-
2.1万
-
7万
-
-
1.3万
-
2.2万
-
-
1.2万
-
4.7万
-
-
1万
-
2.3万
-
-
9,630
-
1.6万
-
-
9,533
-
1.1万
-
-
9,303
-
2.3万
-
-
9,140
-
2.3万
コメント