ギレイの旅
魔虫退治の儀礼編 魔虫退治
翌日、魔虫退治に向かう森の中を儀礼は重い足取りで歩いていた。
昨日の魔獣討伐は成功したらしい。獅子がほぼ一人で退治したと言っていた。
Bランクの魔獣の群れ、それも複数。ありえない。心酔する者が出て来るのにも頷ける。
一緒に行くことになったメンバーから儀礼はもの凄く睨まれている。
なのにどういうわけか、儀礼がこのパーティと一緒に行くことになってから、獅子の機嫌がすこぶる良い。
きっとまた兄だか保護者だか、師匠だかのつもりで、儀礼の精神修行でもしているつもりかもしれない。
無言で歩いていれば、前を歩くパーティメンバーの話し声が儀礼の耳に入ってくる。
魔獣を一人で倒すとはとか、火事の炎を消すなんてとか……そこで儀礼は耳を疑った。
炎を消す。それは、意思あるものが恐れ逃げていくのとは訳が違う、炎に自ら動く力はない。
つまり、獅子は光の剣を使って炎を操ったと言うことだ。魔虫の払い方が分からずに困っていた獅子が。
そういう話に、獅子は適当な相槌を打っていた。
森に入ってからずっと獅子の背中では剣が薄っすらと光り続けている。
魔虫を追い払っているのだろう、と儀礼は推測する。大量発生しているはずのその姿をまだ見ていなかった。
それは相当な集中力がなければできないこと。
その状態で足音も立てず、森の中を歩き、適当にとは言え会話までしている獅子が、儀礼には信じられない。化け物じみてゆく友人に儀礼は苦笑する。
「じゃ、儀礼。軽くやっちまってくれ」
半分炭と化した森の中でその化け物……獅子が陽気な声をあげた。
今日の仕事、魔虫討伐。
光の剣の力を持ってすれば軽くやってしまえるそれを、儀礼は数日かけて仕掛けを作った。
でも、それは見せない。
準備は万端。さあ、驚いてもらおう、と儀礼はポケットの中でボタンを押した。
同時に森中から上がる白い霧。地中に張った魔虫の巣の中までその霧雨は降り注ぐ。予想通り、数種類の渡りの群れはうまい具合に森中に散っていた。
獅子が驚いた顔をしている。してやったり、儀礼は嬉しそうに笑った。
周りは美しく彩られた紅葉の森。青い空に映え、明るい光が森を照らし出す。
儀礼の周りには、もう苛立ちも怒りの気配もない。清々しい空気を儀礼は吸い込む。
その森の中をゆっくりと歩きながら、儀礼は足元の枯葉を蹴り上げた。
ざざっという音と共に舞い上がった葉は、赤・黄・茶色など色が混ざって、ひらひらと落ちていく。それはとてもきれいだった。
枯葉は音もなく地面に辿り着く。儀礼はその地面に落ちた枯れ葉の音も楽しくて踏みしめながら歩いた。一歩、進むたびに音がする。ざっく、ざっく、と。幼い頃を思い出し、儀礼は久し振りの行楽を楽しむ。
そんな儀礼の側に、一緒に来たメンバーの一人、弓使いの女性が歩いて来た。
「この間はごめんね、あんなこと言って」
女性が謝りながら首を傾げると、やわらかそうな金の髪がふわりと揺れた。何か、甘い香りが漂う。
そのまま弓使いは儀礼の左腕にその腕を絡める。女性特有の柔らかい感触に儀礼は少し戸惑った。
すぐに他のメンバーも寄ってきて、儀礼に次々と謝りだした。
しかし、儀礼が弱いのは事実であり、彼女達がギルドで言ったことはそう間違っていない。
背の高い男の発言は除くが。でも謝ったから儀礼は許すことにした。きっと悪気はなかったと信じる。
儀礼の視界の端で、弓使いが胸元のボタンを緩めた。もう肌寒い季節ではあるが、女性の肌がほんのりと赤い気もするので暑いのかもしれない。
――などと思うのはやはり甘くて、女性の手が儀礼の腕を伝うように動く。
「この後の予定はあるの?」
弓使いの小さな声が儀礼の耳にささやく。
(予定がなかったら何するつもりでしょう、お姉さん)
残念ながら、儀礼は忙しい。コルロと取引した銃も作らなければならないし、もらった腕輪の解析もしなければ。対魔法に関しても調べなくてはならず、他にも多くの問題が上がってきていた。
今現在にも。
滑るように動いていた女性の手が、先程儀礼が機械を起動させたスイッチの入っているポケットを探り当てた。
するりとその中に手を入れようとするので、儀礼はとりあえずその手を握りしめて防いでみる。
それ以上強行にされたら、儀礼も手段を選べなくなる。幸い、左手には痺れ針を仕込んだ指輪がある。
同じ高さにある目線が合うと、にっこりと弓使いは微笑んだ。儀礼の手を柔らかい手が握り返す。
先の行動がなければ、なかなかに可愛らしいと思うのだが、と儀礼も愛想の笑顔を返す。
ほぼ同時に、儀礼の反対の腕を魔法使いの女性が掴んだ。両腕で縋るように掴む力は、拘束されているようにも感じる。
気付けばいつの間にか、儀礼の前後を囲むように残りのメンバーが立っている。
Bランク冒険者に囲まれた現状で下手に暴れるのは得策ではない。両腕が使えないので、暴れようにも難しいが。
緊張した儀礼の背後に、何かの落下する気配。
「悪い、儀礼。急用思い出した」
木の上から飛び降りてきた獅子に儀礼は首の後ろを掴まれた。そのまま、荷物か何かのように運ばれる。
人間らしからぬ扱いをされているのに、安堵のため息が出るのは何でだろうか。
儀礼は自由になった腕を組んで考えた。
昨日の魔獣討伐は成功したらしい。獅子がほぼ一人で退治したと言っていた。
Bランクの魔獣の群れ、それも複数。ありえない。心酔する者が出て来るのにも頷ける。
一緒に行くことになったメンバーから儀礼はもの凄く睨まれている。
なのにどういうわけか、儀礼がこのパーティと一緒に行くことになってから、獅子の機嫌がすこぶる良い。
きっとまた兄だか保護者だか、師匠だかのつもりで、儀礼の精神修行でもしているつもりかもしれない。
無言で歩いていれば、前を歩くパーティメンバーの話し声が儀礼の耳に入ってくる。
魔獣を一人で倒すとはとか、火事の炎を消すなんてとか……そこで儀礼は耳を疑った。
炎を消す。それは、意思あるものが恐れ逃げていくのとは訳が違う、炎に自ら動く力はない。
つまり、獅子は光の剣を使って炎を操ったと言うことだ。魔虫の払い方が分からずに困っていた獅子が。
そういう話に、獅子は適当な相槌を打っていた。
森に入ってからずっと獅子の背中では剣が薄っすらと光り続けている。
魔虫を追い払っているのだろう、と儀礼は推測する。大量発生しているはずのその姿をまだ見ていなかった。
それは相当な集中力がなければできないこと。
その状態で足音も立てず、森の中を歩き、適当にとは言え会話までしている獅子が、儀礼には信じられない。化け物じみてゆく友人に儀礼は苦笑する。
「じゃ、儀礼。軽くやっちまってくれ」
半分炭と化した森の中でその化け物……獅子が陽気な声をあげた。
今日の仕事、魔虫討伐。
光の剣の力を持ってすれば軽くやってしまえるそれを、儀礼は数日かけて仕掛けを作った。
でも、それは見せない。
準備は万端。さあ、驚いてもらおう、と儀礼はポケットの中でボタンを押した。
同時に森中から上がる白い霧。地中に張った魔虫の巣の中までその霧雨は降り注ぐ。予想通り、数種類の渡りの群れはうまい具合に森中に散っていた。
獅子が驚いた顔をしている。してやったり、儀礼は嬉しそうに笑った。
周りは美しく彩られた紅葉の森。青い空に映え、明るい光が森を照らし出す。
儀礼の周りには、もう苛立ちも怒りの気配もない。清々しい空気を儀礼は吸い込む。
その森の中をゆっくりと歩きながら、儀礼は足元の枯葉を蹴り上げた。
ざざっという音と共に舞い上がった葉は、赤・黄・茶色など色が混ざって、ひらひらと落ちていく。それはとてもきれいだった。
枯葉は音もなく地面に辿り着く。儀礼はその地面に落ちた枯れ葉の音も楽しくて踏みしめながら歩いた。一歩、進むたびに音がする。ざっく、ざっく、と。幼い頃を思い出し、儀礼は久し振りの行楽を楽しむ。
そんな儀礼の側に、一緒に来たメンバーの一人、弓使いの女性が歩いて来た。
「この間はごめんね、あんなこと言って」
女性が謝りながら首を傾げると、やわらかそうな金の髪がふわりと揺れた。何か、甘い香りが漂う。
そのまま弓使いは儀礼の左腕にその腕を絡める。女性特有の柔らかい感触に儀礼は少し戸惑った。
すぐに他のメンバーも寄ってきて、儀礼に次々と謝りだした。
しかし、儀礼が弱いのは事実であり、彼女達がギルドで言ったことはそう間違っていない。
背の高い男の発言は除くが。でも謝ったから儀礼は許すことにした。きっと悪気はなかったと信じる。
儀礼の視界の端で、弓使いが胸元のボタンを緩めた。もう肌寒い季節ではあるが、女性の肌がほんのりと赤い気もするので暑いのかもしれない。
――などと思うのはやはり甘くて、女性の手が儀礼の腕を伝うように動く。
「この後の予定はあるの?」
弓使いの小さな声が儀礼の耳にささやく。
(予定がなかったら何するつもりでしょう、お姉さん)
残念ながら、儀礼は忙しい。コルロと取引した銃も作らなければならないし、もらった腕輪の解析もしなければ。対魔法に関しても調べなくてはならず、他にも多くの問題が上がってきていた。
今現在にも。
滑るように動いていた女性の手が、先程儀礼が機械を起動させたスイッチの入っているポケットを探り当てた。
するりとその中に手を入れようとするので、儀礼はとりあえずその手を握りしめて防いでみる。
それ以上強行にされたら、儀礼も手段を選べなくなる。幸い、左手には痺れ針を仕込んだ指輪がある。
同じ高さにある目線が合うと、にっこりと弓使いは微笑んだ。儀礼の手を柔らかい手が握り返す。
先の行動がなければ、なかなかに可愛らしいと思うのだが、と儀礼も愛想の笑顔を返す。
ほぼ同時に、儀礼の反対の腕を魔法使いの女性が掴んだ。両腕で縋るように掴む力は、拘束されているようにも感じる。
気付けばいつの間にか、儀礼の前後を囲むように残りのメンバーが立っている。
Bランク冒険者に囲まれた現状で下手に暴れるのは得策ではない。両腕が使えないので、暴れようにも難しいが。
緊張した儀礼の背後に、何かの落下する気配。
「悪い、儀礼。急用思い出した」
木の上から飛び降りてきた獅子に儀礼は首の後ろを掴まれた。そのまま、荷物か何かのように運ばれる。
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