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ギレイの旅

千夜ニイ

魔虫退治の儀礼編 射的

 儀礼とコルロは残り少なくなった機械の調整に戻る。男は放置したままだ。問題はなし。
「僕と誰かが一緒に写真に写ってたとしたらどう思います?」
一昨日のいきさつを簡単に説明して、儀礼はコルロに聞いてみた。


「そうだな、写真なんてそうそう一緒に撮る物でもないから、まず関係者だと疑われるだろうな」
目線も上げずにコルロは答える。その手元では最後の一個が調整されていた。
「ですよね。あの女の子、誕生日の記念に家族で写真を撮りに来たって言ってました。それで、万が一誘拐されるようなことにでもなったら……」
儀礼は機械を全て机の上に並べ終え、落ち込む考えに顔を俯ける。


「しかし、ギレイ。お前の説明だと、一つ腑に落ちないよな。透明な液体に浸したハンカチは何なんだ?」
儀礼が考えないようにしていた所をコルロがつついてくる。
「それは、あれです。えっと、……不審な行動に自分で落ち着くためにミントの香りの気付け薬とか」
人差し指を立て、できるだけの笑顔で儀礼は言ってみる。たまにこれで通用する人がいる。
いろんな町の若い警備兵とか。


 口とおなかを押さえてコルロが吹き出すように笑い出した。通用、しなかったらしい。
「そこに実物があって、ここに調べる設備が揃ってるんだぞ。調べてみるか?」
笑いながら、コルロが窓を乗り越え外に出ようとする。
「いえ、どうぞお構いなく。わざわざ犯罪者にすることないじゃないですかっ」
あの可愛い小さな女の子が泣くと思うと、儀礼にそれはできない。間違えることなく『お兄ちゃん』と言って懐いてくれたのだ。必死な思いで儀礼は窓枠に立つコルロの服を引っ張った。


 Sランクの者に手を出すことがどういうことか一般の人にはわからないのだろう。
多分一度捕まれば、あの男は二度と地上に出ることはない。




「あ、鳥!」
涙の浮かびかけた儀礼の視界に、空を飛ぶ鳥の群れが映った。
その数、数百羽に及ぶ。とうとう、渡り鳥の第一陣が到着したらしい。
儀礼は慌てて改造銃をポケットから取り出す。
弾の代わりに先程調整の終わった機械を弾倉に込める。コルロのおかげで作業が早く終わったので、第一陣に余裕で間に合った。


 儀礼は口の端を上げて笑うと、窓から照準を合わせ、その鳥に狙いを定める。
そして、次々とその弾を撃ち始めた。
当たった鳥は一瞬揺らぐものの、特に気にした様子もなく、そのまま飛び続ける。


「おお、よく当たるなそれ。結構距離あるぞ」
遠くを見るように目の上に手を当ててコルロが言った。
「はずしたら拾いに行かなきゃ行けないんで必死です」
真剣な顔で遠くを羽ばたく鳥を見据え、儀礼はその動きを読む。


 一度読めばそのまま十数羽に向けて銃を撃つ。
しゅるしゅると回転する音をさせ、機械が鳥に向かって飛んで行く。
ぴたりと体に付けば鳥は一瞬揺らぐ。そうして数十発を撃てば弾倉が空になり、カチカチと空回る音を鳴らした。


 儀礼は弾倉にまた機械を入れる。鳥は先程よりも近付いて来ていた。
「おい、儀礼。それちょっと俺にもやらせろ」
楽しそうな顔でコルロが儀礼の手から銃を奪う。儀礼に渡したつもりはない、今のは奪われたのだ。
窓際に立ち、コルロは鳥に狙いを定める。


 ダンダンダン。
小さな音がして、銃から機械が飛び出す。3発のうち1発が命中した。
「ん? 意外と難しいな。1発ずつ狙うか」
コルロはまた狙いを定め、鳥を撃ち抜く。


「あれ?」
「撃ち殺しちゃだめじゃないですか」
儀礼は口を尖らせる。何をやっているのだろう、この大人は、と。


「なんでああなる」
心底不思議そうに、落ちていく鳥を指さして、コルロが儀礼に向き直る。
「僕が聞きたいです。何したんですか?」
「ちょっと、風で軌道修正しただけだ。威力は上げてないぞ」
緑に光る細かい模様の入った腕輪を示してコルロが言った。
その2cm程の幅の銀の腕輪は風の魔法に関する物らしい。どういう仕組みかは儀礼にはわからないが。


 儀礼は考えるように口元に指を当てる。その目は真剣に銃と腕輪とを見比べる。
「銃の方が反応したのかもしれませんね。撃ち出す機能に風を利用してるんです」
言って、儀礼は試すように自分で銃を撃つ。
何の問題もなくそれは鳥の体に機械を貼り付けた。何発か続けて撃ってもそれは同じ。


「ギレイ、これつけてみろ」
コルロが緑に光っていた腕輪を外して儀礼に渡した。今、儀礼も同じことを考えていた。
「これ、僕でも使えるんですか?」
それを右腕に嵌めながら儀礼はコルロに尋ねる。使えなければ実験の意味がない。


「基本的には誰にでも使えるように作ってある。あとは魔力の扱いだが、お前初心者だからな……。う~ん、腕輪に気持ち込めるつもりで『こうしろ』みたいに思うとうまくいくと思う」
腕を組み、考えるように説明するコルロだが、それは説明にはなっていない。
それでも、なんとなくは儀礼にも分かる。魔剣を使う獅子やクリームと同じだ。
闘気はきっと魔力の一種なのだと儀礼は考え始めていた。


 儀礼の腕で銀色の腕輪が緑に光る。今までにない感覚で遠くが見渡せた。
「じゃぁ、鳥を狙うのは可哀想なのであの辺にいる人に麻酔弾で」
儀礼は言うと同時に撃った。届くはずのない弾が、視界の端ぎりぎりの所にいる人物に当たった。
軌道修正だけではない。やはり、威力も勝手に上がっている。
便利ではあるが、勝手に強化されるのでは扱いに困る。

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