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ギレイの旅

千夜ニイ

魔虫退治の儀礼編 魔鳥も防ごう

「いや、俺をあれと比べられてもなぁ」
コルロは丸い小さな機械をバラバラに分解しながら言う。あれとはもちろんアーデスのことだ。
儀礼の借りた研究室の中、コルロは机の上に座っていた。


「だって、同じパーティにいるじゃないですか」
儀礼は丸い小さな機械を調整しながら言う。
儀礼自身は床に直接座り込み、その機械に新しく付けた部品を確認していた。
この小さな機械を鳥につける予定のため、一日で剥がれ落ちるようにしなければならない。
作業自体は簡単だが、数が多いので大変だ。


「よし、仕組みはわかった。どうせ暇だからな、手伝ってやるよ」
分解していた機械を組み立て終えたようで、コルロが次の機械を手に取り、中にあるタイマーの目盛りをいじり始める。
「アーデスがまともじゃないのは見ればわかるだろ。俺は一般人寄りだよ」
次の機械に手を伸ばし、コルロは言う。作業の速さは儀礼といい勝負だ。それはもう、一般人ではない。


「そんでギレイ、こんな大量の装置で何する気だ?」
調整の終わった機械を次々に机の端に並べ、コルロはまた次の機械を手に取る。
「森の魔虫退治です。何故か大量発生したらしくて。もうすぐ森を渡り鳥が通るので、その前に何とかしておかないと、魔鳥が発生します」
儀礼が言う。魔鳥は文字通り、魔物化した鳥のことだ。


 機械を見たまま、視線も上げずに儀礼達は会話する。
手元の動作は遅れることなく、未調整の機械は次々と減っていく。
「普通の鳥が食うのか、魔虫を?」
50個な、と並べた機械をそこで一区画とし、コルロはまた次の機械を手に取る。


「食べるみたいですよ。前例が報告されてました。70年前と120年前に」
52個目です。と儀礼は言う必要もない中途半端な数を口にする。
「古いな。稀に見る魔虫の大量発生に、魔鳥誕生ってとこか? 報告が残ってるってことは被害もあったのか?」
机の上から椅子に座り直し、コルロは自分の座っていた場所へ調整を終えた機械を置き始める。


「ありました。ここの森を出た後に変化したみたいで、渡り鳥の次の止まり木に。森一つが壊滅状態。近くの町でも家畜が全滅したとか」
話しながら、自分の手が止まっていたことに気付き、儀礼は作業の手を速める。
報告書には、いくつかの画像が添付されていた。当時の状況を描き示した物らしいが、見なければ良かったと儀礼は少し後悔していた。


 そんな儀礼を見て、コルロはまた楽しそうに口の端を上げる。
コルロの手元は安定して作業を続けたままだ。
「ワルツが惚れ込むわけだ」
「それっ、違いますから!」


 なぜ、ここでそんな話になるのか。
あらぬ誤解に、儀礼は思わず持っていたツールを握り締め、顔を赤くしながらも即座に反論した。




(大丈夫、マイナスドライバーに刃はない。Aランク魔法使いに刃向かったことにはならない、よな)
コルロの腕輪の一つが宝石を黄色く光らせたことに儀礼は警戒する。


「ああ、お前知らないんだったか」
警戒した儀礼に気付いたようで、コルロは持っていた機械と道具を置き、自分の腕輪を示す。
「これ、杖と同じような物だけど単体で魔法発動させるんだ。今のはギレイに向けたんじゃなくて、外の奴。誰かが結界に触れたから反応したんだな」


 これ、と今光った腕輪の宝石をつまみ、コルロは説明する。
その腕輪はコルロの張った結界に誰かが触れると光る物らしい。
氷の谷でも使っていたので、儀礼は知っているものだと思ったと言う。


 いつの間に結界など張ったのか。気にしても仕方ないか、と思い直し儀礼はカーテンを開け、窓から外を見る。おそらく、コルロの言う外の奴とはこっちでこそこそしてた人のことだろう。
儀礼でも気配に気付くような一般人だったので気にもしなかった。
カーテンが閉まっていたので部屋の中は見えなかっただろう。


 そこには、中年の男性が倒れていた。頭上に伸びた手の側にはカメラが落ちている。
そう言えば、儀礼は一昨日、5歳くらいの可愛い女の子と知り合い、一緒に写真を撮ってくれないかと頼まれた。
しかし、儀礼は断り、女の子はひどく泣いてしまった。おわびにキレイな音の鳴るオルゴールをあげたのだ。
その時、この男が一緒にいた気がする。確か女の子にパパと呼ばれていた。
儀礼が写真を撮るのを断ったので、一人で隠し撮りでもする気だったのかもしれない。
可愛い娘にパパすごい、と言われるのを想像して儀礼の姿を見て笑っていたのだろう。きっと。


「コルロさん、あのカメラ壊せますか?」
少し離れた距離にあるカメラを指差し儀礼は言った。
男には悪いが、儀礼のデータなど持ってるだけで危険だ。
一緒に写った写真など誰かに見られて儀礼と関係があると思われるのが嫌であんなに小さな子を泣かせたと言うのに。


 コルロの結界があるなら下手に窓から出ないほうがいいだろう。
儀礼まであの男のように倒れては情けない。
「ん? あれか」
言うが早いか、そのカメラがボンと音を上げて爆発した。


 儀礼は驚いたようにコルロを見る。今、何か詠唱したり、腕を向けたりもしなかった。
儀礼の知る魔法はそういうものが必要だったと記憶している。


「……今、目から不可視のビームが?」
「出ねぇよっ!」
目を凝視して言う儀礼に、コルロは可笑しそうに腹を抱えて笑い出した。

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