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ギレイの旅

千夜ニイ

魔虫の大量発生9

 木々の間を苦しそうに走る儀礼から、獅子は木の上から腕を下に伸ばし無言で白衣を預かる。
武器であり、防具であるこの白衣は、鎧のように重たい。足かせの様にもなっている。


 白衣を脱げば儀礼の息が軽くなった。
何を考えて、普段からこんな重いものを着ているのか。
一つの理由くらいじゃ動かない。複数の利点があるからなのだろうな。


「だいたい取り巻きって……儀礼、俺あんなの周りにいらねぇんだけど」
そこははっきり儀礼に言っておきたい。下手をすると増やされかねない。
「……笑ったから僕に押し付けた?」
青い顔をして儀礼が聞いてくる。
笑ったとは今朝のギルドでのことだろう。確かにあの時は笑う儀礼にむかついたが。


「別にあれは関係ない。押し付けるってなんだよ。そんなことできるか」
人を荷物か何かみたいに言ってくれる。そんな簡単に人の心が変わると思っているのか。
魔虫のように『去れ』と気を込めるだけで逃げ出すものなら簡単だ。


 そこで獅子は自分の言った言葉を思い出した。


『人の心って変わるんだな』
『悪かった』
『俺は、調子に乗りすぎたかも』


 獅子はもう一度青い顔の儀礼を見る。誤解を生みそうな言葉であると気付いた。
「できるのか」
光の剣の持ってすれば。
青い顔のまま反対を向いた儀礼は答えない。しかし、可能性は高そうだ。


 獅子は改めて剣の重みを感じる。


 無言で走りながらも何かを考え続けていたのか、儀礼が大きく息を吐いた。
「もうこの町出よう?」
獅子を振り向いてそう言った儀礼の目には涙が浮いていた。


***********************


 数日後、黒獅子には新しい噂が追加されていた。
『黒獅子』とは、その姿を見ただけでどれほどの魔蟲も逃げ出し、山火事すらも一睨みで鎮火する、と。


「俺は魔人か!!」


 その日、儀礼の管理局からの帰りがとても遅かった。
迎えに行った――あくまでただの迎えだ。本当だ。――管理局の研究室にはその姿がなかった。


……噂に細工したと、思っていいよな?



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