ギレイの旅
魔虫の大量発生6
「森の中央が魔虫の住処になってたのよ。ものすごい大群がいて、火炎瓶で対抗したんだけど、逃げるのがやっとだったわ」
弓使いが獅子に説明する。
「そうか。それで、魔獣討伐は?」
特に気にした訳でもなく、普通の疑問として獅子は聞く。
「まだよ。できてるわけないでしょ。群れのいる西側にも移動してないのに。あなたは北に向かう所?」
笑うように言ったのは魔法使い。
獅子が、東側の討伐を終えて、北に向かっていると思ったようだ。
「いや、北ももう終わったよ。俺は、こっちの様子を見に来たんだ。一応一緒に来た訳だしな」
獅子は頬をかきながら言う。なんだか、信用してないから見に来たみたいで申し訳ない気もする。
その瞬間に、パーティの全員が驚愕に目を見開いた。全員揃うと異様で、ちょっと不気味だった。
「行くんだろ、魔獣退治?」
獅子は西の方を指差す。その方向には黒い煙が上がっている。
「おい! お前ら、火は消してきたんだろうな?」
眉をしかめるように獅子は聞く。
火炎瓶でつけた火など放っておいたら森中を焼く火事に繋がりかねない。
「いや……」
言いにくそうに背の高い男が首を横に振る。
「それどころじゃなかったのよ。生きて逃げてくるのがやっと。凄い数の魔虫がいたのよ!」
弓使いが弁明するように言った。
「態勢を整えに来ただけだ。多少燃えたほうが魔虫を減らすためにはいい」
鎖を持った男は落ち着いた様子で答える。
「ランクDの魔虫だろ。お前ら、Bランクの魔獣の群れを倒しに来たんだよな」
怒りを混ぜて獅子は言う。枯葉の多い時期だ、燃える物はたくさんある。
森には、魔獣や魔虫だけでなく、たくさんの動植物が生きているのだ。
「お前ら、魔獣討伐はやる気があるのか?」
できるだけ、怒りを抑えて獅子は聞く。これが、本来の目的で、一番重要なことだ。
本来一緒に来るはずの儀礼を置いてまでこんな奴らと来たのだ。
これでこいつらが帰るつもりだ、とでも言ったらさすがに獅子は怒りを抑えられる気がしない。
「もちろんだ。これから迂回して西に回ろうって言ってたんだ」
重剣士が慌てたように言う。獅子の怒りに気付いたようで額には今までなかった冷や汗が浮いている。
「そうよ。あんな魔虫ごときに後れを取って逃げ帰るわけないじゃない」
魔法使いが立ち上がり、獅子の真正面から言う。
気の強そうな女性は逃げ出そうとしたと思われることに腹が立ったらしい。
残りの三人も頷いて肯定を示す。
「なら、とっとと行くぞ」
獅子は五人を促す。
戸惑ったように顔を見合わせるパーティのメンバーだが、獅子の迫力に飲まれ、黙ってその後について行くのだった。
森の中央部分に近付いた時、5人の男女は警戒したようにそれぞれの武器を確かめる。
手持ちの攻撃アイテムの数も確かめた。
獅子は真っ直ぐに黒い煙を上げる場所を目指していたのだ。
「結構焼けてるな。どうすりゃいいんだ?」
広がった火事を見て独り言のように言い、獅子は頭をかく。
木の一、二本が燃えてるだけならその木を倒してしまえばいいのだが、これだけの数が燃えていると、全て倒してしまっていいのかもわからない。
それしか方法がないなら、仕方がないが。
考える獅子の元に、黒い煙のように連なった魔虫の群れが近付いてきた。
「これか、お前らの言ってたのは」
確かに、尋常な数ではない。
しかし、自分達が逃げるためだけに森を焼き払うのは間違っている気がした。
うねるようにして黒い魔虫の塊は段々と獅子達に近付いてくる。
その羽の音は虫の羽が出しているとは思えないほど大きな振動となっていた。
ガタガタと弓使いが震えだす。
「イヤ、やっぱり私あんなの相手にできないっ」
目に涙を浮かべて弓使いは言う。
「魔法障壁で全員を囲むから一気に突破しましょうよ」
真剣な顔で魔法使いが言う。
「でも、お前はもうかなり魔力が減ってるだろ。全員囲む障壁なんて持つのか?」
鎖を持った男は心配そうに魔法使いを見る。
「お前ら、うるせぇ」
獅子は大きくない声でそう言った。
しかし、その声は全員の耳にはっきりと聞き取れていた。魔虫の羽音うるさいその中で。
獅子は剣を構えていた。
やることは簡単、やはりただ剣に気を送るだけ。そして『去れ』、それは心の中で唱えるだけでいいのだともうわかった。
それで、辺り一体、空までを埋め尽くさんとしていた大量の魔虫が、一斉にどこかへと逃げ去って行く。
呆然と、心を抜き取られたかのように、5人の男女は目を見開いてその光景を眺めた。
炎の向こうから聞こえてきた甲高い鳴き声にそのパーティの5人は正気に戻った。
それは討伐に来た目的の魔獣の声。
「煙に興奮して寄ってきたか。火を恐れないとは、さすが魔物だな」
燃え盛る木の上に乗る、猿型の魔獣。それを見て獅子は笑う。
「追いかける手間が省けたぜ、よく来たな」
剣を輝かせ、獅子は炎の中に駆けていった。
結局、この日パーティのメンバーにやることはなかった。
彼らにできたのは、噂に聞く『黒獅子』の強さを確認することと、信じられない出来事を多数目撃することだけだった。
5人が最後に見た奇跡とも呼べる異常。
40体に近い魔獣を全て一人で倒した『黒獅子』が、剣を構え『消えろ』と言った瞬間に、森を包んでいた全ての炎が消え去ったのだった。
弓使いが獅子に説明する。
「そうか。それで、魔獣討伐は?」
特に気にした訳でもなく、普通の疑問として獅子は聞く。
「まだよ。できてるわけないでしょ。群れのいる西側にも移動してないのに。あなたは北に向かう所?」
笑うように言ったのは魔法使い。
獅子が、東側の討伐を終えて、北に向かっていると思ったようだ。
「いや、北ももう終わったよ。俺は、こっちの様子を見に来たんだ。一応一緒に来た訳だしな」
獅子は頬をかきながら言う。なんだか、信用してないから見に来たみたいで申し訳ない気もする。
その瞬間に、パーティの全員が驚愕に目を見開いた。全員揃うと異様で、ちょっと不気味だった。
「行くんだろ、魔獣退治?」
獅子は西の方を指差す。その方向には黒い煙が上がっている。
「おい! お前ら、火は消してきたんだろうな?」
眉をしかめるように獅子は聞く。
火炎瓶でつけた火など放っておいたら森中を焼く火事に繋がりかねない。
「いや……」
言いにくそうに背の高い男が首を横に振る。
「それどころじゃなかったのよ。生きて逃げてくるのがやっと。凄い数の魔虫がいたのよ!」
弓使いが弁明するように言った。
「態勢を整えに来ただけだ。多少燃えたほうが魔虫を減らすためにはいい」
鎖を持った男は落ち着いた様子で答える。
「ランクDの魔虫だろ。お前ら、Bランクの魔獣の群れを倒しに来たんだよな」
怒りを混ぜて獅子は言う。枯葉の多い時期だ、燃える物はたくさんある。
森には、魔獣や魔虫だけでなく、たくさんの動植物が生きているのだ。
「お前ら、魔獣討伐はやる気があるのか?」
できるだけ、怒りを抑えて獅子は聞く。これが、本来の目的で、一番重要なことだ。
本来一緒に来るはずの儀礼を置いてまでこんな奴らと来たのだ。
これでこいつらが帰るつもりだ、とでも言ったらさすがに獅子は怒りを抑えられる気がしない。
「もちろんだ。これから迂回して西に回ろうって言ってたんだ」
重剣士が慌てたように言う。獅子の怒りに気付いたようで額には今までなかった冷や汗が浮いている。
「そうよ。あんな魔虫ごときに後れを取って逃げ帰るわけないじゃない」
魔法使いが立ち上がり、獅子の真正面から言う。
気の強そうな女性は逃げ出そうとしたと思われることに腹が立ったらしい。
残りの三人も頷いて肯定を示す。
「なら、とっとと行くぞ」
獅子は五人を促す。
戸惑ったように顔を見合わせるパーティのメンバーだが、獅子の迫力に飲まれ、黙ってその後について行くのだった。
森の中央部分に近付いた時、5人の男女は警戒したようにそれぞれの武器を確かめる。
手持ちの攻撃アイテムの数も確かめた。
獅子は真っ直ぐに黒い煙を上げる場所を目指していたのだ。
「結構焼けてるな。どうすりゃいいんだ?」
広がった火事を見て独り言のように言い、獅子は頭をかく。
木の一、二本が燃えてるだけならその木を倒してしまえばいいのだが、これだけの数が燃えていると、全て倒してしまっていいのかもわからない。
それしか方法がないなら、仕方がないが。
考える獅子の元に、黒い煙のように連なった魔虫の群れが近付いてきた。
「これか、お前らの言ってたのは」
確かに、尋常な数ではない。
しかし、自分達が逃げるためだけに森を焼き払うのは間違っている気がした。
うねるようにして黒い魔虫の塊は段々と獅子達に近付いてくる。
その羽の音は虫の羽が出しているとは思えないほど大きな振動となっていた。
ガタガタと弓使いが震えだす。
「イヤ、やっぱり私あんなの相手にできないっ」
目に涙を浮かべて弓使いは言う。
「魔法障壁で全員を囲むから一気に突破しましょうよ」
真剣な顔で魔法使いが言う。
「でも、お前はもうかなり魔力が減ってるだろ。全員囲む障壁なんて持つのか?」
鎖を持った男は心配そうに魔法使いを見る。
「お前ら、うるせぇ」
獅子は大きくない声でそう言った。
しかし、その声は全員の耳にはっきりと聞き取れていた。魔虫の羽音うるさいその中で。
獅子は剣を構えていた。
やることは簡単、やはりただ剣に気を送るだけ。そして『去れ』、それは心の中で唱えるだけでいいのだともうわかった。
それで、辺り一体、空までを埋め尽くさんとしていた大量の魔虫が、一斉にどこかへと逃げ去って行く。
呆然と、心を抜き取られたかのように、5人の男女は目を見開いてその光景を眺めた。
炎の向こうから聞こえてきた甲高い鳴き声にそのパーティの5人は正気に戻った。
それは討伐に来た目的の魔獣の声。
「煙に興奮して寄ってきたか。火を恐れないとは、さすが魔物だな」
燃え盛る木の上に乗る、猿型の魔獣。それを見て獅子は笑う。
「追いかける手間が省けたぜ、よく来たな」
剣を輝かせ、獅子は炎の中に駆けていった。
結局、この日パーティのメンバーにやることはなかった。
彼らにできたのは、噂に聞く『黒獅子』の強さを確認することと、信じられない出来事を多数目撃することだけだった。
5人が最後に見た奇跡とも呼べる異常。
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