ギレイの旅
魔虫の大量発生5
獅子がその魔獣の群れを倒し終えた頃、やっと他のメンバーが追いついてきた。
何があったのか知らないが、彼らはぽかんと木の上にいる獅子を見上げる。
「これ、お前が一人でやったのか?」
背の高い男が地面を指差して聞く。
これ、とは地面に落ちた魔獣の死骸のこと。ここ一つの群れにざっと二十数体いた。
この感じだと他の群れもそれ位の数はいそうだ。
群れの数がいくつあるのかまでは知らないが、複数の群れが目撃されているので少なくともあと二つはあると見る。
「ああ。今他の群れを探してるが、近くにはいないな」
見える範囲を見渡すが、魔獣らしい動きはない。魔虫の群れが近付いてきたのでまた剣を持って追い払ってみる。
一斉に逃げ出す姿はなんだかちょっと爽快だ。
今度、他の生き物でも試してみたい。大抵のものになら効く気がした。
「探すなら私に任せて。補助魔法の中でも探索は得意なの。この森の中なら全体を見れるわ」
赤茶髪の女性がそう言って目を閉じた。何かの気配がその女性を包んだ気がした。
「結構いるわね。見て、地図に示すわ。少しずつ移動してるけど、大体の縄張りは決まってるみたい」
女性は手元で大きな地図を開く。男の一人がその端を持って手伝う。
「群れはあと4つ。今、私達がいるのが入り口から程近い南の方」
女性が地図の森の下のほうを指差す。
「中心部にはいなくて、北に一つ、東に一つ」
女性は地図の上部と右端の方を示す。距離的には結構ありそうだ。
「それから西に二つ」
地図の左側、上下2箇所に細い指が円を描く。
「こっちは群れが分かれたばかりみたいで一つの群れにいる魔獣が十数体よ」
探索魔法と言うのはそういうことがわかるらしい。便利な物だ。
「ふーん。お前凄いんだな」
地図を見ながら獅子が言えば、視界の端で女性は何故か頬を染める。
獅子に恥ずかしいことを言った覚えは無い。
「ドルエドでは、魔法使いは珍しいものね。フェードでは普通のことよ」
魔法使いの女性は腰に手を当て、偉そうに言う。
獅子は自分の国ドルエドを、馬鹿にされたような気がした。
「じゃ、俺が右の2箇所行くから、お前ら左の2つ頼むな。手分けした方が早いだろ」
もともと依頼を譲ってくれと言った連中なのだ。この魔獣が倒せないわけがない。
森全体を歩くことになれば日が暮れてしまうのは必至。
お互い頷き合うと、獅子とパーティは二手に分かれた。
この魔獣討伐依頼には期限が設定されていなかった。
それは、森が広いことと、魔獣の群れが複数存在しているため。
一つの群れを討伐するのに、1週間ほどの猶予が見込まれているのだ。
それを、獅子は森に入って2時間足らずの間に、三つの群れを潰した。
その時間のほとんどが移動時間だった。
獅子は地図を見ながらしばし迷う。
自分のやるといった分は終わったのでこのまま帰ってもいいとは思うが、なんとなくあの連中が心配でもあった。
「仕方ねぇ。無事だけ確認してくるか」
迷った末、ぽりぽりと頬をかき、獅子は彼らが向かったはずの森の西側を目指した。
一方その頃、パーティのメンバーは森の西側に行くために、森の中心部を通っていた。
そこには、今までの比でない数の魔虫が棲息していた。
ここが魔虫の住処となり、大量発生に繋がっていたようだった。
冒険者に気付いた魔虫たちが一斉に襲い掛かってくる。
「きゃぁ!」
案内のために先頭にいた魔法使いは、咄嗟に障壁を張る。
他のメンバーが、用意していた火炎瓶を投げ入れた。それは魔虫を巻き込み盛大に燃え上がる。
だが、その火が消えてしまうとまた同じ数ほどの魔虫が地面の下から現れた。
「嘘っ、こんなにいるの!?」
障壁で炎から身を守っていた魔法使いは、再び現れた魔虫に驚きの声を上げる。
鎖を持った男が火炎瓶を持つ。
「もう一度炎で焼くしかない。次は炎を消さないよう同時に油をまこう」
「わかったわ」
弓使いが油瓶を弓に括りつける。これは特に燃えやすい油が入っているので、被った魔虫はもちろん周りの木々や、うまくいけば巣の中まで炎で焼くことができる。
魔法使いがより強固な障壁を張り、残りの三人が火炎瓶を投げ入れる。
爆発音と共に、炎が巻き起こる。弓使いは矢を放った。
矢の前進する勢いで油瓶の仕掛けが動き出す。辺りによく燃える油を撒き散らした。
ゴォーッ
音を立てて炎が激しくなる。においの強い黒い煙が立ち昇った。
重剣士は盾で飛んでくる火の粉から身を守る。見る限り、下草のほとんどが燃え上がり、地面の中にも相当な熱が加わっていそうだ。
「よし! いい感じだ。これなら巣の中まで倒せたんじゃないか?」
「そうね。むしろ、これでだめだったらどうするの? 火炎瓶全部投げ込んでみる?」
重剣士の言葉に、弓使いが笑うように言った。
「そんなことしたら炎が治まらないだろ」
今度は背の高い男が返す。
しかし、笑っていられない事態が起こる。
「おい。嘘だろ。本当に火炎瓶全部投げるか?」
鎖を持った男が顔を青くして炎の中を見ている。
焼けた地面から黒い煙のようにして魔虫の群れが湧き出していた。
「こんなにたくさん相手にできるかよ」
火炎瓶を一つずつ投げながら、背の高い男が後退していく。
「いったん退くぞ、ここは魔虫の住処なんだ。離れて立て直そう」
「待ってよ、私を最後にする気?」
鎖を持った男が後退を始め、先頭で障壁を張っていた魔法使いが慌てて後を追う。
「油瓶使うわ。気をつけて」
仲間の後退を援護するために弓使いは炎の中にさらに油を足す。
一気に燃え上がる炎が壁のようになり、メンバーは無事に逃げることができた。
全員で安堵の息を吐いた。今の防衛で用意していた魔虫対策の大半を使ってしまった。
魔虫の住処となっている森の中央を避け、もう少し南に戻って西の魔獣の群れを倒しに行くか、いったん町に戻り準備をし直すかパーティで話し合う。
「お前ら、ここで何してんだ?」
そこへ、獅子が到着した。
何があったのか知らないが、彼らはぽかんと木の上にいる獅子を見上げる。
「これ、お前が一人でやったのか?」
背の高い男が地面を指差して聞く。
これ、とは地面に落ちた魔獣の死骸のこと。ここ一つの群れにざっと二十数体いた。
この感じだと他の群れもそれ位の数はいそうだ。
群れの数がいくつあるのかまでは知らないが、複数の群れが目撃されているので少なくともあと二つはあると見る。
「ああ。今他の群れを探してるが、近くにはいないな」
見える範囲を見渡すが、魔獣らしい動きはない。魔虫の群れが近付いてきたのでまた剣を持って追い払ってみる。
一斉に逃げ出す姿はなんだかちょっと爽快だ。
今度、他の生き物でも試してみたい。大抵のものになら効く気がした。
「探すなら私に任せて。補助魔法の中でも探索は得意なの。この森の中なら全体を見れるわ」
赤茶髪の女性がそう言って目を閉じた。何かの気配がその女性を包んだ気がした。
「結構いるわね。見て、地図に示すわ。少しずつ移動してるけど、大体の縄張りは決まってるみたい」
女性は手元で大きな地図を開く。男の一人がその端を持って手伝う。
「群れはあと4つ。今、私達がいるのが入り口から程近い南の方」
女性が地図の森の下のほうを指差す。
「中心部にはいなくて、北に一つ、東に一つ」
女性は地図の上部と右端の方を示す。距離的には結構ありそうだ。
「それから西に二つ」
地図の左側、上下2箇所に細い指が円を描く。
「こっちは群れが分かれたばかりみたいで一つの群れにいる魔獣が十数体よ」
探索魔法と言うのはそういうことがわかるらしい。便利な物だ。
「ふーん。お前凄いんだな」
地図を見ながら獅子が言えば、視界の端で女性は何故か頬を染める。
獅子に恥ずかしいことを言った覚えは無い。
「ドルエドでは、魔法使いは珍しいものね。フェードでは普通のことよ」
魔法使いの女性は腰に手を当て、偉そうに言う。
獅子は自分の国ドルエドを、馬鹿にされたような気がした。
「じゃ、俺が右の2箇所行くから、お前ら左の2つ頼むな。手分けした方が早いだろ」
もともと依頼を譲ってくれと言った連中なのだ。この魔獣が倒せないわけがない。
森全体を歩くことになれば日が暮れてしまうのは必至。
お互い頷き合うと、獅子とパーティは二手に分かれた。
この魔獣討伐依頼には期限が設定されていなかった。
それは、森が広いことと、魔獣の群れが複数存在しているため。
一つの群れを討伐するのに、1週間ほどの猶予が見込まれているのだ。
それを、獅子は森に入って2時間足らずの間に、三つの群れを潰した。
その時間のほとんどが移動時間だった。
獅子は地図を見ながらしばし迷う。
自分のやるといった分は終わったのでこのまま帰ってもいいとは思うが、なんとなくあの連中が心配でもあった。
「仕方ねぇ。無事だけ確認してくるか」
迷った末、ぽりぽりと頬をかき、獅子は彼らが向かったはずの森の西側を目指した。
一方その頃、パーティのメンバーは森の西側に行くために、森の中心部を通っていた。
そこには、今までの比でない数の魔虫が棲息していた。
ここが魔虫の住処となり、大量発生に繋がっていたようだった。
冒険者に気付いた魔虫たちが一斉に襲い掛かってくる。
「きゃぁ!」
案内のために先頭にいた魔法使いは、咄嗟に障壁を張る。
他のメンバーが、用意していた火炎瓶を投げ入れた。それは魔虫を巻き込み盛大に燃え上がる。
だが、その火が消えてしまうとまた同じ数ほどの魔虫が地面の下から現れた。
「嘘っ、こんなにいるの!?」
障壁で炎から身を守っていた魔法使いは、再び現れた魔虫に驚きの声を上げる。
鎖を持った男が火炎瓶を持つ。
「もう一度炎で焼くしかない。次は炎を消さないよう同時に油をまこう」
「わかったわ」
弓使いが油瓶を弓に括りつける。これは特に燃えやすい油が入っているので、被った魔虫はもちろん周りの木々や、うまくいけば巣の中まで炎で焼くことができる。
魔法使いがより強固な障壁を張り、残りの三人が火炎瓶を投げ入れる。
爆発音と共に、炎が巻き起こる。弓使いは矢を放った。
矢の前進する勢いで油瓶の仕掛けが動き出す。辺りによく燃える油を撒き散らした。
ゴォーッ
音を立てて炎が激しくなる。においの強い黒い煙が立ち昇った。
重剣士は盾で飛んでくる火の粉から身を守る。見る限り、下草のほとんどが燃え上がり、地面の中にも相当な熱が加わっていそうだ。
「よし! いい感じだ。これなら巣の中まで倒せたんじゃないか?」
「そうね。むしろ、これでだめだったらどうするの? 火炎瓶全部投げ込んでみる?」
重剣士の言葉に、弓使いが笑うように言った。
「そんなことしたら炎が治まらないだろ」
今度は背の高い男が返す。
しかし、笑っていられない事態が起こる。
「おい。嘘だろ。本当に火炎瓶全部投げるか?」
鎖を持った男が顔を青くして炎の中を見ている。
焼けた地面から黒い煙のようにして魔虫の群れが湧き出していた。
「こんなにたくさん相手にできるかよ」
火炎瓶を一つずつ投げながら、背の高い男が後退していく。
「いったん退くぞ、ここは魔虫の住処なんだ。離れて立て直そう」
「待ってよ、私を最後にする気?」
鎖を持った男が後退を始め、先頭で障壁を張っていた魔法使いが慌てて後を追う。
「油瓶使うわ。気をつけて」
仲間の後退を援護するために弓使いは炎の中にさらに油を足す。
一気に燃え上がる炎が壁のようになり、メンバーは無事に逃げることができた。
全員で安堵の息を吐いた。今の防衛で用意していた魔虫対策の大半を使ってしまった。
魔虫の住処となっている森の中央を避け、もう少し南に戻って西の魔獣の群れを倒しに行くか、いったん町に戻り準備をし直すかパーティで話し合う。
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