ギレイの旅
魔虫の大量発生4
獅子と共に森に入ったパーティーのメンバーは、昨日の失敗を踏まえ、今日は全員に速度上昇魔法をかけて、この森に挑んでいた。
ところが、森に入って最初に襲い掛かってきた魔虫達に、その速度の上がった状態のメンバーが誰一人、手を出す間もなかった。
共に来た黒髪の少年が剣を構えた瞬間に、その魔虫達は一目散に逃げ去った。
まるで少年の力を恐れたかのごとく。
そしてさらに黒瞳の少年は、目的の魔獣を追いかけ、パーティメンバーをどんどん引き離していく。
少年が、付いて来れるなら来い、と言ったがまったくその通り。
パーティのメンバーは付いていくことすらできない。
「速度魔法が切れたのかも。もう一度かけ直すわ」
額の汗を拭きながら魔法使いが言う。
「ああ。頼む」
荒い息を吐きながら巻いた鎖を肩にかける男が言った。この男も暑そうにあごの下の汗を拭う。
重剣士の男が左手の盾を地面に置き、自分の膝に両手をつくと苦しそうに口を開いた。
「でもよ、俺達に魔法かかってないにしても、あいつの速さ異常じゃないか? あいつ本当に俺達と同じBランクかよ」
鎧の中はこの涼しい季節に信じられないほど蒸している。
ありえないことに、速度上昇しているはずのパーティの誰もが、息も絶え絶えだった。
金髪の女性は弓と矢筒を近くの木の根元に置くとその幹に背中を預けた。
暑そうに空を仰ぎ、服の胸元を揺らす。体に涼しい風が入り、ようやくまともな息ができた。
女性の視線の先では、少年の黒いマントが木の上を飛ぶようにして小さくなっていく。
そして、弓使いの女性は思い出した。
「そう言えばあの子、Dランクの子と一緒に組んで、パーティランクBだったわよね」
それは、Dランクを差し引いてもそのパーティにBランクの力がある、ということ。
その言葉に水筒の水を飲んでいた背の高い男が頷く。
「実績不足の、実力持ちってやつか? たまにいるんだよな。そういう化け物みたいのが」
背の高い剣士は、口元の水を手の甲で拭う。
重剣士が屈めていた体を起こした。ようやく息が整ってきたようだ。
重剣士も、小さくなってきた黒い影に目を留める。
「お、おい。黒髪、黒マントで目も黒いって、あれもしかして『黒獅子』じゃねぇのか?」
記憶を手繰り、伺うように言って重剣士はメンバーを見回した。
「『黒獅子』ってドルエドでしょう? いつフェードに来たのよ」
魔法を唱え終わり、赤茶髪の魔法使いが強い口調でそう言った。
重剣士は可能性を言っただけだ、と自分の盾を拾う。
「いや、黒獅子はフェードに入ったって聞いたぞ。この間騒がれてた、遺跡の新しい発見に『勇者』の称号貰ったやつと一緒に関わったらしい」
魔法使いに答えたのは鎖を持った男だった。
「じゃぁ、やっぱり」
弓使いがほとんど見えなくなった黒い点を見つめる。
それから思い出したように弓と矢筒を拾った。
パーティのメンバーはその黒い点に向かい走り出したのだった。
ところが、森に入って最初に襲い掛かってきた魔虫達に、その速度の上がった状態のメンバーが誰一人、手を出す間もなかった。
共に来た黒髪の少年が剣を構えた瞬間に、その魔虫達は一目散に逃げ去った。
まるで少年の力を恐れたかのごとく。
そしてさらに黒瞳の少年は、目的の魔獣を追いかけ、パーティメンバーをどんどん引き離していく。
少年が、付いて来れるなら来い、と言ったがまったくその通り。
パーティのメンバーは付いていくことすらできない。
「速度魔法が切れたのかも。もう一度かけ直すわ」
額の汗を拭きながら魔法使いが言う。
「ああ。頼む」
荒い息を吐きながら巻いた鎖を肩にかける男が言った。この男も暑そうにあごの下の汗を拭う。
重剣士の男が左手の盾を地面に置き、自分の膝に両手をつくと苦しそうに口を開いた。
「でもよ、俺達に魔法かかってないにしても、あいつの速さ異常じゃないか? あいつ本当に俺達と同じBランクかよ」
鎧の中はこの涼しい季節に信じられないほど蒸している。
ありえないことに、速度上昇しているはずのパーティの誰もが、息も絶え絶えだった。
金髪の女性は弓と矢筒を近くの木の根元に置くとその幹に背中を預けた。
暑そうに空を仰ぎ、服の胸元を揺らす。体に涼しい風が入り、ようやくまともな息ができた。
女性の視線の先では、少年の黒いマントが木の上を飛ぶようにして小さくなっていく。
そして、弓使いの女性は思い出した。
「そう言えばあの子、Dランクの子と一緒に組んで、パーティランクBだったわよね」
それは、Dランクを差し引いてもそのパーティにBランクの力がある、ということ。
その言葉に水筒の水を飲んでいた背の高い男が頷く。
「実績不足の、実力持ちってやつか? たまにいるんだよな。そういう化け物みたいのが」
背の高い剣士は、口元の水を手の甲で拭う。
重剣士が屈めていた体を起こした。ようやく息が整ってきたようだ。
重剣士も、小さくなってきた黒い影に目を留める。
「お、おい。黒髪、黒マントで目も黒いって、あれもしかして『黒獅子』じゃねぇのか?」
記憶を手繰り、伺うように言って重剣士はメンバーを見回した。
「『黒獅子』ってドルエドでしょう? いつフェードに来たのよ」
魔法を唱え終わり、赤茶髪の魔法使いが強い口調でそう言った。
重剣士は可能性を言っただけだ、と自分の盾を拾う。
「いや、黒獅子はフェードに入ったって聞いたぞ。この間騒がれてた、遺跡の新しい発見に『勇者』の称号貰ったやつと一緒に関わったらしい」
魔法使いに答えたのは鎖を持った男だった。
「じゃぁ、やっぱり」
弓使いがほとんど見えなくなった黒い点を見つめる。
それから思い出したように弓と矢筒を拾った。
パーティのメンバーはその黒い点に向かい走り出したのだった。
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