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ギレイの旅

千夜ニイ

恐れていた追跡者

”黒鬼が動いた”
公園内の遺跡を満喫していた儀礼の眼前に、その文字が並んだ。
儀礼の思考は一瞬止まった。文字だけで何という破壊力。
『黒鬼』つまり獅子の父親が儀礼達を追い始めた、と。
今まで来なかった方が不思議かもしれない。代わりに突発的に利香が現れていたが、今は光の剣のせいで危険になり、村から出られないはずだ。先日危ない情報が入ったので、利香を出すな、と拓に警告してあった。
黒鬼は自力でものを言わせて獅子を連れ戻すつもりだろうか。


 冒険者ランク――人外のS。
またしても思う『そんなものに追われたくなかった』と。
車を運転しながら眼鏡型のモニターを外し、儀礼は思わず出てしまった涙を拭う。
「どうしたんだ?」
隣りの席から獅子が尋ねる。
「おじさんがこっちに向かってる」
儀礼の声は緊張したようで硬い。心なしかハンドルを握る手には力が入っているよう。
「はぁ!? ついにきたか、この時が……」
まるで、魔王との決戦に挑むかのように緊張を漲らせる二人。


「おいっ! お前ら、なんなんだよいきなり。俺、誘拐されたのか?」
放り込まれたまま放置されていたことに怒り、後ろの座席から身を乗り出してくる少年。
「あ、悪い。時間がなくて。後でちゃんと帰してあげるから協力してくれないか? もちろん情報料は払うよ」
「たくよぉ。この状況で断れるか。人件費も入れろよ」
身を乗り出したまま、偉そうに言う少年。
「『黒獅子』か『光の剣』について何か知らない?」
すぐ横に来た少年の顔を見て儀礼は尋ねる。
「光の剣か。話題のやつだな。今、サウステスにいるって聞いたぜ」
悩む様子もなく少年は答える。
「サウステスに行くのはどこが速い?」
運転する為に前を見て儀礼が質問を続ける。
「お前ら、光の剣狙ってんのか? やめとけ、やめとけ。剣に固執するやばい集団、『ソード オブ ソード』が動いてるらしぜ」
頭の後ろに手を当て、少年は倒れるようにシートにもたれかかった。
「うぉ、座り心地いいな。俺、車なんて初めて乗ったよ」
上機嫌でくつろぐ。
「ソードオブソード? どんな奴らだ?」
後ろを覗き込むようにして獅子が尋ねる。
「ランクAの奴がごろごろいる集団だよ。金持ちが中心にいて魔剣とか神剣とか買い集めて自慢し合ってたんだと。近年ではそれだけじゃ飽き足らず、腕のある奴雇って盗賊や強盗に近いことやってるって公然のうわさ」
「Aランクか、やっかいだな」
考え込むようにあごに手をあて獅子が呟く。


「例えば、そういう奴らに襲われた時に逃げ切れるような地形知らない? 入り組んだ森とか、隠れるとこの多い岩場とか。サウステスに行く途中にあればなおいいね」
運転しながら地図を出して、儀礼が尋ねる。
「本気で行く気かよ。俺、死ぬつもりないぜ。ここでいいから降ろしてくれよ」
扉に手をかけ降りようとすらする少年。
「やだなぁ。例えば、だよ。そんな奴ら相手にする暇ないもん」
少年を振り返った儀礼は引きつったように笑っている。
「本当だな、じゃぁ、西の門から町を出て、北に向かえ。10km進んだら北西へ。道なりに行くと大きな岩壁が見えるから壁伝いに行って、亀裂の所で入るんだ。岩でできた天然の迷路みたいになってる。地元の人間でもたまに迷うけど、俺は大丈夫」
得意そうに少年は言った。
「それは頼もしいね」
少年の言葉を受け、儀礼はにこりと笑った。


『ソードオブソード』その存在を儀礼は穴兎から聞いていた。だから利香を村から出すなと警告した。
そうしたら、今度は黒鬼が来ると言う。
不審に思われない程度に流してもらった偽の位置情報、サウステスに黒鬼とソードたちは向かっているはずだ。
本当なら、サウステスに近付きたくない。逆方向に逃げ出したかった。しかし、逃げても一度動き出した鬼にはすぐに追いつかれるだろう。
なら、ソードオブソードを使わない手はない。
Aランクの複数いる集団。統率は取れていないにしても黒鬼の足止め位にはなりそうだ。
考えながら車を走らせていた儀礼は岩場が見えた所で異変に気付いた。獅子はすでに剣に手を伸ばしている。
崖のようにそびえ立つ岩の上に複数の人影。その影が儀礼の車に気付き、慌てたように後方に何かを指示する。
次の瞬間には、巨大な岩が車の後方から飛んで来ていた。逃げ場所はない。儀礼は仕方なく、車を崖の亀裂へと前進させる。
その道の先は、少年が教えてくれた天然の岩の迷路になっていた。


「出口はいくつある?」
とりあえず目の前の道を走りながら儀礼は聞く。
「7つある。出る方向がみんな全然違うんだ。サウステスに行くなら北だけど……」
不安そうに顔を青くして少年が答える。
「もう、サウステスはいいや。あいつらどうにかしないと」
会話しながらも、追ってくる怪しい男達を儀礼は車で振り切っている。
「どこでもいいから、挟まれないように出口から出られるか?」
「この車の速度ならいけると思う。あいつら、この中さ迷ってるだけで、待ち伏せしてたって感じじゃないもんな。どっかの盗賊団かなんかが間違って迷い込んだのかも」
儀礼の問いに少年は答えるが、自信はないようだ。
「盗賊団じゃなくて、あれが『ソードオブソード』だよ」
儀礼は丁寧に教えてやる。ハンドルを右に左に回すその態度は落ち着いているようにも見える。
「ソード……っ」
少年の顔はもう真っ青だった。

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