ギレイの旅

千夜ニイ

計略の遺跡7

 大きなゆれが続き、引きずるような音でガーディアンが上がってくるのがわかる。落とし穴の下から床ごとガーディアンがせり上がってきた。
「くっ、ハンターのためなら遺跡は動くのか。卑怯な」
そう言う儀礼だが、ゼラードにはふざけているようにしか見えなかった。床のレンガを外したかと思うと腕を突っ込み、一瞬の間に何かの仕掛けを操り、ガーディアンと自分たちの間に複数の壁を落として道を分断したのだ。
遺跡を動かしているのはどっちだ、と言いたい。


「音には反応するから気をつけて」
言って、儀礼が走り出したので、ゼラードは並走する。
「さっき、レンズだけじゃなくてガーディアン本体にも攻撃できたよね。普通の剣じゃあのランクには無理だ。獅子の光の剣があればと思ったけど……。さっきみたいの、またできる?」
楽しんでいるかのような瞳で儀礼はゼラードを見る。
できるか、と問われてゼラードは戸惑う。意識してできたわけではなかった。
だが、それがゼラードの実力ではなく剣の力だというなら、やらないわけにはいかないと、そう思えた。
父の戦う姿を思い浮かべたゼラードの手元で双剣についた宝石が輝きだす。
(ああ、そうだったのか)
突如ゼラードは真実に気付いた。ゼラードの中に、その記憶が確かにあった。教わっていなかったのではない、理解していなかっただけなのだと。


 轟音をたてて儀礼の落とした壁を破壊し、ガーディアンが再び追ってきた。
「……ほんの少し時間があれば、やれる」
緊張しながらもゼラードは言う。
「どれくらい?」
「20秒、いや10秒でいい」
走りながら儀礼は考える。長い時間ではないと思うかもしれないが、今、次々とガーディアンの腕やミサイルが飛んでくる状態だと、1秒でさえ重要な時間だ。
すなわち、立ち止まれば死ぬ。
儀礼は遺跡の解明と脱出を諦めこのガーディアンだけに集中することにした。


「悪いけど、本当に10秒が限界だよ」
緊張を混ぜた声で言う儀礼。
「大丈夫なのか?」
文人のなりで、頼りない儀礼にゼラードが聞く。
「危ないから下がって。こいつの耳を奪う」
真剣な顔つきで言いながら、儀礼は小石のような物をガーディアンの周りに撒き散らす。それが、大きな音をたてて爆ぜた。
混乱したようにガーディアンは回りながら周囲を破壊しまくる。大きな破片が容赦なく周囲に飛び散る。
「わかった」
儀礼が何をしようとしているのか判らず戸惑いつつも、ゼラードは双剣を握り締めた。儀礼の稼ぐ時間でやらなければならないことがある。


 父の形見。その本来の使い方は双剣ではない。ゼラードは二つの剣を重ね合わせる。
白い刃がぴたりと合い、つばの形が両の手のひらを合わせたように見える。
双振りの剣が柄の宝石から出た光のつたによって結び付いてゆく。


 儀礼は袖口から千切れたワイヤーを引き出し丸い物体を通していた。
ゼラードの動きを確認しながら儀礼はガーディアンを囲むようにワイヤーを投げる。そのワイヤーに高電圧の電流を流した。
バチバチバチ! 
空気を裂くような音と同時に、爆ぜたはずの小石の破片が宙に浮き細かく震えだす。
キーンと一瞬耳鳴りのようなものがして、ガーディアンは動きを止め、頭から黒い煙を上げた。
「早く!」
儀礼が言う。


 ゼラードは胸の前で一本になった剣を構えた。意識を高めれば剣がその身と一つになったような錯覚を覚える。
深く集中して、起動のスイッチを入れる。そう、それが。父の唱える短い言葉が発動の合図だったのだ。
「『揺れよ』」
ゼラードが唱えれば、剣が応える。
剣の発する光が震え、空気が震え、辺りに不思議な音が響いた。高く、優しく歌声のような音楽。


 ガーディアンが再び動き始めた。しかし、今までと違い狙いのない攻撃。避けるのは難しくない。
自分一人だったら、とゼラードは考える。ガーディアンの出てきた時点で殺されていただろう。トラップにかかることなく逃げ回るのも無理だった。
すれ違いざま、瞳に映る少年は金の髪と白い衣で薄暗い通路の中に浮き上がる様に鮮やかだ。
 ゼラードは剣を縦に構え、高く跳び上がる。少年の瞳が、ゼラードに信頼を送っていた。
不思議な音が空気を支配している。それが剣からゼラードの意識へと伝わってきていた。
眼下には動く砦のような、二足歩行の岩人形。
(殺させはしない!)
ゼラードの心に応えるように剣に絡まる光が強くなる。
「くらえ!」
ゼラードは剣を振り下ろした。鋭い剣の振動が、当たる先からガーディアンの体を粉砕してゆく。
ゼラードの着地と共に、ガーディアンの体は真っ二つになり、砂のように崩れ落ちた。

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