ギレイの旅
計略の遺跡5
「出た、広間だ。扉があるな。獅子と連絡取れるといいんだけど……。獅子?! 聞こえる?!」
儀礼は扉に向かって走りながら叫ぶ。
「儀礼か? 大丈夫か?!」
すぐに心配するような獅子の返答があった。
「なんか、変なもん起動させちゃったみたいなんだ。ちょっと扉開けられないか試してみたいんだけど」
「おっけ、どうする?」
ふふふ、と、なんだか楽しそうな獅子の声。
(置いてったこと怒ってるな、これは)
怒気が来ないのはまだいいが、これは抑えているだけだろう。扉を開けた後が怖い。
「扉、外からこじ開けられない?」
きょろきょろと扉の周りを見回しながら儀礼が尋ねる。
「無理、もう試した」
獅子は即答。
「……そっか。何したかは聞かないよ」
扉と壁の間に蝶番の隙間がないか覗きながら儀礼は言う。
「おう」
聞き取りづらい分厚い扉越しの会話で、微妙なニュアンスを聞き取っている二人。
親友と言うのも間違ってはいないらしい。
「ところで、さっきお前らなんかもめてなかったか? 不穏な殺気を感じたんだが」
獅子の言葉に儀礼が一瞬動きを止める。
「いや、だから、変なの起動しちゃったからさ。それだよきっと」
慌てるように儀礼は扉に向かって言い繕う。
「なんだ? 変なのって?」
怪しんでいるような獅子の声。
「遺跡のガーディアン」
儀礼は再び扉や壁の表面を探りながら答える。もうすぐそれがこの場へ来るのだ。その前に扉を開けたい。
「そうか……」
納得いったのか、獅子の声は調子を落ち付かせる。
「おい」
しかし、そこまで黙って聞いていたゼラードが声を上げた。
(なんで、俺をかばう。お前に、かばわれたくなんてない)
儀礼の背を見たまま、拳を握るゼラードの手が震える。
「俺が……こいつを殺そうとした」
ゼラードの声に、扉の向こうから、恐ろしいほどの怒気が送られてくる。
「くっ」
黒獅子と呼ばれる者の殺気と怒気に思わず構えるゼラード。
「そいつに何かあったら俺がお前を殺す。覚えておけ」
冷徹な気配が、人を殺せるそれが、確かにそこにあった。
だが、それ以上にこたえているのが儀礼だった。体を硬直させ、冷や汗をかいている。
「獅子、それ、やめてよ。今、まじでそれどころじゃないから。ゼラードも余計なこと言わないの」
泣きそうな声でそう言う儀礼。
「儀礼。さっさと出て来い」
獅子の声が幾分か落ち着いた。
「なんで、お前がそんなかまえてんだよ」
儀礼の硬直振りに、驚いたように言うゼラード。
「僕は、その……人の怒った気配が苦手で……動けなくなるんだ」
まさしく、苦い笑いを浮かべて儀礼は言う。
「それ……」
(そんな弱点を暗殺者である自分に語っていいのか? バカか、こいつ)
ゼラードは、目の前の人間がさらに分からなくなる。
簡単に罠を避け、ガーディアンを前にしても冷静だった、少年。
見た目は少女に見えるほど華奢で、戦闘意欲もない。なのに、ゼラードを軽々と抱えて跳んだり、水から助けてくれたりと、運動能力がないわけでもなく、瞬間的な判断力はゼラードを上回る。
暗殺者に殺気を向けられても、笑っていられるほど余裕があったのに、親友と呼ぶ相手の怒気で涙が出るほどに動けなくなる。
「わかった、お前は変人だな」
その人物の背中を見たまま、ゼラードは考えるのをやめた。
「ん? ああ、獅子はちょっと変だけどね。いい奴だよ」
獅子が怒りを抑えたらしく、再び動き出す儀礼。ゼラードを振り返りにこりと笑った。
「いや。お前だ、ギレイ」
勘違いする変人にゼラードはその瞳を見てはっきりと言う。
「え? 僕?!……僕は常識人だよ?」
驚いたように見返す儀礼。しかし、その手は止まることなく扉の仕掛けを探っている。
「……いい、わかった」
(自覚ないんだな)
憐れな者を見るようにしてゼラードは会話を断ち切った。
話しをやめたゼラードは、後方のガーディアンの様子を探る。
まだ距離はあるが、音が聞こえるだけ近づいてきているようだ。
「来てるぞ」
真剣モードに入りゼラードが言う。
「うん。獅子、タイミング合わせて扉に攻撃してみよう。両側からならいけるかもしれない」
言いながら儀礼は数歩下がり扉から距離を開ける。
「おし。1、2の」
打ち合わせもなく、獅子は数え始めた。儀礼はすでに丸い筒のような物を扉に向かって構えていた。どこから出したのか、ゼラードにはわからない。
「「3」」 ドドーンッ!!
二人の声と同時に爆発音が轟く。発射の衝撃に儀礼は後ろに吹き飛んだ。それをゼラードは難なく受け止める。
「自分の攻撃くらい堪えろよ」
呆れたようにゼラードは言う。ありがとう、と儀礼は苦笑いだ。
パラパラと天井から小石のようなものが降ってくる。しかし、それでも扉にはひびすら入っていなかった。
「だめか。魔法障壁かな。しかもかなり頑丈だ」
残念なのか、考え込んでいるのかよくわからない表情で儀礼は呟く。
「ギレイ、来たぞ」
後方を確かめ、ゼラードが緊張する。
「うん。今ので無理ならやっぱ、こっから開けるのは無理そうだね。いくらか仕掛けはあるけど、多分他のガーディアン起こす可能性が高い」
何かに納得したように頷くと、儀礼は名残惜しそうに扉に触れる。
こっちの使ったら遺跡潰れるしなぁ、と儀礼が右のポケットを触りながらつぶやいたのは、ゼラードは聞かなかったことにする。
「獅子、外に変わりは?」
思いついたように儀礼が言う。中からは無理でも、外になら扉を開ける仕掛けが発動しているかもしれない。
「あー、ライオンが逃げてった」
ほぼ棒読みのように獅子が答える。
「……そっか。楽しそうだね」
悟ったような、諦めた声で儀礼は返す。
動いた、ではなく逃げてったと言うことは獅子に危険はないのだろうと、儀礼は判断した。そして、扉を開ける仕掛けをこの少年が短時間で見つけられるはずがないと言うことも儀礼は思い出した。
(なんでそれで楽しそうなんだ?)
扉越しで理解不能の会話はやめて欲しい、とゼラードは思う。
「ちょっと、搭の方まで行ってくる。扉開けるのにそこで操作が必要なんだ。少しの間、ここでガーディアンひきつけてくれる?」
ポケットを探りながら儀礼が言い出す。
「わかった、どうすりゃいい?」
獅子の声が返ってくる。
「上から爆弾投げるから、受け取って。10秒毎に1つ投げて。着地すれば爆発するから。1分稼いでくれりゃ搭につく」
明り取りの一つに目星をつけ、儀礼はそこから外に話しかけた。
「りょかい」
獅子の返事があると同時に儀礼は数個の爆弾を明かり取りから放り出す。着弾すれば爆発すると言う物を軽々しく扱う物だ。
「1、2、3……」
獅子が数え始めたのを合図に儀礼たちは走り出した。
儀礼は扉に向かって走りながら叫ぶ。
「儀礼か? 大丈夫か?!」
すぐに心配するような獅子の返答があった。
「なんか、変なもん起動させちゃったみたいなんだ。ちょっと扉開けられないか試してみたいんだけど」
「おっけ、どうする?」
ふふふ、と、なんだか楽しそうな獅子の声。
(置いてったこと怒ってるな、これは)
怒気が来ないのはまだいいが、これは抑えているだけだろう。扉を開けた後が怖い。
「扉、外からこじ開けられない?」
きょろきょろと扉の周りを見回しながら儀礼が尋ねる。
「無理、もう試した」
獅子は即答。
「……そっか。何したかは聞かないよ」
扉と壁の間に蝶番の隙間がないか覗きながら儀礼は言う。
「おう」
聞き取りづらい分厚い扉越しの会話で、微妙なニュアンスを聞き取っている二人。
親友と言うのも間違ってはいないらしい。
「ところで、さっきお前らなんかもめてなかったか? 不穏な殺気を感じたんだが」
獅子の言葉に儀礼が一瞬動きを止める。
「いや、だから、変なの起動しちゃったからさ。それだよきっと」
慌てるように儀礼は扉に向かって言い繕う。
「なんだ? 変なのって?」
怪しんでいるような獅子の声。
「遺跡のガーディアン」
儀礼は再び扉や壁の表面を探りながら答える。もうすぐそれがこの場へ来るのだ。その前に扉を開けたい。
「そうか……」
納得いったのか、獅子の声は調子を落ち付かせる。
「おい」
しかし、そこまで黙って聞いていたゼラードが声を上げた。
(なんで、俺をかばう。お前に、かばわれたくなんてない)
儀礼の背を見たまま、拳を握るゼラードの手が震える。
「俺が……こいつを殺そうとした」
ゼラードの声に、扉の向こうから、恐ろしいほどの怒気が送られてくる。
「くっ」
黒獅子と呼ばれる者の殺気と怒気に思わず構えるゼラード。
「そいつに何かあったら俺がお前を殺す。覚えておけ」
冷徹な気配が、人を殺せるそれが、確かにそこにあった。
だが、それ以上にこたえているのが儀礼だった。体を硬直させ、冷や汗をかいている。
「獅子、それ、やめてよ。今、まじでそれどころじゃないから。ゼラードも余計なこと言わないの」
泣きそうな声でそう言う儀礼。
「儀礼。さっさと出て来い」
獅子の声が幾分か落ち着いた。
「なんで、お前がそんなかまえてんだよ」
儀礼の硬直振りに、驚いたように言うゼラード。
「僕は、その……人の怒った気配が苦手で……動けなくなるんだ」
まさしく、苦い笑いを浮かべて儀礼は言う。
「それ……」
(そんな弱点を暗殺者である自分に語っていいのか? バカか、こいつ)
ゼラードは、目の前の人間がさらに分からなくなる。
簡単に罠を避け、ガーディアンを前にしても冷静だった、少年。
見た目は少女に見えるほど華奢で、戦闘意欲もない。なのに、ゼラードを軽々と抱えて跳んだり、水から助けてくれたりと、運動能力がないわけでもなく、瞬間的な判断力はゼラードを上回る。
暗殺者に殺気を向けられても、笑っていられるほど余裕があったのに、親友と呼ぶ相手の怒気で涙が出るほどに動けなくなる。
「わかった、お前は変人だな」
その人物の背中を見たまま、ゼラードは考えるのをやめた。
「ん? ああ、獅子はちょっと変だけどね。いい奴だよ」
獅子が怒りを抑えたらしく、再び動き出す儀礼。ゼラードを振り返りにこりと笑った。
「いや。お前だ、ギレイ」
勘違いする変人にゼラードはその瞳を見てはっきりと言う。
「え? 僕?!……僕は常識人だよ?」
驚いたように見返す儀礼。しかし、その手は止まることなく扉の仕掛けを探っている。
「……いい、わかった」
(自覚ないんだな)
憐れな者を見るようにしてゼラードは会話を断ち切った。
話しをやめたゼラードは、後方のガーディアンの様子を探る。
まだ距離はあるが、音が聞こえるだけ近づいてきているようだ。
「来てるぞ」
真剣モードに入りゼラードが言う。
「うん。獅子、タイミング合わせて扉に攻撃してみよう。両側からならいけるかもしれない」
言いながら儀礼は数歩下がり扉から距離を開ける。
「おし。1、2の」
打ち合わせもなく、獅子は数え始めた。儀礼はすでに丸い筒のような物を扉に向かって構えていた。どこから出したのか、ゼラードにはわからない。
「「3」」 ドドーンッ!!
二人の声と同時に爆発音が轟く。発射の衝撃に儀礼は後ろに吹き飛んだ。それをゼラードは難なく受け止める。
「自分の攻撃くらい堪えろよ」
呆れたようにゼラードは言う。ありがとう、と儀礼は苦笑いだ。
パラパラと天井から小石のようなものが降ってくる。しかし、それでも扉にはひびすら入っていなかった。
「だめか。魔法障壁かな。しかもかなり頑丈だ」
残念なのか、考え込んでいるのかよくわからない表情で儀礼は呟く。
「ギレイ、来たぞ」
後方を確かめ、ゼラードが緊張する。
「うん。今ので無理ならやっぱ、こっから開けるのは無理そうだね。いくらか仕掛けはあるけど、多分他のガーディアン起こす可能性が高い」
何かに納得したように頷くと、儀礼は名残惜しそうに扉に触れる。
こっちの使ったら遺跡潰れるしなぁ、と儀礼が右のポケットを触りながらつぶやいたのは、ゼラードは聞かなかったことにする。
「獅子、外に変わりは?」
思いついたように儀礼が言う。中からは無理でも、外になら扉を開ける仕掛けが発動しているかもしれない。
「あー、ライオンが逃げてった」
ほぼ棒読みのように獅子が答える。
「……そっか。楽しそうだね」
悟ったような、諦めた声で儀礼は返す。
動いた、ではなく逃げてったと言うことは獅子に危険はないのだろうと、儀礼は判断した。そして、扉を開ける仕掛けをこの少年が短時間で見つけられるはずがないと言うことも儀礼は思い出した。
(なんでそれで楽しそうなんだ?)
扉越しで理解不能の会話はやめて欲しい、とゼラードは思う。
「ちょっと、搭の方まで行ってくる。扉開けるのにそこで操作が必要なんだ。少しの間、ここでガーディアンひきつけてくれる?」
ポケットを探りながら儀礼が言い出す。
「わかった、どうすりゃいい?」
獅子の声が返ってくる。
「上から爆弾投げるから、受け取って。10秒毎に1つ投げて。着地すれば爆発するから。1分稼いでくれりゃ搭につく」
明り取りの一つに目星をつけ、儀礼はそこから外に話しかけた。
「りょかい」
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