ギレイの旅

千夜ニイ

暗殺計画

「シャーロットと言う少女を殺していただきたい」
薄暗い部屋の中でくぐもった声がそう告げる。
「殺しか、報酬は?」
もう一人の声は高い。女性、でなければ子供だろうか。
「聞いています。二つで」
くぐもった声の主が指を二本立てる。
「ふん、いきなり出すか。どうしても消してほしいらしいな」
高い声に、依頼主は明らかに機嫌を悪くする。
詮索はするな、と瞳に力を込める。
「いいだろう。相手の特徴は?」
「写真がある」
男がテーブルの上に写真を滑らせる。


 写っているのは、金の長髪に深い青の瞳の美しい少女。
「歳は14。身長は145cm。追われてるのはわかってるため、変装しているかもしれん」
「なるほど、わかった」
そう言って、高い声の主は立ち上がる。白い外套に包まれたその背は150cm程。やはり子供だろうか。
「居場所はわからないが、フェード国内にいるばずだ。前金に500振り込んでおく。資金にあてろ。頼んだぞ、ゼラード」
くぐもった声も立ち上がると、その部屋を後にした。
「シャーロット……ね。写真まであるなんて、余程金のある貴族か?」
ゼラードと呼ばれた白い影は、写真をズボンの後ろポケットにしまい込む。
「少女か……」
小さく呟くと、男が出たのと反対のドアから部屋を後にした。


 それから三日後、ゼラードは国境付近の街中にシャーロットの姿を見つけた。
「あれで変装したつもりか? 髪切って色眼鏡かけてるだけじゃないか」
ゼラードはばかにしたように、獲物を捉えた余裕の笑みを浮かべる。
それは狩人の表情で、決して人が人に向ける類の笑顔ではなかった。
 ギロッ
突然、強い殺気と視線を感じて、ゼラードは瞬時に木の幹に身を隠す。
(気付かれた?! まさか……)
今、シャーロットの隣りにいた少年を思い返す。
(あいつ、ただもんじゃねぇ。あれは……『黒獅子』。少し、策を練らなきゃな)
ゼラードは気配を絶ったまま音もなくその場を離れる。


「どうしたの? 獅子?」
突然おかしな方を向き、真面目な顔で殺気を放つ獅子。
儀礼はそれを隣りで不思議そうに見ている。
通りかかる人はあきらかに、遠巻きにして避けている。
「いや、なんかよくない気を感じたんだが……。消えちまった」
真剣な顔で辺りを見回した後、諦めたように獅子は言った。

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品