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ギレイの旅

千夜ニイ

武術大会2

「なんだ、俺のためか?」
 大会への準備運動をしながら、ちゃかしてやろうと笑いながら儀礼に言う。
 さっきの検査を断ったことだろうか。
「何言ってんだよ、獅子の体調べられたらいろいろっ……!」
 そこまで言って慌てて口を塞ぐ儀礼。
 ぴくりと獅子の眉が動く。
「いろいろ……なんだ?」
 恐ろしい顔をして近づいてくる獅子。
 口を押さえたまま必死に首を振る儀礼。首がもげるのでは、という勢いだ。
「何をしたんだ……?」
「僕ぁ、にゃにもしちぇない」
 目が回ったせいか舌が回っていない。


「全部、獅子が勝手に入って来て飲んだんだろぉ」
 儀礼は眼鏡を外して眉間を押さえている。
「記憶にないな」
「学習しないから研究室を立入禁止にしたんだろうが」
 たしかに、獅子はいつも研究室に入るのを儀礼に止められていた。
「あー、記憶にないな……」
 頬をかきながら、今度は獅子が視線を反らしていた。


「リョウ・シシクラさん、次出番です」
 係りの人が獅子を呼びに来た。
「おぅ」
 気合いを入れ直して獅子は会場へと向かう。
「ま、気楽に行ってきな」
 軽い応援で、儀礼は見送った。


 ワーーーッ!!!
 会場の歓声を聞きながら、儀礼はパソコンを取り出した。今の宿についての評判を探る。
 周囲に聞き込みすれば簡単だが、儀礼の容姿は目立ちすぎるのだ。
 馴染みの情報屋(穴兎)から2、3件情報を買い、儀礼は一旦パソコンから目を離す。
 穴兎の言うとおりならば、儀礼の泊まっている宿、という以上の問題がありそうだった。
「何でこう毎回面倒なことになるのかなぁ」
 こめかみの辺りに頭痛を覚え、儀礼は頭を抑える。それから開き直ったように、天井を見上げた。
「昨日は倍以上入ってたよな……。(睡眠薬)」
(僕、そのうち死ぬかも)


 食事直後に薬量を推測して中和薬を飲んだが、間に合わなければ危険きわまりない行為だ。
「外で食ってけばいいか。今のうちに手を打とう」
 再びパソコンに目を向けると、今度はこの町の情報屋と幾度かやり取りをする。金の払いを確認すると儀礼はパソコンを消した。


 会場では喧騒が弱まる。昼休みに入ったようだ。午後は準決勝と決勝だ。
「なんだ、ずっとここにいたのか? 俺の活躍見てなかったのか」
 獅子が不満そうに言う。
「勝ち進んだんだろ。決勝見れればいいよ」
 儀礼の返答は冷たい。
「応援してくれないのかよ、儀礼」
「いらないだろ? 勝つのわかってるのに」
「油断は大敵だぜ」
 獅子は真剣な顔をして儀礼を見る。
「じゃ、獅子はあの程度の奴らに負ける?」
 儀礼は悪戯っぽく笑う。
「訳無いだろ」
 にやっと笑い返す獅子。


 大会出場者は決して弱くはない。しかし、ランクAの冒険者と言っても剣術大会で会ったウォールや、アーデス達と比べてしまうと随分と実力に差がある。
 Bランクの獅子より強いと思える者がいなかった。いつの間にか、実績が足りないだけで獅子はAランクの実力を身につけていたのだ。
 獅子が冒険者ランクAに認められる日も近いだろう。


「昼食べようか」
 言うと儀礼は鞄からおにぎりを取り出した。会場へ来る途中で売っていたのでいろいろと買っておいた。
「おー、食う!!」
 野菜と肉のスープと、お茶も出し簡単なランチになる。
「今日の夕飯はどっかで食べてかない? あのこともあるし……」
「俺は別に平気なんだろ? だったら安いし手間もないしいいよ」
 気にしてる様子もない獅子に儀礼はため息をつく。
 大会出場者は宿泊費、食事代等が半値となっている。量を食べる獅子には大事なことなのだろう。
「わかった、僕は食べて帰るから遅くなるよ」
 言って、儀礼は久しぶりに薬品の入っていない料理を味わった。

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