ギレイの旅

千夜ニイ

儀礼vs盗賊

 儀礼達は敵に囲まれていた。
 盗賊のような出で立ちの男は30人あまり。
 獅子一人なら決して相手にできない数ではない。
 しかし今日は、儀礼の他に利香と巻き込まれた子供がいた。
 このドルエド人の少女は利香と共に人質にされ盗賊の逃亡に利用されていた。
 まず獅子が逃げる盗賊達に追い付き、馬車を壊した。
 中から二人を救出してる間に儀礼が追い付き、盗賊達に囲まれた。
 今まさにその状況である。


「逃がす方と倒す方に別れよう」
 ささやく声で儀礼が言う。うなずく獅子。
「僕が引き受ける、獅子は行って」
 儀礼の言葉に、驚く獅子。
「逆だろばか」
 少し苛立ったように言う。
「僕に利香ちゃんと子供担いで走れと?」
 儀礼は苦笑しながら言う。
「ちっ」
 そこに気付き苦い顔をする獅子。


 そして、すぐに利香と子供をそれぞれ腕にかかえると、助走をつけ、一気に盗賊達の頭上を飛び越えた。
 援護を忘れない儀礼。着地先にいた二人を銃で眠らせる。
 さらに、護衛機が脅すようにゴム弾を打ち散らせば、驚いた男たちが道を開ける。
 そのまま駆け出していく獅子。
 戸惑ったように利香が獅子に問い掛ける。
「了様! 儀礼君を置いてくるなんて、どうして!」
 利香の声は泣きそうだ。
「あいつは大丈夫だよ。そんなやわじゃない。自分でなんとかできるから俺に行けって言ったんだ」


 ある程度距離を取ると獅子は二人を下ろした。護衛機がゆっくりと利香の元に降り立つ。
 現在位置と、町の方向を確認する。
 ドーン!
 後方で花火のような爆発音が上がった。
「儀礼君!」
 何かあったのかと慌てて叫ぶ利香。
「大丈夫だって、儀礼に任せとけ。信用ないなぁ」
 笑っている獅子。


「ねぇ、あの人達どうなるの?」
 震えている子供が言った。余程怖かったのだろう。涙の跡が頬にはっきり残っている。
「捕まえて牢屋にいれるのさ」
 獅子が言うと、少女はなぜか少しだけ安堵した表情になる。
「私が捕まったのがいけないのに、あの人達死んじゃったらやだもん」
 少女は言った。
 それに利香ははっとして、泣きそうになるのをこらえて少女を抱きしめる。
「あなたは何にも悪くないのよ。盗賊だから追われてたの。捕まったのが悪いわけないじゃない。私だって一緒だったんだから」
 優しい、少女の心が痛い。堪え切れなかった水滴が利香の目から少女の服に吸いこまれる。
「一日位寝て、あとしばらく動けないようにした位じゃねぇかな」
 獅子は軽い口調で言った。
 言ってそこで、儀礼が自分を逃がし役にしたもう一つの意味に気付いた。
 この二人に獅子が人を切るところを見せないため、斬ったと考えさせないため。


 獅子は二人を町まで送り届けると、宿の前で当然の様に拓が馬車を用意して待っていた。
「利香。お前言うこと聞けないなら、しばらく村から出さないからな」
 珍しく拓が本気で怒っているようだ。
「だって、兄様。私にも何かできないかと思って……。英君もいるし」
 しょげているような利香。怒られることは予想していたのだろう。


 利香が獅子を追ってこの町へ来たはいいが、町の治安が悪すぎたので拓は早々に利香を確保し、宿でじっとするように言っておいた。
 拓が警備隊と盗賊討伐の打ち合わせをしている間に、人質にされた少女の悲鳴を聞き利香は護衛機を連れて飛び出した。
 利香が見た時には少女と、二人の盗賊しかいなかった。
 護衛機がその盗賊を倒し、少女と二人宿に戻ろうとしたら、大勢の盗賊に取り囲まれて馬車へ押し込まれたのだった。
 利香は護衛機に呼びかけ、それを聞いた儀礼がすぐに獅子と共に馬車を追いかけたのだった。
「利香。次は護衛機だけに行かせるか、先に俺を呼べ」
 次は、と獅子は言った。利香が嬉しそうに笑い、拓は頭を抱える。


 獅子には光の剣があって、追う者がいる。強い者が世界にいて、もっとそれを知りたい。『黒鬼』と呼ばれる父親に追いつきたい。
 獅子の行こうとするその道は盗賊の死に心を痛める少女には辛いものなのだと、今日初めて理解した。
 儀礼にはわかっていたのだろう。だからいつも早くに利香を帰そうとする。
(俺にはまだ守る力が足りない。もっと強く)
 拓と利香を見送ると、獅子は儀礼の所へ戻った。


 その時には、盗賊達はすでに町の警備隊に全員捕らえられていた。
 予想通り、全員が眠りこけている。起きた時には冷たい牢屋の中だろう。
 警備隊に事情を聞かれていたらしい儀礼が軽い様子で手を振っている。
 誰一人傷つけることなく盗賊一味を捕らえたと言うのに。すごいことをやったようには見えない。
 早く、強くならなければならない。父や、目の前の友人のように。何者にも大切な者を傷つけさせないように。
 そう決意する獅子の背中で一瞬、剣が白く輝いた。


 獅子達が離れた後、儀礼は麻酔弾を4、5発撃って手近な敵を眠らせると、銃を服の中にしまった。
 これだけの数に囲まれていると、麻酔銃では手数が足りないからだ。
 盗賊達はぐんぐん迫ってくる。
 服の中にあった打ち上げ式の花火と爆弾。さらに麻酔薬の瓶を素早く組み合わせ、即席の霧散機を作る。
 にやりと笑い、火を点け、空に放つ。
 そして、ポケットからハンカチを取り出すと、口と鼻を覆い結ぶ。
 ドーン!!
 音と共に、周囲に霧雨が降ってくる。


 盗賊達が武器を持って襲い掛かってくるにも拘わらず、儀礼は目をつぶった。必然的に足を止める。
 そして、するどい刃の先が儀礼の腕や足を掠めた。だが、それだけだった。
 ばたばたっと男達が倒れてゆく。そして、大地に男30人が転がり、儀礼一人が立っていた。
 儀礼はマスクを外す。


 遠くから、馬に乗った集団が来る。町から来たという警備隊だった。
 その警備に盗賊たちの身柄を渡して事件解決だ。
 利香たちを見送ってきたらしい獅子が戻ってきた。無事解決したので、笑顔で手を振る。
「お疲れー」
「怪我してんじゃねぇか!」
 かすり傷なのに、獅子が怒った。

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