ギレイの旅
氷の谷10
いきなり「全権をアーデスに預ける」、と宣言して遺跡を去っていった儀礼。
「また、面倒な物を人に押し付けてくれたな」
アーデスは本当に、面倒そうに壊れた機器類を修理する。
儀礼から今回の事件に関わった者皆への感謝のメッセージが届いた直後。複数の機械が壊れた。
管理局から届いたばかりの最新の機器類だ。故障するなどありえない。
明らかに、なんらかの悪意を感じるのだが、どこにも手を加えたような痕跡はみつからない。
しいて言うなら、壊れた機械のその部分にだけおかしな高熱が与えられたような。燃えない火の玉でももぐりこませたというのか。
「これでは作業がさらに長引きますね」
遺跡修復に来た研究員の一人がため息をつきながら言う。ただでさえ楽な仕事ではないのに、これでは余計に時間をとられてしまう。
「まさか……」
その言葉に何かを思いつき、アーデスは無事だったパソコンから、儀礼へとメッセージを送る。が、ネットの不調なのかエラーと返ってくる。
今までこんな異常が起こることはなかった。
どこかの研究者の一説によると、この世界のネットという環境は精霊の力に大きく影響されていると言う。
アーデスは儀礼がいるはずの管理局へとメッセージを送る。内容は、なんでもいい。
”儀礼、遺跡修復用の機械が複数壊れた。直せるか?”
すぐに短い返答があった。
”儀礼なら逃げたぞ”
「やはり。逃げられたか」
舌打ちするアーデスに、周りにいた研究員が一斉に側を離れる。管理局の人間は機嫌の悪いAランク冒険者には近付かない。
「な~に、やってんだお前は」
仮眠から起きたばかりなのか、ワルツはあくびしながら歩いてくる。
「研究員怖がらせたら仕事が進まねぇだろ。機械壊れたって?」
ワルツの登場で安心したのか、研究員達は作業を再開させる。
「やられたよ。まさかこんな効果まであるとは」
アーデスが腕を組む。
「当分俺はこの件を離れられない。あいつの護衛はしばらく頼んだぞ。行方不明者の捜索の方が長引きそうだ」
「そんなにたくさんいるのか?」
ワルツが眉間にしわを寄せるようにして尋ねる。
「どの時代にどれだけの人がいたかまったく不明だ。氷付けの状態ならばどこかにまだ残っているかもしれないが、人間の状態で売られたのならば古い時代の者はもう、生きてはいないだろうな」
話しながら、アーデスの顔に凄みが増していく。
ここにいた者達の中に若い女性がいなかった。美術品として売れるのはそういう物ということか。
「俺は、もう自然に見つかるまでほっといてもいいと思うんだが、儀礼は子供だからな。正義感など働かせるんだろう。あいつが美術商の男の商売ルートまで掴んでそうなのが気になる。あいつより先に手を回さなければ、乗り込むだろうな」
「おいおい。怪しい美術品買うような人間のとこにか?」
ああ、とアーデスは答える。
「だったらあたしらといた方が手っ取り早いじゃないか。なんだって、一人で」
アーデスが片方の口端を上げた。
「何か心当たりがあんのか?」
アーデスの肩に腕を乗せ、笑うようにワルツが言う。
「儀礼がここにいた者と言葉を交わした時に、魔力のような物が流れるのを感じた。だが、魔力とも少し違い、なんと言うのか、日の気配のする風のような物が途方にくれていたあの者達の方へ流れたんだ。その途端に、彼らが心を開いた」
考え込むようにアーデスは言った。
「魔力ならば、人心を操るものだ。だが、詠唱もなし、魔法の発動も感じなかった」
儀礼は、魔法も遺跡も知らないような環境で育ったと自分で言っていた。なら、あれはなんだ? あれが精霊の助けというものなのかもしれない。
「肉片の一つでも分析器にかけてみたいと思ったんだが、気付かれたか?」
アーデスの背後に黒い気配が漂うのを見た気がした。
「……物騒なやつめ。そりゃ、ギレイでなくても逃げるさ」
思わず手がハンマーの柄を握っていて、ワルツの笑みは引きつったものになった。
「また、面倒な物を人に押し付けてくれたな」
アーデスは本当に、面倒そうに壊れた機器類を修理する。
儀礼から今回の事件に関わった者皆への感謝のメッセージが届いた直後。複数の機械が壊れた。
管理局から届いたばかりの最新の機器類だ。故障するなどありえない。
明らかに、なんらかの悪意を感じるのだが、どこにも手を加えたような痕跡はみつからない。
しいて言うなら、壊れた機械のその部分にだけおかしな高熱が与えられたような。燃えない火の玉でももぐりこませたというのか。
「これでは作業がさらに長引きますね」
遺跡修復に来た研究員の一人がため息をつきながら言う。ただでさえ楽な仕事ではないのに、これでは余計に時間をとられてしまう。
「まさか……」
その言葉に何かを思いつき、アーデスは無事だったパソコンから、儀礼へとメッセージを送る。が、ネットの不調なのかエラーと返ってくる。
今までこんな異常が起こることはなかった。
どこかの研究者の一説によると、この世界のネットという環境は精霊の力に大きく影響されていると言う。
アーデスは儀礼がいるはずの管理局へとメッセージを送る。内容は、なんでもいい。
”儀礼、遺跡修復用の機械が複数壊れた。直せるか?”
すぐに短い返答があった。
”儀礼なら逃げたぞ”
「やはり。逃げられたか」
舌打ちするアーデスに、周りにいた研究員が一斉に側を離れる。管理局の人間は機嫌の悪いAランク冒険者には近付かない。
「な~に、やってんだお前は」
仮眠から起きたばかりなのか、ワルツはあくびしながら歩いてくる。
「研究員怖がらせたら仕事が進まねぇだろ。機械壊れたって?」
ワルツの登場で安心したのか、研究員達は作業を再開させる。
「やられたよ。まさかこんな効果まであるとは」
アーデスが腕を組む。
「当分俺はこの件を離れられない。あいつの護衛はしばらく頼んだぞ。行方不明者の捜索の方が長引きそうだ」
「そんなにたくさんいるのか?」
ワルツが眉間にしわを寄せるようにして尋ねる。
「どの時代にどれだけの人がいたかまったく不明だ。氷付けの状態ならばどこかにまだ残っているかもしれないが、人間の状態で売られたのならば古い時代の者はもう、生きてはいないだろうな」
話しながら、アーデスの顔に凄みが増していく。
ここにいた者達の中に若い女性がいなかった。美術品として売れるのはそういう物ということか。
「俺は、もう自然に見つかるまでほっといてもいいと思うんだが、儀礼は子供だからな。正義感など働かせるんだろう。あいつが美術商の男の商売ルートまで掴んでそうなのが気になる。あいつより先に手を回さなければ、乗り込むだろうな」
「おいおい。怪しい美術品買うような人間のとこにか?」
ああ、とアーデスは答える。
「だったらあたしらといた方が手っ取り早いじゃないか。なんだって、一人で」
アーデスが片方の口端を上げた。
「何か心当たりがあんのか?」
アーデスの肩に腕を乗せ、笑うようにワルツが言う。
「儀礼がここにいた者と言葉を交わした時に、魔力のような物が流れるのを感じた。だが、魔力とも少し違い、なんと言うのか、日の気配のする風のような物が途方にくれていたあの者達の方へ流れたんだ。その途端に、彼らが心を開いた」
考え込むようにアーデスは言った。
「魔力ならば、人心を操るものだ。だが、詠唱もなし、魔法の発動も感じなかった」
儀礼は、魔法も遺跡も知らないような環境で育ったと自分で言っていた。なら、あれはなんだ? あれが精霊の助けというものなのかもしれない。
「肉片の一つでも分析器にかけてみたいと思ったんだが、気付かれたか?」
アーデスの背後に黒い気配が漂うのを見た気がした。
「……物騒なやつめ。そりゃ、ギレイでなくても逃げるさ」
思わず手がハンマーの柄を握っていて、ワルツの笑みは引きつったものになった。
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