ギレイの旅
危機感
じりじりと肌が焼けるようで、儀礼の頬を汗が伝う。
窓を破って逃げるか、男の精神崩壊を覚悟して麻酔薬を使うか……。
ドーン!
大きな衝撃が部屋を揺らし、扉が室内に吹っ飛んできた。
天井からパラパラと小さな破片などが落ちてくる。
男は扉とともに飛ばされ、扉の下敷きになって伸びている。
静まった粉塵の向こうには獅子の姿。その後ろには利香がいる。
「あ、獅子。もう夜会は終わったの? 助かったよちょっとやばいとこでさ」
ははは、と儀礼は笑う。
とりあえず、命の危険を感じる金属扉の鍵を閉め、書棚を戻して扉を隠す。
そこへ、音を聞きつけた領主や見張り達が駆けつけてきた。ぎりぎりやばいところは隠せたようだ。
儀礼はほっと、息をつく。
「何事だ!?」
書庫の様を見て語気を荒くした領主は壊れた扉とその下にいる息子を見つける。
獅子はすぐに利香をかばう様に後ろに隠す。
睨み合う様に立つ獅子と領主。
「獅子は悪くないんです!」
その間に、儀礼の声が割って入った。
そう、悪いのは儀礼だ。領主の息子を利用して書庫に入り込んだのは儀礼なのだ。
「僕が、閉じ込められたんで助けてくれたんです」
隠し扉の鍵を借りるときに、書庫の鍵も一緒に盗ってしまえばよかったのだ。そうすれば、逃げ場に困ることなどなかった。
盗ると言っても後でちゃんと返すので、借りるだけだ。
「おい」
領主が見張りに問いただす。
「はい。確かに若様が案内されてました」
一人が直立で領主に答える。
「あれ、でも女の人じゃなかったか?」
もう一人が首をかしげるように不思議そうな顔をしている。
「あ……よく間違われるんです」
まさか幻覚を見せたとは言えない。涙ながらに儀礼はそう言うしかなかった。
「息子がとんでもないことをしたようで申し訳ない」
ゴフッゴフッと咳払いのような物を織り交ぜながら領主が儀礼たちに謝る。
それから兵士に命令して書庫の片付けと息子の回収をさせる。
「何やってんだ、お前は!」
獅子の側まで歩いて行くと獅子が怒鳴りながら儀礼を殴った。
「いてっ。悪い……ありがと」
顔を引きつらせつつ、儀礼は礼を言う。
「利香ちゃんも、迷惑かけちゃってごめんね」
獅子の後ろに隠れ気味の利香に謝ると、利香は赤い顔をして視線を逸らす。
「?」
儀礼が首を傾げると、獅子がそれそれ、と言うように儀礼の胸元を指差す。
「お前、自分の状況わかってねぇのか」
呆れたように獅子が言う。
見てみれば、上着もシャツも2、3個ずつボタンが失くなって肌蹴ている。
奥の部屋で投げられた時だろうか。
「ああ、やばいっ!」
慌てる儀礼。奥へ走りボタンを拾い集める。全てあったことに安堵の息を吐く。
「借り物なのに」
「そこじゃねぇ」
また獅子に殴られた。
でも、仕方ない。奥の隠し部屋の中に残されていたら冗談ではすまなくなる。
その後、泊めてもらうために領主に借りた部屋で利香が儀礼の服を直してくれると言う。
取れたボタンをつけるだけなのですぐに済むだろう。
儀礼は服を脱いで渡す。
服を受け取った利香がはっとして、心配そうに儀礼の腕に触れた。
領主の息子につかまれた腕にくっきりと手形がついている。
「ああ、見た目ほど痛くないから大丈夫だよ。色が白いから目立ってやなんだよね」
とは言うが、いつも白衣を着ているので見えることはないだろう。
利香が服を直してくれる間に、儀礼は指輪を調整しなおす。仕込む液体を麻酔薬から痺れ薬に。漏れていないか確かめる。
「よし、完了」
針の出し入れができることを確認して儀礼は言った。
「こっちも終わったよ」
利香が服を持って来て儀礼に渡す。
「ありがとう」
受け取って笑顔で返せば利香が顔を赤くして目を背ける。
「いいから、早く着ろ。利香の目を汚すな」
「汚すって……、ひどいなぁ」
獅子の言葉にぶつくさ言いながら儀礼は直してもらった服を着た。
「いつも言ってるだろ。周りが見えなくなるほど本に熱中するなって」
利香を部屋に送りがてら、儀礼は獅子に叱られていた。
「悪かったよ。幻覚はもっと早く切れるはずだったんだけどな」
儀礼の言葉に獅子はさらに苛立ちを増す。
「そんなもんにばっか頼ってないでもっと自分の力を鍛えろ! 相手が怒ってようが狂ってようが戦えるようになれ!」
やれと言ったのは獅子なのに、ひどい注文だ。
「明日から俺と組み手だぞっ」
不満が顔に漏れたのか、獅子が儀礼の顔を指差すように言った。
「えぇ~! 無茶言うなよ。レベルが違いすぎるだろっ。ねぇ」
なんとかやめさせようと利香に同意を求める。だが。
「了様、初めての弟子ですねっ」
などと、楽しそうに獅子に語る。
「ちょっ……、利香ちゃん?」
利香は、さっき服を受け取った時から、一度も儀礼のことを見ていない。
(そんな怒るほどのこと何かしたか?)
仲良さそうに話す二人の後ろで儀礼はため息をつく。
そんな儀礼に気付いた利香。思わず、さっきの儀礼の姿を思い出す。
白く磁器のような肌、女に見えるほど整った顔。
獅子や拓たちには馬鹿にされていたが、しっかりと男の子の体つきをしていた。
(機械じゃなかった……)
腕に残った痛々しいあざ。背中についてたあざには儀礼自身は気付いてないのだろう。
利香が服を直すことにならなければ、きっと誰も気付かなかった。
いつもはすぐ泣くくせに、大変な時には何ともないと笑う。
頭を振り、思考を追い出す利香。何故だか、ものすごくムカムカとしていた。
「儀礼君はもう少し危機感を持った方がいいです」
冷たい口調と言葉に儀礼は強いショックを受ける。
(女の子に危機感持てって……僕ってそんなにぶざまか?)
儀礼はそっと涙を拭った。
窓を破って逃げるか、男の精神崩壊を覚悟して麻酔薬を使うか……。
ドーン!
大きな衝撃が部屋を揺らし、扉が室内に吹っ飛んできた。
天井からパラパラと小さな破片などが落ちてくる。
男は扉とともに飛ばされ、扉の下敷きになって伸びている。
静まった粉塵の向こうには獅子の姿。その後ろには利香がいる。
「あ、獅子。もう夜会は終わったの? 助かったよちょっとやばいとこでさ」
ははは、と儀礼は笑う。
とりあえず、命の危険を感じる金属扉の鍵を閉め、書棚を戻して扉を隠す。
そこへ、音を聞きつけた領主や見張り達が駆けつけてきた。ぎりぎりやばいところは隠せたようだ。
儀礼はほっと、息をつく。
「何事だ!?」
書庫の様を見て語気を荒くした領主は壊れた扉とその下にいる息子を見つける。
獅子はすぐに利香をかばう様に後ろに隠す。
睨み合う様に立つ獅子と領主。
「獅子は悪くないんです!」
その間に、儀礼の声が割って入った。
そう、悪いのは儀礼だ。領主の息子を利用して書庫に入り込んだのは儀礼なのだ。
「僕が、閉じ込められたんで助けてくれたんです」
隠し扉の鍵を借りるときに、書庫の鍵も一緒に盗ってしまえばよかったのだ。そうすれば、逃げ場に困ることなどなかった。
盗ると言っても後でちゃんと返すので、借りるだけだ。
「おい」
領主が見張りに問いただす。
「はい。確かに若様が案内されてました」
一人が直立で領主に答える。
「あれ、でも女の人じゃなかったか?」
もう一人が首をかしげるように不思議そうな顔をしている。
「あ……よく間違われるんです」
まさか幻覚を見せたとは言えない。涙ながらに儀礼はそう言うしかなかった。
「息子がとんでもないことをしたようで申し訳ない」
ゴフッゴフッと咳払いのような物を織り交ぜながら領主が儀礼たちに謝る。
それから兵士に命令して書庫の片付けと息子の回収をさせる。
「何やってんだ、お前は!」
獅子の側まで歩いて行くと獅子が怒鳴りながら儀礼を殴った。
「いてっ。悪い……ありがと」
顔を引きつらせつつ、儀礼は礼を言う。
「利香ちゃんも、迷惑かけちゃってごめんね」
獅子の後ろに隠れ気味の利香に謝ると、利香は赤い顔をして視線を逸らす。
「?」
儀礼が首を傾げると、獅子がそれそれ、と言うように儀礼の胸元を指差す。
「お前、自分の状況わかってねぇのか」
呆れたように獅子が言う。
見てみれば、上着もシャツも2、3個ずつボタンが失くなって肌蹴ている。
奥の部屋で投げられた時だろうか。
「ああ、やばいっ!」
慌てる儀礼。奥へ走りボタンを拾い集める。全てあったことに安堵の息を吐く。
「借り物なのに」
「そこじゃねぇ」
また獅子に殴られた。
でも、仕方ない。奥の隠し部屋の中に残されていたら冗談ではすまなくなる。
その後、泊めてもらうために領主に借りた部屋で利香が儀礼の服を直してくれると言う。
取れたボタンをつけるだけなのですぐに済むだろう。
儀礼は服を脱いで渡す。
服を受け取った利香がはっとして、心配そうに儀礼の腕に触れた。
領主の息子につかまれた腕にくっきりと手形がついている。
「ああ、見た目ほど痛くないから大丈夫だよ。色が白いから目立ってやなんだよね」
とは言うが、いつも白衣を着ているので見えることはないだろう。
利香が服を直してくれる間に、儀礼は指輪を調整しなおす。仕込む液体を麻酔薬から痺れ薬に。漏れていないか確かめる。
「よし、完了」
針の出し入れができることを確認して儀礼は言った。
「こっちも終わったよ」
利香が服を持って来て儀礼に渡す。
「ありがとう」
受け取って笑顔で返せば利香が顔を赤くして目を背ける。
「いいから、早く着ろ。利香の目を汚すな」
「汚すって……、ひどいなぁ」
獅子の言葉にぶつくさ言いながら儀礼は直してもらった服を着た。
「いつも言ってるだろ。周りが見えなくなるほど本に熱中するなって」
利香を部屋に送りがてら、儀礼は獅子に叱られていた。
「悪かったよ。幻覚はもっと早く切れるはずだったんだけどな」
儀礼の言葉に獅子はさらに苛立ちを増す。
「そんなもんにばっか頼ってないでもっと自分の力を鍛えろ! 相手が怒ってようが狂ってようが戦えるようになれ!」
やれと言ったのは獅子なのに、ひどい注文だ。
「明日から俺と組み手だぞっ」
不満が顔に漏れたのか、獅子が儀礼の顔を指差すように言った。
「えぇ~! 無茶言うなよ。レベルが違いすぎるだろっ。ねぇ」
なんとかやめさせようと利香に同意を求める。だが。
「了様、初めての弟子ですねっ」
などと、楽しそうに獅子に語る。
「ちょっ……、利香ちゃん?」
利香は、さっき服を受け取った時から、一度も儀礼のことを見ていない。
(そんな怒るほどのこと何かしたか?)
仲良さそうに話す二人の後ろで儀礼はため息をつく。
そんな儀礼に気付いた利香。思わず、さっきの儀礼の姿を思い出す。
白く磁器のような肌、女に見えるほど整った顔。
獅子や拓たちには馬鹿にされていたが、しっかりと男の子の体つきをしていた。
(機械じゃなかった……)
腕に残った痛々しいあざ。背中についてたあざには儀礼自身は気付いてないのだろう。
利香が服を直すことにならなければ、きっと誰も気付かなかった。
いつもはすぐ泣くくせに、大変な時には何ともないと笑う。
頭を振り、思考を追い出す利香。何故だか、ものすごくムカムカとしていた。
「儀礼君はもう少し危機感を持った方がいいです」
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