ギレイの旅
Cランクの仕事4
ヤンは解毒の魔法を詠唱する。
ヤンの杖に薄く青い光が集まってきて、儀礼へと降り注ぐ。
体に染み渡っていく心地よい冷たさに儀礼は目をつぶる。全身が冷たいのに、不思議と寒くはなかった。
すぐに体が軽くなった様に感じ、毒が消えたことがわかった。
「ありがとうございます。ヤンさん」
儀礼は嬉しそうに、にっこりと笑う。
「いえっ、あの、その。どういたしましたっ」
顔を真っ赤にしてヤンが答える。
「いたしました、って……」
くすくすと儀礼は笑った。
「不思議な人ですね」
「ギ、ギレイさんほどではありません」
ほめているつもりなのか、大きくうなずいているヤン。
「お前ら。いい加減、理解不能な会話はやめろ」
会話が繋がっていないことに気付いたようで獅子が呆れたように言う。
「僕は真面目に話してるんだよ」
「私も、いつも真面目です」
両手で木の杖を握り締め、眉間にしわを寄せるヤン。
『様』と呼ぶのを封じられ、妥協したヤンは『ギレイさん』と呼ぶことで落ち着いた。
先ほどからの会話も全てヤンさんワールドだと獅子が思ってくれたらいい、なんて儀礼は願う。
「で、だ。どうすんだ儀礼?」
荷物をまとめ終え、獅子が聞く。
「せっかくだから遺跡に行きたかったんだけどね。まぁ、もういいや。今回は縁がなかったと諦めるよ」
行きたいと即決した割には諦めが早い。
「いいのか?」
「だって、トラップとかないんだもん。マップも完全攻略してるし。魔獣が少し出るくらいで、破損箇所探すだけなら面倒で時間かかる作業だけど、誰にでもできるよ。歴史も浅いから比較的多く残ってる時代のだしね」
一つずつ数えるように儀礼が言えば、ヤンも肯く。
「そうですよね。私の生まれたフェードにはAランクの遺跡が多くありますよ。まだ人の入ったことのない遺跡まで。観光用になる遺跡では面白みが足りないですね」
「だよね」
にこにこと二人は笑い合う。
「でもさ、遺跡に入った冒険者にはきっと少し物足りないと思わない?」
にこにこと儀礼は続ける。
「冒険者さん、ですか??」
首をかしげるヤン。
「さん、はつけなくてもいいよ。六人の冒険者達」
にっこりと儀礼は笑う。
「おお、面白そうな話だな。俺も混ぜてもらおうか、その話」
獅子がにやりと笑う。
「まぁ、六人の冒険者達なんて、なんだかかっこいい響きですね」
ヤンがおっとりと笑う。
「うん。ねぇ、ヤンさん離れた人に声を届ける魔法って使える?」
儀礼がいたずらな笑みを浮かべて言い、三人は顔を寄せ合った。
一方、何も知らない遺跡の中では。
広い遺跡の中を隈なく探し回り、全ての魔獣を追い回して退治し、壊れた部分を地図に書き記した六人のパーティ。
一日がかりの作業にさすがに疲れ果てていた。
この作業のために人を増やす予定だったのに、来たのは足手まといの子供が二人だけ。
それで報酬をわけなきゃならないなんて、冗談ではない。
報酬はランク順なので、あの黒髪の少年にBランク分も、分けなくてはならなくなる。
Cランクの依頼など、自分達六人いれば十分可能な作業なのだ。
男達は、今日は屋根のある遺跡の中で休み、翌朝町に帰ることにした。
眠ってる六人のもとへ薄く白い霧が立ち込めている。
魔獣を倒しきったことに油断してか、見張りは立てていない。
その時、遺跡の入り口から大量の魔獣が押し寄せてきた。
ガバリと悪夢から覚めるように飛び起きる冒険者達。
それぞれの武器を持ち、魔獣たちと戦う。だが倒しても倒してもきりがない。それもだんだんと強くなっていく。
押されるように遺跡の中を逃げるパーティ。六人の冒険者達。
そんな彼らの前に、こんな場所にいるはずもない強大な魔物が現れた。
暗い闇の中から黒い体を炎のようにゆらゆらと揺らして邪悪な声で囃し立てる。
『逃げろぉ、逃げろぉ……』と。
出入り口からは次々と魔獣が駆け込み、逃げる先には不気味な黒い魔物が追いかけてくる。
体勢をたて直したい冒険者達は、Cランクの二人が魔獣へと対応し、Bランクの四人で黒い魔物と戦うことにした。
ところが、戦い始めてすぐに、Bランクの者が倒されてゆく。
黒い魔物は想像以上に強いようだった。
「退くぞ!」
自分以外のBランク三人が倒されて、リーダーの男がCランクの二人に言う。
「でも、どこへ? 出口は魔獣に塞がれている。それに、あいつらを置いていくのか? 死んでしまうぞ」
「だが、このままでは俺達までやられる。全滅だぞ」
『逃げろぉ……階段の柱のさらに上まで……逃げろぉ』
黒い魔物が不気味な声でそう囁く。
その声はまるで耳元で聞こえているようで……男達は身震いする。
「あ、あそこ。階段の上、天井に亀裂があるわ!」
ケイリーが言う。
さっきあれほど遺跡内を調べたのに、そのときには気付かなかった。
これではまだ見落としがあるかもしれない。いや、だがその前に、これだけ多くの魔獣が出るのではCランクの遺跡ではなくなる。
観光などとてもできない。今回の依頼は見直しになるだろう。
それよりも何よりも、今は生きてここを逃げ出さなくては。
ヤンの杖に薄く青い光が集まってきて、儀礼へと降り注ぐ。
体に染み渡っていく心地よい冷たさに儀礼は目をつぶる。全身が冷たいのに、不思議と寒くはなかった。
すぐに体が軽くなった様に感じ、毒が消えたことがわかった。
「ありがとうございます。ヤンさん」
儀礼は嬉しそうに、にっこりと笑う。
「いえっ、あの、その。どういたしましたっ」
顔を真っ赤にしてヤンが答える。
「いたしました、って……」
くすくすと儀礼は笑った。
「不思議な人ですね」
「ギ、ギレイさんほどではありません」
ほめているつもりなのか、大きくうなずいているヤン。
「お前ら。いい加減、理解不能な会話はやめろ」
会話が繋がっていないことに気付いたようで獅子が呆れたように言う。
「僕は真面目に話してるんだよ」
「私も、いつも真面目です」
両手で木の杖を握り締め、眉間にしわを寄せるヤン。
『様』と呼ぶのを封じられ、妥協したヤンは『ギレイさん』と呼ぶことで落ち着いた。
先ほどからの会話も全てヤンさんワールドだと獅子が思ってくれたらいい、なんて儀礼は願う。
「で、だ。どうすんだ儀礼?」
荷物をまとめ終え、獅子が聞く。
「せっかくだから遺跡に行きたかったんだけどね。まぁ、もういいや。今回は縁がなかったと諦めるよ」
行きたいと即決した割には諦めが早い。
「いいのか?」
「だって、トラップとかないんだもん。マップも完全攻略してるし。魔獣が少し出るくらいで、破損箇所探すだけなら面倒で時間かかる作業だけど、誰にでもできるよ。歴史も浅いから比較的多く残ってる時代のだしね」
一つずつ数えるように儀礼が言えば、ヤンも肯く。
「そうですよね。私の生まれたフェードにはAランクの遺跡が多くありますよ。まだ人の入ったことのない遺跡まで。観光用になる遺跡では面白みが足りないですね」
「だよね」
にこにこと二人は笑い合う。
「でもさ、遺跡に入った冒険者にはきっと少し物足りないと思わない?」
にこにこと儀礼は続ける。
「冒険者さん、ですか??」
首をかしげるヤン。
「さん、はつけなくてもいいよ。六人の冒険者達」
にっこりと儀礼は笑う。
「おお、面白そうな話だな。俺も混ぜてもらおうか、その話」
獅子がにやりと笑う。
「まぁ、六人の冒険者達なんて、なんだかかっこいい響きですね」
ヤンがおっとりと笑う。
「うん。ねぇ、ヤンさん離れた人に声を届ける魔法って使える?」
儀礼がいたずらな笑みを浮かべて言い、三人は顔を寄せ合った。
一方、何も知らない遺跡の中では。
広い遺跡の中を隈なく探し回り、全ての魔獣を追い回して退治し、壊れた部分を地図に書き記した六人のパーティ。
一日がかりの作業にさすがに疲れ果てていた。
この作業のために人を増やす予定だったのに、来たのは足手まといの子供が二人だけ。
それで報酬をわけなきゃならないなんて、冗談ではない。
報酬はランク順なので、あの黒髪の少年にBランク分も、分けなくてはならなくなる。
Cランクの依頼など、自分達六人いれば十分可能な作業なのだ。
男達は、今日は屋根のある遺跡の中で休み、翌朝町に帰ることにした。
眠ってる六人のもとへ薄く白い霧が立ち込めている。
魔獣を倒しきったことに油断してか、見張りは立てていない。
その時、遺跡の入り口から大量の魔獣が押し寄せてきた。
ガバリと悪夢から覚めるように飛び起きる冒険者達。
それぞれの武器を持ち、魔獣たちと戦う。だが倒しても倒してもきりがない。それもだんだんと強くなっていく。
押されるように遺跡の中を逃げるパーティ。六人の冒険者達。
そんな彼らの前に、こんな場所にいるはずもない強大な魔物が現れた。
暗い闇の中から黒い体を炎のようにゆらゆらと揺らして邪悪な声で囃し立てる。
『逃げろぉ、逃げろぉ……』と。
出入り口からは次々と魔獣が駆け込み、逃げる先には不気味な黒い魔物が追いかけてくる。
体勢をたて直したい冒険者達は、Cランクの二人が魔獣へと対応し、Bランクの四人で黒い魔物と戦うことにした。
ところが、戦い始めてすぐに、Bランクの者が倒されてゆく。
黒い魔物は想像以上に強いようだった。
「退くぞ!」
自分以外のBランク三人が倒されて、リーダーの男がCランクの二人に言う。
「でも、どこへ? 出口は魔獣に塞がれている。それに、あいつらを置いていくのか? 死んでしまうぞ」
「だが、このままでは俺達までやられる。全滅だぞ」
『逃げろぉ……階段の柱のさらに上まで……逃げろぉ』
黒い魔物が不気味な声でそう囁く。
その声はまるで耳元で聞こえているようで……男達は身震いする。
「あ、あそこ。階段の上、天井に亀裂があるわ!」
ケイリーが言う。
さっきあれほど遺跡内を調べたのに、そのときには気付かなかった。
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