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ギレイの旅

千夜ニイ

Cランクの仕事2

 強い雨の降り続く、深い森の中。
 辺りは日も暮れ、色濃い緑に飲まれつつある。
 ザザザザ……ッ
 周り中に響く音を聞きながら、獅子は思っていた。
(切られた……)
 頭の悪い自分でもわかる。
 歩きの遅い儀礼を理由に、トカゲの尻尾を切るように奴らは先に進んで行った。


 少し前から体調を崩した儀礼を背負い、獅子は唇を噛む。
 地図を渡してもらえなかった獅子には遺跡の場所がわからない。
 儀礼の頭の中には入っているはずだが、意識がはっきりしない。
 自分にもっと実力があったなら。あいつらに馬鹿にされず、立ち向かえるほどの頭脳があったなら。
 悔やんでも仕方がない。
 雨夜の森を道もわからずに迷走するのが得策でないことは獅子にもわかる。
 どこか、雨を避けられる場所がないか、辺りを見回していると、首の横で、儀礼の腕が持ち上がる。
 ある一方を指差し、すぐに力が抜けるように獅子の肩へと落ちてくる。


 儀礼の様子を気にしながらも、獅子は示された方向を凝視する。
 雨で悪い視界のギリギリの辺りに、崖らしきものがそそり立っている。
 その所々に白っぽい色が見えるのは岩だろうか。
 今の状態の儀礼にその崖が見えるとは思えない。地図の記憶を頼りに教えてくれたのだろう。
 そこに休める場所があるという根拠は何もないのに、獅子は迷わずその崖を目指す。
 やがて見えた崖の根元には、岩盤に亀裂の入ったような細い洞くつがあった。
 獅子は洞窟の中が湿ってないことや、魔獣がいないことを確かめると儀礼を降ろした。


「儀礼?」
 焚き火に映し出される友人の顔は、力がない。
 顔色はそれほど悪いわけではないが、意識があまりはっきりとしていないようだった。
「寒い……」
 弱々しい声がポツリと囁かれた。
 無理もないだろう。散々雨に濡れた上に、体は動かないのだから。
 獅子は荷物の中から儀礼手製の固形燃料を出すと火の中に投げ入れた。
 炎は大きく燃え上がる。
 ついで二人分の毛布を出す。
 濡れた服を脱がせると二枚の毛布を儀礼にかけた。


「……いつやられた」
 食料を火にかけ、低い声で獅子が言った。
「いや。ここ出ないから、中和剤持ってくるの忘れただけ」
 獅子の怒りのオーラがさらに増し、儀礼は身を縮める。
「……事故だよ」
「まだ言うか」
 獅子の怒りに儀礼はごまかすのを諦める。
「矢筒の矢にぶつかっただけ」
 そうは言うが、矢じりを出して矢筒に入れる者はない。毒が塗ってあるなら尚更。
 この辺りに毒をもつ生き物も魔獣もいないため解毒薬は白衣の中に置いてきていた。
「あの女か……」
 はぁ、と息を吐くと獅子は焼けた肉とパンを口に入れ、野菜を入れたスープで流し込む。
「食えるか?」
 儀礼に聞くが、
「寝る」
 と言うので、とりあえず残った儀礼の分も食べることにした。
 獅子はゆれる炎を見つめながら、どう仕返しするか考えつつ浅い眠りに眠りに就くことにした。

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