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ギレイの旅

千夜ニイ

Cランクの仕事1

 仕事を請けるために儀礼と獅子はギルドへとやってきた。
 移動を繰り返している二人はあまり本格的なクエストには参加していなかった。
「ちょっと難しいのやってみたいよな」
 獅子が言う。
「そうだね。パーティでだとCランクの依頼まで受けられるんだよね。探してみる?」
 儀礼が言い、ギルドの受付に尋ねる。
「今日出発するなら、Cランク遺跡の探索依頼があるぞ。一般に開放するための下準備をして欲しいようだ。一つのパーティーがもう予約しているが、広い遺跡だからな。人数は増えてもいいと言っていた。二、三日かかるようだが、準備は大丈夫か?」
 受付のお姉さんが言う。
「はい。行きます」
 迷わず儀礼が答えた。
「お前、俺にも聞けよ」
 呆れて獅子が言う。儀礼は『遺跡』の言葉に無条件で反応したようだ。


「登録は完了したよ。遺跡には十時に出発するらしい。周辺にはDランクの魔獣が出ると言われている。武器の用意はいいかい? 気をつけるんだぞ」
 受付のお姉さんが明るく言い、儀礼に依頼書を渡した。
「一時間あるね。遺跡について調べておくよ。獅子は泊まりの準備しておいてくれる」
「よし、わかった」


 二人はそれぞれに準備を進め、三十分後ギルドに戻った。
「もういいのか、調べものは」
「うん。もともと知ってる遺跡だったから。場所も地図もばっちり」
 覚えた、と言うように儀礼は自分の頭を指差す。
「相変わらず異常な記憶力だな。そうか、そっちはまかせた。俺は魔獣に気をつけてりゃいいか」
「うん。仕掛けとかはない遺跡だから、壊れた箇所がないか見て、中と周りの魔獣退治して終わりだよ」


「おい、どういうことだよ。聞いてないぞ、あんな子供連れてけって言うのかよ」
 受付で大柄な男が何か怒鳴っている。指で示しているのは間違いなく儀礼たち。
「パーティランクはCだ。C以上なら誰でもいいと言ってただろう」
 問題ないとういう態度の受付に話にならない、と男は直接儀礼たちのもとへ来た。
「おい、お前ら。俺らは遊びに行くんじゃないんだぞ。子供のお守りもごめんだ。行くのは魔獣の出る遺跡だぞ、わかってんならすぐに依頼書を取り消せ!」
 儀礼が固まる。
 そんな儀礼に苦笑し、獅子が代わって前に進み出る。
「俺らも本気でやってんだよ。ランク上げるために仕事請けなきゃいけねぇみたいだしな。俺はちゃんとBランクだ。もんくないだろ。こいつも管理局ランクは――」
 言いかけたところで儀礼が獅子の服を引く。言うな、ということらしい。
 獅子はまた苦笑する。
「お前がBランクで、パーティランクがCなら、そいつのランクは何だ? Eか?」
 嘲るように男が言う。この男が、遺跡へ行くパーティのリーダーなのだろう。
 初心者がE、一般の大人でDランク相当。冒険者を名乗るには最低でもCランクが必要だ。
「今はDだよ」
 獅子が答える。二人で仕事を請けるうちに、儀礼のランクもEからDに上がっていた。


「俺達は四人Bだぞ。残りの二人もCなんだよ。足手まといだな。仕方ない、荷物を持つなら連れてってやる」
「おいっ、俺らだってちゃんと依頼を受けたんだぞっ」
「いいよ、獅子。僕、白衣置いてくから」
 殴りかからんばかりに拳を握る獅子を儀礼が止める。
「お前、それ武器置いてく様なもんじゃ……」
 獅子が呆れているが、儀礼はホルスターに銃と弾を入れ、服のポケットにいくつかの薬品を移すと白衣を受付に預けた。
 白衣を受け取った瞬間、受付のお姉さんの顔が青ざめた。
「ほっそいなぁ。お前、そんなんでついてこれるのか?」
 男の言葉に儀礼は出発前からダメージを受けた。


「お前らの荷物、それだけか? 本気で知らないんだろう、冒険者の仕事を。ったく、足りない分は貸してやるが、その分報酬から引くからな」
 男が言って、ギルドを出るよう二人に促す。
 儀礼と獅子の持ち物はそれぞれ片手で持てる袋だけ。バンドで止めれば背中に装着でき、両手が空く。


 ギルドの外に他のメンバーが待機していた。女が二人、男が三人。
「これがお前が持つ分だ。食料と道具が入ってる。落としたりするなよ」
 リーダーが儀礼に大きなリュックサックを渡す。儀礼はそれを重そうにもせず担いだ。
「何、その子達が一緒に行くの?!」
 一人の女が驚いたように言う。
「ああ、こっちの黒髪はBランクだ。ケイリー、そっちの細いのはDランクだと言うから面倒見てやれ」
 男が言えば、
「何で私が。面倒くさい」
 ケイリー、と呼ばれた女性は嫌そうな顔で自分の指に髪を巻いている。青に近い毛色は染めているもの。
「儀礼です。すみません。ご迷惑にならないよう気をつけるので、お願いします」
 儀礼はケイリーの前に立つ。背の高さは同じ位。目線が合うと儀礼はにっこりと笑った。
「……ちゃんと私に、付いて来るのよ」
 そう言うとケイリーは儀礼の腕に自分の腕を絡めて歩き出した。


 遺跡に向かう道は歩きにくい森の中だった。
 時々Dランクに認定されている肉食の動物のような魔獣が襲ってくる。
 空を飛ぶものだったり、地面の中から来たり、数種類の魔獣がいつどこからくるのかわからない状況だった。
 獅子を含む四人のランクB剣士と、Bランクの弓使い。
 Cランクのケイリーも弓使いで、もう一人のCランクは投げナイフを使う。
 後方支援のケイリーの側で、儀礼は戦闘には参加せずにただ見ていた。
「お前は、本当に何もしないのか。足手まとい以下だな」
 リーダーの男が言う。彼らの苛立ちが儀礼の肌を焼く。
 儀礼が手を出す必要はない、それが獅子と儀礼の現状での認識だった。
 その認識の違いが、二つのパーティに亀裂を作る。


「川伝いに行った方が楽に歩けます」
 儀礼の申告など聞きもせず、怒りばかりを向けてくる。
 儀礼の体は硬直し、しだいにまともに動けなくなった。仕方なく、獅子は儀礼に手を貸す。
 すると、お荷物がなくなったとばかりにケイリーは儀礼から離れ、自分のパーティに合流する。
 離れ際、ケイリーの背負う矢筒が儀礼の頬を掠めた。


 道はさらに険しくなった。倒れた木や、岩が道を塞ぐ。
 邪魔なつたを切りながら進み、速度はかなり遅くなっていた。
 時間が経つに連れ、空模様まで怪しくなってきた。
「おい、ペース上げるぞ」
 リーダーが言い、儀礼を見て舌打ちをする。
「お前、荷物よこせ。そのペースじゃ間に合わなくなる。降ってくる前に遺跡に着きたいからな」
 儀礼の背負う荷物を乱暴に引っ張ると、男は自分の持っていた荷物を別の男に渡し、そのリュックサックを背負う。
 元々の荷物の分担がそれだったのか、特に問題もなく進んでいく。
 儀礼と獅子を引き離して。


「お前ら、帰りに拾ってやるからその辺で待ってろ」
 ついに、声の聞こえるぎりぎりの範囲になり、リーダーが言った。
「くそっ」
 獅子が苛立ちの声を上げる。腕を貸すのが面倒になり、儀礼を背負った。
「ごめん」
 儀礼が言う。
「うるせぇ」
 獅子の怒りに、儀礼はさらに身を硬くするのだった。

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