ギレイの旅

千夜ニイ

悪者捕縛

 儀礼は捕まっていた三人を連れ屋敷の一階部分へ上がる。
 宿へ戻るより、こちらから出ろとアーデスに言われていた。
 警戒しながら上がった儀礼だったが、そこはすでに殲滅した跡が……。
 部屋は破壊され、男も女も倒れている。しかし、死んでいるようには見えない。
 あっけにとられる儀礼。何が起こったというのか。


 突然、儀礼を含めた四人を後ろから軽々と抱え上げる大男。
「おい、コルロ。保護したぞ」
 大男は細身の男を振り返って言った。保護、と言うことはギルドから来た冒険者だろうか?
「ちょっと待て、僕は違うっ」
 暴れるように儀礼は言った。
「その背の高いのは違うんじゃないのか? バクラム」
 ケラケラと笑いながら細身の男、コルロが言った。両腕に付いた数種の腕輪から見れば魔法使いだろう。
「んん? すまんな、外国人の顔は見分けがつかなくてなぁ」
 儀礼の顔を覗き込み、ゆっくりと床におろす。
「勇ましいお嬢さんだな」
 笑うようにコルロに言われ、儀礼は睨みながら女物の服を脱ぐ。
 細身の体に、ホルダーでいろいろな物が括りつけられている。
 まるで歩く武器庫だ。城一つ落とせそうなそれを見てコルロは若干頬をひきつらせる。
 白衣をしてない姿を始めて見せた利香はなんだか意外そうな顔をしている。


「俺達はギルドから依頼されてきたんだ。Aランクのパーティだよ。ここの領主の罪状が揃ったんでな」
 当の、その領主がいないのが気になる。
「ああ、領主は上で伸びてるぜ。お譲ちゃんたちと会わせない方がいいだろ?」
 バクラムが言った。その背中にはワルツが持っているのと似たような大型のハンマー。
 その領主、本当に伸びているだけだろうか……。
 シエンの領主の娘で顔を知られている可能性のある利香は確かに会わせない方がいい。
「よろしくな、王子さん」
 向かい合うように儀礼の前に立ち、コルロが手を上げた。
 王子(Sランク)と揶揄され、儀礼は彼らがアーデスの仲間だと確信した。


 その時、地下通路から数人の男が入ってきた。
 慌てていた様子を見ればおそらく宿の方から逃げてきたのだろう。
 向こうでも作戦が実行されているようだ。
 敵に構える儀礼を押し下げるように、コルロが前へ出る。
「~~ ~~!」
 同時に何かを唱えた。瞬時に金色の網のような物が現れ、男達へと飛ぶ。
 それに当たると、男達は感電したように倒れる。
 一瞬の攻撃。儀礼が何かをするよりずっと速かった。
「すごい! 魔法使いみたいだ!」
 瞳を輝かせて感激する儀礼。
「魔法使い、ですけど?」
 呆れたように笑うコルロだった。


 後処理を全てコルロ達と自警団に任せ宿に戻る利香と儀礼。
 宿の方へはアーデスとワルツが来たらしい。
 受付にもその他にも見知った従業員がいなくなっている。なのに、宿は普通に営業されていた。
 詳しくはわからないが、目撃者の話では何か恐ろしいことが起こったらしい。
 恐ろしい、言えないと、話したがる者がいなかった。アーデスたちは一体何をしたのだろう。
 見たところ、宿には血の跡も、破壊の跡も残されてはいない。


「やっと了様に会えます」
 嬉しそうに言う利香。
 そう、この状況で、彼らはどこにいったのか。おとなしくしている訳がないのに。
 儀礼は部屋の扉を開ける。
 そして、閉めた。
「利香ちゃん、先に何か食べに行かないかな。僕、ちょっと部屋にいたら死ぬから」
 だんだんと泣き出しそうになる儀礼。
 首をかしげて利香は儀礼の閉めた扉を開ける。
 二つのベッドの上にそれぞれ大きな布団の塊が、打ち上げられた魚のようにバシバシと暴れている。
 中からは「むぐ~」「むぅ~ぅ」という、言葉のような呻きのような声。
 二人からは恐ろしいほどの怒気が漂ってくる。
「儀礼君がやったの?」
 びっくりした顔で儀礼を見る利香。
 涙を溜める儀礼に、一緒に謝ってあげるから、と慰める利香だった。


 ”拓ちゃんと獅子に殴られた”
 メソメソと儀礼は手袋のキーを叩く。
 ”そりゃお前、簀巻きにしておいてったら……”
 何でだろう、穴兎が笑ってる気がするのは。
 ”だって穴兎アナザーが、今ここでシエンの名を出すなって言うから”
 ”まぁ、時期が悪かったって話しだよな。シエンを警戒する集団がそこの領主の下で組織作ろうとしてたなんてな”
 ”なんでよりによって……”
 もともとここは大昔の戦争の時に王を裏切った領主の土地、と言われ続け、領主が別の血筋になってもなかなか他の地域に受け入れられなかった。
 なのに、シエンは小さな村で、人種まで違うのに英雄扱いだ。それはこの土地の者にとっては面白くない事実。


 しかも、最近では儀礼がSランクなどというものになってまたシエンの名が出るようになったのだ。
 そんな時に明らかにシエン人の拓と獅子が暴れたりなどしたら……。
(ああ、暴れるだろう。それはもう容赦なく。利香を傷つける連中に加減などするわけもなく。でかでかと紙面を騒がせる程に)
 下手をしたらこの誘拐騒ぎすらシエンの名を売るためのやらせと言われ、罪を着せられてしまう。
 ”お前ら、ほんとになんか呪われてるんじゃないのか?”
 ”ああ……早いうちに呪いのアイテムを解呪してもらわなきゃ”
 ”持ってんのかよ!”
 やっぱり兎が笑っている気がする儀礼だった。

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品