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ギレイの旅

千夜ニイ

利香捕まる

 いつものように獅子を追いかけ、遠い町に着いた利香。しかし、いつもと違って、獅子のもとにたどり着くことができなかった。
 利香を追ってきたはずの拓が獅子と儀礼に接触する。
「おい、利香来てないのか? さっきまでいたんだが、宿に入ったとこで見失った」
 少し青ざめている拓。
 大きな町の大きめな宿なので安心していたのだが、何かよくないことが起こっているようだ。


 少し聞き込んでみると、消えたのは利香と、金髪の少女が二人。どちらも子供だけで宿に入ったようだ。どちらも外国人や旅行者で、すぐに探す者がいないということ。
 利香はたまたま拓が後をつけていたのですぐに気付けたことになる。
 光の剣関係でなかったことにまずは安堵する。狙われたのが利香に絞られていない。


 儀礼は考える。
 管理局に入り、アーデスたちと連絡を取った。すぐに彼らの手伝いで、この町の領主が関わっているという情報を得た。
 旅行中の少女を誘拐して売り払ってしまうのだそうだ。周りに頼るべきものがいないので、探すのが後手に回り、今まで、うまく逃げのびていたのだ。
 お金に困っての犯行らしく、証拠などが多く残っており、もうその領主はただではすまない状況にある。


 直接関係ないとはいえ、シエン領主の子である拓が関わるのはよくないと判断した。
 ただでさえ、シエンは最近良く思われていない。
 黒鬼にしろ、儀礼にしろ、目立つと言うことはいいこともあれば悪い部分も多くあるのだ。


 儀礼は一人で対応することにした。
 そのためには、獅子と拓は邪魔になる。
「後が怖いなぁ」
 言いながらも、儀礼は実行することにした。


 利香は必死に涙をこらえていた。一度泣き出したら、不安で止まりそうになかった。
 その利香のすぐ側で二人の少女が泣いている。
 綺麗な金髪に水色の瞳。よく似た姿は姉妹なのだろう。
「大丈夫よ、きっと助けに来てくれるから」
 きっと来てくれる。利香は信じている。利香の持っていたおもちゃと思われている護衛機のランプがさっきからずっと点滅している。
 まるで、ここにいると言っているかのよう。
 利香はオレンジとピンクにペイントされたそのかわった形の機械を抱える。


 ここはこの町にある領主の屋敷の地下だった。利香の入った宿の地下と通路で繋がっていたのだ。
 怪しい男達に剣を向けられて、仕方なくここまで歩かされてきた。
 先にいたこの少女達も同じだろう。
「きっと来るから大丈夫よ」
 利香はもう一度、今度は力強く言ってみた。


「あの、一人なんですけど。泊まれますか? この国に来たの初めてで」
 儀礼は一人分の荷物を持ち、受付へ尋ねる。
 まさか、あの服をもう一度着ることになるとは思いもしなかった。
 今度は長い黒髪は必要ない。儀礼の髪は短いけれど十分に目立つ。色眼鏡がないことを少し不安に感じるが。
 わざとらしく、アルバドリスクの言葉も使ってみる。
「大丈夫ですよ。どうぞこちらへ、荷物をお預かりします」
 受付の男性がにこやかに受付の奥へと案内する。もちろん、そんな方に部屋があるはずはない。
「ありがとうございます」
 にこやかに儀礼は答える。
 まるで、何の疑いも持っていないかのように。
「声を出すな」
 待っていた男に剣を突きつけられ、儀礼は怯えた振りをする。
 気をつけて、笑ってしまってはいけない。このまま利香たちのもとへ案内してもらわなければ。


 静かに、静かに歩いていく。長い地下道はかつて領主の屋敷からの非常口となっていた物だろう。
 儀礼の手の中で、改造したマップが熱くなる。利香の護衛機が近い証拠だ。
 一つの扉が見えたところで男が鍵の束を取り出した。鍵を選び、扉を開ける。
 そこはまた通路になっている。
 見張りらしき男が立っていた。
「今日は大入りだな」
 見張りが嬉しそうに言った。
「そろそろ怪しまれてるからな、今日の分売ったら金を分けてばらける算段だ。しかし、いいのが揃ったな。今までの比じゃないぜ。これは高く売れる」
 儀礼の顔に松明をあて、男がニヤニヤと笑う。
(何人いるんだ)
 眩しそうに目を伏せ、儀礼は奥の気配を探ろうとする。
 領主が首謀者なら、宿の従業員、領主の屋敷の使用人、全てが敵と考えた方がいいだろう。


 しかし、今見えるのはとりあえず二人だけ。
 男が見張りと言葉を交わし、利香達がいると思われる扉の鍵を開ける。
 扉の向こうに利香の姿が見えた。
「案内ご苦労様」
 口の端を上げると儀礼はポケットからスプレーを取り出し、二人の顔にかける。
 ばたりと倒れる二人の男。
 目を見開いているのは利香。
「お待たせ、利香ちゃん。こんな所で迷子?」
 松明に薬品を入れ、明るさを増す。
 笑って見せた儀礼の元へ利香が涙をためて走ってくる。
「儀礼君も捕まっちゃったの?!」
「違うからっ」
 やっぱり泣きたくなってしまう儀礼だった。

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