話題のラノベや投稿小説を無料で読むならノベルバ

ギレイの旅

千夜ニイ

アーデス来る

 ”まずい。まずいぞ、ギレイ!!”
 突然、アナザーからの焦ったメッセージ。
 ”何? どうしたの?”
 アナザーがこんなに焦るなんて、珍しい。
 ”大物が動き出した。今、お前の情報にアクセスした奴がいて、探ったら、アーデスって奴だった”
 ”アーデス?”
 ”管理局、冒険者ともにランクA。もっともSランクに近いと言われてた男だ。ま、その前にギレイがSランクになっちまったんだけどな。最年少でなるかもって言われてた。”


 最もSランクに近い。最年少。
 ”……それって、僕、恨まれてる?”
 相手の得るはずだった栄光を全て奪ったことになる。
 ”かもな。正直俺も相手にしたくない奴だ。言ってみればAAランクだな。”
 ”AAランク……。僕と違って本物ってことだよね。”
 ”いや、お前も本物だろ。”
 呆れたような穴兎。


 ”アクセス元はフェードだ。昨日、アーデスの名でキュールの遺跡が完全攻略されてる。”
「”キュールが!!!”」
 文字を打ち込みながら、儀礼は思わず叫んだ。
 ”マップ見たいっ!”
 ”お前、それどころじゃないって話してんのに……。送っといてやるよ。とにかくだ、おそらくアーデスって奴がお前に会いに行くはずだ。パーティーに転移魔法の使える奴がいる。なるべく一人になるな、黒獅子といろよ。”
 ”それは……難しいな。獅子は今朝から仕事で別行動なんだ。”
 まるで、仕組まれたように、突然獅子に舞い込んだ仕事。
 ”来るな。注意しろよ。氏はない、『双璧』のアーデスだ。悪いが俺も追跡がかかった。切るぞ。”
 プツリとモニターの文字が途絶えた。


 儀礼は車の上にいた。
 どこにいてもAAランクの人などまともに相手にできない。
 なら、せめて周りに迷惑がかからないように、人気のない場所へと移動したのだ。
 それに、人がいなければ多少無理な兵器が使える。


 儀礼は真っ青に晴れた空を仰いだ。
「ギレイ・マドイ様、ですね」
 気配も足音もなく、その男はやってきた。
 儀礼の額を冷や汗が伝う。
「アーデスさん、ですよね」
 努めて冷静に儀礼は振り返る。
 使い込まれた鎧、装飾も美しい名のあるであろう剣。兜はなく、緑色の瞳が儀礼を捉える。
「存じていただけたとは、光栄です」
 丁寧な口調、落ち着いた物腰。
 儀礼の頭の中に疑問が浮かぶ。


「思っていたのと違っていたので、少し驚きました」
 意外そうな顔で儀礼は素直に言う。
 お互いに相手を探り合っているような短い沈黙。緊張から手の中が汗ですべる。
「もっと冒険者らしい男を想像してましたか? よく言われるんですよ」
 アーデスが笑みを浮かべる。油断のない仮面のような笑顔。
「そうじゃなくて……」
 儀礼は少しばつの悪い、困ったような顔をする。
「うらまれたり、怒ったりしてると思ってたんで」
 それならば、こんな接近を許す前に儀礼は気付けた。そのために準備をしていたのに。
(最初の挨拶を真に受けたと言うことだろうか。やはり子供か)
 アーデスの目が鋭くなる。
 それでも、儀礼に怒りは向かない。それが、儀礼には不思議でならない。
「何しに来たのか聞いていいですか?」
「あなたの持つ情報、全て渡していただきたい」
 真剣な顔で言い、戦闘態勢に入ったアーデス。
 獅子と比較しても格段に上回る闘気。圧倒的なプレッシャー。
 儀礼に緊張が増す。


 公開されている情報では、儀礼が使うのは麻酔薬、痺れ薬、霧状に拡散する装置。
 それに、死の山を打ち壊したあのミサイル。儀礼自体の戦闘能力はないに等しい。とある。
 それでどこまで凌げるか。
(AAランクか……すごいプレッシャー。でも……敵意を感じない)
 わざわざ獅子を別の仕事に誘導までして来たというのに。
 では、一体何のために来たのか。情報を貰って自分がSランクになろうとしているのか。


 目で追えぬ速さでアーデスが儀礼に迫る。
 情報を奪うなら、儀礼の意識を奪うことはないか、それともどこかに連れ去るつもりか。
 どちらにしろ、相手は儀礼の間合いに入らなくてはならない。
 車に足をかけたアーデスが瞬間的に飛び退る。
 アーデスの飛び去った場所で、小さなトラバサミの様な物が閉じる。
「トラップか……」
 アーデスは笑う。子供だましだとでも言うように。
「さすが、キュールを攻略した冒険者ですね」
 感心したように言う儀礼。儀礼のトラップの発動速度はそこらの遺跡よりずっと速いのだ。
 キュール攻略。それは出回るにはまだ早い情報。
 アーデスは再び笑う。別に近付く必要などないのだ。
 気絶させて、後でゆっくり聞き出せばいい。
 車ごと破壊するために、アーデスは剣を下段に構え、気を溜める。
「ちょっ……と待ってください。それ、しゃれにならないです」
 焦ったように儀礼が言い、車から飛び降りる。そして、車から距離を取るように走っていく。
 あの車は儀礼を守るための仕掛けではなかったのか?まぁ、どちらにしろ逃がすつもりはない。
 威力を減らし、その剣圧を儀礼へと切り放つ。
 戦闘能力のない儀礼には必ず当たるはずのそれが、空を切り裂き通り過ぎる。
 当の儀礼は空中へ、頭を下向きに宙返りするように飛び上がっていた。
「何!?」
 前情報では、儀礼の運動能力は一般人程度のはずだった。
 その跳躍は明らかにそれを超えている。
「ふっ、面白い」
 次の構えを見せたアーデスに、儀礼は上空から狙いを定める。
 その手にはいつの間にか銃のような武器。もちろんドルエドには出回っていない。
 ガン、ガン、ガンッ
 金属のはじける音が三度続き、アーデスはそれを剣で打ち落とす。
 儀礼は着地と同時にナイフを投げつける。
「そんないい加減な狙いで当たるか」
 難なくかわしたアーデスは素早く儀礼へと次の一撃を放つ。
 大きく右に跳んだ儀礼。着地の前にまた銃を撃つ。
 空中で狙い定められるのは三発。
 しかし、その三発の間に、アーデスは儀礼へと詰め寄る。
「くっ」
 逃げ場のない態勢。これが、AAランクの実力か。
 アーデスが闘気を込めた剣を近距離で打ち放つ。
 死ぬかも、と思った儀礼の前に、何かが割って入った。


 ガキーィン
 鈍い金属同士の衝撃音。
 目の前には、見たことのない女の人。
 露出部の多い体には、服の代わりのように使い込まれた鎧が装着されている。
 持っている巨大なハンマーはアーデスの剣を完全に受け止めている。
「おいおい、アーデス。お前らしくもない、熱くなりすぎじゃないか?」
 女性が大きくハンマーを振り、アーデスは後ろに跳び退る。
「ワルツ。邪魔はしない約束だろ」
 邪魔をされたことに機嫌を悪くしたのか、睨むような顔のアーデス。
「あたしは、こいつの護衛に付くって決めてんだ。怪我でもされたらたまんないね」
 二人の怒りのオーラに儀礼は自分の体が固まっていくのがわかった。

「ギレイの旅」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く