ギレイの旅
不審者
「よし。獅子、急ごう! 次だ!」
雰囲気を壊したのは儀礼だった。
慌ただしく駆け出してゆく儀礼。後を追って走る獅子。
「次はどうするんだ?」
獅子が問いかけると儀礼は足を止めた。
ドアをふさぐように、先ほど見た老人が立っている。
「?」
儀礼を見ると、儀礼は老人を睨みつけている。
「通るので、どいてもらえませんか?」
儀礼の声は冷たかった。
(剣を狙ってると言う奴か?)
状況が分からない獅子。
老人は別に獅子の方を気にしている様子はないし、周りに誰かが隠れている気配もない。
だが、老人は、嬉しそうな顔をすると儀礼の手を掴んだ。
「いやぁ、長生きしてみるもんだ。こんな美人には会ったことがない。わしの死んだ妻もかなりの美人じゃったが、あんたはそれ以上じゃ。まるで天から舞い降りたようじゃな」
しゃべりながら老人は、儀礼の手をなでなでとさすっている。
儀礼の顔がひくついている。相当嫌なんだろう。
「夕食はとったか? わしの家は近いんだ、よかったら一緒にどうかね?」
頬を赤らめて上機嫌な老人。
(老人に手上げるのは気が引けるんだがなぁ)
獅子が頭をかきながら、老人に一歩近づいた時だった。
シュッ
儀礼が、小さなスプレーを老人の目の前に出し、吹きかけた。
バタリ
老人は、一瞬のうちに地面に倒れこむ。
「おい! やりすぎだろ。お年寄りに……!」
驚いて、スプレーを取り上げようとした獅子だが、儀礼は冷静に言い返してきた。
「おとなしくついてってみろ、三時間後には、蝋人形にでもされてコレクションルームに飾られるぜ」
軽蔑したような目で老人を見据え、さっさと行こうとする。
「な、どこにそんな根拠があるんだよ。ただ、ナンパなじいさんかも知れないだろ!?」
(ナンパなじいさんて……)
怒りを込めて詰め寄る獅子と、困ったように視線を逸らし俯く儀礼。
「子供の頃……」
小さな声でしぼり出すように儀礼が呟く。
「なんだ?」
獅子は強い語調でたずねる。
「似たような目に遭った。……その時は父さんが助けてくれたけどな」
いつも、そんな奴ばかり寄ってくる。こんな見た目のせいで……。呪いではないかと最近儀礼は思う。
「それと、このじいさんと、まるきり関係ないだろ」
同じ村で暮らしていてそんな事件があったと、知らなかったことに驚いた分、語調は静かになる。
「こんな時間まで、管理局に入り浸ってるコレクターで、手にろうの匂いが染みこんでいて、喋る口調と触り方が同じだった」
獅子の調子に怯えている儀礼はまるで叱られている子供のようだ。頬をかく獅子。
「はぁー」
ため息を一つ吐くと、獅子は気分を変えた。
「ま、お前がそんだけ言うならいいや。今は利香の事だな。一人で置いてきてんだし」
そのうち目、覚ますだろ、と獅子は老人を抱えドアの前からどかす。
「じゃ、僕はちょっと雑貨屋寄ってくから、拓ちゃんに連絡しておいて。同じ宿にいるはずだから」
管理局から出ると、儀礼は獅子に言った。
「了解。じゃ、先行くな」
黒いマントをはためかせると、あっという間に走り去っていく。
「僕も行くか」
儀礼は近くの雑貨屋に寄り、必要な物を揃える。
長い黒髪のかつら、利香の着ているような少しピラピラのお嬢様っぽい服。いくつかの化粧品類。
選びながら自分の考えた作戦とはいえ気分が沈む。閉店間際のため人がいないことにわずかに救われる。
店のおかみさんは、特に怪しむ様子もなく、儀礼の会計を済ませた。
「お譲ちゃん、こんな時間に一人で買い物かい? 気をつけなよ。最近若い娘が3人も行方不明になってるんだから」
おかみさんの言葉に、儀礼はおっとりと微笑んで見せる。
「連れがいますので。ありがとうございます」
内心はかなり複雑な心境だが、微笑みの下に隠しておく。
その微笑にすっかり心奪われてしまったおかみさん。儀礼の出て行った扉を見つめたまま顔を赤くしている。
「世の中にはとんでもなくきれいな娘もいるんだねぇ」
夢見心地のまま呟いていた。
雰囲気を壊したのは儀礼だった。
慌ただしく駆け出してゆく儀礼。後を追って走る獅子。
「次はどうするんだ?」
獅子が問いかけると儀礼は足を止めた。
ドアをふさぐように、先ほど見た老人が立っている。
「?」
儀礼を見ると、儀礼は老人を睨みつけている。
「通るので、どいてもらえませんか?」
儀礼の声は冷たかった。
(剣を狙ってると言う奴か?)
状況が分からない獅子。
老人は別に獅子の方を気にしている様子はないし、周りに誰かが隠れている気配もない。
だが、老人は、嬉しそうな顔をすると儀礼の手を掴んだ。
「いやぁ、長生きしてみるもんだ。こんな美人には会ったことがない。わしの死んだ妻もかなりの美人じゃったが、あんたはそれ以上じゃ。まるで天から舞い降りたようじゃな」
しゃべりながら老人は、儀礼の手をなでなでとさすっている。
儀礼の顔がひくついている。相当嫌なんだろう。
「夕食はとったか? わしの家は近いんだ、よかったら一緒にどうかね?」
頬を赤らめて上機嫌な老人。
(老人に手上げるのは気が引けるんだがなぁ)
獅子が頭をかきながら、老人に一歩近づいた時だった。
シュッ
儀礼が、小さなスプレーを老人の目の前に出し、吹きかけた。
バタリ
老人は、一瞬のうちに地面に倒れこむ。
「おい! やりすぎだろ。お年寄りに……!」
驚いて、スプレーを取り上げようとした獅子だが、儀礼は冷静に言い返してきた。
「おとなしくついてってみろ、三時間後には、蝋人形にでもされてコレクションルームに飾られるぜ」
軽蔑したような目で老人を見据え、さっさと行こうとする。
「な、どこにそんな根拠があるんだよ。ただ、ナンパなじいさんかも知れないだろ!?」
(ナンパなじいさんて……)
怒りを込めて詰め寄る獅子と、困ったように視線を逸らし俯く儀礼。
「子供の頃……」
小さな声でしぼり出すように儀礼が呟く。
「なんだ?」
獅子は強い語調でたずねる。
「似たような目に遭った。……その時は父さんが助けてくれたけどな」
いつも、そんな奴ばかり寄ってくる。こんな見た目のせいで……。呪いではないかと最近儀礼は思う。
「それと、このじいさんと、まるきり関係ないだろ」
同じ村で暮らしていてそんな事件があったと、知らなかったことに驚いた分、語調は静かになる。
「こんな時間まで、管理局に入り浸ってるコレクターで、手にろうの匂いが染みこんでいて、喋る口調と触り方が同じだった」
獅子の調子に怯えている儀礼はまるで叱られている子供のようだ。頬をかく獅子。
「はぁー」
ため息を一つ吐くと、獅子は気分を変えた。
「ま、お前がそんだけ言うならいいや。今は利香の事だな。一人で置いてきてんだし」
そのうち目、覚ますだろ、と獅子は老人を抱えドアの前からどかす。
「じゃ、僕はちょっと雑貨屋寄ってくから、拓ちゃんに連絡しておいて。同じ宿にいるはずだから」
管理局から出ると、儀礼は獅子に言った。
「了解。じゃ、先行くな」
黒いマントをはためかせると、あっという間に走り去っていく。
「僕も行くか」
儀礼は近くの雑貨屋に寄り、必要な物を揃える。
長い黒髪のかつら、利香の着ているような少しピラピラのお嬢様っぽい服。いくつかの化粧品類。
選びながら自分の考えた作戦とはいえ気分が沈む。閉店間際のため人がいないことにわずかに救われる。
店のおかみさんは、特に怪しむ様子もなく、儀礼の会計を済ませた。
「お譲ちゃん、こんな時間に一人で買い物かい? 気をつけなよ。最近若い娘が3人も行方不明になってるんだから」
おかみさんの言葉に、儀礼はおっとりと微笑んで見せる。
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