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ギレイの旅

千夜ニイ

証明書の発行

 まずは、管理局の夜間窓口へ向かう。
 管理局は基本的に24時間体制を取れるようになっている。が、夜になればさすがに閑散としており、一人の老人と二、三人の研究者らしき者がいるだけだ。
 受付へと向かう儀礼。
 目立たないように待ってろ、と言われた獅子は剣をマントの下に隠したまま、隅のソファーに座った。
「……申請者はギレイ・マドイ。持ち主はリョウ・シシクラ。冒険者登録しています。破片の回収手続きはすんでるんで、研究施設行きにお願いします」
 話している儀礼の声が聞こえてくる。
「ああ、はい、はい」
 眠そうな、なんともやる気のない受付の男の声。
 カタッカタッと、のろのろした様子でパソコンに打ち込んでいる。
「すみません、急いでるんで、すぐに剣の証書貰いたいんですが……」
 急かせるような口調の儀礼。
「そんなバカを言っちゃいけないよ。申請から許可まで、審査があって一週間はかかるんだから」
 男は子供である儀礼を見下したように見て、伸びと同時にあくびをする。
 ピーッ という電子音と共に、横にある機械から紙が出てくる。男は紙を手に取ると目をやる。


 その瞬間、バチッという音がしそうな勢いで男の目が見開かれた。
「し、失礼いたしました!!」
 ピンと背を伸ばしてから、深々とお辞儀をする男。
 それを見て苦笑する儀礼。
 印刷された用紙に記されていたのは、
『所持要請:リョウ・シシクラ 冒険者ランク:B 管理局:初回
 申請者:ギレイ・マドイ 冒険者ランク:E 管理局ランク:S』
 ランク“S”の文字。
 国家、どころか世界レベルの域だ。小さな国の王よりさらに上、特別な存在だ。
「そんなかしこまらなくていいですから、手続きを進めてください。保証人が要りますか?」
 慣れた様子のギレイ。
「す、すぐに!」
 飛び上がらんばかりに体を起こすと、再びパソコンに向かう。
 その指は震えているが、打ち込む速さは相当なものだ。
「保証人はどなたで? マドイ様にいたしますか? ですが、要請書が届くのが早くても明日になりますので、証書の方も……」
 男が汗をかきながらおそるおそる、といった感じでしゃべっている。
 儀礼はその間にも電話に手をかけ、ダイヤルを回す。
「この町の人間に頼むよ。それなら今貰えるだろ?」
「は、確かにそうですが、保証人の手続きが済みませんと本証書は……」
 言いかけた男を儀礼は手で制す。
 電話の相手が出たようだ。


「夜分に失礼致します。先ほど伺った者ですが、管理局の手続きで、保証人になっていただきたいのです」
「まさか、つぼの件ですか……?」
 不安そうな男の声。
「いえいえ、つぼの事ではありませんが、処理をした者が『光の剣』を抜きまして」
「は?」
 間の抜けた声。電話の相手は話しが理解できていないようだ。
 まぁ、当然だろう。ありえないことが起こったのだから。
「腕は保証済みですよね、あれを倒したのですから。何分急ぐ身なので今すぐに許可が必要なんですよ。コレクターをしているあなたならお分かりでしょう。ええ、そうです。はい、ありがとうございます」
 そこで儀礼は電話を受付の男に渡す。
「彼が保証人を引き受けてくださるそうです。手続きは明日」
 儀礼の言葉に戸惑いながら、男が受話器を受け取る。
「もしもし、管理局夜間受付ですが……はい! わかりました!」
 電話を受ける男の背が再び伸ばされる。聞こえたのは、この町の有力者の声だった。


 受付の男が何枚かの書類に印を押し、文字を書いてゆく。
 その間に儀礼は獅子の方を向き手招きした。獅子は静かに立つと、気配を消したまま歩いてくる。
 受付の男が獅子を見ると、
「剣の確認をします」
 と言って、台の上に剣を出すようにうながす。
 儀礼を見て、頷いているので、剣を台の上に置く。
 男が剣の写真を撮ってから、柄を握る。引き抜こうとするが抜けない。
 ああ、本物だ。男はなんとも複雑な表情をした。
 本物の光の剣を間近に見れた事への喜び、自分が抜けなかった事への悲しみ、そして、子供の頃からあった伝説が、旅立っていく寂しさ。
 男は首を振り、それらを追い払う。
「中身の確認を、剣を抜いてください」
 男の声は穏やかだった。
 獅子が握ると、剣は淡く光を放ち、スーーッとその美しい刀身を見せた。
 ほんの数瞬、見とれてから男は言った。
「ありがとうございます。剣はお返しします。これで全ての手続きは完了いたしました。こちらが証書になります。大切に保管してください」
 何度となく繰り返してきた営業文句が、深い響きに聞こえた。

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