ギレイの旅
依頼主と黒い交渉
手強い魔物を倒し、町に戻った三人。
傷の手当てをした後、儀礼は依頼主の男と交渉していた。
「すみませんね、運ぶ途中でつぼが壊れてしまいましたので、こちらで処分させていただきます」
依頼主に通された広い応接室で、儀礼は愛想ともとれる笑顔で説明する。
「な、なにーーぃ! つぼが割れただと? ばかな! そんなはずはない!」
何が『そんなはずはない』のかわからないが、男は怒った様子で儀礼を問い詰める。
怒りを当てられた儀礼は……、どういうわけか全然平気だ。
「事実です。破片だけでもご覧になりますか? この通りです」
布に包んでいた、粉々になった破片を見せる。
「あ、あぁ~、わしの宝が……」
呆然とする依頼主。
普通、魔物などが封印されている物はそうそう壊れない。
落としても、ハンマーで殴っても、象に踏まれても。
それだけ封印が強固なのだ。
だが、血や、開封の儀式などで封印が解けると、当然ただのつぼに戻って簡単に壊れてしまう。
が、普通血だけでは封印は解けない。まして、一滴程度では。
「あのつぼにはランクBに相当する魔物が封印されていました。一軍に匹敵する強さです。古代遺産保護法はご存知ですよね、当然。封印のつぼを入手する際、ご説明されていますよね」
儀礼の強い口調に男は冷や汗を出し始めた。
「あ、ああ。もちろんだ。ちゃんと証明証も持っている」
男はハンカチで額を拭きながら言う。
「あのつぼは、開封の儀式がすでにされていたようですね。運んでる最中に突然割れまして。僕たちは、なんとか退治してきたんですけどね」
「え、いや、そんな。あれは盗まれていたからその間に誰かが……だな、きっとそうだろ」
「ええ、そうですよね。まさか、証明証を持っている方がやりませんよね。立派な犯罪ですもんね。20年は牢の中で、二度と、古代の品は持てませんしね」
儀礼の顔は笑っていたが、その美しい笑顔と裏腹に、瞳は凍てつくように刺さる。
「こ、今回は随分危険な目に遭わせてしまったようだね。報酬は弾んでおこう」
「そうですか、ありがとうございます。何しろ、高価な武器が呪われてしまって、大損害だったんですよ。助かります。まぁね、封印が解けてたとか、盗賊が持ってたとか、いろいろなことは、管理局の方には穏便にしておくということで、……」
儀礼の言葉に男は青ざめる。
「そ、その、管理局の方には内密に……」
管理局というのは、古代の貴重品や、危険な物を管理している所で、個人で集めている美術品やなんかにも、証明証や、持ち主証明などを発行している。
また、取締りなどもここでしており、違法行為があった場合、基本的に二度と証明を発行しなくなる。
そうなると、証明の必要な物はすべて取り上げられ、その後、所持はできなくなる。
「500で」
儀礼は笑顔で言った。
「ば……ばかな、そんな金額……」
「呪い解くのに200かかるそうです。さらに元通りの祝福で100。なので、600でも」
眼鏡を直しつつ、悪気もなげに言ってのける儀礼。
「……いや、上がってますしね……」
15、16歳の子供相手に、と男は気合を入れなおす。
「初めは60の約束だったろう、相場を考えたまえ」
胸を張って言った男に儀礼は落ち着いて返す。
「盗賊退治に50、運びに10でしたね。古代遺産の破棄処理は、ギルドでは高ランクに位置してますよね。管理局と共同ですし」
口の端は悪意を感じるほどに高く上がっている。
「わ、わかった。出そう」
「じゃ、700で。この場で手続きをお願いします」
ノート型のパソコンを男に向けて差し出す儀礼。
「む……」
男はさらに上がった値に息を詰まらせ、パソコンに戸惑う。
「操作が分からなければ、パスワードだけ入力していただければ、後は私がやりますが」
「わ、わかった」
これ以上吊り上げられても困ると、男はパソコンに向かいパスワードを入れる。
カチカチカチッ
数十秒操作した後、儀礼は言った。
「これで終わりました。契約ありがとうございました。またご用がありましたらどうぞ」
あの笑顔をはりつけたまま、儀礼は言う。
(嫌な奴に目をつけられてしまった……)
男は二度と興味半分で開封の儀式をするのはやめよう、と思った。
「あ、そう言えば……」
扉を出る直前で儀礼は立ち止まり、振り返った。
(まだ何かあるのか!)
男の心臓は苦しさに、今日にでも止まるのではないかと思われた。
「口座からお金が引き落とされてましたね。偽装みたいのしてあったんで、あなたご自身でないと思うのですが、誰か、身近な方に使い込まれているかもしれないですよ。ご注意を」
そう言って、今度は誰もが見惚れ、見入ってしまうような笑顔を浮かべ、部屋を出て行った。
その後日、男の息子が遊ぶ金欲しさに、かなりの大金を勝手に引き出していたことがばれ、こっぴどくしかられたそうだ。
が、これはまぁ、関係ない話。
傷の手当てをした後、儀礼は依頼主の男と交渉していた。
「すみませんね、運ぶ途中でつぼが壊れてしまいましたので、こちらで処分させていただきます」
依頼主に通された広い応接室で、儀礼は愛想ともとれる笑顔で説明する。
「な、なにーーぃ! つぼが割れただと? ばかな! そんなはずはない!」
何が『そんなはずはない』のかわからないが、男は怒った様子で儀礼を問い詰める。
怒りを当てられた儀礼は……、どういうわけか全然平気だ。
「事実です。破片だけでもご覧になりますか? この通りです」
布に包んでいた、粉々になった破片を見せる。
「あ、あぁ~、わしの宝が……」
呆然とする依頼主。
普通、魔物などが封印されている物はそうそう壊れない。
落としても、ハンマーで殴っても、象に踏まれても。
それだけ封印が強固なのだ。
だが、血や、開封の儀式などで封印が解けると、当然ただのつぼに戻って簡単に壊れてしまう。
が、普通血だけでは封印は解けない。まして、一滴程度では。
「あのつぼにはランクBに相当する魔物が封印されていました。一軍に匹敵する強さです。古代遺産保護法はご存知ですよね、当然。封印のつぼを入手する際、ご説明されていますよね」
儀礼の強い口調に男は冷や汗を出し始めた。
「あ、ああ。もちろんだ。ちゃんと証明証も持っている」
男はハンカチで額を拭きながら言う。
「あのつぼは、開封の儀式がすでにされていたようですね。運んでる最中に突然割れまして。僕たちは、なんとか退治してきたんですけどね」
「え、いや、そんな。あれは盗まれていたからその間に誰かが……だな、きっとそうだろ」
「ええ、そうですよね。まさか、証明証を持っている方がやりませんよね。立派な犯罪ですもんね。20年は牢の中で、二度と、古代の品は持てませんしね」
儀礼の顔は笑っていたが、その美しい笑顔と裏腹に、瞳は凍てつくように刺さる。
「こ、今回は随分危険な目に遭わせてしまったようだね。報酬は弾んでおこう」
「そうですか、ありがとうございます。何しろ、高価な武器が呪われてしまって、大損害だったんですよ。助かります。まぁね、封印が解けてたとか、盗賊が持ってたとか、いろいろなことは、管理局の方には穏便にしておくということで、……」
儀礼の言葉に男は青ざめる。
「そ、その、管理局の方には内密に……」
管理局というのは、古代の貴重品や、危険な物を管理している所で、個人で集めている美術品やなんかにも、証明証や、持ち主証明などを発行している。
また、取締りなどもここでしており、違法行為があった場合、基本的に二度と証明を発行しなくなる。
そうなると、証明の必要な物はすべて取り上げられ、その後、所持はできなくなる。
「500で」
儀礼は笑顔で言った。
「ば……ばかな、そんな金額……」
「呪い解くのに200かかるそうです。さらに元通りの祝福で100。なので、600でも」
眼鏡を直しつつ、悪気もなげに言ってのける儀礼。
「……いや、上がってますしね……」
15、16歳の子供相手に、と男は気合を入れなおす。
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胸を張って言った男に儀礼は落ち着いて返す。
「盗賊退治に50、運びに10でしたね。古代遺産の破棄処理は、ギルドでは高ランクに位置してますよね。管理局と共同ですし」
口の端は悪意を感じるほどに高く上がっている。
「わ、わかった。出そう」
「じゃ、700で。この場で手続きをお願いします」
ノート型のパソコンを男に向けて差し出す儀礼。
「む……」
男はさらに上がった値に息を詰まらせ、パソコンに戸惑う。
「操作が分からなければ、パスワードだけ入力していただければ、後は私がやりますが」
「わ、わかった」
これ以上吊り上げられても困ると、男はパソコンに向かいパスワードを入れる。
カチカチカチッ
数十秒操作した後、儀礼は言った。
「これで終わりました。契約ありがとうございました。またご用がありましたらどうぞ」
あの笑顔をはりつけたまま、儀礼は言う。
(嫌な奴に目をつけられてしまった……)
男は二度と興味半分で開封の儀式をするのはやめよう、と思った。
「あ、そう言えば……」
扉を出る直前で儀礼は立ち止まり、振り返った。
(まだ何かあるのか!)
男の心臓は苦しさに、今日にでも止まるのではないかと思われた。
「口座からお金が引き落とされてましたね。偽装みたいのしてあったんで、あなたご自身でないと思うのですが、誰か、身近な方に使い込まれているかもしれないですよ。ご注意を」
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