ギレイの旅

千夜ニイ

壊れた封魔

 その日、儀礼達は獅子が倒した盗賊のアジトへ向かっていた。
「盗まれた物を持って帰って欲しい」と、依頼主に頼まれたのだ。
 お金はかなりいい額もらえるし、儀礼には車がある。特に気負いもせず、引き受けたのだ。
 宝石や剣など、いろいろな物があった。
 依頼主のリストにある物だけを持ち、後は自警団にまかせる。
「でもさぁ、自警団から返してもらえばいいのに、どうして俺たちに持ってこいって言ったんだ?」
 獅子が特に考えるでもなく言ったが、儀礼にはなんとなく分かっていた。
「……返してもらえないと思ったんだろ」
 車の運転をしながら答える。
「どうしてだ?」
 獅子の問いに儀礼はチラリと後ろの荷物を見る。
 名のある宝石と魔剣、とでも呼ばれそうな剣。そして、ヤギのようなマークの描かれた怪しげなつぼ。
「あ~、ほら、絶対この人の物なんて証明されるわけじゃないからさ。ただ欲しがる人もいるかもしれないだろ?」
「なるほどな。そりゃそうか」
 納得した様に頷く獅子。


 そこで突然車が止まった。
「うわっ。何だ? 儀礼」
「おでましだよ、獅子」
「了様!!」
 車の前には、白くて軽いワンピースを着た少女。
 上には茶色いマントを羽織っているが、はっきり言って軽装だ。
 周りは砂と岩の広がる荒涼とした世界。ポツンといる少女はあまりにも不自然だ。
「ど、どうやってきた……」
「追いかけてきましたわ」
 一生懸命な様子で語る少女。
(だからどうやって……)
 毎度の事ながら、儀礼は頭を悩ませる。


「とりあえず、危ないから利香ちゃん、乗ってね。後ろでいいかな」
「はい」
 利香が答えるよりも先に、獅子は車を降りて、後ろの扉を開けていた。利香を乗せると、自分も反対側から後部座席に座る。
「荷物邪魔でごめんね。こっちに置くか」
 儀礼は、空いた助手席を指して言う。
「そうだな」
 獅子が後ろから手荒に剣などを放りこむ。
「もう少し丁寧に扱ってよね。結構値のある物なんだから」
 あきれたように言う儀礼。
「なんですか? この荷物。変わった物もありますね」
 珍しそうに手に取る利香。
 古びたつぼを持ち、中をのぞく。
「……危ないから、こっちにかしてね」
 ちょっと引きつった顔になる儀礼。
 ヤギの顔のマークのつぼを受け取ろうとした時、
「いたっ」
 と声を上げ利香が手を放した。つぼのふちが欠けていたようで利香の指から少量の血が出ている。
「大丈夫か?!」
 すぐにその指を掴み、自分の口へ持っていく獅子。
 利香は真っ赤になっている。
(またこいつらは……)
 呆れた目で見る儀礼は、そのまま、助手席に転がったつぼから煙が上がるのを見た。


「まずい!」
 儀礼は咄嗟につぼを取ると、窓の外へできるだけ遠くに投げ飛ばした。
 がしゃーん。
 つぼの割れた音がする。
「どうしたんだ?」
 突然の儀礼の行動にキョトンとしている二人。
「逃げよう」
 そう言ってアクセルを踏もうとしたが、儀礼はあることに思い至ってしまった。
(……逃げられない)
 ヤギが表すのは悪魔。つぼの底にあった六芒星ろくぼうせい。そして、利香の血……。


 つぼには悪魔が封印されていた。
 それが、少女の血(いけにえの血)によって目覚めてしまった。
 ここで逃げたとしても、利香の血で目覚めた悪魔は利香を追ってどこまでもついてくるだろう。
 いけにえの血と肉を喰らうために……。
 もし、町の中へでも行こうものなら大惨事だ。なんとか、この人気のない荒野で片を付けないと。
「獅子……戦えるか?」
 儀礼の緊張した声と、車の外にわきあがる不穏な気配に獅子はただ事ではないと気付いた。
「利香、ここにいろ」
 そう言って車から降りた獅子は、煙の中から現れた物の姿にその正体を知った。

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