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ギレイの旅

千夜ニイ

蛇と採掘

 洞窟の奥へ進むほど、天井や壁に空く穴の数が増えていた。穴の一つ一つはこぶし大ほどで、奥では複雑に繋がっているようだ。
 シュー シュー
 広く開けたその場所に出ると、何かの音が洞窟内に響き渡る。
 けして大きい音ではないが、次第に数が増え、反響して不気味な音に聞こえる。
「へびだ!」
 ウォールが気付き、木刀で一匹を切り倒す。
 気付けば、あちこちの穴からへびが顔を出している。あの無数の穴がへびの巣だったようだ。
 大量のへびが襲い掛かってくる。
「キャーッ!」
 イムが悲鳴をあげる。
 切りつけようとしてもすぐに穴の奥にもぐってしまって逃げ回る。
 トッコが穴に手を突っ込んでへびを引きずり出そうとする。
「だめだ! 素手で触るな! うろこに毒がある」
 とっさに儀礼は叫んだ。
 ミハイさんに聞いた話では昔はそれで亡くなった人がいるらしい。
「でもこいつらすぐ穴に入っちゃうよ。なんかいい手ないかな?」
 キサも苦戦しているようだ。
「穴に入る前につぶすしかないだろっ!」
 ティルが素早い動きで次々にへびを葬る。
「穴に入る直前が狙い目だな」
 ウォールは細い穴の中を突くように木刀を繰り出している。
「もぐらたたきかっ!」
 儀礼の短剣を振り回し、面倒くさそうに言うわりには、獅子は楽しそうだ。


 カラン カランッ
 倒したへびの死骸から何かが落ちてきた。キラキラと輝く石のようである。
「ああっ! 宝石ぃ!」
 イムが飛びつくようにそれを拾う。隙だらけになったイムの背後にへびが迫る。
「戦闘中だぞ、しっかりしてくれ」
 そのへびを倒して、呆れたように兄のトッコが注意する。
「なるほど、フィムの宝石か」
 納得したように儀礼は言う。
 フィムという虫の死骸が地中で固まって宝石のようになる。地中に埋まっているフィムをあのへびたちが食料にし、人の手の届くところまで運んできてくれたというわけだ。
「へびを倒せば倒すほど宝石が手に入るってわけね!」
 俄然、やる気を出す兄妹。もしかしたら苦労人なのかもしれない。
「それにしても、多すぎじゃないかい?」
 剣での攻撃をやめ、両手の鉤爪でへびをしとめ始めたティルが愚痴をはく。
 片手で剣を扱うよりもずっと早い動きで二匹同時に仕留めるなんて技もこなす。
 負けじと倒す数を増やし始めたキサも数の多さにいぶかしむ。
 圧倒的な数を一人で始末しているウォールは何かよくない気配が濃くなっていくのを感じていた。


 一生懸命戦う剣士達をよそに、儀礼はへびをよけながら観察していた。
「おい、儀礼。見てないで手伝え!」
 獅子が言う。
「何かないのか? 一気に片付ける方法」
「あるけど……なんか違う気がして。わからないけど、これって生態系に関係あるんじゃないかな」
 次々とへびをしとめていたウォールが手を止める。
「どういう意味だ?」
「だって、昔からここで宝石を取り続けてるんでしょ。フィムが卵を産んで、へびの繁殖期が来て。きっと今が一番へびの数が多いんだ。殺し尽くしちゃったら来年は宝石が採れないよ」
 儀礼の言葉にティルが納得する。
「毎年、遺跡に入った奴が、取れる石には限りがあるって言ってるのはそういう意味だったのか」
 うんうん、とトッコとイムもうなずいている。が、二人の手の中にはフィムの宝石が並んでいる。
「まびきじゃないけど、ある程度数を減らせば食料を取り合う必要もなくなって、丸々太ったへびがたくさん卵を産むんだよ。だから数が減っても途絶えはしないんだ」
「人間の採掘も自然の摂理の中ってことか。じゃあ、魔物にはどうする? 儀礼」
 ウォールが妙なる老刀を構える。その刀身に美しい紋様が浮かび上がっている。
 何百年と流され続けた大量のへびの血が土に染み込み巨大な魔の物へと姿を変えていた。

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