ギレイの旅
大会の後
日が暮れ始めて、一緒に来たギルドのメンバー達は大会での健闘を祝って宴会を始めた。
「お前も食ったらどうだ?」
ハンに言われて、獅子たちが食事をどうするのか聞いてなかったことに気付く。
「食べててください。僕は獅子たちと外で食べてきますから」
そう言って儀礼は試合の会場へと向かった。まだ帰らないということはそこにいる可能性が高い。
たくさんの露店が出ていたし、楽しんでいるのだろう。
別にほっといてもいい気がしてきたが、念のため確認だけしておこうと、混雑する道を通り会場の中へと入った。
二人はまだそこにいた。そっと近付いていく。
剣術大会で見事準優勝を飾った獅子が、同年代の女の子達に囲まれている。
ちなみに優勝したのは旅の剣士で、めちゃくちゃ強かった。
無理やり割り込まれたのだろうか、明らかに不機嫌な顔の利香。その怒気に当てられ、固まり気味の儀礼。
「儀礼君、行って」
儀礼に気付くと、突然、獅子を囲む女の子達の方を指差して、利香が言った。
むぅ、と頬を膨らませたような表情で、体からはゆらゆらと怒りのオーラが見えそうだ。
「え? 行ってって……」
意味が分からず、聞き返す儀礼。
「行って。にっこり笑うだけでいいから」
利香の言う意味はよくわからないが、今の利香に逆らうことのできない儀礼。
しかたなく、戸惑いつつも、囲まれる獅子のもとへ歩いてゆく。
女の子達に、何故だか、ギロリとにらまれて、一瞬硬直する。
「獅子……利香ちゃんが呼んでるよ」
ぎこちない声で、なんとかそれだけ言う。
「ああ、儀礼。わかった」
取り囲まれて、獅子も困っていたのか、安堵したように抜け出してくる。
「サンキュー」
儀礼の耳元に、小さな声が聞こえた。獅子はそのまま、利香の元へ走ってゆく。
それを見た女の子達は、なんだか、物足りなそうに、去っていく獅子の背中を見送る。
それから、獅子を呼びに来た儀礼に、再び目を向けた。だれもが、大会で予想外の活躍をした獅子目当てに来た女の子達だが、……。
「ごめんね、獅子には決まった人がいるから」
悪いことをしたような気分になり、一応謝っておこうと儀礼はぎこちなくも微笑んだ。
よどみ始めていた空気が、一気に花を持ったことに、儀礼は気付かなかった。
キャー!
一呼吸おいた後、少女達の口から出たのは、悲鳴――ではなく、驚嘆の声だった。
「……?」
誰か、有名人でもいたのか? と周囲を見回すが、周囲の人間が、少女達の声に驚いて、こちらをみているばかり。
「かわいいー!」
口々に言う少女達。
その言葉に、儀礼はようやく思い至った。自分が獅子のかわりのエサにされたことに。
『にっこり笑うだけでいいから』
その言葉の意味がやっとわかった。これでは子犬や子猫と同じ扱いだ。
(利香ちゃん……別にいいけどさ……)
仲間に売られたことに、ほんの少し泣きたくなる儀礼。
目じりの涙に気付いたのか、少女達の中でも年長らしい女性が、儀礼に話しかけてきた。
「泣かないで、ごめんね。びっくりさせちゃったかしら。私はオーシャン。あなたは? よかったら、おわびにごちそうさせてくれない? 夕食はもう済ませたかしら?」
まるきり子ども扱いをする。
(うう……)
どこまでも、落ち込みそうになる気持ちを押さえ、なんとか、子ども扱いに対抗しようと、大人な態度を心がける。
怒らず、いじけず、笑顔で許す。儀礼にとっての大人のイメージで、儀礼は言う。
「大丈夫ですよ。僕は、ギレイです。おごるのはいいんで、どこかに座って食べられるいいところがあったら教えてください。どこも大会のせいで混んでいて」
獅子と利香のことはもういいだろう。人をえさにしたんだ。せいぜい仲良くしてくれ。村にいた頃の苦労を思えばどうってことない。
にっこりとした儀礼の笑顔に、少女達が心奪われたことに、儀礼本人は気付かない。
「お前も食ったらどうだ?」
ハンに言われて、獅子たちが食事をどうするのか聞いてなかったことに気付く。
「食べててください。僕は獅子たちと外で食べてきますから」
そう言って儀礼は試合の会場へと向かった。まだ帰らないということはそこにいる可能性が高い。
たくさんの露店が出ていたし、楽しんでいるのだろう。
別にほっといてもいい気がしてきたが、念のため確認だけしておこうと、混雑する道を通り会場の中へと入った。
二人はまだそこにいた。そっと近付いていく。
剣術大会で見事準優勝を飾った獅子が、同年代の女の子達に囲まれている。
ちなみに優勝したのは旅の剣士で、めちゃくちゃ強かった。
無理やり割り込まれたのだろうか、明らかに不機嫌な顔の利香。その怒気に当てられ、固まり気味の儀礼。
「儀礼君、行って」
儀礼に気付くと、突然、獅子を囲む女の子達の方を指差して、利香が言った。
むぅ、と頬を膨らませたような表情で、体からはゆらゆらと怒りのオーラが見えそうだ。
「え? 行ってって……」
意味が分からず、聞き返す儀礼。
「行って。にっこり笑うだけでいいから」
利香の言う意味はよくわからないが、今の利香に逆らうことのできない儀礼。
しかたなく、戸惑いつつも、囲まれる獅子のもとへ歩いてゆく。
女の子達に、何故だか、ギロリとにらまれて、一瞬硬直する。
「獅子……利香ちゃんが呼んでるよ」
ぎこちない声で、なんとかそれだけ言う。
「ああ、儀礼。わかった」
取り囲まれて、獅子も困っていたのか、安堵したように抜け出してくる。
「サンキュー」
儀礼の耳元に、小さな声が聞こえた。獅子はそのまま、利香の元へ走ってゆく。
それを見た女の子達は、なんだか、物足りなそうに、去っていく獅子の背中を見送る。
それから、獅子を呼びに来た儀礼に、再び目を向けた。だれもが、大会で予想外の活躍をした獅子目当てに来た女の子達だが、……。
「ごめんね、獅子には決まった人がいるから」
悪いことをしたような気分になり、一応謝っておこうと儀礼はぎこちなくも微笑んだ。
よどみ始めていた空気が、一気に花を持ったことに、儀礼は気付かなかった。
キャー!
一呼吸おいた後、少女達の口から出たのは、悲鳴――ではなく、驚嘆の声だった。
「……?」
誰か、有名人でもいたのか? と周囲を見回すが、周囲の人間が、少女達の声に驚いて、こちらをみているばかり。
「かわいいー!」
口々に言う少女達。
その言葉に、儀礼はようやく思い至った。自分が獅子のかわりのエサにされたことに。
『にっこり笑うだけでいいから』
その言葉の意味がやっとわかった。これでは子犬や子猫と同じ扱いだ。
(利香ちゃん……別にいいけどさ……)
仲間に売られたことに、ほんの少し泣きたくなる儀礼。
目じりの涙に気付いたのか、少女達の中でも年長らしい女性が、儀礼に話しかけてきた。
「泣かないで、ごめんね。びっくりさせちゃったかしら。私はオーシャン。あなたは? よかったら、おわびにごちそうさせてくれない? 夕食はもう済ませたかしら?」
まるきり子ども扱いをする。
(うう……)
どこまでも、落ち込みそうになる気持ちを押さえ、なんとか、子ども扱いに対抗しようと、大人な態度を心がける。
怒らず、いじけず、笑顔で許す。儀礼にとっての大人のイメージで、儀礼は言う。
「大丈夫ですよ。僕は、ギレイです。おごるのはいいんで、どこかに座って食べられるいいところがあったら教えてください。どこも大会のせいで混んでいて」
獅子と利香のことはもういいだろう。人をえさにしたんだ。せいぜい仲良くしてくれ。村にいた頃の苦労を思えばどうってことない。
にっこりとした儀礼の笑顔に、少女達が心奪われたことに、儀礼本人は気付かない。
「ファンタジー」の人気作品
書籍化作品
-
-
841
-
-
26950
-
-
37
-
-
93
-
-
0
-
-
39
-
-
3395
-
-
23252
-
-
314
コメント