ギレイの旅
剣術大会決勝
いよいよ決勝の舞台へと獅子は上がった。試合開始前の緊張から広い会場がしんと静まり返っている。
舞台の反対側にウォールが立つ。
大勢の大会参加者がいる中で、貸し出し用の武器を使ったそのたった二人が決勝へと残った。武器の力ではない。まさに実力。
その片方はライセンスを取ったばかりのDランクの少年だと言うのだから尚更興味をひく。
「リョウくーん! 頑張って~!」
利香ではない、複数の少女の声が重なる。いつの間にか獅子を応援する女性の数が増えていた。
「了様ーっ! 勝ってくださーい!」
今度こそ利香の声。相手の強さを知ってまだ、獅子の勝利を信じている。
「勝たないわけにいかないよな」
自分に言い聞かせるように獅子はつぶやく。
審判が開始の合図をした。
様子を見るように二人は構えたまま動かないでいる。
静かな時間が続いた。
突然、獅子が笑った。
「っふ、読んでるだけじゃ始まらないよな」
楽しそうに笑うと、剣を片手で持ち、ひねるように大きく振りかぶるとウォールに向かって走り出す。
「おぅりゃ!」
素早く振り抜くが軽くかわされる。
「っせ!」
返す手で下から切り上げ、連撃に入る。獅子の実力を見るように次々とかわして行くウォール。
その速度が少しずつ上がっていく。
獅子が攻撃の手を速めたのか、ウォールがかわす足を速めたのか、わからない。
ウォールが刀を使い始めた。連続した剣戟の音が響く。
瞬間的に、ウォールの姿が消え、次の瞬間に硬い金属音と共に火花が散る。
獅子はウォールの動きを捉えているのか、消えた次の瞬間にまた火花。それを数度繰り返した後に、お互いに後ろに下がり距離を取る。
「今の動きが見えるとは思わなかった。お前本当にDランクか?」
刀の先を獅子に向けたまま油断なく話しかけるウォール。
「昨日判定されたから間違いないんだろう。俺はDランク。お前はDランクに倒されるんだよ」
本当に楽しそうに獅子は笑う。強い相手と戦えることへの喜び、だろうか。
「ふん、さすがにまだ倒されるわけにはいかないな。次は防げるか?」
言うと同時にウォールは突きを繰り出す。
ガガガン
一撃で三度の音がなった。
「三段突きとは、見たことなけりゃ危なかったな」
暗に使えるものが周りにいることを含ませながら獅子は構えを直す。
ぉおおおお!!!!
何が起こっているのかわからないながらも、観客は盛り上がる。すごいことが起こっているのは誰にでもわかった。
ならば、とウォールは集中力を高める。
一際速い一撃が獅子を襲う。
剣で軌道をずらすように打ち交わす。
ところが、当たっていないはずの腕が切れた。
ブシュッ 切れた部分から血が流れ始める。風圧でも、剣でもない。まるで刀の刃先が延びたように獅子の腕を切りつけた。
「なんだ、今の……」
もう一度、速い速度の一撃。今度は剣を合わせず、大きくかわす。
獅子のいた場所の床に細い亀裂が走った。
間違いない。刀の先は当たっていないのに地面は裂けた。そこに、何かを感じる。
(ああ……闘気だ)
何度となく使ってきた、その気を獅子はまとう。
肉体を強化する、闘うための気。使うには高い集中力が必要で、長時間持たせるのは難しい。
魔物と戦うためには大切な技だ。
ウォールはそれを刀にまとわせ、闘気の刃として放ってきたのだ。
獅子は素手で戦うことには慣れていたが、剣に闘気を合わせたことはなかった。しかし、目の前でやっている人物がいるのだ。やって、できないわけがない。
次々と速い攻撃を仕掛けてくるウォールから体裁きでかわしつつ、集中力を高めていく。
剣へ、体の一部のように闘気を流し込む。体に一体化したかのような錯覚を覚える。
ウォールのうってきた一撃をその剣で受ける。
獅子の闘気がウォールの刀の闘気を絡め取り、今度は体を切り裂かれることはない。
「ほお、使えるのか」
再び、驚いたようにウォールが言う。
今まで逃げ回っていた獅子が剣を受け止め、対等に切り結ぶ。Dランクの少年が、Aランクの剣士と、だ。
会場が盛り上がらないわけがない。
剣を交わすごとに、獅子の闘気が増していくことにウォールは気付いた。
力は拮抗している。あるのは経験の差。ウォールの額に冷や汗が流れた。
(化け物か……)
戦いを続ける間に、驚異の速さで成長していく。
ウォールの強さを吸収し、追い抜かんばかりの早さで。
まだ余裕はある、と思っていたウォールの鎧の端に傷が走った。剣を打ち合わせる度、小さな傷が一つずつ増えていく。
ガキン
強く打ち合った剣と刀が互いに大きくはじき合う。
二人は距離を取った。
獅子は息が上がっている。やはり格上相手での負担が大きいらしい。
しかし、傷が増えているのはウォールの方。鎧のわき腹部分が今の一撃で大きく裂けたのがわかった。皮膚には達していないので怪我にはなっていない。
だが……次はわからない。
獅子が上段に突きの構えをする。集中力が高まりすぎて周りが見えていないらしい。
おそらく、今は審判が制止したとしても聞こえないだろう。
あれを食らえばただでは済まない。剣士としての経験がウォールに警鐘を鳴らす。
「悪いが、本気を出させてもらうぞ」
言いながら、ウォールは 対人 ではない闘気を刀へと送り込む。
獅子が走りこんでくる。それに合わせ、迎え撃つ形でウォールはその刀を振り払った。
シュウウウン
剣先から出た渦のような物が、すぐに巨大な空気の壁となって獅子に襲い掛かった。
舞台の上によける場所を残さず、大きな透明な壁が通り過ぎ、獅子を舞台から叩き出した。
「勝負あり!」
審判の高らかな宣言。今年の優勝者が決まった。
うおおおお!!!
今日一番の歓声が、会場を壊さんばかりに爆発する。
ふぅ とウォールは大きく息をつく。
すると、ウォールの持っていた刀がボロボロと崩れだす。
「ああ、やっぱ安物の刀じゃだめか」
ポイ、と刀の柄を放り出し、ウォールは舞台を降りた。
「大丈夫か?」
地面に叩きつけられた獅子に近寄れば、元気そうに跳ね起きる。
「くっっそー!」
悔しそうに獅子は叫んだ。
「な~んか掴めそうだったのに。おい、あんたなんだよあの最後の技」
悔しそうではあるが、恨んでいる様子はない。対魔物用の攻撃を受け、ぴんぴんしている少年に驚愕する。
「お前の方こそ何者だ? ただの新人じゃないだろう。どこかで訓練でも受けたのか?」
「親父に子供の頃から鍛えられたかな。親父は村で武術を教えてる」
「そうか。お前、すぐに強くなりそうだ」
司会者達に呼ばれ二人は表彰台へと上がる。
ウォールと獅子を中心に、大会を盛り上げたベスト16がずらりと並ぶ。
観客から盛大な拍手。優勝と準優勝の二人には賞金も送られた。
「これで文無しじゃなくなってよかったね、獅子」
儀礼が笑いながら言う。
「おう」
嬉しそうに獅子も笑っている。これで毎日食料を狩る必要がない。
「了様すごいです。準優勝おめでとうございます」
利香が獅子の腕に抱きつく。
「ありがとな、利香」
獅子が利香の頭をなでる。
「あ、僕ティルの鉤爪直すって約束してたんだ。先、宿に戻るね」
「私まだ名物のストーフィム団子食べてなーい」
大会の騒々しさをまだ残したまま、町はゆっくり日常へと戻って行くのだった。
舞台の反対側にウォールが立つ。
大勢の大会参加者がいる中で、貸し出し用の武器を使ったそのたった二人が決勝へと残った。武器の力ではない。まさに実力。
その片方はライセンスを取ったばかりのDランクの少年だと言うのだから尚更興味をひく。
「リョウくーん! 頑張って~!」
利香ではない、複数の少女の声が重なる。いつの間にか獅子を応援する女性の数が増えていた。
「了様ーっ! 勝ってくださーい!」
今度こそ利香の声。相手の強さを知ってまだ、獅子の勝利を信じている。
「勝たないわけにいかないよな」
自分に言い聞かせるように獅子はつぶやく。
審判が開始の合図をした。
様子を見るように二人は構えたまま動かないでいる。
静かな時間が続いた。
突然、獅子が笑った。
「っふ、読んでるだけじゃ始まらないよな」
楽しそうに笑うと、剣を片手で持ち、ひねるように大きく振りかぶるとウォールに向かって走り出す。
「おぅりゃ!」
素早く振り抜くが軽くかわされる。
「っせ!」
返す手で下から切り上げ、連撃に入る。獅子の実力を見るように次々とかわして行くウォール。
その速度が少しずつ上がっていく。
獅子が攻撃の手を速めたのか、ウォールがかわす足を速めたのか、わからない。
ウォールが刀を使い始めた。連続した剣戟の音が響く。
瞬間的に、ウォールの姿が消え、次の瞬間に硬い金属音と共に火花が散る。
獅子はウォールの動きを捉えているのか、消えた次の瞬間にまた火花。それを数度繰り返した後に、お互いに後ろに下がり距離を取る。
「今の動きが見えるとは思わなかった。お前本当にDランクか?」
刀の先を獅子に向けたまま油断なく話しかけるウォール。
「昨日判定されたから間違いないんだろう。俺はDランク。お前はDランクに倒されるんだよ」
本当に楽しそうに獅子は笑う。強い相手と戦えることへの喜び、だろうか。
「ふん、さすがにまだ倒されるわけにはいかないな。次は防げるか?」
言うと同時にウォールは突きを繰り出す。
ガガガン
一撃で三度の音がなった。
「三段突きとは、見たことなけりゃ危なかったな」
暗に使えるものが周りにいることを含ませながら獅子は構えを直す。
ぉおおおお!!!!
何が起こっているのかわからないながらも、観客は盛り上がる。すごいことが起こっているのは誰にでもわかった。
ならば、とウォールは集中力を高める。
一際速い一撃が獅子を襲う。
剣で軌道をずらすように打ち交わす。
ところが、当たっていないはずの腕が切れた。
ブシュッ 切れた部分から血が流れ始める。風圧でも、剣でもない。まるで刀の刃先が延びたように獅子の腕を切りつけた。
「なんだ、今の……」
もう一度、速い速度の一撃。今度は剣を合わせず、大きくかわす。
獅子のいた場所の床に細い亀裂が走った。
間違いない。刀の先は当たっていないのに地面は裂けた。そこに、何かを感じる。
(ああ……闘気だ)
何度となく使ってきた、その気を獅子はまとう。
肉体を強化する、闘うための気。使うには高い集中力が必要で、長時間持たせるのは難しい。
魔物と戦うためには大切な技だ。
ウォールはそれを刀にまとわせ、闘気の刃として放ってきたのだ。
獅子は素手で戦うことには慣れていたが、剣に闘気を合わせたことはなかった。しかし、目の前でやっている人物がいるのだ。やって、できないわけがない。
次々と速い攻撃を仕掛けてくるウォールから体裁きでかわしつつ、集中力を高めていく。
剣へ、体の一部のように闘気を流し込む。体に一体化したかのような錯覚を覚える。
ウォールのうってきた一撃をその剣で受ける。
獅子の闘気がウォールの刀の闘気を絡め取り、今度は体を切り裂かれることはない。
「ほお、使えるのか」
再び、驚いたようにウォールが言う。
今まで逃げ回っていた獅子が剣を受け止め、対等に切り結ぶ。Dランクの少年が、Aランクの剣士と、だ。
会場が盛り上がらないわけがない。
剣を交わすごとに、獅子の闘気が増していくことにウォールは気付いた。
力は拮抗している。あるのは経験の差。ウォールの額に冷や汗が流れた。
(化け物か……)
戦いを続ける間に、驚異の速さで成長していく。
ウォールの強さを吸収し、追い抜かんばかりの早さで。
まだ余裕はある、と思っていたウォールの鎧の端に傷が走った。剣を打ち合わせる度、小さな傷が一つずつ増えていく。
ガキン
強く打ち合った剣と刀が互いに大きくはじき合う。
二人は距離を取った。
獅子は息が上がっている。やはり格上相手での負担が大きいらしい。
しかし、傷が増えているのはウォールの方。鎧のわき腹部分が今の一撃で大きく裂けたのがわかった。皮膚には達していないので怪我にはなっていない。
だが……次はわからない。
獅子が上段に突きの構えをする。集中力が高まりすぎて周りが見えていないらしい。
おそらく、今は審判が制止したとしても聞こえないだろう。
あれを食らえばただでは済まない。剣士としての経験がウォールに警鐘を鳴らす。
「悪いが、本気を出させてもらうぞ」
言いながら、ウォールは 対人 ではない闘気を刀へと送り込む。
獅子が走りこんでくる。それに合わせ、迎え撃つ形でウォールはその刀を振り払った。
シュウウウン
剣先から出た渦のような物が、すぐに巨大な空気の壁となって獅子に襲い掛かった。
舞台の上によける場所を残さず、大きな透明な壁が通り過ぎ、獅子を舞台から叩き出した。
「勝負あり!」
審判の高らかな宣言。今年の優勝者が決まった。
うおおおお!!!
今日一番の歓声が、会場を壊さんばかりに爆発する。
ふぅ とウォールは大きく息をつく。
すると、ウォールの持っていた刀がボロボロと崩れだす。
「ああ、やっぱ安物の刀じゃだめか」
ポイ、と刀の柄を放り出し、ウォールは舞台を降りた。
「大丈夫か?」
地面に叩きつけられた獅子に近寄れば、元気そうに跳ね起きる。
「くっっそー!」
悔しそうに獅子は叫んだ。
「な~んか掴めそうだったのに。おい、あんたなんだよあの最後の技」
悔しそうではあるが、恨んでいる様子はない。対魔物用の攻撃を受け、ぴんぴんしている少年に驚愕する。
「お前の方こそ何者だ? ただの新人じゃないだろう。どこかで訓練でも受けたのか?」
「親父に子供の頃から鍛えられたかな。親父は村で武術を教えてる」
「そうか。お前、すぐに強くなりそうだ」
司会者達に呼ばれ二人は表彰台へと上がる。
ウォールと獅子を中心に、大会を盛り上げたベスト16がずらりと並ぶ。
観客から盛大な拍手。優勝と準優勝の二人には賞金も送られた。
「これで文無しじゃなくなってよかったね、獅子」
儀礼が笑いながら言う。
「おう」
嬉しそうに獅子も笑っている。これで毎日食料を狩る必要がない。
「了様すごいです。準優勝おめでとうございます」
利香が獅子の腕に抱きつく。
「ありがとな、利香」
獅子が利香の頭をなでる。
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