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ギレイの旅

千夜ニイ

剣術大会決勝前控え室

「決勝まで残るなんて、さすが了様です! 了様なら、このまま優勝できます」


 決勝戦までに三十分ほどの休憩があった。
 利香やギルドのメンバーと連れ立って、獅子のいる控え室へと押しかけた。
 獅子の姿を見るなり利香は獅子に抱きつく。


「おう」


 利香の頭をなでながら獅子が答える。


「あ、私達お茶でも飲んできちゃおっか」


 キサが今来た道を引き返そうとする。


「ああ、儀礼。さっきはありがとうな」


 目の前にいた大人たちがどき、儀礼の姿が見えて獅子が言った。


「ううん、みごとだったね」


 ニッと儀礼が笑い二人は手を打ち合わせる。


「何です?」


 理解できない利香が二人の顔を見比べる。
 その会話に興味を持って、出て行こうとしていたメンバーが足を止める。


「なになに? 何の話?」


 キサが儀礼の横に顔を出す。


「儀礼のおかげで勝てたからからさ」


 獅子が大きく息を吐く。


「まじで負けるかと思ったからな」


 真剣な顔でやぶれた服を見る。


「こいつのおかげって、こいつが言ったの背後が空いてるってだけだろ? 読まれてたじゃねぇか」


 ハンが儀礼の頭を小突く。


「それがかく乱になってんだよ。俺は跳べって言われて跳んだだけ。そしたらあいつの首ががら空きだったんだ」


 にやりと笑う獅子。


「ふーん、迷子の割りにやるなぁ」


 ハンはぐしゃぐしゃと乱暴に儀礼の頭をなでる。


「迷子はもうやめてくださいって!」


「儀礼君、迷子になったの?」


 利香が儀礼の顔を覗き込む。


「違うから、利香ちゃん。拓ちゃんのいたずらだから」


 涙目で訴える儀礼に、利香は思わず頭をなでてあげた。


「おっ、お前らここにいたのか」


 先ほどの試合で倒れたティルが控え室へ入ってきた。


「大丈夫か?」


「ああ、もうなんともないさ。負けちまったなぁ。今日は調子いいから絶対いけると思ったのに」


 悔しそうに拳を握っているティル。


「お前勝てると思うか?」


 ティルが真剣な面持ちで獅子に聞く。


「……正直、あのウォールってすっげぇ強い奴だと思う。でも戦うからには勝つ気でいく」


 獅子の気迫にティルがうなずく。


「あいつ、どんどんペース上げてって、最後の一瞬は俺には何が起こったのかわからなかった。でもさ、感じたんだ。あいつはまだ何か隠してる」


「何か?」


「ああ、俺は奴の力を最後まで引き出せなかったが、あのスピード以外になんか技を持ってる。まったく、準決勝で余裕見せられちゃたまらねぇぜ。だからさ、お前、あいつぶっ飛ばしちまえ」


 ティルは笑って言うが、ランクDの人間に言ってできることとは思えない。
 普通ならば。
 そこにいたメンバーにからかうものはいない。今までの戦いから、もしかしたらと言う思いがあった。


「ぶっ倒してやる」


 獅子は笑い、ティルと拳を打ち合わせた。

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