ギレイの旅
剣術大会準決勝
大会は準決勝へと進んだ。
第一試合は獅子と大柄なAランクの男。見た目だけでもどちらが勝つかは歴然としていた。
Dランクの既製品の剣を持った少年と、大きな幅広の剣を振り回すAランクの男。
「了様ーっ、きっと勝ってください!」
利香の応援がいじらしい。観客席に回ってきたキサがその頭をなでる。
「リョウ君が負けても慰めてあげてね、リカちゃん。負けてあたりまえだから。ここまでよくやったよあいつ」
「了様は負けません」
利香が頬を膨らませてむくれている。
「いや、相手はAランクだからな」
ハンが利香を宥めるように言う。
「それでも了様は強いんです!」
可愛らしい女の子が顔を赤くして言うものだから、それ以上誰も何も言わなかった。
「はいはい、獅子は強いよねー。そういえば利香ちゃん、どうやってここまできたの?」
儀礼が利香の言葉を適当に流しながら質問する。
「え? えっと、馬車よ。近くの町に知り合いの家があって、そこから馬車に乗ってきたの」
少し慌てたように利香は笑う。
「送ってもらったの?」
「ううん、公共の馬車」
「よく乗れたね。乗る場所とか降りる場所、迷わなかった?」
驚いたように瞳を開く儀礼。
「大丈夫よ、目の前で乗って、親切な御者さんが降りる時も教えてくれたから」
「そうなんだ。知り合いってお父さんの仕事の関係? 親戚とかだったら僕でも名前くらい知ってそうだけど」
儀礼の質問に利香は困ったように視線を泳がせる。
「えっと、お父様の知り合いなの。小さい時にお世話になったことがあって」
「ふ~ん、あ、獅子の試合が始まるよ」
儀礼が指差せば審判が試合開始の合図をするところだった。
(知り合い。馬車が目の前で止まる場所。大きな町か。追いつけるわけないんだけどな……)
利香の顔を見ながら儀礼は頭を悩ませた。
大きな男が力を誇示するように剣を振り下ろす。風圧が離れて立つ獅子の服や髪を揺らした。
「大怪我をする前に降参した方が身の為だぞ」
大男が親切にも忠告をする。
獅子はその風を受けてにやりと笑う。
「確かにあんたは強いかもしれないけど、俺はもっと強い人間を知ってる。戦う前に逃げ出すなんてありえないな」
剣を体の中心に構えて獅子は相手をにらみ付ける。
「ならば、潔く負けるがいい!」
男がブン、ブンと二度続けて大剣を振るう。
二重の風が獅子を襲う。転がるようにそれをよけ、近付いてきた男に切りかかる。よけるつもりもないのか、男は大剣を前に立てる様に構え獅子の剣がぶつかる。
重い剣に、獅子の持つ安物の剣では歯が立たない。
「ちっ、さすがに武器の違いがあるか」
獅子は素早く後方に下がり距離を取る。間を空けず男は走りこんでくる。
間合いに入る前に獅子は横に大きく跳んだ。
余裕を持ってよけたはずなのに、服の裾が裂ける。
「まじかよ」
「今のをよけるとはいい動きをするな」
男は余程意外だったのか楽しそうに笑い、次々と風圧を送り出す。
獅子はよけるので手一杯になった。
「くっ、これじゃ攻撃できねぇ。もっと近付かなきゃ」
走りながら、獅子は男の隙を探る。その間にも体中に擦り傷や切り傷が増えていく。速度を落とせば即負けだ。
「了様頑張って!」
利香の応援が聞こえた。大切な少女を置いて旅に出た手前、こんなところで負けるわけにはいかない。
「獅子、後ろだ! 背後が空いてる、『天』!」
儀礼の叫ぶ声が聞こえた。言われた瞬間に獅子は上空へと飛び上がる。足元を鋭い風が吹き抜けてゆく。
「ばかめ、背後はわざと空けたんだ」
男は凶暴な笑みを浮かべ片腕で、その大きな剣を背後へと振り切った。
ズシン。地響きを立て大剣が地面へと突き刺さる。
しかし男の背後に、獅子の姿はない。
「こっちだよ」
男の肩の上に降り立ち、その首へ剣を突きつけている獅子の姿があった。
「勝負あり!」
割れんばかりの歓声が上がった。
第二試合、ティル 対 ウォール。
スピードに乗るティル。そのスピードに遅れを取らないウォール。
ティルの素早い攻撃から始まり、しだいにウォールの攻撃へと切り替わっていった。
ティルがよけ始める。素早い足裁きで、舞台狭しと駆け回る。
二人のスピードはぐんぐん上がって行くようだった。
「なに、あれ。こんなの今まで見たことない」
呆然とするキサ。
よけて回るティルの足元、攻撃を繰り出すウォールの刃、その動きが複雑で速く、目で追うことが困難になる。
だが、避け続けているティルに疲れが見え始めた。少しずつ、傷を負うようになる。
「……っこのまま負けてたまるか」
ティルは短剣を逆手に持ち替え、刃先をウォールへと向ける。
ウォールの繰り出した突きをティルは手の甲で受け止める。
キンと金属音がして、ウォールの持つ刀の刃が止まる。ティルの手甲には仕込まれたかぎ爪がある。強い衝撃に顔を歪ませながらも、ティルはもう一歩を踏み込みウォールめがけて短剣を突きつける。
ティルが届くと思った瞬間、ウォールの姿が消えた。
「なん……がはっ」
突然背後から首元に衝撃を受けて、ティルは倒れた。
「勝負あり!」
審判の声に、観客は沸きあがる。
救護の者がティルに駆け寄る。しかし、切られたはずの首に傷はない。
「こっちの刃のない方で打ったから、しばらくしたら目覚める」
ウォールは刀の峰で自分の手のひらを叩いて見せる。
その余裕の発言に、再び会場が沸いた。
第一試合は獅子と大柄なAランクの男。見た目だけでもどちらが勝つかは歴然としていた。
Dランクの既製品の剣を持った少年と、大きな幅広の剣を振り回すAランクの男。
「了様ーっ、きっと勝ってください!」
利香の応援がいじらしい。観客席に回ってきたキサがその頭をなでる。
「リョウ君が負けても慰めてあげてね、リカちゃん。負けてあたりまえだから。ここまでよくやったよあいつ」
「了様は負けません」
利香が頬を膨らませてむくれている。
「いや、相手はAランクだからな」
ハンが利香を宥めるように言う。
「それでも了様は強いんです!」
可愛らしい女の子が顔を赤くして言うものだから、それ以上誰も何も言わなかった。
「はいはい、獅子は強いよねー。そういえば利香ちゃん、どうやってここまできたの?」
儀礼が利香の言葉を適当に流しながら質問する。
「え? えっと、馬車よ。近くの町に知り合いの家があって、そこから馬車に乗ってきたの」
少し慌てたように利香は笑う。
「送ってもらったの?」
「ううん、公共の馬車」
「よく乗れたね。乗る場所とか降りる場所、迷わなかった?」
驚いたように瞳を開く儀礼。
「大丈夫よ、目の前で乗って、親切な御者さんが降りる時も教えてくれたから」
「そうなんだ。知り合いってお父さんの仕事の関係? 親戚とかだったら僕でも名前くらい知ってそうだけど」
儀礼の質問に利香は困ったように視線を泳がせる。
「えっと、お父様の知り合いなの。小さい時にお世話になったことがあって」
「ふ~ん、あ、獅子の試合が始まるよ」
儀礼が指差せば審判が試合開始の合図をするところだった。
(知り合い。馬車が目の前で止まる場所。大きな町か。追いつけるわけないんだけどな……)
利香の顔を見ながら儀礼は頭を悩ませた。
大きな男が力を誇示するように剣を振り下ろす。風圧が離れて立つ獅子の服や髪を揺らした。
「大怪我をする前に降参した方が身の為だぞ」
大男が親切にも忠告をする。
獅子はその風を受けてにやりと笑う。
「確かにあんたは強いかもしれないけど、俺はもっと強い人間を知ってる。戦う前に逃げ出すなんてありえないな」
剣を体の中心に構えて獅子は相手をにらみ付ける。
「ならば、潔く負けるがいい!」
男がブン、ブンと二度続けて大剣を振るう。
二重の風が獅子を襲う。転がるようにそれをよけ、近付いてきた男に切りかかる。よけるつもりもないのか、男は大剣を前に立てる様に構え獅子の剣がぶつかる。
重い剣に、獅子の持つ安物の剣では歯が立たない。
「ちっ、さすがに武器の違いがあるか」
獅子は素早く後方に下がり距離を取る。間を空けず男は走りこんでくる。
間合いに入る前に獅子は横に大きく跳んだ。
余裕を持ってよけたはずなのに、服の裾が裂ける。
「まじかよ」
「今のをよけるとはいい動きをするな」
男は余程意外だったのか楽しそうに笑い、次々と風圧を送り出す。
獅子はよけるので手一杯になった。
「くっ、これじゃ攻撃できねぇ。もっと近付かなきゃ」
走りながら、獅子は男の隙を探る。その間にも体中に擦り傷や切り傷が増えていく。速度を落とせば即負けだ。
「了様頑張って!」
利香の応援が聞こえた。大切な少女を置いて旅に出た手前、こんなところで負けるわけにはいかない。
「獅子、後ろだ! 背後が空いてる、『天』!」
儀礼の叫ぶ声が聞こえた。言われた瞬間に獅子は上空へと飛び上がる。足元を鋭い風が吹き抜けてゆく。
「ばかめ、背後はわざと空けたんだ」
男は凶暴な笑みを浮かべ片腕で、その大きな剣を背後へと振り切った。
ズシン。地響きを立て大剣が地面へと突き刺さる。
しかし男の背後に、獅子の姿はない。
「こっちだよ」
男の肩の上に降り立ち、その首へ剣を突きつけている獅子の姿があった。
「勝負あり!」
割れんばかりの歓声が上がった。
第二試合、ティル 対 ウォール。
スピードに乗るティル。そのスピードに遅れを取らないウォール。
ティルの素早い攻撃から始まり、しだいにウォールの攻撃へと切り替わっていった。
ティルがよけ始める。素早い足裁きで、舞台狭しと駆け回る。
二人のスピードはぐんぐん上がって行くようだった。
「なに、あれ。こんなの今まで見たことない」
呆然とするキサ。
よけて回るティルの足元、攻撃を繰り出すウォールの刃、その動きが複雑で速く、目で追うことが困難になる。
だが、避け続けているティルに疲れが見え始めた。少しずつ、傷を負うようになる。
「……っこのまま負けてたまるか」
ティルは短剣を逆手に持ち替え、刃先をウォールへと向ける。
ウォールの繰り出した突きをティルは手の甲で受け止める。
キンと金属音がして、ウォールの持つ刀の刃が止まる。ティルの手甲には仕込まれたかぎ爪がある。強い衝撃に顔を歪ませながらも、ティルはもう一歩を踏み込みウォールめがけて短剣を突きつける。
ティルが届くと思った瞬間、ウォールの姿が消えた。
「なん……がはっ」
突然背後から首元に衝撃を受けて、ティルは倒れた。
「勝負あり!」
審判の声に、観客は沸きあがる。
救護の者がティルに駆け寄る。しかし、切られたはずの首に傷はない。
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