ギレイの旅

千夜ニイ

剣術大会準々決勝

 これで上位八人が出揃った。
 ウォール、キサ、ティル、獅子。知った名が四人も残っている。


「絶対優勝するぞーっ」


 ストーフィム出身で残ったのが自分だけと知り、ティルが燃えている。
 昼食の後、準々決勝の組み合わせが決まった。準々決勝からは広い舞台で1試合ずつ行われる。


 第一試合
 獅子 対 キサ。


「いきなり身内戦かぁ。ま、ここまで当たらなかったのが奇跡かな」


 舞台の上、試合前とは思えない友好的な態度でキサが獅子に言う。


「そうだな」


 剣を確かめるように大きく振って、楽しくて仕方ないと言う顔で獅子は応える。


「そんな剣でよく残れたね。というか、昨日ライセンス取ったばかりなんだよね? Dランクでここまで来た方が奇跡か」


 キサの言葉に観客が湧き立つ。唯一残った女性選手にたくさんの応援がついていた。


「俺は優勝目指してるぞ」


 にやりと笑った獅子に、今度は黄色い声が上がる。利香一人ではない。会場のあちこちから。
 審判の合図で試合が始まった。


 広い舞台を有効に使い、二人は距離を取り合う。互いに一気に距離をつめ、剣の交わる音が続く。


「これでこそ剣術大会だ、いいぞキサ! 坊主も頑張れ~」


 ハンや仲間たちが応援している。


 長い打ち合い、二分、三分、まだ続いている。
 だんだんとキサの額に汗が溢れてくる。半袖のせいか獅子はまだ涼しい顔だ。


「くっ」


 力で押され始めたキサが少しずつ後退を始める。
 キンキンキンキンカンッ
 速いテンポで打ち合う音が響く。
 後方の距離を気にしたキサがほんの一瞬目線をはずす。
 その一瞬に獅子は剣速を上げ勢いよくキサの剣を切り上げる。


「あっ!」


 キサの剣が宙に舞い、獅子の剣先はキサの胸元に止まった。


「勝負あり! 」


 カラン、という剣の落ちる音と共に、観客が一斉にわいた。


「なんと、勝負を制したのはDランクのリョウ・シシクラ選手!!!」


 会場内に響く司会の声に、場内は一層の盛り上がりを見せた。


 第二試合はAランクとBランクの戦いで、順当にAランクの大柄な男が残った。
 大きな剣の風圧で相手を吹き飛ばす様な戦い方。予選の頃から目立って、優勝候補の一人だった。


 第三試合はティル。相手も同じくBランク。
 前の試合でAランクに勝ち、優勝すると張り切っているティルは波に乗っていた。
 この試合でティルは武器を短い物に持ち替え、動きやすさを重視している。


「開始!」「勝負あり!」


 二つの声がほとんど同時に発された。
 審判の開始の合図と同時にティルは飛び出し、相手が構える前にその首元に短剣を突きつけていた。


「「「わーっ!!!」」」


 一瞬何が起こったかわからなかった場内を、一気に歓声が震わせる。


「すげぇー、ティル!」


「また速くなったな、あいつ」


 儀礼の周りで一緒に来たメンバーが、ティルの活躍に沸いている


「本当に速かったですね。あれがいつでも出せたらAランクになるんじゃないですか?」


「ありえるな。ティルに追いつかれちまうのか」


 がはは、とハンが嬉しそうに笑って言った。


 第四試合
 ウォール 対 Aランクの男。ここはAランク同士の戦いになった。
 細身の刀を持つウォールに対し、相手はサーベルのような少し弓なりの剣を片手で持っている。


 二人の男が距離を取って睨み合う。サーベルの男は、長身のウォールの間合いの長さに警戒しているようだ。
 一歩、距離をつめウォールが速い突きを繰り出す。
 避けたはずのサーベルの男の服が切れ、わずかに血が流れる。男は険しい表情になり屈むように構えを変えた。


 ウォールがゆっくりと舞台の端を歩き始める。お互いに相手のタイミングを見計らっているようだ。
 観客が息を飲む長い睨み合いの時間が続き、ウォールが大股な一歩を踏み出す。それを待っていたかのようにサーベルの男が勢いよく飛び出した。


 膝を屈めて体に溜めていた威力がそのままサーベルにのる。
 間一髪で避けたウォールだが、腹部の鎧が切り裂かれている。
 しかしそれを気にした様子もなく、ウォールはさらに前に踏み込む。


 次の瞬間、ウォールの突きがサーベルの男を体ごと吹き飛ばしていた。数メートル転がりながらも、男は腹部を押さえて舞台上に留まる。
 痛みをこらえ、男が前を向いた時には、ウォールが距離を詰めて立っていた。


「しまっ……」


 サーベルを構えるも防ぐには足りず、振り切ったウォールの刀に押され、男は場外へと落ちた。


「勝負あり!」
 審判の声が響き、Aランク同士の戦いが終わった。

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