ギレイの旅
剣術大会4
はぁ、とため息をつくと儀礼はそれを深呼吸に変える。
「その車のラジコンがあったそばに、片手鍋みたいな形したのがあったでしょ。頭にプロペラがついてるやつ」
儀礼は紙に絵を書きながら説明する。
「ああ、あったな。操作がわからなかったからそれはそのまま置いてあるぞ」
「あれはちょっと特殊だから」
苦笑する儀礼。昔どっかの機関が情報を盗もうとした機械を分解、再利用させてもらったのだ。
「それにさ、えーと、ちょっと待ってね」
言いながら、儀礼は白衣の中からノートパソコンを取り出す。
ライセンスを取るときに壊れたのとは別の物。小さい分性能が悪いが仕方がない。
「これにデータの14番を入れて、と」
数分かかる間に、紙を使って説明を続ける。
「今データ入れてるこれを、そのラジコンの前の部分につけて、こっちのシールみたいなのを背中部分に張って」
ポケットからがさごそとそれらの部品を取り出す儀礼。
「で、こっちの板の固まりみたいのを、このカバーはずした中にはめ込むんだ。できなかったら、父さんならわかると思うんだけど」
「たぶんできるな。そう難しくない」
説明を真面目に聞きながら拓がうなずく。
「うん。そしたら、それを利香ちゃんにあげて」
データを入れ終えた最初の部品も拓に渡し、にっこりと儀礼が笑う。
「何で利香に?」
訝しむように拓が聞く。
「少しでも寂しさが和らいだらって。珍しい物があれば気が紛れるだろ」
「ふーん、確かにな」
拓は納得したようで、儀礼に渡された部品を腰の袋の中にしまう。
「何で利香を連れて帰るって思うんだ?」
間もなく四回戦が始まろうとしていた。利香に見つかる前に席に戻るつもりなのだろう、拓はフードを被る。
「だって、護衛がついてない。拓ちゃんはともかく、護衛なしで利香ちゃんを旅に出すなんて領主様が許さないでしょ」
儀礼が言えばなるほどな、と頷いて拓は観客席へと戻って行った。
四回戦が始まった。
舞台は先ほどと違って多少動き回るスペースがある。制限時間は十分。二つの試合が同時に行われる。
相手を舞台から落とすか、相手に負けを認めさせれば勝ちになる。そして、相手を殺してはいけない。
残った十六人がくじをひき、対戦順と相手を決める。
第一試合に出るウォールは予選の間ずっと被っていたフードをはずしていた。獅子が強いと言った、その本領が見られるだろうか。
対戦相手は100番の男。
一緒にギルドから来た中では一番力があるらしい。ただし、愛用の武器はハンマーだと言う。
「残った選手の中で一番の長身、ウォール・カシュリー。対するは、力に勝るハン・ドリー」
審判が一人ずつ簡単に紹介する。
長身の男、ウォールは先ほど拓から儀礼を助けてくれた男だった。
「これは、さっきのお礼に、獅子と戦うまでウォールさんを応援しよう」
「なんだど!? 一緒に来たのに裏切るかっ」
すでに負けたメンバーが観客席に回ってきていた。
「恩人なんですよ。さっき危ないところを助けてもらったんです」
試合が始まった。
ハンが大きな剣を構え、振り上げた。その懐へウォールが走りこむ。速い。
ハンは力によって剣を勢いよく振り下ろす。当たれば死ぬのではと言う威力だ。しかし、剣は地面を叩く。
「なに?」
ハンの驚く声がした。
「落とさなければいけないってのは、速さの剣には不利だよな」
ウォールの声はハンの後ろから聞こえてきた。
その首筋には冷たい刀の刃。
「勝負あり、ウォール・カシュリー!」
審判が宣言した。
「うーん、速さがあるのはわかったけど、戦い方がわかるほどじゃなかったね」
儀礼が言えば、隣にいたギルドのメンバーが目を剥いている。
「ハンさんはAランクだぞ。俺達ん中で一番強いんだぞ。ハンさんがあんな一瞬で負けるなんて」
「ハンさん、油断してたんですよ。ウォールさんは背が高いし、予選の時は相手の剣を受け止めて払ってましたから、自分と同じ力技でくると思ったんじゃないですか?」
儀礼の冷静さに男は儀礼の服を掴みぐらぐらと体を揺らす。
「もっと悔しがれ!」
昨日知り合った人相手に難しい注文だ。
第二試合にはキサとティルが出る。お互い別々の対戦相手だが。
キサは基本に忠実なきれいな戦い方をしていた。相手の荒い攻撃を剣で流し、できた隙にするどい一撃を急所に入れる。ぴたりと寸前で止まる剣先が格好いい。
キサの勝利が決まった。
隣の舞台ではティルが剣術大会と思えぬ軽快さで舞台の上を跳ね回っている。むきになって剣を振り回して追いかける相手は息があがっている。
「うわっ、おしいな。おっと当たるかも」
楽しそうに余裕を見せるティルだが、ランクBのティルに対して相手はランクA。
「このぉっ!」
相手が思い切りよく剣を振ったのを見てティルはその剣の下をくぐるようにかわす。
そのまま足元を狙って剣の腹で払う。
ひざの裏を押された男は、重心を戻せず前のめりに倒れる。倒れる途中で男は自分が舞台の端に誘導されていたことにようやく気付いた。
ドシンッ、男が舞台から落ちて、ティルの勝ちが決まった。
第四試合、獅子の番だ。
「了様ーぁ!」
ここぞとばかりに利香は声を張り上げる。
獅子は聞き取れたようでまたも剣を振る。
「ランクDながらここまで残った若干十五歳のリョウ・シシクラ。対するは今年も出場記録更新中、ミハイ・サンヤ」
ミハイは白髪まじりの骨ばったおじいさんだった。よく予選を勝ち抜けた、と思うほどである。
しかし、勝ち残っただけありただのじいさんではなかった。年からは考えられない鋭い突き、ほとんど場所を動かずに多方面への攻撃をする。
移動しない分体力を温存し、攻めて来た相手にカウンターのごとく突きを浴びせる。
おおー! 異色のカードに観客は盛り上がる。
「やりにくいな。年寄りはいたわりたいんだよ!」
獅子が剣を斜めに構えて突進する。玉砕覚悟かと、周りは思った。
ミハイの突きが獅子の腹部を狙う。怪我をしても救護に魔法使いがいる。殺さなければいいのだ。
その突きを獅子は剣で切りつけ地面へと落とす。
ガン、と音がしてミハイの剣の先は舞台へと突き刺さっていた。無防備になったミハイに獅子は剣を突きつける。
「勝負あり!」
獅子の勝ちが決まった。
「了様ー! さすがです」
誰よりも速く、利香の声援が届いた。
「その車のラジコンがあったそばに、片手鍋みたいな形したのがあったでしょ。頭にプロペラがついてるやつ」
儀礼は紙に絵を書きながら説明する。
「ああ、あったな。操作がわからなかったからそれはそのまま置いてあるぞ」
「あれはちょっと特殊だから」
苦笑する儀礼。昔どっかの機関が情報を盗もうとした機械を分解、再利用させてもらったのだ。
「それにさ、えーと、ちょっと待ってね」
言いながら、儀礼は白衣の中からノートパソコンを取り出す。
ライセンスを取るときに壊れたのとは別の物。小さい分性能が悪いが仕方がない。
「これにデータの14番を入れて、と」
数分かかる間に、紙を使って説明を続ける。
「今データ入れてるこれを、そのラジコンの前の部分につけて、こっちのシールみたいなのを背中部分に張って」
ポケットからがさごそとそれらの部品を取り出す儀礼。
「で、こっちの板の固まりみたいのを、このカバーはずした中にはめ込むんだ。できなかったら、父さんならわかると思うんだけど」
「たぶんできるな。そう難しくない」
説明を真面目に聞きながら拓がうなずく。
「うん。そしたら、それを利香ちゃんにあげて」
データを入れ終えた最初の部品も拓に渡し、にっこりと儀礼が笑う。
「何で利香に?」
訝しむように拓が聞く。
「少しでも寂しさが和らいだらって。珍しい物があれば気が紛れるだろ」
「ふーん、確かにな」
拓は納得したようで、儀礼に渡された部品を腰の袋の中にしまう。
「何で利香を連れて帰るって思うんだ?」
間もなく四回戦が始まろうとしていた。利香に見つかる前に席に戻るつもりなのだろう、拓はフードを被る。
「だって、護衛がついてない。拓ちゃんはともかく、護衛なしで利香ちゃんを旅に出すなんて領主様が許さないでしょ」
儀礼が言えばなるほどな、と頷いて拓は観客席へと戻って行った。
四回戦が始まった。
舞台は先ほどと違って多少動き回るスペースがある。制限時間は十分。二つの試合が同時に行われる。
相手を舞台から落とすか、相手に負けを認めさせれば勝ちになる。そして、相手を殺してはいけない。
残った十六人がくじをひき、対戦順と相手を決める。
第一試合に出るウォールは予選の間ずっと被っていたフードをはずしていた。獅子が強いと言った、その本領が見られるだろうか。
対戦相手は100番の男。
一緒にギルドから来た中では一番力があるらしい。ただし、愛用の武器はハンマーだと言う。
「残った選手の中で一番の長身、ウォール・カシュリー。対するは、力に勝るハン・ドリー」
審判が一人ずつ簡単に紹介する。
長身の男、ウォールは先ほど拓から儀礼を助けてくれた男だった。
「これは、さっきのお礼に、獅子と戦うまでウォールさんを応援しよう」
「なんだど!? 一緒に来たのに裏切るかっ」
すでに負けたメンバーが観客席に回ってきていた。
「恩人なんですよ。さっき危ないところを助けてもらったんです」
試合が始まった。
ハンが大きな剣を構え、振り上げた。その懐へウォールが走りこむ。速い。
ハンは力によって剣を勢いよく振り下ろす。当たれば死ぬのではと言う威力だ。しかし、剣は地面を叩く。
「なに?」
ハンの驚く声がした。
「落とさなければいけないってのは、速さの剣には不利だよな」
ウォールの声はハンの後ろから聞こえてきた。
その首筋には冷たい刀の刃。
「勝負あり、ウォール・カシュリー!」
審判が宣言した。
「うーん、速さがあるのはわかったけど、戦い方がわかるほどじゃなかったね」
儀礼が言えば、隣にいたギルドのメンバーが目を剥いている。
「ハンさんはAランクだぞ。俺達ん中で一番強いんだぞ。ハンさんがあんな一瞬で負けるなんて」
「ハンさん、油断してたんですよ。ウォールさんは背が高いし、予選の時は相手の剣を受け止めて払ってましたから、自分と同じ力技でくると思ったんじゃないですか?」
儀礼の冷静さに男は儀礼の服を掴みぐらぐらと体を揺らす。
「もっと悔しがれ!」
昨日知り合った人相手に難しい注文だ。
第二試合にはキサとティルが出る。お互い別々の対戦相手だが。
キサは基本に忠実なきれいな戦い方をしていた。相手の荒い攻撃を剣で流し、できた隙にするどい一撃を急所に入れる。ぴたりと寸前で止まる剣先が格好いい。
キサの勝利が決まった。
隣の舞台ではティルが剣術大会と思えぬ軽快さで舞台の上を跳ね回っている。むきになって剣を振り回して追いかける相手は息があがっている。
「うわっ、おしいな。おっと当たるかも」
楽しそうに余裕を見せるティルだが、ランクBのティルに対して相手はランクA。
「このぉっ!」
相手が思い切りよく剣を振ったのを見てティルはその剣の下をくぐるようにかわす。
そのまま足元を狙って剣の腹で払う。
ひざの裏を押された男は、重心を戻せず前のめりに倒れる。倒れる途中で男は自分が舞台の端に誘導されていたことにようやく気付いた。
ドシンッ、男が舞台から落ちて、ティルの勝ちが決まった。
第四試合、獅子の番だ。
「了様ーぁ!」
ここぞとばかりに利香は声を張り上げる。
獅子は聞き取れたようでまたも剣を振る。
「ランクDながらここまで残った若干十五歳のリョウ・シシクラ。対するは今年も出場記録更新中、ミハイ・サンヤ」
ミハイは白髪まじりの骨ばったおじいさんだった。よく予選を勝ち抜けた、と思うほどである。
しかし、勝ち残っただけありただのじいさんではなかった。年からは考えられない鋭い突き、ほとんど場所を動かずに多方面への攻撃をする。
移動しない分体力を温存し、攻めて来た相手にカウンターのごとく突きを浴びせる。
おおー! 異色のカードに観客は盛り上がる。
「やりにくいな。年寄りはいたわりたいんだよ!」
獅子が剣を斜めに構えて突進する。玉砕覚悟かと、周りは思った。
ミハイの突きが獅子の腹部を狙う。怪我をしても救護に魔法使いがいる。殺さなければいいのだ。
その突きを獅子は剣で切りつけ地面へと落とす。
ガン、と音がしてミハイの剣の先は舞台へと突き刺さっていた。無防備になったミハイに獅子は剣を突きつける。
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