ギレイの旅
黒鬼と監視
管理局を出るとギレイは歩きながら左手袋のキーを叩く。
儀礼:"黒鬼と監視についてわかること教えて"
ネットの友人、穴兎からすぐに返答がある。
穴兎:"今さら黒鬼か? まあ、いい"
穴兎:"ドルエドのシエンに住む『黒鬼』だろ。もう二十年以上前にSランクに認定されて未だに冒険者ランクを落とされない強物だ"
穴兎:"監視か……。Sランクになった当初は監視として送り込まれた冒険者を返り討ちにしたらしい"
穴兎:"ランクSは世界規模の崩壊を起こす危険があるため、監視する必要があるって"
そこまで黙って文字を追っていた儀礼が再びキーを打つ。無理やりにでも儀礼に『護衛』をつけようとした管理局。
儀礼:"今現在、黒鬼の監視についている者は?"
儀礼もSランクになって、知っておかなければいけないことがそこにある気がした。
穴兎:"お前なぁ、それ極秘情報だぞ。ああ出た"
(……何が出たなんだろう)
穴兎から次のメッセージが届くまで少しの間があった。
穴兎:"聞いた名前だな。レイイチ・マドイ。十三年前から変わってないみたいだ"
それを知って、儀礼は冷たい悲しみと共に納得した。儀礼の父は毎月必ず何かの報告に、管理局へと行っていた。儀礼はそれをずっと、学校関連のものだと思っていたのに。同じ村で育った友人を儀礼の父はずっと監視していた。互いをよく知る友人同士だと思っていたのに。
穴兎:"大丈夫か、ギレイ?"
返答がないことに心配したのか穴兎が問いかける。
儀礼:"うん。ありがとう。それが知りたかったんだ"
頭の中では考えごとを続けながらも、儀礼は文字を返した。
穴兎:"13年も続いてるってことは取引でもしたのか。それ以前の報告書では黒鬼は非道で危険、なのにお前の父親の報告では優秀な人材を育てている、だぞ。笑えるな"
嘘の報告をしたなら管理局は気付く。つまり信用がある報告書だと、認められている。
穴兎のメッセージで儀礼は自分の考えの間違いに気付く。
いや、穴兎がわざと勘違いするような言い回しをしたとも思える。
穴兎:"お前の所にも監視が来るぞ"
脅すような穴兎のメッセージ。
儀礼:"管理局は護衛って呼んでたけどね"
はぁ、と儀礼はため息をつく。
儀礼:"獅子じゃだめかな?"
見ず知らずの護衛がついて回る位なら獅子と旅してる今の方が儀礼は楽だ。
穴兎:"シシは管理局ランク持ってないだろ。持ってたとしてギレイの持ってるデータを守れるのか?"
「うっ」
もっともな言葉に思わず声を出す儀礼。
儀礼:"じゃぁ、穴兎は!!"
期待を込めて送ってみるが。
穴兎:"俺がどこにいると思ってんだよ。国外だ、国外! 自分の事は自分でどうにかしろ"
冷たい返答だ。
穴兎:"まぁ、今まで通りパソコンのデータは俺が見張ってやるから"
温かく思える言葉だがその真相は違う。
儀礼:"僕のパソコンへの不正アクセスの半数が『アナザー』判定なんだけど"
『アナザー』判定。不正アクセスの元を辿った時に、人物を特定できないもしくは明らかに別人の場合。『アナザー』、つまりこの穴兎の二つ目の名。
穴兎:"お前の情報面白いんだもん"
(だもんて、犯罪理由になるか!)
儀礼は熱くなりそうな額を押さえる。
穴兎:"ちゃんと秘密は守るさ♪"
楽しそうな返答メッセージに悪びれた様子はない。唯一の救いは、彼が信用に値する人物だと儀礼が知っていることだった。
管理局を出たまま立ち止まり、今は額を押さえたまま動かない儀礼に、獅子はその顔を覗き込む。
「おーい、儀礼?」
目は開いているようだ。
「いや。せっかく仕事したのに、なんかやる気を削がれたって言うか」
はぁ、と儀礼は深く息を吐く。そして、獅子に向き直るとニコリと笑う。
「Bランク三人倒すなんて獅子はすごいな」
「そんなことねぇ。あいつら武器使わなかったし、そんなに強くなかったんだろ?」
当たり前のことのように獅子は言う。
確かに管理局ランクの方が優先で選ばれた護衛役のようだったが、ランクBの遺跡探索など弱い者にはできない。
「それより、団居先生って冒険者ライセンス持ってたんだな」
意外そうに獅子は言う。
「うん。僕だってもらえたんだから父さんが持っててもおかしくないだろ」
儀礼は笑って言う。
「でもBだろ。真面目にやってた時があるのかなって」
「僕の父さんが真面目以外の何に見えると?」
不思議そうに儀礼が問う。
「いやいや。俺、団居先生が戦ってるとこ見たことないから」
「僕は……何回かあるけど、そう言われるとちゃんと戦ってたって風でもなかったなぁ」
相手が自滅するように誘導したり、相手の足場を崩したり。
「だろう?」
二人で首を傾げ合う。
「ま、父さんのことはいいよ。それよりギルドに着いたよ」
ギルドの扉に手をかけて儀礼が言う。
「ん? ギルドにまだ用があるのか?」
「仕事の依頼完了しちゃおうよ」
儀礼はポケットから二枚の依頼書を出して見せる。先程受けた依頼だ。
ギルド内に入れば、二人の姿を確認して受付の男が笑い出す。
「入ってきて、いきなり笑うって何ですか」
儀礼はむくれた顔で二枚の依頼書をカウンターに出す。
「ははは、悪い。仕事は終わったんだな」
男は受け取った書類を機械に入れ、報酬の金と引き換える。
「おーい、酒場のレジ。千円札両替してくれ。報酬の三百円が払えない」
男の言葉で酒場にどっと笑いが巻き起こった。
儀礼:"黒鬼と監視についてわかること教えて"
ネットの友人、穴兎からすぐに返答がある。
穴兎:"今さら黒鬼か? まあ、いい"
穴兎:"ドルエドのシエンに住む『黒鬼』だろ。もう二十年以上前にSランクに認定されて未だに冒険者ランクを落とされない強物だ"
穴兎:"監視か……。Sランクになった当初は監視として送り込まれた冒険者を返り討ちにしたらしい"
穴兎:"ランクSは世界規模の崩壊を起こす危険があるため、監視する必要があるって"
そこまで黙って文字を追っていた儀礼が再びキーを打つ。無理やりにでも儀礼に『護衛』をつけようとした管理局。
儀礼:"今現在、黒鬼の監視についている者は?"
儀礼もSランクになって、知っておかなければいけないことがそこにある気がした。
穴兎:"お前なぁ、それ極秘情報だぞ。ああ出た"
(……何が出たなんだろう)
穴兎から次のメッセージが届くまで少しの間があった。
穴兎:"聞いた名前だな。レイイチ・マドイ。十三年前から変わってないみたいだ"
それを知って、儀礼は冷たい悲しみと共に納得した。儀礼の父は毎月必ず何かの報告に、管理局へと行っていた。儀礼はそれをずっと、学校関連のものだと思っていたのに。同じ村で育った友人を儀礼の父はずっと監視していた。互いをよく知る友人同士だと思っていたのに。
穴兎:"大丈夫か、ギレイ?"
返答がないことに心配したのか穴兎が問いかける。
儀礼:"うん。ありがとう。それが知りたかったんだ"
頭の中では考えごとを続けながらも、儀礼は文字を返した。
穴兎:"13年も続いてるってことは取引でもしたのか。それ以前の報告書では黒鬼は非道で危険、なのにお前の父親の報告では優秀な人材を育てている、だぞ。笑えるな"
嘘の報告をしたなら管理局は気付く。つまり信用がある報告書だと、認められている。
穴兎のメッセージで儀礼は自分の考えの間違いに気付く。
いや、穴兎がわざと勘違いするような言い回しをしたとも思える。
穴兎:"お前の所にも監視が来るぞ"
脅すような穴兎のメッセージ。
儀礼:"管理局は護衛って呼んでたけどね"
はぁ、と儀礼はため息をつく。
儀礼:"獅子じゃだめかな?"
見ず知らずの護衛がついて回る位なら獅子と旅してる今の方が儀礼は楽だ。
穴兎:"シシは管理局ランク持ってないだろ。持ってたとしてギレイの持ってるデータを守れるのか?"
「うっ」
もっともな言葉に思わず声を出す儀礼。
儀礼:"じゃぁ、穴兎は!!"
期待を込めて送ってみるが。
穴兎:"俺がどこにいると思ってんだよ。国外だ、国外! 自分の事は自分でどうにかしろ"
冷たい返答だ。
穴兎:"まぁ、今まで通りパソコンのデータは俺が見張ってやるから"
温かく思える言葉だがその真相は違う。
儀礼:"僕のパソコンへの不正アクセスの半数が『アナザー』判定なんだけど"
『アナザー』判定。不正アクセスの元を辿った時に、人物を特定できないもしくは明らかに別人の場合。『アナザー』、つまりこの穴兎の二つ目の名。
穴兎:"お前の情報面白いんだもん"
(だもんて、犯罪理由になるか!)
儀礼は熱くなりそうな額を押さえる。
穴兎:"ちゃんと秘密は守るさ♪"
楽しそうな返答メッセージに悪びれた様子はない。唯一の救いは、彼が信用に値する人物だと儀礼が知っていることだった。
管理局を出たまま立ち止まり、今は額を押さえたまま動かない儀礼に、獅子はその顔を覗き込む。
「おーい、儀礼?」
目は開いているようだ。
「いや。せっかく仕事したのに、なんかやる気を削がれたって言うか」
はぁ、と儀礼は深く息を吐く。そして、獅子に向き直るとニコリと笑う。
「Bランク三人倒すなんて獅子はすごいな」
「そんなことねぇ。あいつら武器使わなかったし、そんなに強くなかったんだろ?」
当たり前のことのように獅子は言う。
確かに管理局ランクの方が優先で選ばれた護衛役のようだったが、ランクBの遺跡探索など弱い者にはできない。
「それより、団居先生って冒険者ライセンス持ってたんだな」
意外そうに獅子は言う。
「うん。僕だってもらえたんだから父さんが持っててもおかしくないだろ」
儀礼は笑って言う。
「でもBだろ。真面目にやってた時があるのかなって」
「僕の父さんが真面目以外の何に見えると?」
不思議そうに儀礼が問う。
「いやいや。俺、団居先生が戦ってるとこ見たことないから」
「僕は……何回かあるけど、そう言われるとちゃんと戦ってたって風でもなかったなぁ」
相手が自滅するように誘導したり、相手の足場を崩したり。
「だろう?」
二人で首を傾げ合う。
「ま、父さんのことはいいよ。それよりギルドに着いたよ」
ギルドの扉に手をかけて儀礼が言う。
「ん? ギルドにまだ用があるのか?」
「仕事の依頼完了しちゃおうよ」
儀礼はポケットから二枚の依頼書を出して見せる。先程受けた依頼だ。
ギルド内に入れば、二人の姿を確認して受付の男が笑い出す。
「入ってきて、いきなり笑うって何ですか」
儀礼はむくれた顔で二枚の依頼書をカウンターに出す。
「ははは、悪い。仕事は終わったんだな」
男は受け取った書類を機械に入れ、報酬の金と引き換える。
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