ギレイの旅
管理局と護衛
二枚の依頼書を持って儀礼と獅子は管理局を訪れた。
管理局とは、簡単に言えば研究者が所属していて、その研究内容を管理している所。遺跡や兵器から生活必需品まで全ての物の資料が集まる場所である。
「なんでこの建物って頭痛くなるんだろうなぁ」
入ったとたんに獅子が遠い目になった。
「走るな、暴れるな、剣抜くな、だもんね」
儀礼は笑って言う。
この際、二つの依頼を同時に完了してしまおうと、儀礼は管理局の受付へ名乗り出る。
「すみません、呼び出されたギレイ・マドイですが。あ、あとメッセージ送りたいのでパソコン借ります」
ギレイはそう言って、受付横のロビーに添えつけられた機械を操作する。もう一つの依頼内容、拓への連絡だ。
「なんて送ろうかなぁ。拓ちゃんのばかーでいいかな。もっとうらみ込めたいなぁ」
馬鹿なことを言っている儀礼。
管理局のライセンスを受け取った受付の女性が手元のパソコンで何かの操作をする。
「ばーかのがいいかな。それとも獅子よりばかがいいかな。それはさすがに怒るか」
口に出しながらメッセージを作成する儀礼は、何気に獅子にも失礼な事を考えている。
「ギレイ・マドイ様ですね。失礼いたしました。すぐに上のものが参りますのでしばらくお待ちください」
女性がわざわざ受付を出て、姿勢を正して歩いて来て、儀礼にライセンスを返す。
「はぁ……」
馬鹿なメッセージを考えていた儀礼はあっけに取られ、小さなライセンスを両手で受け取った。
しばらくして、儀礼と獅子は管理局二階の応接室の様な部屋に通された。
広い部屋の半分には机とソファーが並べてあり、衝立を挟んで残り半分にはずらりと書棚が並んでいた。書棚には大量のファイルが鍵付きのガラス扉で守られている。
「あの、僕には訳がわからないのですが、何かあったんですか?」
不安そうに聞く儀礼に責任者らしい男がソファーの向かいに座り口を開く。
「ギレイ・マドイ様。この度はSランクへの昇進、おめでとうございます。心よりお祝い申し上げます」
室内にいた数人が一斉に頭を下げる。
「我々ドルエド国内から、それも歴代最年少でのSランク認定は喜ばしい限りでございます」
責任者の男が両手で儀礼の手を握る。
「あ、りがとうございます」
面食らったように瞬きを繰り返す儀礼。
その隣で、獅子もまた首を傾げる。
「Sランク?」
儀礼の顔を見る。
獅子と目が合って、儀礼はまだ獅子に伝えていなかったことを思い出す。
「なった、らしい」
はっきり言って儀礼にも実感がない。持っているライセンスは更新していないため、Bランクと表示されたままだ。
「おお、おめでとう。で、それってどんなもん?」
獅子にも理解できないらしい。
「どんなって。ランク的には、管理局もギルドも同じような質だから、獅子のお父さんみたいな」
「それはすごいな……」
引いた。獅子が座っているソファーの隙間を開ける。
「全然強そうには見えないけどな」
ひひひ、と獅子が笑う。
「強さじゃないからね」
ふっ、と儀礼も笑い返す。どうやら獅子が引いたのは父である重気を思い出したからのようだ。
儀礼自身に怯える理由は、獅子にはない。
「Sランクは一国の王にも匹敵します。そこで、ギレイ・マドイ様には管理局本部より護衛をつけるよう指令が出ています」
「護衛? いらないよ。というか、僕はBランクのままでも全然いいんだけど」
慌てて首を横に振りランクSを全否定する儀礼。
「とんでもない!!」
責任者は身を乗り出した。
「今、本部で適任者を厳選しているところです。それまでの間、すぐに護衛に当たれる者を用意いたしました」
呼ばれて三人の男女が室内に入ってくる。
「ほんとに困ったなぁ。僕、護衛なんて必要ないです。獅子がいるから」
獅子はそのために村から着いてきたことになってるはずだ。
「そういうわけには参りません。どうぞこの者達を側においてください」
責任者の態度は頼み込んでいるようでいて、どちらかというと聞くものにとっては命令されている気分になるものだっだ。
「では、言わせてもらいますが。彼らに僕が守れますか?」
真剣な顔になった儀礼は疑問を責任者へとぶつける。
「どういう意味ですか?」
意図がわからず眉根を寄せる責任者。
「だって、その三人合わせても獅子の方が強いですよ」
言われた三人の護衛役が怒り、怒気が儀礼の肌を焼く。たちまち硬直する儀礼。
「言ってくれるな。いくらSランクとは言え、そこまでばかにされてはたまらない。俺達は冒険者ランクBだぞ。新人のDランクに負けるだと?」
戦う気まんまんの三人組。同じマークの入った古びたバンダナを腕に巻いている。
「なんかよくわかんないけど、売られたけんかなら買うぜ?」
獅子がソファーの背もたれを跳び越し三人の武人に対峙する。
ランクによる強さがどの程度なのかまだよくわからない獅子だが、力試しは楽しそうだった。
「けんか売ってんのはそっちでしょう」
睨むように女が言う。
「言っておくけど。私達、遺跡専門の冒険者でね。管理局ランクは全員Aよ」
もう一人の女が不敵に笑う。
「それって強いのか、儀礼?」
考えるのを諦めたの獅子は儀礼を振り返る。
儀礼はソファーに座ったまま硬直しているので獅子からは丸い後頭部しか見えない。
「遺跡専門で冒険者ランクBなら、僕の父さんと同じ位」
儀礼の声は普通に返ってくる。
「団居先生ランクB?」
「冒険者ランクはね」
獅子が聞き返し、儀礼が答える。
ふぅ~ん、と何かを納得したように獅子はうなずく。
「世間知らずの坊や達は少し痛い目に合わないとわからないみたいね」
一人の女が細い鎖のついたハンマーのような物を回し始める。
「管理局内、武器の使用は禁止ですよ」
初歩的な事を儀礼に指摘され女はハンマーを落とす。
ハンマーが床につく前に、護衛役の男が飛び出した。
獅子と男は一対一で体術を交わす。初めは手加減していたらしい男が段々と余裕をなくしていく。
「獅子、来る」
「ああ」
短い言葉で意思を交わす儀礼と獅子。
直後に二人の女が獅子へと襲い掛かる。一人、二人、三人、また一人目。代わる代わるに繰り出される攻撃に獅子は休む間もない。
「六」
儀礼が一言だけ発した。
瞬時に背後にいた相手の腹に獅子の後ろ蹴りが決まり、女が一人吹き飛ぶ。壁にぶつかった女は大きく息を吐かされ、動けない。
動揺する残りの護衛役残りの二人。
「四と十」
その隙に儀礼がまた口を開く。
右後方にいた女が獅子の低い回し蹴りに足をすくわれ、バランスを崩す。
突っ込んできた男を獅子が上方に高く飛んでかわすと、男は勢いを殺せず前のめりになる。その背中を獅子が強く押してやれば転んでいた女に足を取られ、ごろりとソファーの方へと倒れた。
その男の目の前に儀礼は手の中に隠れるサイズのスプレーを構える。
「チェックメイト」
シュッ、と音がしたかと思うと、男の頭がガクリと垂れ下がる。
「ああ、ただの睡眠薬なんで心配いらないですよ」
責任者の男に向かってにこりと笑うと儀礼は立ち上がる。その場にもう儀礼の体を固める怒気はない。
「この通り、ランクDに倒されるような護衛ならいりません。それに、獅子は黒鬼の息子ですよ」
『黒鬼』の言葉に室内の全員が目を剥いた。
「なるほど、そうか。マドイ。ははっ、聞いたことのある名だと思えば。親子二代で見張り合いか」
皮肉った笑いで責任者は言い放つ。その言葉が何か引っかかった儀礼だが、今はのんびりしたくはない。
「依頼完了だし、行こうか、獅子」
二人は管理局を後にした。
管理局とは、簡単に言えば研究者が所属していて、その研究内容を管理している所。遺跡や兵器から生活必需品まで全ての物の資料が集まる場所である。
「なんでこの建物って頭痛くなるんだろうなぁ」
入ったとたんに獅子が遠い目になった。
「走るな、暴れるな、剣抜くな、だもんね」
儀礼は笑って言う。
この際、二つの依頼を同時に完了してしまおうと、儀礼は管理局の受付へ名乗り出る。
「すみません、呼び出されたギレイ・マドイですが。あ、あとメッセージ送りたいのでパソコン借ります」
ギレイはそう言って、受付横のロビーに添えつけられた機械を操作する。もう一つの依頼内容、拓への連絡だ。
「なんて送ろうかなぁ。拓ちゃんのばかーでいいかな。もっとうらみ込めたいなぁ」
馬鹿なことを言っている儀礼。
管理局のライセンスを受け取った受付の女性が手元のパソコンで何かの操作をする。
「ばーかのがいいかな。それとも獅子よりばかがいいかな。それはさすがに怒るか」
口に出しながらメッセージを作成する儀礼は、何気に獅子にも失礼な事を考えている。
「ギレイ・マドイ様ですね。失礼いたしました。すぐに上のものが参りますのでしばらくお待ちください」
女性がわざわざ受付を出て、姿勢を正して歩いて来て、儀礼にライセンスを返す。
「はぁ……」
馬鹿なメッセージを考えていた儀礼はあっけに取られ、小さなライセンスを両手で受け取った。
しばらくして、儀礼と獅子は管理局二階の応接室の様な部屋に通された。
広い部屋の半分には机とソファーが並べてあり、衝立を挟んで残り半分にはずらりと書棚が並んでいた。書棚には大量のファイルが鍵付きのガラス扉で守られている。
「あの、僕には訳がわからないのですが、何かあったんですか?」
不安そうに聞く儀礼に責任者らしい男がソファーの向かいに座り口を開く。
「ギレイ・マドイ様。この度はSランクへの昇進、おめでとうございます。心よりお祝い申し上げます」
室内にいた数人が一斉に頭を下げる。
「我々ドルエド国内から、それも歴代最年少でのSランク認定は喜ばしい限りでございます」
責任者の男が両手で儀礼の手を握る。
「あ、りがとうございます」
面食らったように瞬きを繰り返す儀礼。
その隣で、獅子もまた首を傾げる。
「Sランク?」
儀礼の顔を見る。
獅子と目が合って、儀礼はまだ獅子に伝えていなかったことを思い出す。
「なった、らしい」
はっきり言って儀礼にも実感がない。持っているライセンスは更新していないため、Bランクと表示されたままだ。
「おお、おめでとう。で、それってどんなもん?」
獅子にも理解できないらしい。
「どんなって。ランク的には、管理局もギルドも同じような質だから、獅子のお父さんみたいな」
「それはすごいな……」
引いた。獅子が座っているソファーの隙間を開ける。
「全然強そうには見えないけどな」
ひひひ、と獅子が笑う。
「強さじゃないからね」
ふっ、と儀礼も笑い返す。どうやら獅子が引いたのは父である重気を思い出したからのようだ。
儀礼自身に怯える理由は、獅子にはない。
「Sランクは一国の王にも匹敵します。そこで、ギレイ・マドイ様には管理局本部より護衛をつけるよう指令が出ています」
「護衛? いらないよ。というか、僕はBランクのままでも全然いいんだけど」
慌てて首を横に振りランクSを全否定する儀礼。
「とんでもない!!」
責任者は身を乗り出した。
「今、本部で適任者を厳選しているところです。それまでの間、すぐに護衛に当たれる者を用意いたしました」
呼ばれて三人の男女が室内に入ってくる。
「ほんとに困ったなぁ。僕、護衛なんて必要ないです。獅子がいるから」
獅子はそのために村から着いてきたことになってるはずだ。
「そういうわけには参りません。どうぞこの者達を側においてください」
責任者の態度は頼み込んでいるようでいて、どちらかというと聞くものにとっては命令されている気分になるものだっだ。
「では、言わせてもらいますが。彼らに僕が守れますか?」
真剣な顔になった儀礼は疑問を責任者へとぶつける。
「どういう意味ですか?」
意図がわからず眉根を寄せる責任者。
「だって、その三人合わせても獅子の方が強いですよ」
言われた三人の護衛役が怒り、怒気が儀礼の肌を焼く。たちまち硬直する儀礼。
「言ってくれるな。いくらSランクとは言え、そこまでばかにされてはたまらない。俺達は冒険者ランクBだぞ。新人のDランクに負けるだと?」
戦う気まんまんの三人組。同じマークの入った古びたバンダナを腕に巻いている。
「なんかよくわかんないけど、売られたけんかなら買うぜ?」
獅子がソファーの背もたれを跳び越し三人の武人に対峙する。
ランクによる強さがどの程度なのかまだよくわからない獅子だが、力試しは楽しそうだった。
「けんか売ってんのはそっちでしょう」
睨むように女が言う。
「言っておくけど。私達、遺跡専門の冒険者でね。管理局ランクは全員Aよ」
もう一人の女が不敵に笑う。
「それって強いのか、儀礼?」
考えるのを諦めたの獅子は儀礼を振り返る。
儀礼はソファーに座ったまま硬直しているので獅子からは丸い後頭部しか見えない。
「遺跡専門で冒険者ランクBなら、僕の父さんと同じ位」
儀礼の声は普通に返ってくる。
「団居先生ランクB?」
「冒険者ランクはね」
獅子が聞き返し、儀礼が答える。
ふぅ~ん、と何かを納得したように獅子はうなずく。
「世間知らずの坊や達は少し痛い目に合わないとわからないみたいね」
一人の女が細い鎖のついたハンマーのような物を回し始める。
「管理局内、武器の使用は禁止ですよ」
初歩的な事を儀礼に指摘され女はハンマーを落とす。
ハンマーが床につく前に、護衛役の男が飛び出した。
獅子と男は一対一で体術を交わす。初めは手加減していたらしい男が段々と余裕をなくしていく。
「獅子、来る」
「ああ」
短い言葉で意思を交わす儀礼と獅子。
直後に二人の女が獅子へと襲い掛かる。一人、二人、三人、また一人目。代わる代わるに繰り出される攻撃に獅子は休む間もない。
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儀礼が一言だけ発した。
瞬時に背後にいた相手の腹に獅子の後ろ蹴りが決まり、女が一人吹き飛ぶ。壁にぶつかった女は大きく息を吐かされ、動けない。
動揺する残りの護衛役残りの二人。
「四と十」
その隙に儀礼がまた口を開く。
右後方にいた女が獅子の低い回し蹴りに足をすくわれ、バランスを崩す。
突っ込んできた男を獅子が上方に高く飛んでかわすと、男は勢いを殺せず前のめりになる。その背中を獅子が強く押してやれば転んでいた女に足を取られ、ごろりとソファーの方へと倒れた。
その男の目の前に儀礼は手の中に隠れるサイズのスプレーを構える。
「チェックメイト」
シュッ、と音がしたかと思うと、男の頭がガクリと垂れ下がる。
「ああ、ただの睡眠薬なんで心配いらないですよ」
責任者の男に向かってにこりと笑うと儀礼は立ち上がる。その場にもう儀礼の体を固める怒気はない。
「この通り、ランクDに倒されるような護衛ならいりません。それに、獅子は黒鬼の息子ですよ」
『黒鬼』の言葉に室内の全員が目を剥いた。
「なるほど、そうか。マドイ。ははっ、聞いたことのある名だと思えば。親子二代で見張り合いか」
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