ギレイの旅
冒険者登録1
「お前、ギルド行ったことあるか?」
町に着き、車を降りた獅子が聞く。
「父さんと一回だけ」
車の鍵を閉めながら儀礼が答える。
「そっか。俺も親父と行ったことはあるけど一人で行ったことはなかったなぁ」
当然と言えば当然だ。
冒険者ギルドは本来依頼する者か、依頼を受ける者位しか立ち入らない。
むやみに危険な場所に近寄って、被害を受ける必要もないのだろう。
獅子の待ちに待っていた冒険者登録。
これをすれば、冒険者免許がもらえて、ギルドなどから仕事を請け負うことができる。
ただ単純に、旅する者の身分証明代わりにもなっているので持っている人は多いが。
そのためにまず、儀礼たちはギルドへ向かった。
冒険者ギルド。冒険者達の集う場所であり、登録や仕事の手続きができるようになっている。
建物はたいてい大きくて、1階には受付と、待合室を兼ねた食事や酒を飲めるスペースがある。
建物の裏庭か、別の建物には体を動かしたり、模擬試合のような事を行える場所が必ずついている。
研究者の使う管理局は白などの色が基調になっており、清潔感や新しい風を吹き込むようなイメージで運営されているが、ギルドはまるで逆だった。
古い木で建てられた年代を感じさせる建物。
床や壁は長い年月のうちについたのだろう染みがあちこちについている。
それらが、ただの食べこぼしや、ろうそくなどによるススの汚れでないことは、この室内にいる殺気だった人々と、各々が手や腰に下げる武器を見ればわかる。
「獅子、出ようよ」
扉を開けた第一声、儀礼は言った。
「おい!」
返す獅子の声は大きかったが、怒ってはいなかった。笑っているようですらある。
まぁ、冒険者登録するためにギルドに来て、一歩入った(儀礼は踏み込んですらいないが)瞬間に、やめよう、では。
しかも、周囲の視線から隠れるように獅子の背後に入り、服の端を掴んでいる。
(ほんっとに怖がりだなぁ)
がりがり、と頭をかいて獅子は服を握ったままの儀礼を引きずるようにして受付へと向かう。
「すみません、冒険者登録したいんですが。二人」
受付の女性に言うと、はい、とすぐに応じて紙を数枚出してきた。
おっとりとした雰囲気の、若い女性がマニュアルどおりの説明をする。
「こちらにご記入をお願いします。特性や実力を見るための試験がございますが、ご希望の日時はございますか?」
「今日で」
元気よく獅子は答える。
「了解しました。ではそちらの紙に記入して、しばらくお待ちください」
そう言って、女性は受付から奥の部屋へと消えて行った。
二人がせっせと記入項目を埋める作業をしていると、酒臭い男が一人、ふらふらと寄ってきた。
「お~い、なぁ、坊主ども。んや? 片っぽは譲ちゃんか」
儀礼の顔を見ると一瞬目を見開いて覗き込む。
ぷは~、という息は酒の匂いがきつい。
「いいか、ウィンリードさんにはなぁ、もっと丁寧に話せい。いいか?」
今度は、顔を突きつけるように獅子を睨みつける。
焦点が余り合っていないので、迫力には欠けるが。
「なんだ? ウリンリードって」
獅子が首を傾げる。
「ばかもぉん! ウィンリードさんを知らんのか? 彼女はこのギルドの天使だ。あの美貌、あの笑顔、それにあのローブの下の体! 最高だと思うだろ!!」
ウィンリードというのは、あの受付の女性の名前らしい。
緑がかった黒髪と明るい緑色の瞳は確かに印象的ではあった。
酔っ払い男が熱く語り出したのを機に、いつのまにか同じような酔っ払いが回りに集まってきていた。
「坊主、何考えてそんな女の子連れて冒険者になろうと思ったかは知らんがな、やめたほうがいい。冒険者はそんな簡単なもんじゃないぞ」
酔っ払いの一人が言う。
うんうん、とうなずきながら、別の男が獅子の肩に手をかけた。
「そうだぞ、辛いもんだ。冒険者ってのは。そんな俺達の天使があのウィンリードちゃんなんだ。お前にはこの子がいるんだろ、ならいいじゃないか! 俺達のアイドルを奪いにこなくてもよぉ。ぅううう」
一人が泣き出した。
見ていて分かるように、怒気や殺気のようなものはすでになく、皆が心酔したように女性を褒め称えている。
異様であり近づきたくないのは同じだが。
「ほら、お前ら。あんま子供を怯えさせんじゃないよ!」
男達の向こう側から低めだが、元気のある女性の声が聞こえてきた。
自然と人垣が割れ、その姿が現れた。
二十代後半から三十位だろうか、よく日に焼けた顔の女性がバーカウンターの向こうに立っていた。
染めているのだろう赤い髪は、快活そうなその女性にはよく似合っていた。
「イシーリァ姉さん! そんなガキかまうのよせよ。本当のことだろ、今のうちに諦めさせたほうが身のためだって」
今度は、今まで部屋の隅のテーブルに座っていた男達が騒めき出す。
儀礼達の周りを囲んでいた男達が、一般的な兵士や下級冒険者という風なら、こちらの男達は中級。
細身で病気かと思うほど青い顔をした男や、一人で二つの椅子に腰掛ける大男など、特徴的だ。
ただ、獅子や重気を見慣れているためか、儀礼にはどうにも小者っぽくしか見えないのだが。
「うるさいよ! お客なんだからあたしの勝手だろ」
テーブルの男達にイシーリァと呼ばれた女性が怒鳴る。
「ミルクくさいガキどもの来るとこじゃねぇよ。一杯飲んだらとっとと帰んな」
金髪で、テーブルに足を乗せている男がシッシッと払うように手を振りながら言った。
獅子がピクリと反応したのが分かる。
それを儀礼は握っていた獅子の服をそのままひっぱり、バーのカウンターへと歩いてゆく。
儀礼はそのカウンター付近がこのギルド内の安全地帯だと読んだ。
「何飲むんだい?」
言葉遣いや口調と異なり、イシーリァの表情は柔らかい。
「ホットミルクで」
にっこりと笑って儀礼は言う。
部屋の隅で、テーブルに足を乗せていた男がピクリと頬を引きつらせる。
獅子が笑った。
「じゃ、俺はオレンジジュース」
獅子は正直、儀礼がそんな挑発行為をするとは思わなかったが、いまだに服のすそを掴まれたままなのに気付き、安堵する。
(いや、そろそろ離せよ、服が伸びるから)
そう思って儀礼を見れば、子犬みたいな目で縋る。
(仕方ないか)
頬をかく獅子。
「仲いいねぇ。兄弟には見えないし、恋人かい?」
トン、とカウンターの上にカップを二つ置き、興味深げに笑うイシーリァ。
儀礼は明らかに、嫌そうな顔をした。
獅子は服をバサッとはたき、儀礼の手を叩き落とす。
それを一瞬恨めしそうにみた儀礼だが、すぐにイシーリァに向き直る。
「そんなこと言ったら、利香ちゃんに殺されちゃいますよ。利香ちゃんは彼の許嫁です」
にぃー、と笑う儀礼はそのまましばらくイシーリァの瞳を見つめていた。
隅のテーブルで男達がハラハラとしているのが分かる。歴戦の冒険者らしいイシーリァに対して気安い態度を取る儀礼。
儀礼を女と思っているからこそ、止めに入る事もなく済んでいるようだった。
「きれいな色ですね」
イシーリァを見つめたまま、儀礼はつぶやいた。
「え?」
同じように儀礼を観察していたイシーリァが、突然の儀礼の言葉に、意味を捉えかねて聞き返した。
「瞳の色。珍しいですよね。でも、すごくきれいです」
イシーリァの透き通った茶色の瞳は、光が通ると赤に近い色に見える。
色素が薄い場合、稀に赤い瞳の生物がいるが、焼けた肌などから、彼女に色素がないわけではないとわかる。
「ああ、親譲りなんだ。結構自慢なんだよ。でも、あんたもきれいな金髪で可愛い顔してるじゃないか」
嬉しそうに笑って、儀礼の金髪をなでながらイシーリァが言った。
「僕、男ですよ」
真剣な顔で儀礼が言う。
頭をなでるイシーリァの手が止まった。次の瞬間には、頬の辺りがほんのりと染まっている。
テーブル席付近が殺気立った気がした。
「登録の準備ができました。試験は西側の稽古場と地下の倉庫で行います。どうぞこちらへ」
おっとりとした声が、受付の扉を開けて緊迫したギルドの空気を緩和した。
冒険者になるには試験がある。
特に難しいものでもないし、なりたい人は誰でもなれる。
ただ、学生だけは、身の安全を保証しなければならないので、危険の伴なう冒険者にはなれない。
試験はその人物の特質、どの方面に長けているのかなどと、実力を見るためのもの。
その実力からE~Aと特別ランクSに分けられている。
これは管理局も一緒だが、両者に連動はない。
「まず初めに、一般常識から、冒険者に必要な知識に関しての試験をさせていただきます。時間は20分。試験の結果によって冒険者になれないということはないので肩の力を抜いてお受けください」
案内するウィンリードが止まって、二人は開けられた扉に入る。
訓練場の管理室の隣りで、小さな会議室のような部屋だった。
ウィンリードが入り口付近のいすに腰掛けて、そのまま試験官を担うようだ。
儀礼と獅子は一度顔を見合わせてから、木製の細長い机にそれぞれつく。
20分。筆記の時間はあっという間に終わった。
「どうだった?」
と聞いた儀礼に。
「退屈だった」
だらけた様子で答える獅子。
楽しみにしていた冒険者になれる! とういう表情ではない。
「いや、まぁ、そうだろうね」
苦笑とともに、冒険者関連でもやはり筆記はだめなのか、と納得してしまう儀礼。
「次は魔法に関しての試験ですが、お二人は適正は?」
二人からテスト用紙を預かり、名前など簡単に確認したあと、ウィンリードが質問する。
「知らん」
「わかりません」
首を大きく横に振って答える獅子と、首を傾げるように言う儀礼。
ドルエドは農業を中心としたような国で、先進科学や魔法技術という新しい雰囲気とはかけ離れていた。
しかし、その代わりに生活の基盤である食がしっかりとしているため、混乱に陥ることもなく穏やかな国だ。
「わかりました。測定に関してはどこのギルドや管理局でも予約して受けることができるので機会があればご利用ください。形式として試験だけは受けていただきます。どうぞこちらへ」
扉を開けて後についてくるよう促すウィンリード。
冒険者をやっていれば、魔法が使えなくても魔法使いと敵対するようなこともある。
ましてや、魔獣などとの戦闘などは冒険者の華だ。魔力がなくても対処はできなければならない。
もっとも、冒険者になってから、不得手なことを学んでいくのが一般的だが。
やっとか。と、ようやく体を動かせることに瞳を輝かせ始める獅子。
いそいそと試験のために外していた指出し手袋と色付きの眼鏡をかける儀礼。着ている白衣も整える。
準備は万端だ。
ここからが冒険者としての試験本番。
町に着き、車を降りた獅子が聞く。
「父さんと一回だけ」
車の鍵を閉めながら儀礼が答える。
「そっか。俺も親父と行ったことはあるけど一人で行ったことはなかったなぁ」
当然と言えば当然だ。
冒険者ギルドは本来依頼する者か、依頼を受ける者位しか立ち入らない。
むやみに危険な場所に近寄って、被害を受ける必要もないのだろう。
獅子の待ちに待っていた冒険者登録。
これをすれば、冒険者免許がもらえて、ギルドなどから仕事を請け負うことができる。
ただ単純に、旅する者の身分証明代わりにもなっているので持っている人は多いが。
そのためにまず、儀礼たちはギルドへ向かった。
冒険者ギルド。冒険者達の集う場所であり、登録や仕事の手続きができるようになっている。
建物はたいてい大きくて、1階には受付と、待合室を兼ねた食事や酒を飲めるスペースがある。
建物の裏庭か、別の建物には体を動かしたり、模擬試合のような事を行える場所が必ずついている。
研究者の使う管理局は白などの色が基調になっており、清潔感や新しい風を吹き込むようなイメージで運営されているが、ギルドはまるで逆だった。
古い木で建てられた年代を感じさせる建物。
床や壁は長い年月のうちについたのだろう染みがあちこちについている。
それらが、ただの食べこぼしや、ろうそくなどによるススの汚れでないことは、この室内にいる殺気だった人々と、各々が手や腰に下げる武器を見ればわかる。
「獅子、出ようよ」
扉を開けた第一声、儀礼は言った。
「おい!」
返す獅子の声は大きかったが、怒ってはいなかった。笑っているようですらある。
まぁ、冒険者登録するためにギルドに来て、一歩入った(儀礼は踏み込んですらいないが)瞬間に、やめよう、では。
しかも、周囲の視線から隠れるように獅子の背後に入り、服の端を掴んでいる。
(ほんっとに怖がりだなぁ)
がりがり、と頭をかいて獅子は服を握ったままの儀礼を引きずるようにして受付へと向かう。
「すみません、冒険者登録したいんですが。二人」
受付の女性に言うと、はい、とすぐに応じて紙を数枚出してきた。
おっとりとした雰囲気の、若い女性がマニュアルどおりの説明をする。
「こちらにご記入をお願いします。特性や実力を見るための試験がございますが、ご希望の日時はございますか?」
「今日で」
元気よく獅子は答える。
「了解しました。ではそちらの紙に記入して、しばらくお待ちください」
そう言って、女性は受付から奥の部屋へと消えて行った。
二人がせっせと記入項目を埋める作業をしていると、酒臭い男が一人、ふらふらと寄ってきた。
「お~い、なぁ、坊主ども。んや? 片っぽは譲ちゃんか」
儀礼の顔を見ると一瞬目を見開いて覗き込む。
ぷは~、という息は酒の匂いがきつい。
「いいか、ウィンリードさんにはなぁ、もっと丁寧に話せい。いいか?」
今度は、顔を突きつけるように獅子を睨みつける。
焦点が余り合っていないので、迫力には欠けるが。
「なんだ? ウリンリードって」
獅子が首を傾げる。
「ばかもぉん! ウィンリードさんを知らんのか? 彼女はこのギルドの天使だ。あの美貌、あの笑顔、それにあのローブの下の体! 最高だと思うだろ!!」
ウィンリードというのは、あの受付の女性の名前らしい。
緑がかった黒髪と明るい緑色の瞳は確かに印象的ではあった。
酔っ払い男が熱く語り出したのを機に、いつのまにか同じような酔っ払いが回りに集まってきていた。
「坊主、何考えてそんな女の子連れて冒険者になろうと思ったかは知らんがな、やめたほうがいい。冒険者はそんな簡単なもんじゃないぞ」
酔っ払いの一人が言う。
うんうん、とうなずきながら、別の男が獅子の肩に手をかけた。
「そうだぞ、辛いもんだ。冒険者ってのは。そんな俺達の天使があのウィンリードちゃんなんだ。お前にはこの子がいるんだろ、ならいいじゃないか! 俺達のアイドルを奪いにこなくてもよぉ。ぅううう」
一人が泣き出した。
見ていて分かるように、怒気や殺気のようなものはすでになく、皆が心酔したように女性を褒め称えている。
異様であり近づきたくないのは同じだが。
「ほら、お前ら。あんま子供を怯えさせんじゃないよ!」
男達の向こう側から低めだが、元気のある女性の声が聞こえてきた。
自然と人垣が割れ、その姿が現れた。
二十代後半から三十位だろうか、よく日に焼けた顔の女性がバーカウンターの向こうに立っていた。
染めているのだろう赤い髪は、快活そうなその女性にはよく似合っていた。
「イシーリァ姉さん! そんなガキかまうのよせよ。本当のことだろ、今のうちに諦めさせたほうが身のためだって」
今度は、今まで部屋の隅のテーブルに座っていた男達が騒めき出す。
儀礼達の周りを囲んでいた男達が、一般的な兵士や下級冒険者という風なら、こちらの男達は中級。
細身で病気かと思うほど青い顔をした男や、一人で二つの椅子に腰掛ける大男など、特徴的だ。
ただ、獅子や重気を見慣れているためか、儀礼にはどうにも小者っぽくしか見えないのだが。
「うるさいよ! お客なんだからあたしの勝手だろ」
テーブルの男達にイシーリァと呼ばれた女性が怒鳴る。
「ミルクくさいガキどもの来るとこじゃねぇよ。一杯飲んだらとっとと帰んな」
金髪で、テーブルに足を乗せている男がシッシッと払うように手を振りながら言った。
獅子がピクリと反応したのが分かる。
それを儀礼は握っていた獅子の服をそのままひっぱり、バーのカウンターへと歩いてゆく。
儀礼はそのカウンター付近がこのギルド内の安全地帯だと読んだ。
「何飲むんだい?」
言葉遣いや口調と異なり、イシーリァの表情は柔らかい。
「ホットミルクで」
にっこりと笑って儀礼は言う。
部屋の隅で、テーブルに足を乗せていた男がピクリと頬を引きつらせる。
獅子が笑った。
「じゃ、俺はオレンジジュース」
獅子は正直、儀礼がそんな挑発行為をするとは思わなかったが、いまだに服のすそを掴まれたままなのに気付き、安堵する。
(いや、そろそろ離せよ、服が伸びるから)
そう思って儀礼を見れば、子犬みたいな目で縋る。
(仕方ないか)
頬をかく獅子。
「仲いいねぇ。兄弟には見えないし、恋人かい?」
トン、とカウンターの上にカップを二つ置き、興味深げに笑うイシーリァ。
儀礼は明らかに、嫌そうな顔をした。
獅子は服をバサッとはたき、儀礼の手を叩き落とす。
それを一瞬恨めしそうにみた儀礼だが、すぐにイシーリァに向き直る。
「そんなこと言ったら、利香ちゃんに殺されちゃいますよ。利香ちゃんは彼の許嫁です」
にぃー、と笑う儀礼はそのまましばらくイシーリァの瞳を見つめていた。
隅のテーブルで男達がハラハラとしているのが分かる。歴戦の冒険者らしいイシーリァに対して気安い態度を取る儀礼。
儀礼を女と思っているからこそ、止めに入る事もなく済んでいるようだった。
「きれいな色ですね」
イシーリァを見つめたまま、儀礼はつぶやいた。
「え?」
同じように儀礼を観察していたイシーリァが、突然の儀礼の言葉に、意味を捉えかねて聞き返した。
「瞳の色。珍しいですよね。でも、すごくきれいです」
イシーリァの透き通った茶色の瞳は、光が通ると赤に近い色に見える。
色素が薄い場合、稀に赤い瞳の生物がいるが、焼けた肌などから、彼女に色素がないわけではないとわかる。
「ああ、親譲りなんだ。結構自慢なんだよ。でも、あんたもきれいな金髪で可愛い顔してるじゃないか」
嬉しそうに笑って、儀礼の金髪をなでながらイシーリァが言った。
「僕、男ですよ」
真剣な顔で儀礼が言う。
頭をなでるイシーリァの手が止まった。次の瞬間には、頬の辺りがほんのりと染まっている。
テーブル席付近が殺気立った気がした。
「登録の準備ができました。試験は西側の稽古場と地下の倉庫で行います。どうぞこちらへ」
おっとりとした声が、受付の扉を開けて緊迫したギルドの空気を緩和した。
冒険者になるには試験がある。
特に難しいものでもないし、なりたい人は誰でもなれる。
ただ、学生だけは、身の安全を保証しなければならないので、危険の伴なう冒険者にはなれない。
試験はその人物の特質、どの方面に長けているのかなどと、実力を見るためのもの。
その実力からE~Aと特別ランクSに分けられている。
これは管理局も一緒だが、両者に連動はない。
「まず初めに、一般常識から、冒険者に必要な知識に関しての試験をさせていただきます。時間は20分。試験の結果によって冒険者になれないということはないので肩の力を抜いてお受けください」
案内するウィンリードが止まって、二人は開けられた扉に入る。
訓練場の管理室の隣りで、小さな会議室のような部屋だった。
ウィンリードが入り口付近のいすに腰掛けて、そのまま試験官を担うようだ。
儀礼と獅子は一度顔を見合わせてから、木製の細長い机にそれぞれつく。
20分。筆記の時間はあっという間に終わった。
「どうだった?」
と聞いた儀礼に。
「退屈だった」
だらけた様子で答える獅子。
楽しみにしていた冒険者になれる! とういう表情ではない。
「いや、まぁ、そうだろうね」
苦笑とともに、冒険者関連でもやはり筆記はだめなのか、と納得してしまう儀礼。
「次は魔法に関しての試験ですが、お二人は適正は?」
二人からテスト用紙を預かり、名前など簡単に確認したあと、ウィンリードが質問する。
「知らん」
「わかりません」
首を大きく横に振って答える獅子と、首を傾げるように言う儀礼。
ドルエドは農業を中心としたような国で、先進科学や魔法技術という新しい雰囲気とはかけ離れていた。
しかし、その代わりに生活の基盤である食がしっかりとしているため、混乱に陥ることもなく穏やかな国だ。
「わかりました。測定に関してはどこのギルドや管理局でも予約して受けることができるので機会があればご利用ください。形式として試験だけは受けていただきます。どうぞこちらへ」
扉を開けて後についてくるよう促すウィンリード。
冒険者をやっていれば、魔法が使えなくても魔法使いと敵対するようなこともある。
ましてや、魔獣などとの戦闘などは冒険者の華だ。魔力がなくても対処はできなければならない。
もっとも、冒険者になってから、不得手なことを学んでいくのが一般的だが。
やっとか。と、ようやく体を動かせることに瞳を輝かせ始める獅子。
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