ネコはネコとて今日もネコ

あき

ネコの〝とき〟ちゃん

    今回おじゃまするのは、30軒向こうのお家に住んでるネコのときちゃんの夢の中。

    ときちゃんは、お父さんお母さんがわかりません。赤ちゃんの時、1人きりでウロウロしているところを、ここのお母さんが家の中に招いてくれたのです。ときちゃんは、何がなんだかわからなくて、不安で鳴き声も出なかったのに、気がついたら、温かい毛布の上で優しく頭を撫でられていました。
    でも、本当はそんなことあんまり覚えてはいないんですけどね。だって、赤ちゃんだったから。ここの家のお母さんがいつもそう話してくれるから、そうなんだって知ってるだけなんです。

    今日もときちゃんは、ふっくらした専用のベッドの上で昼間からスヤスヤ夢の中。たまにピクッと動くのはなんでかな?



    ときちゃんは今日も、お母さんに買ってもらった赤いランドセルを背負って、ここの家の子どもたちと一緒に小学校に通います。ランドセルの中には何が入っているんでしょう?カラカラと音がするよ。
    ときちゃんは、運動が大好き、高いところが大好きだから、今日も通学途中に近所の塀の上を歩いたり、水たまりを大きくジャンプしたり、雨上がりのこの道を進むのが楽しくて仕方ありません。だから、当たり前ですけど、学校に着くのはいつものとおり、学校が始まってしまうギリギリの時間です。最後は、思いっきり、ビュンと走って風のように教室に入ります。上履き?履くわけありません。だって、裸足が断然気持ちいいし、ロッカーの上にも机の上にも飛び乗りやすいですからね。

    さて、1年生の教室に先生が登場です。
「おはようございます」
担任の先生が元気よく入ってきました。教室のみんなもときちゃんも
「おはようございます」
元気に挨拶します。朝の元気な挨拶は気持ちがいいね。何があっても、いつでも、おはようございますって言おうって、ときちゃんは決めています。
(うん、挨拶は大事だね。おはようございますって言わないと何も始まらないよ)
ときちゃんは、そう思いながら、ニヤッと笑いました。
    ですが、先生は不思議そうな顔で首をひねります。それから、みんなの顔を見回しながらたずねました。
「こんなところに、泥が飛び散ってるんだけど、なんでだろう?だれか、登校中に水たまりで転んじゃった人いるのかな?」
だれも何も言いませんでした。だから、ときちゃんが、
「人間は二本足だからすぐ転ぶからね」
と言いました。先生はニヤッと笑いながら
「君は運動神経がいいもんな」
と返しました。ほめられて嬉しくなったときちゃんは、
「ふふーん」
と鼻を鳴らしながら、机の上に乗ってくるっとひとつ宙がえり。そして、先生の机の上にヒョイっと着地。クラスのみんなが大拍手。みんなニコニコ。先生もニコニコ。ときちゃんもニコニコ。

    あれれ?
笑いながら、先生が近づいてきました。
「犯人は、ときちゃんだったんだな」
なんと!
ときちゃんの飛び乗った机の上は泥がたくさん。少し乾いてパラパラと落ちています。
    そう。そうなんです。ときちゃんは、水たまりの上をぴょんぴょん飛び跳ねていたので、手も足も泥だらけでした。よーく見てみれば、後ろの棚にしまってあるランドセルも泥だらけ。先生は
「やれやれ」
と言いながら、ときちゃんをぬれ雑巾で拭いてくれました。とっさにときちゃんは、先生の手を噛みそうになっちゃったけど、我慢がまん。だって、お母さんにいつも注意されているもんね。気をつけています。

    先生に拭いてもらって、すっかり泥の落ちたときちゃん、やっと、授業が始められますね。


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