絶対防御の救世主~自分だけの体じゃないので徹底して守ります。~

かたつむり

0,プロローグ

僕、秋月空(アキヅキ ソラ)は歓喜した。

彼女無し歴=年齢を20年続けて生きてきた。
普通の企業に無事就職し、週末を楽しみにしている普通のサラリーマン。
そんな僕が歓喜しているのはなぜか。

それは、今、人を助けて死んだからだ。


死にたかった、とは思わない。
明らかに正気を失っている男がナイフを振り回しており、
近くに男の子が転んで泣いていた。
体が勝手に動いた。それが誇らしかった。


「じゃあ、話を続けるぞ?」
「あ、はい」

ちなみにここはあの世らしい。
そこで面接みたいに天使さんが俺の前に座っていた。
…天使って言っても、なんかガラが悪い。ヤンキーみたいな態度だ。

「ここからが本番なんだけどよ。
実は、あんたはあそこで死ぬ予定じゃ無かったんだわw」

「はあ。」

「ホントは助けたガキ。あっちが死ぬはずだった。」

「…はあ。でも、僕が死んだんですよね?」

「その通り。俺ら神々の予想に反して、な。」

「…」

もしやこれは怒られる流れ!?
いやさすがにいいことしたんだから、怒られはしない、は、ず、、、?

「怒りはしねぇよ。
ただこれは珍しいことで、だれにもできることじゃあ、ない。
一応、こちとら神の眷属だ。その予想を超えたんだからな。」

ほっ。よかった…。
…つか、僕の思考読めるのか、さすが天使。

「本来はこれから輪廻転生、あんたという人格は消えて、
どこかの世界であんたと同じ魂が宿った命が生まれる。」

「…本来はってことは、僕は別扱い?」

「それはあんたの選択次第って感じかな?
俺は、いや、俺達神々の眷属はあんたにひとつ頼みをする。
それを聞き入れてくれるんなら、別扱いだ。
断って貰っても構わない。
いいことして死んだんだから、前世より良い待遇での輪廻転生を保証するぜ。」

「お願いはなにか聞いてもいいですか?」

この時点でお願いは受けようと思っていたが念のため聞いた。
受ける理由は、死んだんだから願いくらい聞いてもいいだろうという理由だけど。

端折るはしょると、別の世界を救ってくれって感じかな?」

「…ん?」

いや。さすが天使。
お願いが世界救済クラスかー。

「いやー実は管理している世界のひとつに問題があってな。
おまえとは逆で、悪い方向に予想外なことが起きてるんだよな。
このままでは数百年のうちに世界が滅びかねないレベルで。」

「…その世界を救え、ってことですか?」

「俺たち神々の眷属が直接世界に干渉することは禁止されていてな。
世界を調整するには、間接的な関与しかできないんだわ。
あんたに具体的にお願いするのは、とある人物の保護だな。」

「とある人物…どんな人なんですか?」

「ああ…そいつは世界の災いを取り除く役目を担っていたんだがな…
不幸が立て続けに起きちまって、一人だと役目を果たすのが難しくなったんだよ。
極論今この瞬間死ぬかもしれない。可能性は低いがな。」

なんだかその重要人物とやらの話になった途端天使さんの顔が曇った。
確か以来はその人の保護。
すでに守らなければならないほど、良くないことが起きたことが感じられた。

「参考までに言っておくと、このままだとそいつは一か月以内に死ぬ。
…んなわけでだ!
まあーカッコよく言えば、救世主の救世主になってくれ!
それが俺らからの頼みだな!」

カッコよくはないかなぁ。との突っ込みを心でして考える。ああ、聞こえてるんだっけ。
お願いがなんであれ聞こうとは思っていたが、難易度がベリーハードだったからな。

「保護って何をすればいいんでしょうか?
病気とかだと手も足も出ないんですけど。」

「まあ簡単にいえば、体と命と魂を守ってくれ。
そいつは生きているだけで周りの災いの目を摘み取る。
あとできれば、いっしょに旅をしてくれ。そうすれば世界が平和になる。
今現在病気とかはないから、新しくかからなければ大丈夫だ。」

僕は、その人物とやらに興味が湧いた。
存在するだけで周囲を幸せに救世主様。どんな人なんだろう?
この依頼を受ければその人にお近づきになれるのか…
ん?

「少し疑問に思ったんですけど、
何でその人がいるだけで周囲の災いの目を摘み取るんですか?」

「ああ、、すまんな、それは言えないんだわ。
そいつが持つ『祝福』の効果とだけ言っておこう。」

「『祝福』?」

「その世界特有のチカラのことだな。
この際だしざっくりその世界のコトを説明するぞ。」

聞くところによると、よくあるファンタジーの世界のようだ。獣人ありエルフあり。
魔獣あり冒険者ギルドありで、トドメは魔法が普通に学べるようだ。

「…それで『祝福』っていうのは、固有魔法みたいなものだな。ちなみに内容はランダムだ。
一人一人が生まれた時に必ず一つ持ち、再現は難しい。」

「生まれたときに『祝福』が与えられる?
それって、自分がどんな『祝福』かわからないんじゃないですか?」

いや、ようは『祝福』って自分の才能だから、それがわからないのは普通か?

「それは、人間がどうにかしたっぽいぞ。
なんでも7歳になったら受ける検査でわかるとか。
過去に例がない『祝福』だとアンノウンらしいけど。」

…すごいな。自分の才能を理解できるのか。
道が狭まってしまうけど、必ず活躍できる道がわかるっていうのはありがたいことだろう。

「さて、回り道したが、結局どうする?
無理強いはしたくないが。転生するかしないか、どっちか選んでくれ。」

「最後にもう一つ。守ってほしい救世主さんってどんな人ですか?」

…チャラ天使が二やついている。早速意図に気づかれたようだ。
まあ男だし気になる。

「何を期待してるのか心を読まなくても筒抜けだが、
期待通り、麗しの美少女だよ。年齢は17。
俺はわかりやすく今まで救世主って言ったけど、聖女って呼ばれていたらしい。」

「はい。依頼を受けさせていただきます。」

受けないわけがない。聖女様のナイトになれる一生(死んだけど)で一度のチャンス!
チャラ天使さんは手元にスクリーンを出して、ある女性の画像を見せてくれた。
おそらく彼女が件の聖女様なのだろう。
スラリとしたロングの金髪。マリンブルーの瞳。名前もかわいい。
17歳にしては幼いような気がするが、間違いなく美少女である。

「了解。じゃあすぐ守れるように向こうでは新しい体にするか。
聖女様の近くにも転送しよう。
ついでに、この天使様じきじきに『祝福』を与えてやる。
どんなのがいい?」

至れり尽くせりでびっくりした。
後で、やっぱりなしでwとかこの天使ならありそうで怖い。

「そうですね…やっぱり守るのが本分だと思うので、
守ることができるような『祝福』をお願いできますか?」

「了解。他に要望は?」

「…僕は僕自身を優先させて守ってしまうかもしれません。
僕はもう一生分生きました。
なにかあったら僕より聖女さんを守ることに『祝福』を使うようにってできますか?」

「できると思う。『祝福』を調整すればな。
ただ、二つ目とはいえ自分の命を優先するのが普通だと思うが?
さすがに命あるものに、命を懸けろとは言わん。」

「でしたら、それを僕が転生する条件にしましょう。
僕は誰も知らない世界に行くのなら、何か成し遂げて僕がいた足跡を残したい。」

「…わかった。
確かに、見知らぬ土地で目的もなく取り残される孤独を考えてなかった。
すまなかった。」

…チャラ天使が頭を下げていた。どうやら見た目で天使を判断していたようだ。

「それじゃ、特になければそれで決定するぞ?
体は、サービスでありうる範囲で性能向上させておこう。
顔は弄るか?」

「…やめてください。なれない顔だとサギっぽい気がして落ち着かなそう。
言葉とかってどうなりますか?」

「基本的には普通に生活できるように調整する安心しろ。
ちなみに言葉は、500年くらい前に複数の『祝福』を合わせて、
その世界の言葉を統一したからどの国でも同じ言葉が通じるぞ。」

おお!さすが魔法ありの異世界!世界レベルの調整とかすごすぎてよくわからない。

「それじゃあもういいか?
もし向こうに行って聞きたいことがあれば、教会で俺を心に浮かべながら呼んでくれ。
忙しくなければまたここに召喚してやる。」

「ありがとうございます。
その時はよろしくお願いします。」

チャラ天使さんは、おう。というと、何やら唱えだした。
はっきり発音しているのに、何を言っているか全然わからない。
どうやら魔法で僕の体を再構築しているようだ。


…数分経った。もう自分の体は存在しない。
魂?だけになってふよふよ浮いている。ちなみに視覚だけ残ってる。
天使さんも一区切りついたようで汗をぬぐっている。

その時、周りが一瞬明滅し、天使さんの前に巨大なスクリーンが現れた。

天使さんは明らかに驚き動揺緊張していた。
耳がないのでわからないが、まさか、はやい、そんなことを言っているようだった。

なにかあったのだろうか?基本的にこことは無関係なので他人事のように見ていた。
そこまで思考が進んで嫌な予感がよぎった。
…もしかして聖女様の身になにか。
いや最悪もう…?

天使さんを見ているとどこかに指示を飛ばしているようだった。
みるみる顔色が悪くなっていく。顔には汗のようなものが見える。
難しい顔で僕とスクリーンを交互に見て、ふと何かを思いついたようだ。

一瞬、しかし明らかに、悪戯少年の用な笑みを浮かべた。

次の瞬間には魂ごと鷲掴みにされていた。明らかに焦っている。

何かを唱え僕の魂が移動するのを感じた。
最後の一瞬、チャラ天使さんを見ていたが、彼は間違いなくこう言っていた。


「がんばれ!」


~~~
そして僕は「生まれた」
~~~




私、リーン・ベルセフォードは恐怖した。

理由は単純。命の危機だからだ。
鼻先1mにオロチの顔がある。

オロチとは、全長10mを超える毒蛇で、国の災害級魔獣に登録されている。
体内に入れば即死の毒も恐ろしいが、その感覚の鋭敏さが最も厄介だ。
どんな暗闇でもどんな密林でも獲物を逃さない。
今、私は、そんな文字通り災害並みの怪物に獲物認定されたようだ。

一応は冒険者だった私だ。
簡素な衣服しか持っていなくても、魔法という攻撃手段はある。
ちなみにそれを駆使してかれこれ一時間逃げている。
幸い今いる遺跡は隠れるところがたくさんある。いや、あった。
もはや跡形もなくオロチに破砕、溶解させられてしまっている。

素早く周囲を見渡す。数百メートル先まで見える。
逃げ隠れるのは不可能なのは明白。戦うのは自殺と同じ。
ならかく乱し攻撃しながら、すきをついて逃げるしかない。

「光よ、瞬き彼のものの光を奪えっ!〈フラッシュ〉!!」

目くらましの魔法を早口で唱え、自身は光から目をそらす。
これで数十秒は稼げるはず。その間にどこかに隠れて、、

…その先は思考が続かなかった。
最後に見ることができたのは、オロチの尻尾。
なぜかオロチには目くらましが効かず、尻尾に吹っ飛ばされた。
そこまで考えて、リーンのマリンブルーの瞳は抵抗なく閉じた。



~~~
~~~



ソラが、まず感じたのは痛みだった。
痛い。全身を叩きつけられたような痛さだ。

とりあえず状況を確認するため目を開く。

一面がれきの山だった。がれきの外は森のようだが、
数百メートル先まで、がれきは続いている。

そして、…明らかにヤバそうなのがこっちに向かってきている。
見た目は蛇か。ただ圧倒的にでかい。車も丸呑みにしそうだ。
あとなんか角生えてる。

…とりあえず、ここが天使さんの言っていた異世界なのはほぼ確実かな。

あれーなんか草原で起きるとか、王宮に召喚とかそういうのを期待してたんだけどな?
そういえば聖女様の近くに転移するって言ってたな?どこだろう?
…現実逃避してる場合じゃない。

「…逃げなきゃ……?」

声が違う?
そういえば体の能力を上げてくれるとか言っていたな。声帯も変わった?
いやそもそも、体がない状態でこっちに送られたような?

とりあえず、本当に何の気なしに自分の胸に手を当ててみた。

むにっ。

「へっ?」

むにむに。むにゅむにゅ。

ちなみにこうしている間も蛇もどきは近づいている。
しかし。ソラはむっつりドウテイであった!!
初めて触る未知の感触に、初めて触られる謎の快感に、
これは女性の胸だと結論付けても、思考停止で揉みしだいた。

体感30分(実際には10秒くらい)のあと正気に戻った。

「はっ!!」

…ちなみに蛇もどきはもう数秒で触れるくらいの位置に来ているが、それどころではない。

「(仮に、仮に、僕の肉体調整が何らかのトラブルでうまくいかず、
女性っぽい体で転生したとしよう。…僕の、、は無事か?)」

元の世界では童顔で女性に異性としてみてもらえなかったソラとしては、
それが命の危機より気になった。

しかし急いで確認しようと服に手をかけ脱ごうとしたとき、
混乱で忘れていた痛みが走った。

「つっっ、ぅぐぅ…」

手をすぐ引っ込め、虫のように丸くうずくまる。
これは我慢できるレベルを超えている。

周りに影が落ちた。蛇もどきが鎌首をあげていた。

なんで、こんなに痛いのか。
なんで、体が女のものなのか。
なんで、近くに聖女様がいないのか。
なんで、こんな化け物が近くにいるのか。

「(いろいろありすぎて、よくわからないけど、僕死ぬのかな?
天使さんの前ではかっこつけたけど、やっぱり死ぬのはこわいなぁ…)」

そこで違和感があった。なにか忘れているような?
そういえば蛇が攻撃してくるのが嫌に遅い?

恐る恐る見上げると、蛇の口が目のまえいっぱいに広がっていた。
寸前で停止したまま。
「、ひっぃ!」

蛇はまた首をあげ、僕を呑み込もうとしている。
しかし、何度やっても、障壁のようなものに阻まれそれは叶わない。
障壁に蛇がぶつかる度、障壁を伝い振動が地面に受け流されている。

「…そうか、守る『祝福』のちから。」

そこで思い至った。これが『祝福』の効果。
任意の障壁を作ること。多分オートでも守ってくれる。

これは心強い。なによりももうケガをしなくて済む。
しかしいつまでも障壁が持つとは考えにくい。

「(蛇が追ってこれないところまでいかなくちゃ。)」

とりあえず生存できるかもしれない。
蛇と目が合った気がした。僕は少し笑みを浮かべてやった。

調子に乗るとろくなことはない。でもそれくらい許してほしかった。
次の、蛇の渾身の頭突きで障壁ごと地面に沈んだ。
正確には障壁が受け流していた地面の中にあったらしい空間に落ちた。

落ちた先で僕の目に綺麗な金髪が掛かったところまでは覚えている。

僕は着地に失敗したか、疲労が祟ったかして気を失った。

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