勇者時々へたれ魔王

百合姫

第45節 グランデ護衛騎士団の青年A

色々予定外の出来事はあったけれど、ギルドミッション自体はなんら問題なく遂行できた僕。
ティリアさんに報告した後、ティリアさんは望んでも無いのにあの人たちのことを勝手に聞かせてきた。


「殺したのかしら?」
「ええ・・・っとまぁ。
まずかったですか?」
「いいえ、別に。むしろ助かったくらいよ?
彼等はここ最近、もう少しでランクが上がるからって浮き足立っちゃってね。
手っ取り早く上げたいからって自分の身の丈に合わないミッションばかり受けるように・・・」
「それで失敗続き・・・と?」
「そのとおり。
果てにはやっても無いくせにやってきたっていう偽装までし始めたから、どうしようかと思ってたところなのよ。別に罪悪感を感じる必要は無いわよ?
どうせ殺される予定だったから。」


殺される予定?


「ミッションの偽装はギルドでやってはいけないことの中で一番悪いことなの。
最近ではその偽装ばかりをやってたし、他の冒険者チェスにも迷惑なことばっかりやってたからね。
度が過ぎて、ギルドに始末依頼がくるくらいだったから・・・」


わざわざ殺してくれと依頼されるほどまで色々やってたのか。
予想以上にバカなやつらだったみたい。


「ちなみにだ・け・ど。偽装は現在のところ不可能とされてるわ。倒した魔獣の数が分かると言う最新技術がギルドカードに組み込まれてるからね。」
「そ、そうなんですかっ!?」
「ええ。とはいっても人によっては実力を隠したいとかそういう事情持ちの人もいるし、基本的にギルド職員以外には閲覧不可能になってるけどね。」


そんな機能が付いてたとは初耳である。


「さて、それじゃあ、換金と依頼量を払うからこっちへ来てね。」


といって、別室に案内される僕達。
結局その日はそのまま城に帰宅して、寝ることとなった。




☆ ☆ ☆


数日後。
僕は毎日、ギルドミッションをクリアしていく日々が続く。
セリアは同じ時間に必ず来て、ちょっと僕と話をして部屋を出て行き、エンデはあいも変わらず王城の料理。もとい王宮料理とでも言うのだろうか?
それの会得に励んでいた。
最初のうちは毎日付いてきたフェローも面倒くさくなってきたのか、1人部屋で昼寝することが多くなっていき、僕の手伝いは全くしなくなってしまった。
本当にヒッキーと化す日も遠くないかもしれない。


ベリーはベリーで知らず知らずにどこかへと行ってしまうし、シロはシロで王城の牧場にて悠然と走っていた。
王族専用の馬車レーンとも言うべきか?
コースがあって、そこで日夜王族の馬達と走り競ってるらしい。
なかなか楽しげな日々を過ごしているようで何より。


「おい、男女!!」


あとは誰だとなると必然的に1人と1つしか残らなくなる。


「さて、今日も行こうか?セルシー。」
<はいはいなのよ。
というか、もう私を隠さなくて良いわけ?>
「何を言ってるのさ。
セルシーのせいじゃないか。」
<・・・まぁ、そうだけどさ。>


一応、喋ることを隠していたのだが、シロと駄弁ってる所を偶然にもメイドさんに見られたらしく。
それ以来セルシーの存在は王城にて公の存在となってしまった。
念のためバルっち・・・じゃなかった。
バルムンク王に口止めをお願いしたけど、効果は全く無かったようだ。
ないしはすでに遅かったのか。


「おーいっ!!」


あれから盗賊的な輩や、コレクターみたいな人たちに言い寄られて困る。
中にはミッション中に襲い掛かってくるヤツもいたりして本当にうんざりするものである。
ていうか、周りがうるさいな。
誰だよ!?人の呼びかけを無視してる奴は!
さっきから大声を上げて呼んでる人が可哀想じゃないか!!
さっさと返事してやれば良いのに。




「それにしても・・・コレクターの人間は特にうざったい。」
<い、一応、反省はしてるよ!?>
「はいはい・・・いっそのこと誰かに渡すか売ってしまえば・・・」
<ちょ、ちょっとちょっとっ!?
そういうのは冗談でも笑えないわよっ!?>
「実は本気だったりする。」
<ま、マジでっ!?>
「本気と書いてマジと読む・・・って良く言うけど、どうしてこんな当て字が流行ったんだろうね?」
<それはしがない剣に聞かれてもなんとも応えようが無いわね。>
「マジって真面目の”真面”から取ったと思うんだけどどう思う?」
<そうなんじゃないか・・・としか言えないわよ。>
「使えない剣だね。」
<本来の剣の使用用途を遥かに逸脱してることに気づいて!?>
「やっぱり売るしかないよね。うん。」
<マジの当て字の由来を知らないから売られるって!?
この外道!!
鬼畜!!剣にも人権はあるのよっ!?>
「その幻想をぶち壊すっ!!」
<こわしちゃらめぇっ!!>


まぁ、その辺はまたとして。


<またこのやり取りがあるっていうの?>といううんざりとしたセルシーの言葉もまたとして。
今日も暇つぶし兼、実践訓練がてらのミッションである。


「おい。無視するなっ!!」


「ところでさ。
今日の晩御飯はなんだろう?」
<私の言ったことは全て爽快なほどのスルーなのね。
・・・まぁいいけど。
ていうかまたとして・・・って本当に私を売ったりしないよね?>


最近はエンデの料理が美味しくて仕方ないのである。
料理の腕がメキメキと上がっているエンデ。
料理が好きなんだろうなぁ。


「待てッたらっ!!」
「もう、さっきからうるさいな。
誰だよ。人をシカトしてる奴は・・・全く。
というか、無視され続けてる人も根気良く話しかけるな・・・傍から見るとバカみたーーーあら?」


いつの間にか僕の背後には軽装に身を包んだ槍をもった20前後の青年が立っていた。
こころなしかプルプル震えてる。
お腹痛いのかな?


「なるほど。
やたら五月蝿いと思ってたんだけど、背後から声が上がってたからか・・・通りでね。」
<そうじゃないでしょ・・・ヒー君。
プルプル震えてるところからして、怒ってるのよ。>
「な、なるほど!!
盲点だった!!お腹を下してるんじゃないんだね?
でもなんで?」
<そりゃ、きっと自分の存在のちっぽけさと世界の偉大さを比べてあまりのちっぽけさに、悔しくて怒ってるのよ。>
「・・・なんて壮大な理由で怒ってるんだ・・・脱帽ものだぜ・・・そこに男達は痺れて憧れるってとこかな?」
<ええ・・・おそろしいわ。彼のその精神と考え方がある限りおそらく・・・私達の目の前に立ちふさがり続けるでしょうね。彼は。>
「ぼ、僕達が世界を司る精霊だと見破られたのかっ!?」
<ええ。その通りなのよ。
彼はその類まれなる才能で世界を相手にーーー世界の化身とも言える私達に対してその磨きに磨いた牙を向けーーー>


「ちっげぇぇぇえぇぇっぇえぇぇぇぇええええええええええええええよぉおおおおおおおおっっ!!」


ひぁっ!?
お、恐ろしいほどの大音量のツッコミだ。


「な、何が違うんだ?」
<きっと、世界どころか宇宙にーーー>
「だから、ちげぇって言ってんだろっ!?
そういうことじゃねぇんだよっ!?
自分のちっぽけさにいちいち怒ってられるか!!ドあほう!!」


なんだろう?
この20歳くらいの黒髪青年は。
ボケに決まってるじゃないか。
何を真面目にツッコんでるんだろう?


「引くわぁ。」
<ドン引きね。
まさか私達が本当に世界の化身だとでも?
そんな設定ないのね!!>
「なんか知らないけど、俺が引かれたっ!?
あまりにも酷すぎませんかっ!?」


まぁ無視してたのも認めよう。
面倒ごとの気配がしたので無視していたのだからして。
というか、初対面の人におい!という掛け声は無礼に過ぎると思う。
無礼には無礼を返したまでである!!


「で、何のようかな?」
「な、流しやがって・・・まぁ良い。
俺はオマエが気に食わん!!」
「は?」


いきなり何を言い出すの?
この人。


「俺たちグランデ護衛騎士団はオマエを認めない!!」
「いや、だから・・・話が見えないんだけど?」
「早い話、お前らみたいな胡散臭いやつらを王女様に近づけるのが気にくわねぇんだよ!!」
「・・・血気盛んなことで。というか、本音はそこかい。」
「ち、ちっげぇよ!!
あくまでも護衛の立場としてだな・・・」
「はいはい。で、話は終わり?
とっととミッションに行きたいんだけど?」
「まだ終わりじゃねぇ!!
王様の礼に対して変な返しをして気に入られたってのも、胡散臭い!!
どうせ金が欲しかったんだったろ!?
正直にお金欲しいとでも言っておけば良かっただろうに!!
そこも気に食わん!!
この偽善者が!!
その偽善にまだお若いセリア様は騙されたようだが、俺達プロの目は誤魔化されねぇ!!」


まぁ手助けは偽善だと認めたとしても、お金は本当に心底要らなかっただけだが。
そんな殊勝な心がけは無いです。


「今度こそ終わり?」
「だから、終わりじゃねぇって言ってるだろっ!?
・・・てめぇ・・・舐めてんのか!?」


といって、殴りかかってくる青年A。
嫌だなぁ、いちゃもんをつけてくる言いがかり野郎は。
ここで反撃をしても後々面倒そうになりそうだし。
殴られてあげよう。
おちょくり過ぎた侘びも兼ねてね。


「あぅっ!?」
「こんなのも避けられねぇのかっ!?
本当に竜を倒したのか・・・?」


僕はしりもちをつく。
一応、異議だけは申し立てておこう!


「どうして何もして無いのに・・・こんなことをするのっ!?」




ちょっとだけ目を潤ませて、青年Aを見上げる僕。
罪悪感を感じてもらおう!!
ちなみに、泣く演技は得意である。
・・・悲しいことを思い出せば良いだけだから・・・姉さんとの日々を思い出せばそれだけで泣ける。
僕ってつおい子!!


「ご、ごめーーーじゃなくて・・・こいつは男だ・・・男・・・男・・・」


軽く頬を染めて、男と何度も繰り返して唱える青年A。
どうしたんだろう?


「大丈夫?
青年A。」
「あ、ああ、大丈夫・・・じゃなくてっ!!
てか、青年Aってなんだこらっ!?」
「名前知らないし。
所詮モブキャラでしょ?アンタ。」
「な、なんて失礼なガキだ!!
お、俺の名前はジョンという名前が・・・」


ありきたりな名前だな。
まぁいいけど。


「じゃぁ、さようなら。」
「いや、だから待て待て!!」
「まだ何か用?」
<きっと、ヒー君に惚れちゃったとかじゃないの?>
「・・・ホモとか気持ち悪い。」
<まぁ、そう言わないの。ヒー君。
人それぞれじゃない?>
「確かに僕もそう思うけどさ・・・その情念が自分に来るとなると・・・正直な話やっぱり怖気が走るよ・・・気持ち悪い。ホモの友達とか面白そうとか思ってるけどね。
その・・・マジ惚れされるとやっぱり辛いです。
というわけでごめんなさい。
貴方の気持ちにはこたえられません。」
「告白したわけでも無いのに、勝手に勘違いして勝手に振られたぁぁぁぁぁぁぁっ!?
というか、そこの駄剣は黙ってろっ!!
ややこしくなる!!」
<乱暴な言い草ね。
そんなんじゃ異性・・・じゃなかった。
同性にモテないわよ?>
「モテたくねぇ!!
てか、ちげぇっ!!ホモじゃねぇよっ!!」
<じゃあ何さっ!?
ハッキリ言いなさいよっ!!
男でしょっ!!>
「結構ハッキリ言ってた覚えが俺にはあるのだがっ!?」
「独りよがりの覚えって迷惑だよね。」
「独りよがりだったっ!?
俺って独りよがりだったのかっ!?
っていうか、話が遅々として進まねぇっ!!
ので、ちょっと黙ってくれるかなぁっ!!!」


☆ ☆ ☆


とどのつまり、青年Aが言いたいのはお前らみたいな胡散臭いやからが王城にいるのは我慢ならん!!
俺と勝負して負けたらとっとと出て行け、とのことである。
仮にも王族の客人を勝手に追い出して良いのか?とも思ったが、その辺はセリアたちが見てこないところでこうして異議を申し立てるところから、わかっててやっているのだろう。


「あのリネティア嬢とも仲良くなりやがって・・・あの人がいる限り、王女様には絶対近づけないとまで言われてたのに・・・一体、どんな手を使いやがったんだ!!」
「成り行き・・・としか言えないけど。」
「この女男が!!」
「別に見た目は関係ないと思うのけど。」
「とにかく、勝負ったら勝負!!」
「はいはい。
勝負ね。
わかったから、とっとと構えろ。」
「・・・ふっ。
ようやく認めたか。
おら、くらえっ!!」
「ぐあああ、やられたぁ。(棒読み)」


槍で突きかかってくる青年Aの攻撃をそのままわざと、セルシーの刀身の腹で受けてそのまま後ろに倒れこむ僕。
負けた負けた。


「て、てててて、てめぇはふざけてんのかぁっ!!
だ、だがなっ!!おちょくってられるのも今のうちだ!!
オマエは負けた!!
だからオマエはこの王城を出てーーー」
「負けたけど、出て行かないよ?
勝手に君が言い出しただけの事だし。」
「てめぇっ!!
卑怯だぞっ!!」
「あまり五月蝿いと王様に言っちゃうよ?
あなたの国の護衛騎士団がいちゃもんを付けて来るんです。
あなたの国の騎士も高が知れてますね。って。」
「・・・ぐぎっ!
・・・ひ、卑怯な・・・。」
「というか王女様の客人にあたる僕にこんなに突っかかってくるのもおかしいでしょ?
気持ちは分かるけどさ。」
「ぐぐぐぐっ!!
て、てめぇは・・・ぜ、ぜぜぜ、絶対ぶっ殺してやるからな!!
3日後!!
大会がある!!
この王都で開催される名誉あり、歴史ありの何でもありの大会だ!!
そこでテメェの化けの皮を剥いでやるからな!!
絶対、出ろっ!!
絶対絶対絶対ぜぇえええええええったいに出ろよっ!?」
「はいはい、分かりました、分かりました。」


もう面倒だな。
そのまま、僕は走り去る。
いい加減、相手が面倒だ。


「おいこらーーーちゃんと聞いてーーー」


後ろで青年Aの声が遠ざかっていくのを感じながら、僕はそのまま冒険者チェスギルドと向かうのであった。
もちろん、大会なんて出るつもりは無い。
ということは言っておこう。





コメント

コメントを書く

「その他」の人気作品

書籍化作品