勇者時々へたれ魔王

百合姫

第26節 味方はシロだけ。

というわけで、僕達は現在。
ロロリエへと向かう街道を走っていた。
白竜は僕を主人と認めてくれたらしく、おとなしく言うことを聞いてくれる。


「あ、あれはやりすぎだったんじゃない?」
「そうかのう?
あれでも3割程度じゃぞ?」
<・・・私から見てもあれはないわ。>
「やりすぎに決まってるでしょっ!?
貴方何者よっ!?
あんなバカ魔力で・・・しかも、あれって古代呪文じゃないっ!?」


何食わぬ顔のフェローに僕とセルシー、エンデはつっこんだ。
いや、ねぇ。
作戦は”フェローのハッタリ大規模魔術(霊力も持つフェローにとっては奇跡でも良かったが、奇跡より魔術の方が得意だとのこと)で注意を引いた隙に検問を強引にすり抜ける”ということだったのだが、如何せんその”ハッタリ”がとんでもなかった。


スターブレイクという魔術だそうで、文字通り星を破壊しかねないほどの大規模魔術である。
極太の荷電粒子砲ーーーもといビームといったところである。
どこかで聞いたことがあるのだが、荷電粒子を放つには事実上不可能なほどの電力量が必要だとかいう話から、理論的、技術的には実現可能でも、質量的に不可能とされる技術だとか。
そのために兵器への転用はもちろん人型ロボットに搭載するなど夢のまた夢である。
だからこそ空想上にしか存在なしえない武器らしいのだが、さすがファンタジー。
たかが1人の人間(精霊だけど)が放てるとはついぞ思いもよらなかった。


しかも、これは本来の荷電粒子砲が持つ弱点である”一定距離を飛ぶと急速に減速し、停止する”という弱点を見事克服してるらしく、空に向かって放ったスターブレイクは僕の視認可能距離から離れても大空に舞い上がっていったようである。
早い話、射程距離がバカすぎて笑うしかないレベルだった。


同じようにそれをバカみたいに見上げていた検問兵達を馬車で引き飛ばし、(ごめんなさい)ロロリエに向かっているのだ。
追手は今のところいないようである。
ただ、背後で「白竜を持つ馬車を各国で指名手配しろっ!!」みたいな怒号が聞こえたのは気のせいだと思いたい。


「まぁ・・・それはいいや。
それよりも、この白竜かなり良いね。」
「うむ。
さすが、妾が認めた竜じゃ。」
「いや、フェローは認めるどころか殺す気満々だったじゃん!?」
まぁ、それのおかげで僕の左腕はまだつながっているわけだけれど。


<あなたらしいのね。
ヒー君はこの子の昔を知らないようだから言っておくけど、この子って結構ぶっとんでんのよ?>
「剣になりたがるような主にそれを言われたくないわっ!!」
「いや、だいたい分かってきたよ。」


とかなんとか他愛の無い話で盛り上がってるとエンデが一言。
「・・・ねぇ?
この子に名前は付けてあげないの?」


この子とは現在、僕の目の前でドッタドッタと走り動く白竜のことだろう。
言われて見れば白竜という俗称やブリッツドラゴンという種名で呼ぶのもかわいそうな気がする。


「・・・・う~ん?
何が良い?」
「妾はカニミソが良いと思うぞ。」
「なぜにっ!?」
「私は赤味噌のほうが良いと思う。」
「味噌ネタ再来っ!?」
「カニ味噌といえば美味で有名。
そのカニ味噌と同じ名前をつけられるのだから・・・」
「生臭そうだね。」


僕だったらそんな名前、死んでも嫌だ。


「カニ味噌は私が嫌いだもんっ!!見た目、気持ち悪いし!!
ヒビキだってそう思うでしょっ!?」
「いや、そもそもカニ自体食べたこと無いんだよね。」


エビならともかく、我が家ではカニというものを一切たべなかった。
単純に父さんと母さんがあまり好きじゃないからである。
どうも、食べた後の後味で吐き気を覚えるだとか・・・実際、父さんは吐いたことがあるらしい。
個人的には少し高級食材というイメージがあるが、エビと変わるまいと思っていてあまり食べたいとも思っていなかった。
それにしても、この世界でもカニっているんだな。
一度くらいは食べてみても良いかもしれない。
そんな僕がカニ味噌などという食材を食べたことはもちろん、見たことすらなく、どんなものなのかという外見すらうろ覚えだったりする。


とか言う話はどうでもよかった。


「きっとヒビキだって嫌いだよっ!!
あまり美味しくないもんっ!!」
「いやいや違うなっ!!
妾の契約相手じゃ!!
妾の好きなものは響の好きなもの!じゃっ!!」
「契約って・・・まぁそれはおいといて、妾の好きなものはーーーなんて無茶な理屈聞いたこと無いわよ!!
バカじゃないのっ!?
これだからちびっこは・・・」
「ちびっこ言うでないわっ!」
「ひぁんっ!?
い、痛いじゃないっ!!
美少女たる私の顔に傷がついたらどうしてくれるのよっ!?」


ビンタで悲鳴をあげるエンデ。
ビンタの犠牲者がまた増えたか。
「美少女とな・・・ぷっ。
片腹痛いわ。」
「う、うるさいわねっ!?
笑うこと無いじゃないっ!!
幼児体系のくせして!!」
「た、体系は関係ないじゃろうがっ!!
第一、単純に妾の方が若々しいというだけじゃっ!!
これからボンと大きくなっていくのっ!!
それに、どんな男だって、すでに熟してぴーくの過ぎ気味で痛み気味な果実など吐いて捨てるわっ!!」
「ま、まだ私は若々しい果実よっ!!16よっ!?16!!
まだまだ、もぎたてフレッシュなんだからっ!!」
「25ぐらいに見えたがのう。
いずれ、その胸も垂れて見れたものではなくなるわっ!!老け顔めっ!!」
「ふ、ふけっ!?
お、女のひがみはみっともないわよっ!?」


姉さんは色々なところへ武者修行するがてらカニを幾度か食べたことがあるそうだが、その感想は”それほどでもないわね”だ。
僕としては、カニよりイチゴが食べたい。
あ、そういえばイチゴ柄パジャマが喋れるようになるまで、あと18日ぐらいだ。
楽しみだな。
目の前で言い争う2人の少女達を見ながらそんなことを思ったしだいである。
ちなみに、僕から見てエンデが老け顔というのはちっとも思えない。
負け惜しみだろうか?フェローの。
普段ビンタされてるので、その辺でからかおうと思ったけれど、触らぬ神に祟りなしということわざもある。
やっぱり黙っていた。




「お前の名前は・・・・ブリッツドラゴン・・・・白竜・・・・白竜からとってシロでいいや。
どう?」
白竜にそう話しかけるとグルッと一声。
”それでいい。”という感じだ。
安直だけど、下手に意味込めて変な名前になるよりかマシだろうと思いつつ。
白竜改めシロの手綱を握りなおす僕であった。




☆ ☆ ☆


しばらく走っていると、日が暮れたため良い感じの野宿場を探して少し街道を外れた。
今夜はここで野宿だろう。
バックパックから干し肉と数種類の野菜、そして簡素な調理器具を取り出して調理を開始する。
今日の晩御飯は野菜炒めだ。
かるく塩を振りかけて完成である。
学校の調理実習以上の料理をしたことのない僕でもコレくらいは出来る。
あと目玉焼きとか、目玉焼きとか、目玉焼き。
それが僕の得意料理だ。
あとは卵そぼろ。
低温で熱しながらかき混ぜていくのが、細かいそぼろを作りたいときのコツ。


魔術的な異空間を利用したバックパック内では卵が割れるなんてことも無く、本当にバックパック様様である。
それでも限界容量というのはあるけれど、もう一つくらい買うのが良いかもしれない。


「さて、ご飯ができたよ。」
「ふむ・・・また野菜炒めかの・・・」
「へえ・・・ヒビキって料理できるんだ。」
「ちょっとだけだけどね。
それも偏った・・・」
「それでも男の子が料理できるってのは凄いと思うよ?」
「そ、そうかな?」


エンデのほめ言葉に悪い気はしない。
むしろ結構嬉しい。
もっと褒めて欲しいくらいだ。
いや、まぁこんなことくらいであまり褒められてもかえって居心地が悪くなるからこのくらいがちょうど良いのだろうけど。




「せめて、れぱーとりぃーがもう少しあればのう・・・」
「じゃあ食べるなよ。」
「たわけ。」
「ぐぶはぁっ!?」
「妾は成長期じゃぞ?
その妾に飯を食べさせないなどと・・・虐待も良いところじゃ。」
「だからって、ビンタは理不尽すぎませんかっ!?」
<このむちゃくちゃぶりは昔からなのよ。>
「ガキ大将って感じね・・・フェローって。
ちみっこいくせに。」
「なんじゃと?」
「別に~。」


また険悪ムードに入ったので、ぶたれてヒリヒリする頬を撫でつつ僕はシロのところへ非難した。
シロ・・・僕の気持ちを分かってくれるのはきっとお前だけだよ・・・


「シロ~。
飯だぞぉ?」


ちなみにシロの飯は道中に見つけたソルトドッグである。
しょっぱい皮を剥いで、それをあげる。
皮を剥ぐのもすっかり慣れたものよ。
技術的な意味でなく、精神的な意味である。
モンスターの素材剥ぎなどをやっていったり、死にかけたりしたここ数日間ですっかり大丈夫になった。
最初はもちろん抵抗があったのだけど、それも今となってはどこへやら。
人間って凄い。
伊達に地球を支配してないわ。


「グルッ!」
”待ってたぜっ!!”といわんばかりの泣き声。
ちなみに、この子はメスらしいので”待ってたわ”の方が正しいかもしれない。
もちろんこの子が肉体的にはメスでも精神的にはオスという精神的病気の可能性があるかもしれないけど。
その場合は”待ってたぜ”で当ってるのだが、一体どっちが正解だろうか?
などと、”人間の産毛は何本生えているか”というのと同じくらい下らない事を思いながら僕は野菜炒めを頬張ったのだった。


ちなみに、そのことを腰に差しているセルシーに言ってみると、笑われた。
分かっていたけどね。うん。




その日はセルシーに見張りを任せて僕はいつものような浅い眠りではなく、普通にぐっすり眠れた。


追伸。シロがソルトドッグを噛み砕くグロイシーンがまぶたの裏でちらついて、中々眠れなかったのは辛い。


次の日。
早朝に馬車を飛ばし、流れる景色を尻目にしばらく走っていると盗賊らしきやつら10数人に出くわした。
なにやら話がありそうなので、聞くだけ聞いてやろう。
盗賊みたいに見えるだけかもしれないし。


「何?
あんたら?」
「いや・・・なに。
金目の物と女を置いていけば命まではとらねえよ。げへへ。」
「シロ、いっちゃって。」
「グルッ」
”はいはい。”と僕と同じく呆れたような目を結局盗賊だったやつらに向けつつ、シロは足を踏み出した。
もちろん盗賊たちは跳ね飛ばされる。
「お、おいてめぇっ!?
人でなしにもほどがばふっ!?」
「か、かしらぁっ!?
だいじょうぶはらっ!?」
「ぎゃっ!?」
「おい、にげばらっ!?」


10数人の盗賊をかまわず引き飛ばしてレッツゴー!
はっはっはっ。
盗賊に人でなしと呼ばれても痛くも痒くもないね。
シロに跳ね飛ばされた盗賊4、5人は変な落ち方してたし、しばらく動くこともできまい。
魔物にでも食われておけってな。


「シロって本当にすごいなぁ・・・はい、ごほう・・・いや、”お礼”の干し肉。」
「グルッ!」
ご褒美という言葉は上から目線であまり好きじゃないため、お礼と言い直した。
結果的には一緒だけど、これから短くはない期間を共にする仲間である。
ここはやっぱりね。
それを知ってか知らずか、ご機嫌のシロ。
今回の”グルッ”は”たりめぇだっ!”って感じかな。


「うん?どうしたのじゃ?」
「何でもないよ。
ただの盗賊だった。」
「そうか、確かにの。」


その辺の盗賊なんて下手したらその辺の魔獣よりも弱い。


「いやいや、まってよっ!?
盗賊相手になんでもないって・・・ヒビキ!
大丈夫だったのっ!?」
「大丈夫だって。
というか、僕の力量は分かってるでしょ?」
「そ、それでも・・・心配にはなるもんっ!!」
「ご、ごめんなさい・・・」
「ふん、所詮、小娘じゃの。
妾の響がそう軽々しく負けるわけ無いじゃろうがっ!!」
「誰が、あなたのヒビキよっ!!
私のに決まってるでしょっ!!
ま、守ってくれるって言ったし・・・私だって・・・わ、わたし、私だって全てをささげるって言ったんだからねっ!!」


どっちのものでもないと言いたいけど、矛先がこちらに向くと困るのでシロの手綱を握ることに集中したフリをする僕。
あれ?僕ってここまでことなかれ主義だったっけ?
否っ!!
断じて否っ!!
男たるものそんなことではダメだっ!!
やはりツッコムべきところではツッコまなければっ!!


「いや、僕はどちらのものでも・・・」
「「ヒビキは黙って(おれ)っ!!」」
「す、すいませんっ!!」




僕よわっ!!
我ながらよわっ!?


<情けないヒー君。>
「うるさいな・・・ほっといてくれ。」
<剣に対しては強気になれるみたいね。
情けないどころか哀れだよん。>
「・・・・僕って哀れかな?」
<それなりに。>
「慰めて欲しいって言ったら軽蔑する?」
<もう言ってるじゃない。>
「ですよね。」
<まぁ・・・気持ちは分かるわよ。>
「気休めはよして。」
<そうなると私から言えることはなくなるわね。>
「喋る剣なんて嫌いだ。」
<私は嫌いじゃないんだけどなぁ・・・面白いから。ぷっ。>
「・・・・」
<一応、慰めたつもりだけど・・・どう?>
「僕の味方はシロだけさ。」
<まぁそうね。
私は面白ければいいし。>
「・・・否定してよ。」




剣とのおしゃべりもほどほどに、ロロリエに付くと同時にさらにもう一つの困難が待っていたのは不幸としか言うしかないだろう。
ロロリエでも検問がしかれていたのだから。



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