勇者時々へたれ魔王

百合姫

第23節 解説回ほどつまらぬモノはなし

「うぅん?
ここは・・・・」
「ん?
め、目覚めたのっ!?」
「・・・・えと・・・おはよう?」


僕はどこかの部屋にいるようだ。
そして、目の前にはエンデ。
ちょうど、部屋に来るところだったらしい。


なんか久しぶりに見た気がする。
「おはようじゃないよっ!?
一体どれくらい寝てたと思ってるのっ!?」


鬼気迫る勢いで僕の隣に駆け寄る彼女。
「おぉう・・・・えと・・・まるで眠気がないことから、丸1日かな?」
「違うっ!!
丸丸10日間よっ!?」


おぉおうっ!?
どおりでエンデの姿が懐かしいわけだ。
10日も寝てれば懐かしくもなるね。うん。
「・・・・うぅぅむ。
それほどまでにピンチだったってことかな?」
「あ、当たり前でしょっ!?」


さっきからちょいちょい涙目で怒るような勢いの彼女は一体なんなのだろうか。
怖いのだけれども。
「心配かけちゃったね。
まぁでも心配するほどでもなかったよ?
ほら、結局生きてるし、僕。
僕は実は不死身の体を持っていてね・・・」


これ以上心配をかけたくないのと、そこまでオーバーになることじゃないという事を伝えたくてわざとおちゃらけた感じにしたのだが、エンデはそれを許さなかった。
「し、心配するもんっ!!
バカたれっ!!」
「ご、ごめんなさいっ!?」


なぜ怒られるのかな?
勝手に僕が助けて、勝手に僕が死に掛けただけ・・・なのだが。


「にぶちんじゃのう・・・
心配だからこそ怒っているのじゃよ。
心配の果てには怒りがあると覚えておくと良い。」
「あ、フェロー。
今来たの?」
フェローもエンデに遅れて、部屋に入ってきた。


「うむ。
それよりもじゃ。
妾も心配しておった。
というわけで、妾にも心配をかけた侘び代わりじゃ。
甘んじて受けろ。」
「何を言ってばびろんっ!?」


痛い。
このビンタも久しぶりである。
「病み上がり相手に酷いと思うっ!!」
「そんなことはどうでもよい・・・おぬし、自身の体を見たか?」
「はい?」


言われて初めて体を見回すと、あれま?
いや、まて!
うんと!?
なんじゃこれは!?
傷口と思わしき部分には黒い何かが失った肉を補おうとしてるのか、体の節々が黒くなっている。


「えと・・・・これはなんでしょうか?ふぇろーさん?」
「妾にもよくは分からぬ。
だが、結果だけを言うならば、じゃ。
響の体の重症箇所。
特に、霊宝剣”セルシウスキャリバー”の三割の力とはいえ、直撃を受けた胸部分と背中の一部。
そこに傷口を塞ぐ様に黒い手袋・・・から出てきた黒い物体がこれ幸いと侵食していると思われる。」
「・・・三割の力?
あれで?
あの威力で?
あのモドキは100パーセントとか言ってたけど?」
「当然じゃ。
かの神具・・・あの鞘は「クラウ・ソラス」と呼ばれる国宝級の鞘でな。
あの鞘の力は、魔法剣の力の増幅や気配の軽減じゃ。魔剣、霊剣は本来、魔力を常に帯びているために所有者の居場所を常に発信してる隠密には向かぬ剣なのじゃが、その漏れ出す魔力も封じることが出来るのじゃ。
さらには持ち主を選ぶ類の宝剣を力ずくで従わせることが出来る。
持ち主の力量如何に関わらずの。
意思を持つ意思剣の類は心を通わせることで、初めて100の力を発揮する。
その”心を通わせる”という手間を省けるのもこの鞘の凄いところじゃのう。」
「の割には三割の力しか出てなかったんだよね?」
「単にあ奴にクラウソラスを扱う技術とセンスが無かっただけじゃろう。
本来ならば、剣に”あのような”負担はかからぬ・・・と思う。
妾も直に見たのは初めてで、話に聞いていただけの代物じゃから断言は出来かねるがの。」


”あのような”というのは、剣が上げた”悲鳴”のことだろう。
なまじ、フェローを通じて剣の感覚の一部を共有した僕としてはあの剣を開放できて本当に良かったと思う。
「あの剣は?」
「まぁ待て。
順序だてて説明してやるからの。
それで、話を戻すが響があ奴を仕留めたところまでちゃんと覚えておるか?」
「うん、まぁ・・・」


最後の方はかなり必死で記憶がおぼろげだけれども。


「あの後、おぬしの体を守るように広がったその神具・・・黒い手袋じゃが、ソレが収縮とともに響の体の重症箇所に収まり、血が止まっての。
街に担いで運ぶ頃にはすっかり顔色がよくなったから、この宿屋を借りたわけじゃ。」
「フェローが運んでくれたの?」
「エンデと2人じゃ。」
「す、すいません。」


本当に面目ない。
「そ、そんなことないっ!!
た、助けてくれて・・・守ってくれて・・・嬉しかったし・・・」


落ち込む僕に対してフォローを入れてくれるエンデ。
優しいなエンデは。
関係ないけど、フェローとフォローって似てるな。
フェローのフォロー・・・ギャグとしてはさすがに使えないな。


「くだらぬことを考えておらぬか?」
「ぅえっ!?
なぜわか・・じゃなくて、続きをお願い。」


見透かされてるな僕。
もしかしたら、顔に出やすいタイプなのかもしれない。


「まぁとにかくじゃ。
一晩寝かせても、一向に目を覚ます気配の無い妾が簡単な健康診断の魔法をかけたのじゃが、おぬしの怪我とは別に体の衰弱が激しいことがわかっての。
結論から言えば、あれは二度と使うでない。」
「あれって・・・アレ?」
「うむ、そうじゃ。」


黒手袋が体を丸々覆い、さながら黒騎士と言えるような状態のことだろう。


「そんなに危険なの?」
「・・・・最初こそ精霊契約のための魔具とでも思っておったが・・・・何が起こるか分からんの。」
「・・・変な手袋だな・・・今更ながら。」


不気味過ぎる。
「ヒビキ・・・」
「うん?」
「守ってくれるって言ったんだからね?」
「わかってるよ。」
何か不安に思うことがあったのだろう。
エンデが神妙な顔でそんなことを言ってきた。
勝手に死ぬようなことは無いさ。
少なくとも守ると言った手前、彼女の故郷に送り届けるまで安心は出来ない。
そしてさっきから気になるのだけれど、エンデの態度がやけに砕けてるというか熱っぽいというか、心配だけど友人を心配する”ソレ”よりも変な深みがある。
どうしたんだろうか?
こんな態度ではなかった気がするけど。


「そして最後にあの剣のことじゃが・・・」
<ここにさっきからいるよん。>


ん?
やけにフランクかつ無邪気な感じの声が聞こえてきた。
幻聴とは僕も疲れてるな。
うん。


「幻聴ではないぞ。
言っておくが。」
フェローが言う。


わかってますよ。
声の元は霊宝剣であるセルシウスキャリバーからだ。
「えと・・・?
セルシウスキャリバー・・・って名前だったよね?」
<そうよ。
セルシーとでも呼んでね。>


なんというか、活発な性格のようである。
「君はこれからどうするの?」
<あなたの剣になってあげても良いよ?>
「悪いけど、僕は片刃の剣の方が好きなんだけど・・・」
「ばかなことを言うでない。
こやつの・・・というか、コレの能力は後々役に立つし、おぬしの強化にもつかえる。
帯剣するのにこれより良い剣は滅多にあるまい。」
「う~ん・・・確かに、有利になるなら貰っとくほうがいいかな・・・・」
<物扱いされるのはちょっと複雑ね。
物だからしかたないけどさ。>
「いや、剣だし・・・」
「ふん。
生前・・・というべきか?
おぬしは普通に”私の夢は剣になることなのよっ!”とかぬかしておった変態のくせに良く言うわ。」
<フェローは5千年くらい経っても全く変わらないわね。
情け容赦なく毒舌を吐くところとかとくに。>


とか他愛の無い、話をするのもほどほどにして、そろそろ本題に入る。
次の目的についてだ。
セリアを追うというのは論外。
10日も経てば待っていることはあるまい。


お金も今のところ十二分にあり、特に稼ぐ必要は無い。
となればだ。
彼女ーーーーエンデ・フラッセインを故郷のエールゲン村に送り届けるのが当面の目的となるだろう。
というかそうすることにした。


「次の目的だけど、エールゲン村に行こう。」
「エンデの送り届けかの?」
「うん。守ってやるといった手前、安全を確保してやるところまでが切りの良いところかなと思ってる。」
「”ぷろぽーず”かと思ったのじゃがの?」


ニヤニヤとしながらこちらを見るフェロー。
はっきりいってむかつく。
んなわけないでしょうに。
フェローのアホな言葉に苦笑する僕。
自分で言うのもなんだが、性格は良いほうではない。
かつ、エンデとは特に長く一緒にいたわけでもないのだから惚れる理由じたいが無いだろう。
エンデは顔を真っ赤にして「あぅあぅ」とあえいでいる。
可愛いなんて思ってないからねっ!?
「あ、わかってると思うけど・・・プロポーズじゃないよ?」
「わ、わかって・・・・え?
ち、違ったのっ!?」
「う、うん。
違ったんだけど・・・そりゃ会って数日の女の子相手にプロポーズなんてするわけないでしょうよ。」


そ、そうだよね・・・といって明らかに気落ちするエンデ。
ここで気落ちするということは、もしかして・・・け、結婚したいとか考えているのかな?とか僕が好きなんじゃない?とか思って見る。
僕だって一応は男の子だ。
色恋沙汰に対する興味が他と比べて薄いとはいえ、無いわけではない。
ちょっとした期待に、自分で思う以上の嬉しさに思わず口元がニヤケてしまうのを我慢して思い切って聞いてみることした。
もし、これが自惚れとかだったら恥ずかしいので、一応期待は薄く聞いてみた。
「・・・そんなに残念がってると、その・・・ねぇ・・・?」
「ち、ちがっ!
違うよっ!!
私はあなたのことなんか嫌いだもんっ!!
い、意地悪だしっ!!」
「マジですかっ!?」


顔を真っ赤にして憤怒するエンデ。
こういう時って、「勘違いしないでよね」うんぬんのツンデレタイム。もしくは「うん・・・その、あなたのことが・・・好き、かも・・・」みたいなピンクの雰囲気が立ち上ると思っていたけれど、全く持ってその期待は外れてしまった。
真っ向からの否定とは、ちょっとつらい。
いや、まぁ予想してはいたけどね。


「いや・・・その・・・好きとはいかずとも・・・嫌われては居ないと思ったのですけれどもね・・・グスリ」
地味にダメージを受ける僕だった。
特に意味無く嫌われる、それも友人として見ていた相手からというのは結構泣けてくるものだととも学習した瞬間だ。
「え、いや・・・その・・・あの・・・ちが・・くて・・その・・・」というエンデの言葉は聞こえず。


「はぁ・・・変わらず、にぶちんじゃのう。」
というフェローの独白がやけに耳に残ったのだった。

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