勇者時々へたれ魔王

百合姫

第10節 ドラゴントラブルⅡ

さて。
助けに行くとは言ったものの。
遺跡までなかなか遠い。
ここからルベルークの街には5日ほどかかる上、そこから遺跡に1日ほどかかるそうだ。
リネティアさんにはベリルから僕が救出に行くことを伝えているらしく、持ち合わせの水と食料で1週間は持つらしい。
ロロリエまで来たときと同じ手法で、ルベルークには丸3日かけて到着。
町並みは中世ヨーロッパのような外観で、個人的にはゆっくり観光したいね。
すぐさま準備を整えて、ベリルから渡された物を確認する。
一つは魔法薬の中でもエリクシールの次に効果が高いといわれる「ビトモン」というもの。
ある程度の重症を直すほか、滋養強壮の効果もあるらしい。
これが5つほど。
内一つはリネティアさん用。
そして受け取った物のもう一つは錬金術の街ロロリエの特産品である、魔力無効型モデルのショートソード。
もちろん修理に出していた愛用のファルシオンも武器屋から受け取っている。


さらにはここ、ルベルークの特産品である「女神の指輪」と携帯食料を買い込んで旅支度を済ませた。
ちなみに、ルベルークは上位竜種の巣であるララバム遺跡から近いため、たびたびルベルークは襲われることがあるという。
そんなルベルークが独自に作り出したのが「シェル」。
魔獣の攻撃を弾き、寄せ付けない見えない障壁らしい。
それを元に作り出されたのが女神の指輪で、使用者の治癒能力や防御力を上げるものだそうだ。
セリア用にも一つ買っておいた。


プレゼントってわけじゃないぞ!
断じてない!!
本当に、なんでもない物だ!!
・・・僕は誰に言い訳してるんだろう?


そんなこんなでそのまま休むことなく、僕は遺跡を目指した。




☆ ☆ ☆
「さて・・・遺跡に付いたわけだが・・・遺跡というより、ジャングルだな。」
ララバム遺跡は遺跡があった痕跡がところどころに見えるが、人が滅多にこないのか木々がめちゃめや繁茂して、邪魔くさいんだコレが。
邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔ぱじゃまっ!!
と叫びたくなるほど森が茂っていた。
ついつい発音が似ていたせいか「ぱじゃま」と言ってしまったが(正確には脳内再生)、やむをえない。
僕ぐらいのパジャマリストともなると自然と出てしまうのだよ。
ふふふふふふっふ。
玉砕粉砕ぱじゃまっさいっ!!とも言って見たい。
まぁちと無理があるかな。


「ぱじゃまでお邪魔・・・これはっ!!」
面白い、愉快痛快な駄洒落を思い出してしまった。
内容が意味不明なのは仕方ないが、駄洒落なんてのはそんなもんだよ!
うん、大概そんなもんだっ!!


などとのんきにしていられるのもそこまで。
ベリルがリネティアの話を元に書いた地図によると、この辺である。
気配を殺して様子を伺う。
もちろんベリルに言われた通り、風下側から接近する。
なんだかモンスターハ○ターをリアルプレイしてる気分だ。
違うところといえば、敵が三体、ゲームオーバー不可。
なおかつ防御や攻撃がチート性能ってとこか。
超感覚なんていう特殊能力で一時的に攻撃や防御力も上がると思うとなおのこと辛い。


「グルルルル・・・」
「うなってるなぁ~。
どっか、いかないかなぁ?
まじ怖い。」


思いっきり遺跡に視線を向けて待ち伏せしている竜がいた。
竜の姿は翼は小さく、足がかなり太い。
ワイバーンみたいな翼竜がティラノサウルス型に進化といった感じ。
もちろん、体長は一軒家並。色は漆黒だ。
さらには角が一本生えていて、魔力の流れが体全体を覆ってることがわかる。
はっきり言ってめちゃくちゃ怖いです。
アースドラゴン科のアースヘッドという種らしい。
特徴は大きな頭と上位竜種では珍しい、地上棲の空を飛ばない竜であること。
アースは地面を意味するそうな。
それにしても美味だからといって、そこまで人を食いたいのかとその執念には脱帽の思いを抱く。
そして、待ち伏せしてるのは必ず、出てこざるを得ないことを知ってるのだろう。
頭もいいとは厄介極まりない相手だ。
「もう二匹は・・・いないみたいだ。
さて・・・・どうするか。」


もともと女の子を追っていてこうなった、という話だが・・・女の子の話は聞かなかったな。
女の子はリネティアさんが着く前に食われたんだろうな多分。


「よし。」
どう考えても一体だけのうちに仕留めた方が良い。
と思ったけども、やっぱりやめた。
もう二匹が駆けつけてくる前に仕留められる自信はないし、仕留めること自体難しそうだ。
というのはまぁ分かってたことなんだけどね。
石を投げて注意を引いた瞬間、縮地を使って距離を詰める。
遺跡に突入してリネティアさんの治療と確保をして出口付近に待機。
タイミングを見て、僕が出て注意を引いてる隙にリネティアさんに脱出してもらう。
そして2人でかく乱しつつ、戦線離脱。
木々に隠れながら遺跡の出口で合流後、ルベルークに帰る。


こんなところかな。


大き目の石を選んで、投げる。
大きいほうがより大きな音をたてられるはず。
ゴンッ!とそこそこ大きい音だったので、少し声に出そうになったけど、すんでのところで止める事が出来た。僕って偉い!
「グルッ!?」


すぐさまそっちの方向へふりむくアースヘッド。
多少賢くとも所詮は爬虫類だな。
爬虫類といえば、ミドリガメは意外と大きくなることを知っているだろうか?
オスで15センチ~20センチ。
メスで25~30となるので、最終的にはかなり大き目の水槽が必要となり、なおかつ日光浴でビタミンD3という必須栄養素を合成してるので日光浴(正確には光というより紫外線が必要となる)をしなければすぐに死んでしまうのだ。
なぜこんなことを知ってるかというと、昔亀を飼っていたことがあったのさ。
姉さんが「亀の甲羅を斬ってみたくて・・・買ってきちゃった。」という凄まじく不純かつ動物虐待的精神的な動機のもと買ってこられたミドリガメであった。
もちろんのこと僕は庇ったさ。
さすがに動物虐待はやめてほしかったし、毎日姉さんに斬られてる僕としては人事にはとてもじゃないけど・・・・ぐぶぼあうふぅっ!?
ぐぐ、うぐ、ぐず、放っておけなかったさ。
泣いてない。泣いてないよ。ぼかぁ泣いてない。
良い子も悪い子もまねしちゃいけないよ。うん。


でもってそのミドリガメには「にとり」という特に根拠もない名前をつけて可愛がって育てた。
僕は「にとり」を溺愛していた。
弟に向ける物ではない殺気とか殺気とか殺気とか、あと具体的には殺気とかで荒みに荒みまくってる僕の気持ちを癒してくれる唯一の存在だったのだ。
父さんは良くいる親バカで娘のすることなら何でも許しちゃうって具合の勢いだったし・・・まぁ姉さんからはめちゃめちゃ嫌われてたけど・・・母さんは母さんでのんびりし過ぎていた。
僕が目の前で血を噴き出していても「あらあら、まぁまぁ。ヒビキさんたら噴き出し芸が上手くなったのねぇ~。」の一言でいそいそと家事に戻ってしまう始末。
今更だが刀傷から血を噴き出すなんていう噴き出し芸なんてあるかぁぁぁあぁああああああっ!!
良く考えてみてくれっ!
いきなりステージ上で真剣おっぴろげて自分の腕を斬り、ピューピュー噴き出す血を観客に見せて「どうです!?これがアッシの噴き出し芸でさっ!!」という芸人を!!
シュールすぎて笑えるかっ!!
あの時は中学1年のときであり、初心であり、世間知らずな僕は「こんなことを芸にしてる芸人さんがいるのか・・・」と尊敬したものだが、んな芸人いてたまるかって話である。
閑話休題。


そういえば、にとりはどうしてるかなあ。
母さんが面倒見てくれてるといいけど。


「とかなんとか考えてる間に結構奥まで来たな。」


遺跡内部には「~所詮爬虫類だな」あたりですでに入っているからして。
中は古代都市といえるようなかなり広い空間が広がっていた。
不思議と明るいのは天井の石が発光しているからだろう。
どういう仕組みなんだか。
光る苔の群生箇所もちらほらあって光が全く届かない地下にしてはかなり明るい。
ただ、光が格別強いというわけではなく、幻想的な雰囲気を醸し出していて個人的にはここに家を作りたいくらい。
とはいえ。
「これはまた・・・探索が面倒な。」
本当に広いのだ。
さらに言えば、ところどころに黒い人形像が造られていて、その立ち並ぶ姿が不気味過ぎる。
そして怖い。
この遺跡は「闇人の家」だそうだから、闇人を象った者なのか?
やっぱり家は却下だ却下。
てか、怖がってばかりだな。僕。
そこそこに歩いてしばらく経つと人の気配ではない何かが近づいてくる。
ファルシオンを構えて待ち構えると、近づいてきたのは魔獣。
「なんだこいつ?」


これまた奇怪な魔獣だ。
光を飲み込むような深い黒さを持つ人形である。
全身真っ黒で動きは鈍い。
ギギギと音を発ててこちらを見る・・・見てるはずだ。
目がないから分からんけど。
ダッと駆け出してくるが、あせらずに回避。
回避と同時に斬り捨てた。
「ヴォォォオオオ・・・ヴォヴォヴォヴォォォオ・・・」
変な音をたてて崩れ落ちた魔獣。
魔獣なのかも分からん。
そもそも生き物じゃないっぽい。


とりあえずそれはほっといてさらに奥に進む。
するとなにやら、またもや出てきた黒い人形魔獣。
今度は三体もいる。
けれどこちらには気づいてない様なので迂回。
あんな不気味な奴といちいちやり合ってらんないのです!
決して怖いわけではない。
断じて無い。
単に効率優先なだけで、合理的な男なのだ。僕はね。


「さて、ベリルが聞いた地図によると・・・このあたりなんだが・・・やっぱり大まかにしか絞り込めんか。」
どの辺にいるかなどはリネティアから遠隔通信で聞いていようと口では限界がある。
本当に大まかにしか分からない。
もともとは都市があったのか家らしき残骸がいたるところにあり、彼女はこの辺のどこかで休んでいるはずだ。
出口付近にいないのは竜が臭いで居ることがバレるからだと思うが、ずっと外にいたことから見て超感覚でおそらく臭覚を一時的に上げているのだろう。
血の臭いは比較的強いものだし、もともと概ねの動物というのは色調と味覚以外の五感が人間に比べて鋭い。なおかつそれを強化する手段のある竜にとってはバレバレってことになるんだろうな。


本当に厄介なチート性能だ。
もちろん、僕が入り込んだこともばれているだろうし。
今更だけどなんであんな願いを受けてしまったのか、本当に今更ながら思う。
いや、答えははっきりしてるけどさ。
結局甘いってことなんだよね。僕も。


などなど他愛の無いことを考えながら10分ほど歩くと焚き火の音が聞こえた。
どうやら、目的地についたようだ。
もちろんのこと、ここからが本当の勝負所だけど。

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