勇者時々へたれ魔王

百合姫

第6節 卑屈とは良くない物よね

赤い影の正体。
それは赤いドラゴンだった。


「うぉっ!?」
瞬時に飛びのいたが、ヤルルクのオスはかわせなかったようで、そのまま噛み千切られて赤いのに咀嚼される。
大きさはワゴン車くらいだ。
形はワゴン車に腕と足をつけたような感じ。
口・・・というか頭が馬鹿みたいに大きい。
・・・なにより怖い。


「ひぁっ!?
ヒ、ヒビキっ!
その魔獣はバルバトです!
こんなとこに出てくるなんて・・・」
「ば、バルバト?」
「上位竜種のレッドドラゴンに擬態するツリードラゴン科の下位竜種ですっ!!」


いろいろ初めて聞く単語が出てきたが、とりあえずそこは流そう。
「で、特徴はっ!?」
「魔力を持つので物理攻撃が通りづらいのと、鱗が固くて物理攻撃が通りづらいことですっ!!
ひゃぁっ!?
こっち見てますぅっ!?」


その説明だと物理攻撃が通りづらいということしか分からないよ!?


「しょうがない・・・セリアは逃げてっ!」
ちょっと逃がしてくれそうにないし、僕が囮になる。


「え、で、でも・・・」
「いいからっ!!
あとで、僕も逃げるっ!!」
と叫びながら先手必勝。


姉さん曰く
「剣は力で振るものじゃないわ。」
とのことだ。


そう。
技術。
姉さんによると技術があれば非力でも斬れない物は無いらしい。
本当かな・・・
と、とにかく斬ろうっ!!
居合いの型をとって試しに普通に斬ってみた。


ギィィィィッンッ!!
「う、うそっ!?
は、はじかれたっ!?」


下位の竜種・・といってもたかが爬虫類と思っていたが、刃が入らない。
てか、僕の技量はタングステンだろうとステンレスだろうと叩き切れるのに・・・・
せめて手傷ぐらいは負わせられると思ったんだけど、これはやばい。
人類の英知が結集された合金以上の固さを生物が持つとかファンタジー侮りがたし!!


「ちっ!!」
バルバトの顎が襲いくる。
そこをターンしながらかわしてナイフを投擲。
そこそこ業物だからもったいないけど、眼球めがけて放った。


キンッ!!
「ぅえっ!?
またっ!?」
はじかれるナイフ。
そういや、魔力でも守られてるんだっけか?
魔力・・・反則すぎるよ。
眼球も堅いなんて、どこを狙えっつうのさ!?
また襲い掛かかってくるバルバトの顎。
動作が見え見えなのでかわすのは苦ではないが、なんせこっちの攻撃も通じない。
一応もう一度斬りつけるが、やはりはじかれる。
今度はファルシオンを腰に構えて、少し腰を落とす。
再臨。居合いの型である。
姉さん直伝の居合い剣パート1。
「桜花烈蹴斬っ!!」
子供っぽい名前は勘弁願いたい。
姉さんの技なので姉さんの技名そのままだ。
ちなみに「桜花」の部分は単にその単語が好きというだけで剣の軌跡が桜色とか、どっからともなく桜が舞い散るというわけではない。
名のとおり斬って蹴る技。
力の入れ方が普通の居合いと違い、固いものを斬るための居合い剣。
鎧を着込んだ相手専用の技である。
あくまで対人技なので、蹴りがあるが今回はそれを省略。あんな堅い魔獣相手に蹴りなんて無駄な動作をつけるだけだ。


「グルァッ!!」
「ちぃっ!!」
ギャリンっと良い音を奏でるが、ビクともしない。
一応傷はつけたが、鱗を2、3枚剥がし、一筋の浅い傷を入れただけだ。
やっぱり堅い。


セリアの叫びが聞こえた。
「ヒビキ、かわしてくださいっ!!」


叫びと同時に変な圧力が背にかかる。
後ろを振り向くと、なんか光る直径30センチくらいの棒・・・槍?がセリアの周りを浮遊していた。
セリアが続けて叫ぶ。
「ホーリーランスッ!!」
棒の先が尖って、射出。僕はあわてて斜線上から飛びのく。
光の棒はバルバトに見事命中。突き刺さった。


「ギャァァァァァオオオオォンッ!!」
断末魔をその大きな口から吐き出して、倒れるバルバト。
・・・なん・・・ですと?


「な、何?
今の?」
「今のが奇跡ですよ?」
いやそりゃなんとなくわかる。
ただ・・・ただ言いたい。


僕の苦労は何だったのだろうかと。
はなから使ってほしかったよ・・・。
結局、その後にバルバトに食われたヤルルクの残骸と最初に仕留めた子供から牙を8本入手。
バルバトの素材もできるだけ剥ぎ取って、その場をあとにした。




☆ ☆ ☆
宿に戻る途中でギルドに寄り素材を売り払って、牙も納品。
お姉さんから意味深な笑みを受けたが・・・よくわからない。
周りの連中は僕に対する興味をすでに持ちあわせていなかったようで、無視していた。
商人達から取ったお金も合わせて、5万ガルドというそこそこの大金を手に出来た。
セリアによると、バルバトは特殊な繁殖法を用いており、その特異な繁殖形態から個体数が少ないため滅多に出会うことが無く、素材が高値で売れるのはそのためだとか。
難易度としては魔術、奇跡を使える種族にとっては割りと楽な相手のため、ギルドナイトクラス以上のチェスにとっては絶好の鴨らしい。
可哀想に。


ちなみに、彼女の奇跡「ホーリーランス」は奇跡の中でも上位の攻撃力を誇る物だそうで、準備に時間がかかる、燃費が悪いという欠点をのぞけば使い勝手が良い術らしい。


エリクシールのおかげで霊力が満タン近くまで回復したから使えたとのこと。




まぁとにかく。
「当面の目的はセリアの仲間探し?」
「い、いえ・・・おそらくですが、私の故郷に戻る道中の街で出会えると思います。」
「そう。
んじゃ、明日は・・・とりあえず、お互いの服装を変えよう。」
「そ、それもそうですね。
い、いちご?という果物の柄は少し男性の召し物には向かない気がします。」
「ばっ・・・バカいうな・・・っ!!
べ、別に似合うとか似合わないじゃなくて、好きだから着てるわけで・・・・
というか、パジャマだから良いんだよっ!!」
「ぱじゃま・・・?」
「寝巻きのことだよっ!
人目に付かないからいいじゃないかっ!!」
「凄く人目についてたと思いますけど・・・」


あえて描写しなかったが、街の人の視線が痛いのは・・・・し、しかたないんだ・・・。
これしかないから・・・決して内心、気に入ってるわけではない。
「セリアだって変わらず目立ってたじゃんっ!?」
「わ、私はまだマシですぅ!!
一緒にしないでくださいっ!!
へ、変態さんっ!!」
「へ、へんた・・・・」


ぐはぁっ!!
今のは・・・・心にグリグリ・・・・ザクザクと刺さってきた・・・・。
女の子に変態って・・・かなりきつい。


「・・・変態・・・か。」
「あ、え、・・・えと、物の弾みで言ってしまっただけで・・・その、あまりそうは思って・・・」
「き、気休めはよしてくれぇぇぇぇぇええええっ!!」


そのまま街中を走り回ったのは言うまでも無い。


次の日。
ノックが聞こえた。
十中八九、彼女だろう。
「どうぞ・・・」
「あ・・・えと・・・昨日はごめんなさ・・」
「いや、変態だからね。
気にしてないよ。」
もちろん気にしてます。


「ふぅえっ・・・あの・・・本当に・・・」
「大丈夫・・・大丈夫だから・・・
服屋にいっといで・・・ぼ、僕は変態だもの・・・」


我ながら情けないと思うが・・・凄くグッサリきたんだ・・・分かってるよ。
イチゴ柄パジャマが邪道な・・・邪道なことくらい。
内心、気に入ってたのも認める。
実は全身映るくらいの大きな鏡見て「やっぱりイチゴ柄パジャマは最高!!僕かっけぇぇぇぇええっ!似合いすぎだしっ!!」と言ってたのも認めるよ。
気に入ってた・・・気に入ってたからこそ・・・傷つくんだ・・・うん。
そして似合っているほうが恥だということも分かるよ。
今更ながらこの世界に来て早々に出会った王様の「恥知らず」という言葉が身にしみる。
きっとこの僕の変態性を一瞬で見抜いて、オブラートに包んで言っていたに違いない。
他にも色々理不尽なこと言ってた気がするけど、きっとそれらはカモフラージュであり、本当に伝えたかったのはその恥知らずという一言だったんだ。
さすが王様・・・ぼ、僕は・・・変態で恥知らずなんだ・・・・。


「・・・恥知らずでごめんなさい。」
「あ、あぅ・・・謝らなればならないのは私のほう・・・」
「いや・・・いいんだ・・・グズ・・・恥知らずの変態に謝らなくても・・・・」
「わ、私・・・そ、そんなに傷つくとは思ってなくて・・・ご、ごめ・・・」
「いや・・・いいんだ・・・いいのだ・・・・変態でごめんなさい。」


この世界にて溜まったストレスのせいか、やけに情緒不安定もとい卑屈になる僕。
後日談になるがこの時の僕はどうかしていたとしか思えない。
「ご、ごめ・・・ごめんなさいごめんなさい・・・ごめんなさ・・・い・・・ぐず・・ひぅ・・・ぐ・・うぐ・・・ご、ごめ・・・」
だって、セリアを泣かせてしまったんだもの。
慌てて立ち上がる僕!!


「いや、いや・・・ちょ、な、泣かないで・・ぼ、僕が悪かった・・・悪かったからお願い・・・泣き止んでくれっ!!」
駆け寄って頭をなでなでしながら(後から思うとこの行為もおかしかった)必死になぐさめる僕。
結局彼女が泣き止んだのは30分後だった。


卑屈には二度とならない・・・そう固く誓う・・固く誓うことが多いな・・・と思いつつ誓う僕だった。




☆ ☆ ☆


服は彼女に選んでもらった。
彼女自身あまり目立ちたくない事情があるので、(隠したいのは東大陸の人間ということだけではないみたいだが)目立たない村娘の格好を少し冒険者風にしたもので・・・それでも白銀の髪が目立ちまくりだけども僕はその辺の冒険者って感じである。要所要所に鎧片がついているものだ。
イチゴ柄パジャマは綺麗にたたんでバックパックに入れた。
魔術により作られてたバックパックらしく、見た目以上に大量に入るとのこと。
便利だな・・・魔術。


この段階で3万ガルドほど。
バックパックが高かったが、これは確実に必要なので致し方あるまい。
余ったお金で彼女のショートソードを少し良質なものにして、盾も魔力が備わっているものに変えた。
僕はそのままファルシオンと無骨なナイフ。
日本刀があればなおよかったのだが・・・さすがになかった。
一応、スレッドショルドという幅広の小型両刃剣を購入してバックパックに入れておく。
僕かセリアの武器が壊れたとき用だ。
投げナイフ用に10本ほどナイフを購入。


食材もある程度買うと・・・かなりの量になったが全てバックパックに入った。
残額は1000ガルドほどとなったが、宿に一人一晩で150ガルドほどなので大丈夫だろう。


「バックパックすご・・・」
「ヒビキの国には無かったのですか?」
「無かったよ。
こんな便利なもの。
ただ、馬車より便利なものはあったけどね。
それより、次の目的地はここから北東にあるロ・・・なんだっけ?」
「ロロリエ、です。
錬金術の盛んな都とも呼ばれていますね。
錬金術によって作られた珍しい武器、防具が多いそうです。
私の出身は東大陸ですし、あくまでも聞いた話ですけど。」


錬金術とは銅を鉄に。鉄を金に。金をダイヤモンドにといった具合に、全く別の物質に変化させる術。
日本では考えられない物理法則の無視である。


ただ、そこには色々な制約があるらしい。
なにはともあれ準備は万端。
あとはロロリエへ向かう馬車の護衛のギルドミッションを受ければ良いだけ。
馬車に乗せてもらい護衛しつつ、ついでに移動をしちゃおうという作戦だ。
商人の出入りが激しいのですぐにミッションは出るだろう。


ギルドへ向かった。


「あら?
今度は何を受けるのかしら?
そちらのお嬢さんもこんにちわ。
素材の換金の時にあったわよね?
というか、あのお洋服はやめてしまったの?可愛かったのに・・・」


お、お姉さん・・・あんたって人は・・・
ここにきて初めて得た理解者がっ!!
やはり、イチゴ柄パジャマがわかる人にはわかるのか・・・と嬉々としていたら、不機嫌な声でセリアが言った。
「デレデレしないでください・・・あくまでも私の護衛がメインなんですからね!」


何を怒っているのか?
馬車の護衛はあくまで移動手段に過ぎないのは分かっているし、彼女の護衛を優先するのは分かっている。
・・・卑屈になっていたことに今更ながら怒ってるとか?
服を一緒に買いに行く時はむしろ上機嫌だったのだけれど。
お姉さんは含みのある笑顔を見せるだけだ。


「あいも変わらず可愛らしいお嬢さんね。」
「べ、別にそんな・・・」
「そう?
かなり可愛いし、僕は好きだけど?」
「ふぅえっ!?」
「お姉さんの前で見せ付けてくれるのね。」


ぶはぁつ!?
ち、ちが・・・そんな意味では・・・見た目が可愛いって話だったよねっ!?
「ち、ちが・・・」
「照れなくて良いじゃない。
それで。
今日はどのようなご用件かしら?」


・・・からかって遊ばないでほしい。
気を取り直してお姉さんに馬車の護衛のミッションがないか聞いてみた。
「ふふ。ちょうどあるわよ。
報酬も良いし、お勧めね。
となるとしばらく会えないことになるわ・・・残念。」
「つっても、まだ会って3回目くらい・・・」
「そうなんだけどね。」


お姉さんはフフフと色っぽく笑っている。
「それじゃがんばって。
応援してるわ。」
「あ、ありがとう。」
「ありがとうございます。」


あ、と。
言っておかなくてはならないことがあった。
「あの、エリクシールやナイフとか・・・ありがとうございました。」
「いいのよ。
ただの気まぐれだもの。」
「僕の前に来たという6人にもやったんでしょう?
かなり高価だったと・・・」
「いいえ。
あなただけよ?」
「ど、どうして?」
「言ったでしょう?
気まぐれだって。」


はぁ・・・とうなずくしかない。
なんにせよありがたかった。
背後でまた不機嫌になってムッとしてるセリアがいるが・・・なんなんだろう?


「ではまた。縁があったら・・・」
「ええ。次に会うときが楽しみよ。」
「次に会うなんてのはまず無いですっ!!
行きましょうっ!
ヒビキっ!」
「ちょ、ちょっと・・・腕が痛い・・いた・・いたたたた・・・力強いってばっ!」






「ふふふ。
勇者となるか魔王となるか。
楽しみよ。
山瀬 響君。」


ギルドの受付嬢たる彼女の独白は誰も聞いていなかった。

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