男の娘なCQCで!(未完)

百合姫

16わ きんぐおーく2

さて、勝てる策とは単純明快。
斧を持って身体強化。
身体強化した状態で対物狙撃銃アンチマテリアルライフルの二丁拳銃―――いや狙撃銃をやろうってわけである。
これならば対物狙撃銃を二丁持った状態でも、なんとかスピードを落とさずに済む。


丁度距離も離れているし、メニューウィンドウを開いてイベントリから狙撃銃を取り出す。
唇が乾き、舌なめずりをしながらライフルを構える。我ながらちょっと興奮してたりも。
対物狙撃銃アンチマテリアルライフルの二丁撃ちなんて凡そ無茶なことだからだ。
当たり前のことだが、銃は威力が高いほど反動が大きい。作用反作用の法則のためである。
なおかつ今持っているのは見た目こそ現実と変わらないが、威力自体は改造されて段違いのライフル。
反動は2~3倍以上、威力は軽く五倍を越す。
そんな銃を二丁撃ちをしたところで、さすがにスキル補正があってもろくに狙えないだろう。そもそも全身を使って反動を吸収する構造なのだからして。
ちなみに銃名はXM500。装弾数は10。重さは10キロを超す。セミオート式。
セミオートというのは一発撃つと次弾が装填される構造のことを言う。ちなみにフルオートは引き金を引き続けてる間は弾がある限り勝手に連射してくれる構造システムのことだ。


「魔法がある世界だからこそ出来るってもんだよね。」


身体強化はレアスキル。
普通に身に付けることは出来ず、たまに手に入るレアドロップについているか付いていないか、という程度。
なかなか良い拾い物をした。




『グガアアアアアアッ!!
ニンゲンッ!!
ドコダッ!!ドコヘイッタァアアアアアアアッ!!』


すでに腕が生えて吹き飛んだ横っ腹も復元しているキングオークは怒り狂って辺りの家をただひたすら、壊しまわっている。
あ、あれは、その・・・あれほどのモンスターの八つ当たりとか迷惑極まりないよね。


せっかく引いた注意をマノフィカさんに向けられるわけにも行かず。
僕はすぐに走りいく。


「どりゃさっ!!」


屋根に飛び移り、歩きながら二丁の対物狙撃銃アンチマテリアルライフルを撃ち続けて接近する。
弾が無くなったら、片方を空中に投げ、虚空に出現したマガジンをすぐさま付け替える。
そして落ちてきたのを受け取る。すごくアクロバティック。
初めてやったけど意外とうまくいく。
それを繰り返しつつ、接近しながら相手の頭を狙い撃ちつづける。
斧を手放したゆえに防御力が落ちたためか面白いくらいに相手の体の肉が飛び散り、血が噴出す。
改造した対物狙撃銃は戦車を打ち抜くどころか粉々にする威力を出すが、銃自体の重量でかなり反動を制限できる。素の威力でも装甲車や壁を貫通して標的を打ち抜くレベルの銃だから、コレくらいの威力は当然とも言える。
本来なら地面に固定しなければ肩が脱臼しかけて筋肉が断裂するくらいの反動があるのだが、斧のおかげでなんとか制動し、ある程度照準をつけることが出来ている。
重ねて言うが、本当に良い拾い物をした。


さっきは距離があってこいつの威力を発揮できなかったからね。
存分に味わってもらおう。
余談だが、XM500の射程距離は1000メートル。1キロだが改造しているので5キロまで届くと言う超怖い代物となっている。威力も現実の軽く五倍以上。壁の一つや二つは簡単に貫通します。
人体に当たれば吹き飛びます。色々と。
というか、今更だけどどうしてこんなに直接的なバトルスタイルをとっているのだろうか?
本来、僕は暗殺者タイプだと言うのに。




『グガァァァァァアァァアアアッ!!』
「おっとっ!!」


目の前に迫る拳を避けて、飛び乗る。そのまま腕を走り登って行き、頭に照準をつけてバン!
連射する。


『グギャアアアアアッ!?』
「全然倒れないね。」


結構有利になったと思ったのだが、再生力が凄まじい。
肉や骨も瞬時に再生する。
これでも豆鉄砲ってことになるのかね?


「さて、ここまでやっておいてなんだけど・・・いや、まぁ黙ってやられるわけにも行かないし仕方ないんだけどさ?
降伏する気は無いの?」


斧のおかげで強気である。
勝てるんじゃないか?


『王ノ誇リニカケテ、一度始マッタ戦イカラ撤退スルコトハナイッ!!』
「おわっと!?
・・・いや、こっちが悪いのに殺すって言うのはどうかと思うし・・・その、本当に帰る気ないの?
それに撤退って言うより・・・こちらが見逃してもらうって形になると思うんだけどね。」
『貴様ガ、ドウ思オウト違イハ無イ!!一度対峙シタ敵ニ背ヲ向ケルナラバ死ヌコトヲ選ブ!!我ノ矜持ダッ!!』
「そうかいっ!!
どっせいやっ!!」
『ゴガァッ!?』


話してる最中にも変わらず拳と弾薬が舞い上がり、血と薬莢が飛び散る。
地面を踏み締める音がリズムを刻み、岩が砕けることでアクセントと化す。
死闘という名の協奏曲が奏でられる。


<a href="//2238.mitemin.net/i29021/" target="_blank"><img src="//2238.mitemin.net/userpageimage/viewimagebig/icode/i29021/" alt="挿絵(By みてみん)" border="0"></a>


『ガァァァアアアッ!!』
「―――あらっ!?うおいっ!?って、あぐっ!?」


その場でスピンしながらがむしゃらに腕を振り回すキングオーク。
その際に飛び散った瓦礫の一つを踏んで、こける僕。そこに丁度迫るキングオークの拳。
それが僕にぶち当たる。


ここでこけるってどういうこと!?


とっさに防御に使った対物狙撃銃アンチマテリアルライフルが砕け散り、僕の体にそのまま拳がめり込んで吹き飛ばされた。
ああ、ゲーム世界じゃないここじゃおそらく手に入りづらいであろう銃器が粉々に。
そんなことを考えながら地面となんどか体当たりして止まる僕。


「づあ・・・――ったいなぁっ!!」


肋骨が折れて肺に突き刺さっているようだ。対物狙撃銃の破片も体に・・・具体的に言うと胃のあたりに運悪く突き刺さっている。
いやはや人間を野球ボールのようにかっとばすってこれまたいかに!?


『油断シタナ!!コレデ・・・終ワリダァァァアァァァアアアアアアアッ!!』
「や、ばっ!?」


立ち上がろうとしたとき、追い討ちの拳が向かってくる。
肝心なときに転んで死ぬなんてっ!?
そんな死に方いやだぁあああああっ!!


「・・・ううう・・・あれ?
―――なんともない?」


条件反射的に堅く瞑った目を開けて見ると目の前にはうっすらと白い障壁バリアがキングオークの拳を防いでいた。


「ふぉふぉふぉ、大丈夫かね?」


目の前にはおじいさん。学校の紋章をローブにつけていることから教師らしいことが分かる。


「そう見えます?ごふっ。」


吐血する僕。潰れかけた胃や肺から血が逆流してくる。
量が凄い。そして痛みを感じず、熱感しか感じないのがまた怖い。
どうなってるのか傷口を見たくないわコレ。


「元気な嬢ちゃんじゃの。」


お坊ちゃんだけど。


「それよりも・・・ゴプッ。キングオークは良いのですか?」


血反吐を吐きつつも疑問を口にする。今のうちに攻撃しないの?と言いたい。初級防御呪文の魔法でキングオークの攻撃を受けたことからこの人がかなりの魔技使いであることは分かる。分かるがさすがによそ見できるほどの強度ではない。
ほら、パリンと音を発てて簡単に破れてしまった。とっとと追い討ちをかけないから。とてもじゃないが目の前のお爺さんにあのキングオークのスピードに追いつけるほどの敏捷性は求めれそうにない。


「問題あるまい。ほれ。」


キングオークがもう一度攻撃をしかけようとするが、その腕が斬り飛ばされた。


「え?」


見ると青年らしき人が両刃のポピュラーな西洋剣でもって腕を切り取っていた。
つーかジャンプ力凄いな。


「じいさん!こいつはすげぇっ!!ヒサビサの大物だぜ!!今の一撃で剣がポッキリいっちまった。」
「もう少し落ち着かんか。まぁキングオークともなると分からんでもないがのう。」
「ああん?分かってるよ。生徒の前だからもっと落ち着けって言うんだろう?
・・・えと、俺は剣術の教師をやってるルークってんだ。嬢ちゃんの名前は?」
「響です。」
「おう、響か!いい名前だな!!」
「ど、どうも。」


なんだろうか?この馴れ馴れしい教師は。
別に不快というほどではないけどね。
というか、重ねて言うけど追い討ちは良いの?
しかも剣が折れてるし。


ほら、じゅりゅりゅと生々しい音を発てて腕が再生したキングオーク。


「問題ねぇよ。ほれ。」


迫り来る拳。
が、それが目の前で吹き飛ぶ。
さっきから切り飛ばされたり、ぶち抜かれたりと拳が可哀想だな・・・とか関係ないけど思った。


「狙撃?」
「良く分かったな?
そうだよ、スネークが居るからな。」
「・・・へぇ・・・ごはっ。」
「つか、お前さん死にかけなのに普通にしすぎだろ?さっきから吐血してるのスルー?」
「ワシが治してやろうかの。」
「ああ、お願いします。」


体が淡い光に包まれると治って行くのと同時に破片が体から出される。


「ええと・・・」


とりあえずキングオークは放っておいてマノフィカさんを探す。
戦闘に巻き込まれたりとかしてないよね?
幸い、すぐに見つけられた。


「あ、いた。マノフィカさん。大丈夫?」


一応声をかける。回復スプレーEXの成分が体に馴染むまで丸一日。それまでは立ち続けるのはおろか、歩きづらいだろうけどこれは我慢してもらうしかない。
さすがに足を丸々日本ともなると4つも使ったのである。


「・・・大丈夫。」
「よかった。助けたかいがあったものだよ。」
「どうして・・・助けたの。今のは下手をすれば貴方は死んでいた。」
「さっきも言ったじゃないか。単なる同情?憐憫かな?・・・まぁ思うところあって見過ごせなかったわけだよ。
逃げるくらいならできると思ったってのも大きいけど。」


そして同情、憐憫。向けられるほうとしては嬉しくない感情かもね。
分かりながらも、あえてこう言おう。事実ソレしかないし。


「立てる・・・わけないよね?」
「・・・うるさい。」


帰るためにも背負ってあげるかと思ったけど、嫌いな男に対して甘えることを許すような娘には見えない。とはいえここで何もしないのもどうかと思うので手を差し伸べると振り払われた。
傷つきました。


こっちの勝手な都合だから別にお礼をもらえるとは思っちゃいなかったけどさ。
手が赤くなるくらいの強さで手を叩き払われるのはどうかと思う。そして彼女の頬がほんのりと赤いのは・・・なぜ?
さっき頭をなでたことで時間差“撫でてポッと赤くなる”。略して時差ナデポが発動したのか?と前向きに考えてみたものの。状況的にそれは難しいので、おそらく自分の今の不甲斐なさに赤面してるとか、嫌いな相手に頼らざるを得ない状況が恥ずかしいとかそんなところ?
より傷つきました。
そこまで僕を嫌ってたとは、予想以上である。


「あ、貴方なんかに頼るつもりは無い。」
「そ、そうですか。」
「・・・そ、そう!」


なんとかポーカーフェイスを維持できたと思うが、僕は基本的にナイーブなのである。
嫌うなら嫌うでもう少し気を遣った嫌い方をして欲しい。
気を遣った嫌い方ってなんだろうと言ってて思うけど。
ま、あれだよね?彼女はどうだか知らないが僕は女性から見れば見事な価値なしである。
そんなニンゲンが好かれるはずもなく。
嫌うだけの価値はあるということで良しとしようではないか。


な、泣いてなんか無いんだからね!?
フィネアは僕の価値を証明するとか言ってくれるけど本当にそんなものあるんですかね?
疑問です。


「ふぉふぉふぉ、青春じゃのう。どれ、そっちの嬢ちゃんの足もきっちり馴染ませよう。」
「あ、ありがとうございます。」


お礼・・・か。別にいらないよ?
いらないけど。いらないけどさぁ。こうして助けられて素直にお爺さんにお礼を言ってるマノフィカさんを見てるとなんか納得がいかないと思うのは仕方ないと思う。
重ねて言うけど僕の勝手で助けたから彼女が礼を言う必要はないんだけどね。
もっと言えば礼を言うかどうかは彼女次第。
彼女がお礼を言いたいと思ったら言うだろうし、言いたくないと思ったら言わない。
すなわち、目の前の光景は僕に助けられたのを心底から不快に感じているということの証明に他ならないのでは。


うん、なんかむしろこっちが悪い気がしてきた。
むしろ謝っておこうか。
こっちが。


「その、マノフィカさん。」
「何?」


相変わらず少し頬を染めたまま、睨んでくる彼女。振り向きざまにガン付けですか。
なるほど。
とっとと話せ!こちとら暇じゃねぇんだよ!!お礼かっ!?お礼を言って欲しいいんかっ!?
と言わんばかりの目力で睨んでくる。
いえいえ、そんなまさか。一応助けになるし僕のエゴを通しても大して彼女の迷惑にはならないだろうと思っていた僕を許してください。


「ご、ごめんなさい。」
「え?」
「あの・・・心底迷惑だったみたいだから。」


自分の勝手で人に迷惑をかけたら謝る。これ常識。
たとえ助けだろうが、相手が必要なければただの有難迷惑と化す。
おせっかいである。
時におせっかいってうざいよね。


「あ、えと・・・それは・・・」


少し慌てたように手をバタバタする彼女。
ふむふむ。これは恐らく“私の本心がこんなに簡単に透けてるなんて!?”という動揺のあらわれだろう。
これを見て確信した。
やはり不快だったのだと。
今度からは僕だとばれないように助けることにしよう。


「・・・それじゃ。」
「ふぉふぉふぉ、面白いことになっとるの。
まぁそれはともかく今は疲れておるだろうし後日、事情を聞かせてもらうからの?」
「あ、はい。というかキングオークを忘れてました。・・・いつの間にか居なくなってるんですけど?」
「ワシが送り返した。」
「す、すごいっすね。」
「じいさんが出張ると俺らの仕事が少なくていけねぇ。つまんねぇぜ。」
「遊びじゃないんじゃぞ?」
「わーってるって。」


送還魔法なんて存在してなかったと思うんだけど、この世界ではあるのかな?
ま、いいや。
とりあえずなんか疲れたし、今日はとっとと帰って寝よう。


「ま、待って!」
「ん、何?」


マノフィカさんが僕を呼び止める。
彼女から話しかけてくるとは珍しい。というか初めてのことだ。
文句を言い足りないとか?


「その・・・貴方からは軽蔑の眼差しが消えていた。」
「・・・はぁ?」
「えと・・・だから・・・その・・・それだけ。だから。」
「・・・うん?」


そのまま走り去っていくマノフィカさん。というか、おじいさんの魔法ハンパ無い。
んと?
何を言いたかったの?
軽蔑の眼差し?
女性を軽蔑しなくなってるってこと?
いや、それは無い。
そんな簡単に治るものではない。ゆえに、多分彼女を近しく感じたというのが理由だろう。
自分に似た何かを感じた。大抵の人は自分を嫌うなどということは無いしね。
とはいえ、少しトラウマを克服したような錯覚もあってちょっと嬉しい。




ちょっとテンションが上がった僕だった。





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