男の娘なCQCで!(未完)

百合姫

3わ しょきか

チュンチュンとすずめっぽい鳥の鳴き声が聞こえる。


あれ?
うん?
ああ、うん。
確か、・・・階段から滑り落ちたんだっけ?
イマイチ体がだるく、眠気も強い。体は痛くない。
しかしポカポカと体が暖かい。
春の陽気かね。母さんがカーテンを開けたのかな?
いや、母さんはマキの両親と旅行だったな。
なにやら寝心地が酷く悪く、身を捩じらせるたびにじゃりじゃりと、砂利がこすれあう音がする。
誰だよ、僕のベッドに砂利を詰め込むなんて言う意味の分からん嫌がらせをしたのは。
いや、階段から落ちたんだからベットじゃなくて廊下か。
それでも、なんで砂利があるんだよと。
眠気を無理やり押し込んで、目を開けると
ーーーーーー森。
森がある。


は?


「あ、えと・・・なにこれ?」


廊下かと思ったら、野外?
野外でお昼寝してたのか?僕は。


道端を歩くアリさん達に動物の死骸と間違えて食われたらどうするんだってんだ。ぷんぷん。
いや、まぁ無いけど。
食われる途中で目を覚ますし、そういう問題より重要なことがあるし。


と、1人ノリツッコミで平静を保ちつつ。
とりあえず起き上がってみると、目の前には可愛らしいアリが居た。
クリクリっとした複眼おめめにチャーミングな触覚アホゲ
細く長いモデル顔負けの足(いささか多いが)に力強さを感じさせるおくち


…ああ、本当にいらしたんですね。アリさん。


「い、いやぁぁああああああっ!!」


みっともなく悲鳴をあげながら逃げ出す僕。
だって、体長が異常だもん!!
大型犬並みのアリを見たら誰だって逃げるだろう!!
逃げながら、振り返ってみるとアリがよだれを垂らしながら“待ってぇんっ!”と言わんばかりに嬉々として追ってくる。
オマエは浜辺で彼女を追いかける彼氏かっ!!
と誰にとでもなくアリに心中でツッコンでみたのだが、それが通じるはずも無く。というか、通じたからなんだという話である。
そもそも、喜んでるかどうかすら定かではない。そう見えるというだけであって、本当にアリに喜怒哀楽があるのかと言えばあるとも言えるし、無いとも言えるだろう。
なぜならば、僕は紛れも無い人間であり、アリではないのだからして。
すなわち何が言いたいのかと言えば所詮、霊長類のトップを過ぎない人間様ではアリの気持ちを本当の意味で100パーセントの確立で断言することなど不可能だからだ。
アリになってみないとそれこそ分からない。
科学的に脳の仕組みからそこまでの知能は無いといわれても、実際にアリと同じ神経構造を持つ科学者など、人間などが居るはずもない。―――というか、それは人間ではない。
ゆえにそれが本当に正しいかなど、重ねて言うがそれこそアリにしか分からないことなのである。
話がやたらと飛んだわけだが、とにかく僕が何を言いたいかといえば単純なことである。
今こうして逃げ惑っているのは彼がーーーいや、彼というのは人間の男、オス、メン、に分類される生物に対する二人称の言葉であり、この場では適切ではない。ゆえに彼ではなくヤツと呼ぶ―――メスかもしれないしという可能性はとりあえず脇に置いておくーーー彼改めヤツが喜び勇んでいるように見えるのは餌を見つけたゆえに僕を追ってくる。
ゆえに僕は逃げる。
そりゃ普通、大型犬に迫る勢いの節足動物を見れば逃げるだろ?というわけで決して僕はヘタレではない。
それを言いたかったのだが・・・あれ?
なんでこんなに無駄に長い思考をしたのだろうか?
我ながら不思議だが、っとまた、不思議という言葉を使ってしまった。
いやはや、これもまた一種の現実逃避なのかもしれない。
こうして長々考えることによってーーー以下略。


「あれ?
いつの間にか、居なくなってる?」


あのデカいアリはどうしたんだろうと振り返ってみるとアリが居なくなっていた。
願わくばイキナリ地面の下からゴバっとヤツが出てこないようにと念じながら。


「というか結構、走ったんだけど・・・振り切ったってことか?」


こんなに体力あったかな?
というか足は遅いほうだったし、そもそも服自体がヒラヒラして邪魔臭い。
なんでこんなヒラヒラな服着てる?


と、とりあえず深呼吸して落ち着く。


そして落ち着くとすぐに周りの状況が見えてくる。
まず僕の声だが、幼い。
いや、幼いというより小さな女の子。という感じの声で常日頃から聞いている声の気がする。
というかこれってVRでの僕の声だ。
具体的に言うと声優のタマラン・ユカリンさんの声だ。
外国人の声優さんである。「魔法幼女アツカンなのは」というアニメのヒロイン役で一躍有名になった人。
ちなみに“なのは”の部分は“なのわ”と読むらしい。
幼女なのにアツカンって何?
未成年禁酒法に真っ向から勝負を挑むようなタイトルである。
それはさておき、他には背丈も違う。
目線が結構低い。
現実リアルでは180を越す身長なのだが、体感差30センチ近くである。
実際はさらに小さそうだ。


なるほど。階段から落ちた衝撃で体の何処かが引っ込んで、身長が縮んだのか。
まぁあるあーーーいや、ないなっ!!
無さ過ぎるがなっ!!


そして森にほっぽられてるという状況にさっきの巨大アリ。
見たことがあるぞ?
確かどらぶらのどらごにっく王国周辺の森林フィールドで登場するちょっと強めの雑魚敵だ。
名前はキメラアント。
名前の由来は彼らの習性に、兵隊アリにあたる下っ端キメラアント達が集めた様々な獲物を巣穴で噛み砕き、それらを自分の唾液をツナギに、肉団子にしてから幼虫に与えるが、その肉団子が様々な獲物の部位を付け合わせた合成獣キメラのように見えるという設定から来ていたんだっけ?
というか捕まらなくて良かった。
そして恥ずかしい。
しかし、なるほど。
そういうことか。


僕は今、失恋のあまり無意識レベルで現実逃避をした。
つまり無意識のうちにVRのコンテナの中に入ったということか。
なるほどなるほど。
納得したわーーーあれだよね、あれーーー


「ってっ!!
あほか。ありえないわ。」


盛大に1人ツッコミをする僕。
そもそも家にVRコンテナは無い。
ゲームセンターのVRコーナーまで無意識で行けるわけが無いのだ。




「と、とりあえずログアウトすれば良いな。」


1人ツッコミをしたことへの恥ずかしさから顔を赤らめつつ、どもりつつも、念じるとメニューウィンドウが空中に出現する。
そこでログアウトボタンがある“おぷしょん”を指先で押す。


全ての謎はログアウトすれば分かるだろう、多分。
下にスクロールしていって・・・あれ?
あら?
おや?
ふむ?


なんーーーで?




ログアウトボタンが無い。
他にも探してみたがどこのメニュー画面にも存在しない。


エラー・・・かな?


「・・・はぁ。
まぁいいか。
エラーならエラーで。
しばらく待ってれば回復するでしょ。僕のせいじゃないし。
・・・フレンドと適当に通信会話でもしてればーーーへ?」


“ふれんど”のメニュー画面はあった。
あったが。
誰の名前も存在していなかった。


「・・・これもエラーか?」


次は“てんい”の画面を開く。
今更だが、どらぶらにおいてメニュー画面はすべてヒラガナ表記である。


「転移ポイントがすべて消えてる・・・これは無い。
ありえん。
面倒な。歩くしかないのかな。
というか、エラーが酷すぎる。
ちゃんと戻るの?」


せっかく作った僕だけの秘密基地への転移ポイントも存在しない。
僕はどこにも所属していない根無し草だったので、いたるところに秘密基地がある。
活動拠点だ。


“すてーたす”を見てみるとレベルが1になっていて、他のステータスも全て初期化されていた。
ほ、ほほ、本当に戻るよね?これ?
三回分の転生が無駄になったら、もうこのゲーム、やる気しないんだけど・・・
全部でステータスは12個ある。僕のステータスはーーー


響 LV.001
HP 120 (19999)
MP 500 (9999)
スタミナ(ST) 150 (999)
攻撃力(AT) 100 (9999)
防御力(DE) 100 (9999)
魔法攻撃力(MAT) 500 (9999)
魔法防御力(MDE) 100 (9999)
敏捷(AG) 700 (9999)
ディレイ(DY) 500 (9999)
器用(DEX) 100 (999)
運(LUC) 999 (999)
成長率(GR) 10(10)


あ、いや、運と成長率だけがカンストしてる。
ワケが分からない。
幸い、スキルや称号は初期化されて無いようなので、称号補正も付け足していくともう少し全体的にあがる。
カッコ内は上限値。
(成長率は転生回数がそのまま表示される。)




それとカンストしていたステータスだけはかなり高めだ。
というか、全体的に高めである。
転生回数がゼロのキャラだと100以上のステータスが出るのは職業や種族に関係なくHPくらいのはず。
転生回数5回の廃人プレイヤーのキャラでも一番高いステータスで500。
他は良くても100~300なはずだ。


成長率(転生回数)の影響?
いや、三回しか転生して無いのに。




とりあえず、どうにかできるわけもなし。
久しぶりにどらごにっく王国でも観光しますかね。


ピクミーンの歌を歌いながら街道を歩いていくと、ちらほら馬車がごっとらごっとらとすれ違うときがある。
そのたびに僕を見て驚かれるのだが、何を驚いているのだろう?
あまりのアバターの可愛さにびっくり仰天?
ふふん!!
だとしたら嬉しいね!!
このアバターはマキとーーーあ、そういえば。
マキはどうしているんだろう?


と、考えてどんよりする。
そもそもマキのような美人は僕のような甲斐性無しには荷が重かったということだ。
あんなことになったのもそもそも僕がもっと早く自分の気持ちに気付いていたのなら…
いや、この仮定は虚しいだけ。
仮に気付いていても、僕と違い彼女は小さい頃からモテていた。
わざわざ僕を選ぶ理由は無かっただろう。


そもそも彼氏が出来ていたことすら知らなかったのだ。結局のところ、そんなことを報告するまでもないほどに僕の価値が低いってことでしょ?
仲は良かった、と思うんだけどな。
そういう話を聞かせてくれても良かったはず。
僕が思うほどには気にされて居なかったということか。




で、てくてくと街道をひたすら歩いていくと(意外と遠いなこのやろー)モンスターに襲われてる馬車が“出現”した。
出現というよりは元からそこにあったという自然な感じだが。
ふむ。どらぶらもやるじゃないか。
いつもはサーバーが重くなるからと、ある程度近くに行かないとNPC(ノンプレイヤーキャラクターの略。ゲームに置いて人が操作しないキャラクターのことを言う。)は表示されないのに。
大分遠いところからでも視認できた。
仕様を変えたのかな?
そもそも、こんな場所でなんかイベントあったっけ?なんも無かった気がするが。
まぁいいや。
今はとにかくどらごにっく王国に行きたいし、イベントが始まると宿屋などにいけなくなることもあるので、今の弱体化状態では困る。というわけでスルーする。
阿鼻叫喚の悲鳴が横で聞こえるわけだが、なんか無駄にリアルな悲鳴ですね?
何この悲鳴?


「ぎゃああああっ」とか「ひぃいいいい」とかチャチなもんじゃない。
それこそ奇声と言って良いほどの心からの叫び。
こう・・・心にズシっとくる、誰が聞いても思わず目を背けたくなるほどの必死な悲鳴は。
声優さん頑張りすぎでしょっ!?




あまりの悲鳴のリアルさにむしろモンスターよりもその悲鳴に恐怖を感じた僕はそのまま馬車で襲われてる人を凝視する。
つい目を引っ張られ、そのまま視線が外せなくなってしまった。
あまりの光景ゆえに。
ちなみにモンスターはさっきのキメラアント。
というかキメラアントさん?
人を食い殺すグラフィックーーーというかエフェクトがリアルすぎませんか?
そんなに頑張って食さなくて良いんですよ?
内臓が飛び散ったり、白い骨らしきものをゴリゴリ砕いては吐き出したり(いらないなら口に入れるなよ)、ちょっと粘性をもったような血液が飛び散ったり・・・すこしめまいがするでござる。


中学生のときにカエルの解剖を経験しといてよかった。
あとは所詮グラフィックという思いが強いのかもしれない。
今の精神的強さをあのときに発揮できればと思っても・・・手遅れだね。


「た、助けてくださいっ!!」


藁にでも縋る思いなのか、襲われていた商人らしきおっさんーーーは失礼か。
オジサマが抱きついてくる。が、むさいおっさーーーオジサマに抱きつかれる趣味は無いので瞬時に避ける僕。


「ひでぶっ!?」
「あ、すいません、大丈夫ですか?」


顔面スラインディングを唐突にし始めたオジサマ。


「オジサマ。
命の危険って時に顔面スライディングとは・・・蛮勇は身を滅ぼすと言う言葉をご存知ですか?」
「蛮勇っ!?
今のがそう見えたっ!?」
「はい、しかとこの目で。」
「助けてくれオーラを全身から出していたと思うんだがっ!」
「抱きつく意味が分からんのですが・・・」
「そ、それは・・・確かにすまん。気が動転しててってっ!?
ていうか、良く見れば・・・君みたいな女の子がこんなところで何をしてーーー
ぎゃぁぁぁぁぁぁあああっ!!
肩が、肩がっ!?
肩が食われとる!?
むしゃむしゃ食われとる!?」


キメラアントが僕達の会話を待ってくれるはずも無く、肩を食われたオジサマ。
うわ、近くで見るともっとグロイ。
というか、血飛沫が飛んできた!?
もちろんこれも避ける。気持ち悪いし。
避けてる間中もむしゃられているおっさ、オジサマ。
このままスルーしていこうかなと思ったのだが、さすがに見過ごせまい。
それにしてもNPCの割には表情豊かなオジサマである。
まるで本物みたいだ。


とりあえずオジサマの肩を食って次は僕を味見しようとばかりにキメラアントが襲い掛かる。
鎌状になっている前両足を振り上げて僕を捕獲しようとしてくるキメラアントだが、いくら初期化されたといってもそれなりの敏捷性を持つために問題ない。
さらには称号での能力補正効果もある。
こんな雑魚に負ける要素はそれこそ万に一つしか無いだろう。


「グガァァァァァァアアアッ!!」
「しっ!!」




そのまま懐に踏み込むことによって鎌を避け、踏み込んだ勢いで頭を拳で軽く弾く。
すぐにしゃがみつつ、回転。
足を出して、足払いを食らわせる。
ドウと軽く音を発てて、倒れこむキメラアント。この間1秒。
そして急所である頭に向けてメニュー画面“いべんとり”からハンドガンを一丁、取り出して装備。
ベレッタ90Twoと呼ばれる自動拳銃で、装弾数は17発。
弾は状態異常“睡眠”にするための麻酔弾である。反動が少ないように作られており、デザイン的にも僕が一番好きなハンドガンである。
消音器サプレッサー付きだが、消音器には耐久度があるため外しておく。ナックルガードは常時つけてある。
頭を狙って撃ち据えると、キメラアントは先ほどまでの獰猛さがウソのように静かになった。


無駄な殺しはしない。
それが僕の美学。
・・・なんてね。
殺しも何も、仮想空間ゆえに“ごっこ”でしかないわけだが。
一体、眠らせるまでに1秒ほど。
全盛期?の僕ならば0.1秒とかからず眠らせられたと言うのに。
まぁそれを言ってもしかたあるまい。
他にも4体ほどいたので、CQCで体勢を崩して麻酔弾をヘッドショットさせるということを繰り返すとすぐさま周りのキメラアント達は沈黙した。
一体だけ、クリティカルにも関わらず状態異常になんなくて焦ったが、CQCのスキル「押さえ込み」でそのまま押さえ込んで気絶に持っていった。気絶、というよりは関節がもろくて頭が軽くモゲかかってしまったが。
派手な必殺技が存在しないってのもCQCが不人気の理由だったりする。






「あとは・・・っと。あ、忘れてた。」


うめくオジサマを見て、オジサマが死に掛けていることに気づいた。
ウィンドウを開いて“いべんとり”から回復スプレーEXを取り出す。


それを傷口に吹きかけるとオジサマの傷がみるみると回復していく。
それを見て驚きの声を上げるオジサマ。
そして周りの生き残りの人達もめちゃくちゃに驚いている。
というか終始驚き通しだ。
僕も驚いた。
傷口がぐにょぐにょと血しぶきを出しながら、小さくなっていくという気味の悪い光景に。
運営は何を考えているんだか。


「あの?」
「お嬢ちゃん、貴族か?
でも、今の身のこなし・・・冒険者?ウィンドウも開いてたし・・・
なんにせよ良かったのかい?
こ、こんな高価なものを使ってもらって・・・」
「構いませんよ。
まだ沢山ありますし。」


なんだ。そういうことか。
確かに序盤の街であるどらごにっく王国では回復スプレーEXはバカ高い。が、後半の街になるにつれて安く売られるようになるので(正確には自身のレベルが上がるのにつれて)、今は吐いて捨てるほどにある。
いべんとりには99個の塊が10個分も入れてあるし。
RPGでは回復アイテムを買いだめしておくタイプなのである。


「もう少し安いのでも良かったのだが・・・」
「コレしかないので・・・」


僕が攻撃を一撃でも食らった場合、大抵瀕死まで追い込まれるか即死するかなので他の回復薬だと回復が間に合わないのだ。
なおかつ自分で使うよりも仲間に使う機会の方が多かったりする。


「失礼します。」


とっとと立ち去ることにする。
イベントはいらん。
というか、仮にあったとしてもこういうイベントはアバターが女ならばイケメンが。
アバターが男ならば美少女、美女が出てくるのが相場なのではないだろうか?
なんでおっさーーーオジサマなんだよ!?


いや、女の子でも意味が無いか。
そう簡単に僕に惚れるとは思えないし、当分色恋沙汰は勘弁してほしい心境だ。


などと考えつつ。
目の前に見えてきたどらごにっく王国を目指すのであった。







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