タコのグルメ日記

百合姫

狩り人組合に入る前に

「さっきの二人組を捕まえて適当に拷問にかけましょう」

とはグリューネの談。“この子”を助けるためにどうするか?助けようにも未知の技術が多すぎて助けることが可能なのかもそれが難しいことなのか、簡単なのかすらも分からない。
ゆえにどうしようかと考えた矢先の一言である。

もう少し平和的思考は無理なのでしょうかね?無理でしょうね、だってグリューネだもの。森の中で人間とはまた別の考え、文化の元に育った彼女は実のところ人間に対して特別恨みは持っていない。野生動物よりの考えを持つために人間に蹂躙されたとしてもそれは自らが弱かったから、逃げることすらできなかったからと考える。
ゆえに彼女は今まで幾度か、自分の住む森に人間が攻め入ってきても恐怖は覚えても恨み辛みは彼らに向けていなかった。それが自然の摂理だと考えているからである。
逆に言えば、目の前で人間が死にかけていて、悲痛な声で助けを求めていたとしても彼女の心は何も動じずに、無視して終わる。人の姿形に非常に似通っていても彼女にとって人間はそういうものであり、その程度でしかない。
だからこそ、今回のように彼女が人間に対して怒りを抱くというのは実はかなりの非常事態である。
”この子“を作り出す所業がどれほどイレギュラーなことなのかが、より分かると言うものだ。
だからこそ、拷問だとか必要とあればできてしまうのが彼女なのだが。誤解のないように言っておくが彼女の言う拷問は人間のソレとは違って単に痛めつけることを指している。殴る蹴る、斬りつけると言った単なる暴行、とでも言おうか。
より効率的に痛みを与えるとか、精神に特にくるなにかをしようとか、ファラリスの雄牛にぶち込んでやろうとか、そういった発想がない。そういう文化を持ち得ない環境だったからである。

「いや、それをするとこの街全体を敵に回しかねないよ?”この子“を助けるとか助けないとかそれどころじゃなくなるでしょうよ」

下手をすれば僕たちの命が危ない。
大丈夫だとは思うのだが、未だに僕はこの魔蓄鉱でできた弾丸の威力を確かめてないのだ。
地球であるなら下手な鉄砲では熊などを仕留めることができない。ゆえにちゃんと猟銃としてそれようの弾薬などが用意されるくらいだ。こっちの世界なら尚更のこと。
人間もそうだが、野生の動物たちもまた地球のソレより巨大で強いのだから。
特に先ほどの二人組のうち、お堅い雰囲気を出していたジョゼフという男の持っていた狼の体の一部から察するにかなりの威力があるのではないだろうか?
僕は今まで様々な場所で動物を狩ってきた。その経験から、基本的にこの世界の動物は大きさに比例してより強くなる傾向にある。あくまで傾向だが、あの狼の大きさは今のやまいだとくろもやさんを使わないとまず狩ることができないレベルだと思われる。
素のやまいではまず勝てない。やまいは竜人の血を引き、小さな頃に飲まされた毒の後遺症もなくなりつつある彼女は実は素の状態でも下手な冒険者よりも結構な差を付けて、強い。
その彼女が負ける相手が定期的に狩られていると言うのは、かなり戦闘力があるということだ。
それも狼の場合、”群れる“。
狼は群れで狩りを行う動物で、狩り人組合から仕事を受けるついでに少しだけ聞いたがあの狼もそうだと言う。一匹狼という言葉があるが、基本的に群れから何らかの理由ではぐれた場合、遠からず餌を取れずに餓死する。地球ではカラスと一緒に一匹狼が狩りをするという驚きの行動が見られることもあるらしいが、この世界ではどうだろうか?
とにかく。
集団を相手にしつつ、街が主要産物として認めることが出来るくらいには日々狩っているというのはかなり驚きなのだ。
力づくで聞き出すのは簡単なように見えて難しい。

「…狩り人組合の人に聞けないのかな?
わたしたちが依頼を受けれるのは冒険者組合のカードを持ってたから。でも、受付のおじさんは冒険者組合のカードでは受けられない依頼もあるって言ってた。たぶんそれはこの街の秘密…”あの子“に関することだと思う。タコから聞いた二人組の会話からしても、その可能性が高い」

やまいが言うことには一理ある。
実際、この依頼を選んだのはよそ者が受けることができる依頼は魔蓄鉱の発掘くらいだと言われたのだ。
銃の購入もそうだ。種類や数に購入制限があるらしく、狩り人組合に登録しないと買えないものの方が多いと言われ、A−07というハンドガンと少しの弾薬だけ買って終わった。
もちろん、観光気分だった僕たちはわざわざ組合に所属しようとは思わなかったし、僕とてハンドガンは嫌いじゃないどころか一番好きな銃種であり、どうせろくに使わないであろう銃を沢山買うつもりは無い。だからこそ、グリューネが魔蓄鉱を気にしている風でなければこの依頼すら受けなかった僕たちが、わざわざ狩り人組合に登録する気になるはずもなかったのである。

そのほか、いろいろと話し合ったのだが結論は変わらず。組合に所属してみるしかない。
いわば、虎穴に入らずんば虎子を得ず。
ぱっぱと鉱物を回収して、帰ることにした。
ちなみに、思った通り発掘専用の場所が奥にあったため、そこから魔蓄鉱は採掘し、一応魔法陣を壊さないように壁からも魔蓄鉱を採掘した。余談であるが、先ほどのクリフとジョゼフという二人組の男たちには出くわさなかったので、すぐに帰ったのだろうと思う。

「…うぅん?あらま、嬢ちゃんたちか。」

出口に戻ってきてまず口を開いたのは入るときにもいた兵士だ。
暇そうにしているが、本当に暇なのだろう。ほとんど突っ立てるだけの仕事だろうしね。

「だいぶ時間かかったな?やっぱり女の細腕じゃ、キツかったか?」
「まぁそんなところさ。はい、これが依頼のものだよ」
「あいよ、たしかに。ああ、一応聞いておくが魔蓄鉱をこっそり隠し持つとかはしてないよな?それをした場合、かなり重い罪が下るが…」
「見たら分かるでしょう?」
「んまぁ、そんなもん持てるようなもんはないわなー」
「いや、まてよ、そのデカいおっぱいはどうなんだ?それだけでかけりゃ鉱石の一つや二つは隠せるだろう?おっぱいを見せ−ごはぁっ!?」

もうひとりの兵士がセクハラをしてきたのを見て殴り飛ばしておいた。
中身も体も男だから良いのだが、だからこそセクハラはより気持ちにくる。そもそも疑われたところでおっぱい”には“ない。
それを見て特に僕たちに怒るわけもなく、当然だという顔で無事な方の兵士が頷く。

「まぁあいつに関してこっちでもぶっ飛ばしておくから安心しておくれ。んで、こっちが依頼を完了した証の達成書だ。再発行は規則で禁止されているから、紛失に気をつけて帰るようにな」





「ちょろいね」

僕はそう言って魔蓄鉱を取り出した。
組合に所属するとは言ったものの、それがちゃんとうまくいくかは実際のところ掛けの部分が大きい。なにせ様々な魔法陣を使って隠していたくらいである。組合に所属したからと言って必ず教えてくれるわけではないだろうし、教えられる範囲にも違いがあるかもしれない。登録したばかりの新人には何も知らされないという可能性も十分にある。
だからこそ調べるに当たって様々な手立てを用意しようとするのは当然だ。
だからこそ発掘した際の魔蓄鉱をちょろまかした。
その手段とは簡単で、僕が人間の形になる際に筋肉と一緒に巻き込んで人型になるということである。体内に仕込むようなものだ。

「中でもっと調べなくて良かったの?」
「やまいの言う事ももっともなんだけど、ちょっとその場合は問題があってね」

坑道の中で調べても良かったのだが、さすがにそれだと時間がかかり過ぎて下手な疑いを被るリスクが高くなると考えて、外に持ち出すことにしたのである。

明るい日の下で改めて魔蓄鉱と呼ばれた鉱石を見てみると、ぱっと見はただの赤みがかった土塊のようなものにしか見えない。
これは壁を削ったもので、試しに魔力を込めてみるとスポンジのように吸い込むことがわかる。
次に採掘場と書かれた看板が立てかけられていた場所で採掘したものだが、見比べるまでもなくこの二つは“違う”。
色が薄い青色で、壁から削り取ったものとは見た目が明確に違うのだ。
そして魔力を込めてみるとこれも同じように吸い込んでいく。吸い込む速度に関しては違いがないことだけはわかる。
硬さや重さ、念のため魔法陣を描けるかも試してみたりとこの場で出来る検証をしてみると違いが色々とあることがわかった。
硬さは青い方が脆く、加工しやすく、重さもまた青い方が軽い。魔法陣は赤みがかった方にしか書けない、そして何よりの特徴だがしばらく魔力を込めるとボロボロと崩れ落ちたのだ。

「なんで…?おかしいな。魔力を受け止め続けることが出来る夢の素材ではないのか?うーん、取り込んだ魔力は坑道で流れていた魔力量とそれほど変わらないはずなんだけど…」

むしろ他の触媒よりも脆いくらいに感じる。こうなってくるとますます壁の魔法陣が分からなくなった。
そして青い方は青い方で魔法陣は書けないものの、僕が適当に大量の魔力をつぎ込んでもボロボロになることはない。

ある程度、性質は掴めたものの、やはり組合に入らないと明確には分からないようである。

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