タコのグルメ日記

百合姫

猟師街ウルフタウン

ここに来るまでにいくつかの村に寄って聞いた話によると、目の前のそこそこ大きく見える街の名は「猟師街ウルフタウン」と言いその名の通り、周辺の森に生息する狼を狩ってそれを他の街に輸出することで発展していった街らしいのだ。


 



一週間前ほどに寄った村の奥さんから聞いた話では、息子さんが村からこの街に出稼ぎに行っているようで、この街の狩人として有名だそうな。


この街の驚くべきことは狼の狩りのみで街の税収が賄われていることで、もとい産業が狩り、それも狼と日々街の人が消費するであろう食肉がてらの兎狩りや鳥狩りのみというすごく特殊な街。それがこの猟師街ウルフタウンとのこと。


 



「おや、見ない顔だねぇ、それもべっぴんさんばかりで。お前さんたちどっから来たんだ?」


「こんにちわ、門番さん。僕たちは遠い所からの旅人でね。水晶砦クリスタルシティを目指しているんだ。それよりも早く街に入れてほしいな。暑くてね」


 



と、街の入り口で警備中の衛士に僕が答える。


 



「くはは、そいつは悪いな、すぐに済ませよう。この辺は暑いからなぁ…んじゃ、目的と…目的は聞いたな。あとは名前を言ってくれ。それで手続きは終いだよ」


「僕はタコ。となりのこの子はやまい。そしてグリューネだよ」


 



僕の紹介に合わせてぺこりとお辞儀をするやまい。


グリューネはその紹介どころか、僕と街の守衛さんとの会話自体に興味を持っていないようで、はじめて見たであろう人間の街をキョロキョロと見ている。


まぁ今まで森の中を出たことがないどころか、村という規模の人の集まりすら興味深げに見ていたくらいだ。街という規模ともなれば無理もないことだけれど。


 



「あいよ。わかっってると思うがこの街で妙なことをした場合、しょっぴくからな。悪いことはするんじゃないぞ」


「私、悪い子じゃないよ?」


 



やまいは守衛さんの言葉に不思議そうに答えた。


悪い子じゃない自分に対して、悪いことをするなとわざわざ言ってきたことを不思議に思ったのだろう。


当然ながらそんなことは初めて出会う守衛さんに分かるはずもなく、そしてその分からないことが分からないというやまいの姿を見て、ちょうど多感な時期である年頃のやまいに森の隠遁生活はちょっとアレ過ぎたのかもと改めて思う。


やまいの周りにはやまいに対して理解のある人間、もとい僕とグリューネしかいない。


やまいにとっては理解されて当然の環境で育ってきたがゆえの無意識が顕在している弊害なのかもと、少し気にしつつ。


 



「そうだな、嬢ちゃんたちは悪い子じゃなさそうだ。ようこそ猟師街ウルフタウンへ。ゆっくりしていってくれや」


 



そうした守衛さんとのやりとりを経て、猟師街に入ったところでまず先に路銀を稼ぐ所から始める。


この街にたどり着く途中でちらほら食べ物を売ってきたので実のところ、売れるものはあまり無かったりする。いや、売れるものはあるが少々、普通の人間が持つには過ぎた代物が殆どである。だからこそこの街を目指したとも言えるのだが。


 



水晶砦への中継地点としてこの街に寄ることを決めたのだけれど、実はちょっと遠回りになっている。もちろん理由があって、それがこの街の特色である「狩り」だ。


狩りで生計をたてている街というだけあって、普通は見られないような獲物を取ってきてもたまたま見かけた珍しい動物を狩ってきただけと考えて悪目立ちしないだろうと考えたのだ。


特にこの街の周辺で狩りの対象となる狼は特に強靭で仕留めるのが難しいとされている動物らしく、それだけ驚異的な動物を買いに来た商人からすればそこに別のちょっと見慣れない動物がいても良しとされるに違いない。気がする。そうきっとねっ。


 



そしてもう一つ理由があって、途中の村での話に気になったワードがあったからなのだけど、その現物の確認と使えそうなら使ってみたいという好奇心から。


 



ま、なにはともあれ商人を探すところから…いや、さきに久々に冒険者組合にでも顔を出してカードの更新をしようか。


一年音沙汰なしだと再発行が必要になるかも。


 



まぁそれならそれで構わないか。フラフラして今にもどこかへ行きそうなグリューネをしっかり確保しつつまずはそれっぽい建物を探すと他の雑多な家よりも大きく背の高い建物をすぐに発見できたのでそこの建物の前にまできてようやく気づいた。


 



これちがう、冒険者組合じゃないと。


建物にはデカデカとした看板がかけられており、狩人組合と書かれているのだ。


 



「なんて書いてあるのかしら?」


「かりうどくみあい?って書いてあるよ。」


「うーん、冒険者組合かと思ったら全然ちがったなぁ。まぁあってもおかしくないか。」


「かりうど…まぁ狩り人のことでしょうね、そして組合というのはえっと…相互扶助を念頭に複数の人間が集まっているコロニーのことよね?この建物の規模から言ってそれなりの人数がいるようね…全く、人間ってどうしてこうも集まりたがるのかしら?うじゃうじゃして君が悪いのだけれど」


「気味悪いってもう少し言い方あるでしょうに。そういう生き物だからでしょ。そこんところドリアードとしてはどうなのさ?」


「ドリアードは集落を作っても狭い範囲に複数人が集まることはほぼ無いわね。人間に比べてかなり同じ人数でありながらもっと広く使うわ。」


「へぇ、なんで?」


「光合成がしづらくなるでしょう?」


「今更なんだけどグリューネって光合成するの?というかできるの?」


「失礼ねっ!それくらいできるわっ!!」


「なんでそんなに怒ってるわけっ!?」


「光合成できないとか失礼なことを言うからでしょっ!!」


「知らないからっ!」


 それ、失礼に値するのかな!?
と、組合の建物の真ん前で騒いでいたのが悪かったのだろう。


狩人組合建物のドアから一人の男が出てきたのである。


 



 



 


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