タコのグルメ日記

百合姫

3人の旅路

さてはて、今更であるが僕たちの目的は様々なれど、まず最初の目的地は水晶砦クリスタルシティである。


地理的に「喰み殺す森」から1番近いがゆえにだ。


とはいえそれにはいくつかの難点がある。
水晶砦クリスタルシティに行くまでの距離が思いのほか長いということだ。
話したがりな竜であるフィンケルに乗せられて飛行機さながらの空中旅行で数時間。
たしか、3時間経たないくらいだったかと思うが、飛行機で3時間と言ったら結構な距離を飛んだことになる。
前世の知識からすれば、かなり大雑把な換算だが、東京から北海道へのフライト往復分くらいの距離があることになる。
機械ではなく、生き物での空のフライトなために、飛行機よりも多少なりとも遅いだろうから実際には行きくら帰りの半ばぐらいまでの距離だろうか。


飛行機なんて物がないこの異世界で、徒歩かつ荒れた道を歩いて行く旅路は思いのほか時間がかかるし、地図を持っているわけではないために道中の村々から道を聞いて歩いて、尚更時間がかかるという問題が1つ。
難点その2はグリューネの貧弱っぷりである。
季節は夏のようで、炎天下の中、すぐにグロッキー状態になるのだ。
髪の毛から葉を生やしている癖に日光に弱すぎだろと思うものの・・・というか直接言ったりしたのが、彼女は照りつける太陽を睨みつけながら曰く、『植物だからといって全ての植物が日光に強いわけではないわ。むしろ直射日光に長時間晒されるような植物は成長が遅いタイプが多いのよ。成長よりも日光を浴びすぎることへの対策にエネルギーを食うからね。葉を分厚くしたり、閉じたり、直射日光が特に辛い時期は休眠をして活動を停止させたりね。木々のようなしっかりした根を張ればうんぬん』と。
喰み殺す森の中では常に一定の環境が維持されていることに今更ながらに気付いたものである。
かくいう僕も直射日光は非常に厳しいものがあった。
いや、むしろ僕の方が問題が大きい。
常日頃から人の形を象っているものの、結局のところ僕は日本でいうところの蛸であり、英語圏でならデビルフィッシュであり、学名ならばoctopodaであり、この世界のタコだ。


もといタコさながらの体色変化、恒温動物になり、陸上生活に適応したためであろう、全身の至る所に毛根と汗腺が存在するっぽい体は通常であればなんら問題は無いが、人の形を取っている間は色々な場所を圧縮して隠しているようなものである。
例えるなら巨乳の女性の下乳と胸下周りの皮膚との接触面みたいなもの。
人の形を保っている間はそうした皮膚を折りたたんだ、密着した部分から汗が出て、それが空気に触れないものだからいつまでも濡れたままで酷いかぶれになって痒くてしょうがないのである。


やむを得ず擬態を解くが、街道を歩く場合時折馬車が通るのだ。
見られれば僕はさておいても、大型の肉食動物にしか見えない僕と一緒にいることでグリューネややまいが変な目で見られたり、人間に化けた魔獣一味だろと言われて攻撃されかねないのだ。


もちろんそんな連中を無視してぶっ飛ばしても良いのだけれども、前世のようにしっかりと街道が整備されてるわけではないので、ぶっ飛ばした後に放置すれば何かしらの肉食動物に食われかねず、気にせず放置して死なせるのはやり過ぎで。


そもそも街道を行くのは大抵は商人とその護衛だ。
それらに悪印象を与えれば道中の村や町に入れなかったり、最悪の場合殺し合いになりかねない。
だからといって下手に街道から離れて歩けばこれまた色々不便が出てきたりと、まあなかなかどうして、異世界の炎天下と言う奴は厄介極まりない。


ちなみにやまいの場合、くろもやさんを薄く展開するだけでなんら問題なく斜光できるというのだから羨ましいお話である。
日焼けもないようなので、UVカット仕様らしい。
UVカットやら、逸脱した戦闘能力を得られるという強力な能力の代償なのか、人に忌み嫌われるという副作用を持つ邪竜の加護だが、嫌われるという副作用を無くした今。ただ羨ましい能力になっていた。




そうして歩き続けること一月くらいだろうか。
魔法があり、地球の人々よりも強靭な肉体を持つがゆえにすでに水晶砦への道中まで、あと半分というところにある街にたどり着いた。


その街の名は『猟師街・ウルフタウン』。


狼関連の物が多々売られている街である。

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